「提督、おはようございます」
部屋で待っていたらしい不知火が、びしっと敬礼を決める……のだが、その身を包んでいるのはおよそうら若き乙女が着るものとは思われない濃灰色のスウェットだった。いかにもお洒落に頓着のない不知火らしい。
「お前……まだそれ着てるのか」
「提督には関係ないでしょう」
鋭い目つきでにらまれた。本当に可愛げがない。
「あー提督、おはようさん」
黒髪のショートカットの前髪にピンを通しながら、黒潮が二段ベッドの向こうから出てくる。その出で立ちは、まさに夏場の中学生とでもいったような雰囲気だが、それだけでも十分不知火との差を感じる。
「うん。合格」
「え、何の話」
「さあさっ、座っちゃってください――そんなに広くはないけど」
陽炎が客のために準備しているらしい座布団を二つ持ってきて、二段ベッドに挟まれた真ん中のちゃぶ台の周りに置く。緊張している雪風も優しい口調の割合に強引な陽炎に座らされて、五人――あるいは一人と四隻――の奇妙な光景が完成する。
「……で」陽炎が雪風を、期待のこもった眼差しで見つめる。それに雪風は少しどぎまぎしているようだ。「この娘が新しく艦隊に加わる駆逐艦なのね」
「ここにわざわざ来たということは、この娘はわたしたちと同じ陽炎型なのですか?」
不知火が柄にもなく興奮した面もちでわたしの方に身を乗り出そうとして、やめた。こほん、とわざとらしい咳払いをしてみせる。それを黒潮が目ざとく見つけて、すかさずからかう。
「あれーどうしはったんぬいぬいー?」
「その呼び名をやめてください。次いったら剥ぎますよ」
「剥ぐ!? なにを!?」
わたしが黙っていても勝手に話が始まっている。雪風もそのことに気がついたのか、助けを請うような視線をちらちらと寄越してくる。初めて会った姉妹を前に、何を話したらいいのか分からないとでも言うのだろう。
けれど、それは彼女らも同様だ。ひょっとしたら、肩に力の入っている雪風に少しでも和んで欲しいと思って、こんなに賑やかに振る舞っているのかも知れない。
「もう二人とも、雪風ちゃんの話を聞きたいんだけど」
陽炎が叱りつけてちゃぶ台を軽く叩いたのを見て、不知火と黒潮は言葉の応酬を止め、しぶしぶ雪風やわたしの方に向き直る。その様子を見ていた雪風は、一番近いわたしにも聞こえるかどうかと言うぐらいの小さな声で、「お姉ちゃん……」とつぶやいた。その瞳には不思議な輝きがある。
わたしは、もう、いいだろうと思った。
この娘はