「私は姫島朱乃って言うの。
改めてよろしくね!宝刀ちゃん!」
姫島朱乃という少女が手を差し出し握手を求めるているようである。
同じ年頃の子供に初めから好印象を持たれる事や握手を求められる事など今までなかった為に宝刀は少し驚いてしまった。
「あっ、あのっ」
握手への返答がなくて不安になったのか差し出した左手を引っ込めるべきか所在なさげにしている。
「ご、ごめんなさい。
僕、友達になって欲しいって言われた事なくて、それで驚いてしまったんです。」
急いで手を握り返して謝罪をする。
姫島は握り返してくれた事にホッとした。
「え〜?とっても綺麗なのに。
みんな宝刀ちゃんがあまりにも綺麗すぎて近寄れなかったのかな?
多分恥ずかしかったんだよ」
姫島はそう言って励ますように笑いかけるが宝刀の心の中は晴れることはなく俯いてしまう。
この少女も昔の自分を見たら同じことを言ってくれるだろうか?手を差し出してくれるだろうか?笑いかけてくれるだろうか?
──僕を肯定してくれるだろうか?
この少女に悪感情は何一つない事や、純粋で根がいい女の子だというのは僕は無意識に肯定しているから間違いはない。だからだろうか、僕は自分の事をはぐらかしながら話していた。
「ハハ。そうだと良いんですね。
もしかしたら僕は近寄りたくもない化け物かもしれませんよ。
髪はギトギト、ベトベトで顔も碌に見えなくらい伸ばし放題。身体には傷だらけで膿で異臭が漂う、感情もない機械のような人形だったりして。」
「ん〜?そうだとしてもね。
それでも私は友達になりたいな!
だって宝刀ちゃんは宝刀ちゃんだもん!」
人差し指を顎に当て首を傾げた。
姫島は宝刀の吐き捨てるような独白に感化されたのか、それとも心を開いたのかは分からないが覚悟を決めたように問いかける。
まるで一世一代の告白。
「ならさ、もしかして、、。もしかしたらかもだけど化け物だったら私も一緒かもよ?
それだったらどう?
私は宝刀ちゃんが化け物でも友達になりたい。
けど宝刀ちゃんは化け物かもしれない私と友達になってくれる?
私がしたように手を差し出してくれる?」
声の音調が変わり空気も変わった。
雰囲気や喋り方全てが先程までの天真爛漫な少女からは想像もつかないような変容。
太陽のように明るい少女からは到底思えないほどの闇が垣間見えた気がした。
瞬間、目の前の少女から強い感情が濁流の如く僕の頭の中に流れ込んでくる。
孤独、寂しさ、恐怖、諦め、渇望、そして希望。
「宝刀ちゃんがどんな化け物でも良いよ。
だから私と友達になって欲しいの。」
再び少女は羨望するように見つめる。
僕はこの少女のことは何も知らない。ほんの2分ほど前にばったり出くわし会話をして友達になろうとしている。ただそれだけの状況。
ほんとに何も知らない。
でもこの今握っている手だけは離してはいけない。
そしてここで嘘もついてはいけない。この場でつく上部だけの嘘は何よりも残酷だから。
「化け物には手を差し伸べれない。」
「───!。」
縋るように僕の顔を覗いていた姫島は悲しそうな顔で下を向き握った手を離して一歩後ろへ下がった。
「でもね、それは身も知らない化け物だけだよ。」
少女は宝刀の言葉を聞いてハッと顔を上げた。
「だからね、僕は友達になりたいと思うよ。
正体が今の可愛らしい女の子じゃなくて実は宇宙人だったとしても僕は君に手を差し出し出すよ。」
一歩下がった姫島に近寄り垂れ下がった手を握る。
「姫島さんが例え醜くても、もう身も知らない化け物じゃなくて姫島朱乃という名前の少女だよ。
だから安心して、僕は君を怖がらない。
大丈夫。大丈夫だよ。」
自然と僕は姫島さんを抱きしめていた。あの日、身も知らぬ僕を受け入れて黒歌と白音が僕を抱きしめてくれたように僕は姫島さんを受け入れた。
多分姫島さんも僕と一緒なんだ。わざと明るくしてるのも一種の防衛本能なのかも知れない。
「あれ?なんで涙が出てくるの?
なんで?なんでなんだろう、、。
涙止まらないよ。宝刀ちゃん」
姫島さんは紫がかった綺麗で大きな瞳から涙を流していた。僕が受け入れられたあの日と同じように自然に涙が出てしまったのだろう。
「それはね多分嬉しいからだと思いますよ。
僕も同じような経験があるんです。」
僕はさらに強く姫島さんの身体を抱きしめる。
「貴方がどんな辛いことがあったのか。
貴方が何故そんなに孤独感を感じているのか。
答えは僕には分かりせん。だってさっき会って友達になったばかりですしね。」
宝刀は呼吸を整えてた。
「一つだけ分かることはあります。
貴方にはちゃんとこうやって涙も出せるし、人に思いやれる綺麗な心もあるじゃないですか。
僕から見れば化け物なんかじゃなく君はただの可愛い何処にでもいる普通の女の子だよ。」
姫島さんは叫ぶように泣きじゃくりながら僕の背中を力一杯に抱きしめ返した。
泣く少女を見ながらトワの言葉を思い出した。
『痛みの伴い教訓に意味はない』
僕は自分を化け物だと思っている。家族の為なら一切の感情を出す事なく人を殺める化け物。どんな手だって使うだろう。蔑まれることになろうと不意打ちだって厭わない。
自分は大丈夫だと思ってた。
でも実際は人を殺めて冷静になって知ったのは取り返しのつかない心の痛み。
ひたすらに心が痛かった。どうすれば痛みから救われる事ができるのか分からなかった。
トワの言葉の意味が少し分かった気がする。
人を殺めたことで戻らない命という痛みを。
痛みを知ったことで人に寄り添えることを。
だから僕はせめてでも不条理に善良な人が傷つくことのないように手を差し伸べれたらそれでいいや。
これが僕の僕だけの救済であって欲しい。
宝刀が考え込んでいる時に泣き止んだ姫島は自分のさっきまで見せていた痴態に恥ずかしくなって顔を手で隠してプルプル身体を震わせた。
僕は慰めながら色んな世間話をした。どんな事が好きなのか、食べ物は、最近読んだ本の事などありふれた会話。
お互いが触れられたくない部分は触れないように緩やかな時間を共有しながら楽しい時間を過ごした。
話し込んでいるとさっきまで真っ昼間だったのが気がつけば辺りは既に夕日が僕たちを照らす。
もうこんな時間か。話し込みすぎたな?と思っていると神社の石段から誰かが歩いてきた。
「宝刀〜!ここに居たのね。
全然帰ってこないから迎えに来たわよ。」
どうやら探してくれていたみたいだ。
「ありがとう。トワ。」
宝刀は感謝を伝えて今日知り合いになった姫島のことを紹介する。
「今日友達になった姫島朱乃さん。
とってもいい子なんだ。」
トワは姫島を見ると驚いた顔をした。驚いたのは一瞬で姫島は気づかなかったようだ。
「姫島さん。迎えに来てくれたのがトワ。
僕の家族の人なんだ。」
─── 家族。
僕からすればもうトワは家族。
短い期間ではあるけど大切な思い出がいっぱいで大好きな人。だから人に紹介するならこういう言い方をしたい。
トワはまた驚いた顔をしたが家族と言われた事が嬉しかったようで自らの自己紹介をした。
「こんにちは!宝刀の家族のトワよ。
私も仲良くしてね。姫島ちゃん。」
「あっ!初めてましてでふ!
姫島朱乃って言います。
私も仲良くしてくれたら嬉しいです!」
姫島は噛んだ事や仲良くしてくれる人が増えたのが嬉しかったのか顔が真っ赤になっていた。
「今日は帰ろうか!
また今度遊びに来ますね、姫島さん。」
宝刀はトワの手を繋ぎながら帰ろうとしたが終始勘違いされていた事を訂正するために姫島に近づいてそっと耳元に内緒話のように囁く。
「僕は女の子じゃなくて男ですよ」
姫島はポカンとした顔をしたが宝刀の言葉が頭を駆け巡り理解してしまうと、直ぐに顔が真っ赤になった。
自分が抱きしめられていたのは男の子、、。でも嫌な気持ちというよりむしろ嬉しい気持ちが大きいことに気づく。
少女は去っていく男の子を見つめながら今日のことを母に伝えようと思う。こんな素敵な事なら喜んでくれると思いながら。
宝刀はトワの手を繋ぎながら今日のことを話した。
「宝刀は女の子ばっかり引っ掛けて〜
私では満足出来ないかしら?」
トワは少し頬を膨らませて拗ねた。
「え?そんなことしてないよ。
それに僕は黒歌と白音とトワが大切なのは絶対だよ。ここは変わらない。
だから膨れて怒らないで。
僕はいつものトワが大好きだから。」
「はぁ、、。それなら良いわ。
私は貴方にとって大切なのね。嬉しい。
大切ならちゃんと見ててね。」
ちなみに私はとても嫉妬深いわよ。
いつもなら可愛い筈のトワの笑顔が何故か今だけは宝刀の背筋がゾワリとさせた。
───────────────
姫島朱乃は宝刀とトワが神社から居なくなってもその場に立ち尽くして自分の過去を振り返っていた。
『化け物!』
『人でなし!』
少し前まで居た友達が私に向かって叫んだ言葉。
たった一つの出来事で全てが崩れ去ってしまうとは思わなかった。
ある日、友達との帰りながら寄ったコンビニで事件がきっかけ。
いつものように友達と食べるお菓子を選んでると突然マスク男が銃を天井に向けて発泡した。
まさかのコンビニ強盗に居合わすなんて。
日常では聞くことなどないはずの銃声がコンビニに鳴り響く。
店内にいた私や友達も何が起きたか分からなかったけど、だんだん状況が理解できたと同時に叫んだ。
「きゃぁぁぁあ!」
店内は阿鼻叫喚となり我先に逃げようとする人達。不安は続くようで逃げ出そうとしていた私達に男が立ち塞がり友達を捕まえる。
「お前を人質にしてやる!」
当時の私は目の前で引っ張られていく友達を助けようとした。怖いとかそんな事も忘れて男に体当たりをして抵抗する。
男はどうも身体は鍛えていないようで私の突然の行動も不意がつけたようでよろめいていた。
良し!と思ったけど男は銃を持っている。
男は私にやられたことが悔しかったのか銃を友達に向けて発泡しようと構えて引き金を引こうとする。
「ダメぇぇぇえ!!」と私が叫ぶと不思議な感覚が身体から発生して、パチパチと手から雷が放電して男を貫いていた。
男は身体から煙を出しながら倒れ伏し痙攣して泡を吹いている。
私は現状がわけ分からなかったけど、友達の元へ駆けて安否を確認しようと近づいて声を掛けようとしたが見えたのは友達の顔は恐怖で染っていた。銃を持っていた男に連れ去られるよりもより濃い恐怖を彩る顔。
その日から友達はいなくなった。次の日、学校では私の力が広まったようで化け物かのように腫れ物として扱われた。時には直接「化け物」という言葉を廊下ですれ違いざまに言われた事もある。結局学校では私の存在が居ないことになった。
近所の人達からもヒソヒソと遠目から珍獣のように眺められ私は泣きながら家に帰った。
泣いて帰った夜、母に教えてもらったのは私は普通の人間ではない事であり、更に言えば人間ですらなかった。
この家はただの神社ではなく代々異能を持つ人間が生まれる特異な家系であるらしく、実は母や親戚の人、この家に関わる者は皆何かしらの特異な力が宿っているそうだ。
そして父は堕天使と呼ばれる存在だった。いつも家に居なくて不思議だったけど堕天使の治める場所で働いているらしい。
堕天使の子供だから私にも羽が出せる事も知った。そして私が咄嗟に出した雷は父の力が遺伝しているそうだ。
私は腑に落ちた。そっか人間の母と堕天使の父から生まれた紛い物。
それが私かと。
でも母も父も嫌いではない。確かに二人から生まれた事で私は人間と堕天使のハーフの化け物。恨んでしまいそうに何度もなったけど、やっぱり惜しみない愛を注いでくれる二人を嫌いになんかなれなかった。
私の事を教えてくれた日から学校には行かなくなった。父の力でこの街の人々の記憶を操作して私の異能があったことを帳消しにしたけど足が学校へ向くことはない。
怖かった。またあの目で見られる事が怖い。
だから愛してくれる両親が居てくれるだけで充分だと思っていた。だけどやっぱり心の中では友達が欲しくて、でもまたあの化け物を見る目をされる恐怖もあって他人と触れ合えなくなってしまって踏ん切りが付かない私は彼と出会った。
この街では見たことない子供。見た時に感じたのは綺麗の一言。
同じくらいの歳なのに神秘的な雰囲気を振り撒く姿は芸術品のよう。
もしからしたらこの子ならと最後のチャンスだと思って話しかけた。本当は自分の事を話す気なんてなかったけど何故かいつの間にか話していた。
本当の自分を受け入れて欲しかった。
───宝刀。
さっきまでの出来事を何度も脳内で再生していた。
化け物でも良いって言ってくれた。可愛いって言ってくれた。普通の女の子だって言ってくれた。友達になって欲しいって言ってくれた。
否定されるべき物を全て肯定してくる。
私がずっと言って欲しかった事を言ってくれる優しくて綺麗過ぎてドキドキしてしまう男の子。
抱きしめられた感触が蘇って心も温かい。
久しぶりに心がポカポカして嬉しい。
少しぼぉ〜としていると声が聞こえた。
「あら?朱乃どうしたの?
とても嬉しそうね。」
母がご飯が出来たから呼びに来てくれたみたい。
私は今日の事を母に伝えたくてうずうずする。
「うん!聞いてよ!
私に新しい友達が出来たの!」
宝刀くん。
私の中に入って心を塞いで。
そうじゃないとこの気持ちが飛び出しそうだよ。
昨日、広島開催のBLEACH 原画展行ってきました。
ひたすら圧巻。原画を間近で見ることないので修正された所や黒のベタ塗りの強弱など感動しました。
口元など些細な所を何度も修正していて久保先生の感情表現を追求する姿勢に脱帽です。
原画の横に当時の思いなど紹介されていて久保先生の気持ちが知れたのもポイント高いですね。
もっと言いたいことはありますが止まらなくなってしまうのでここで終わります。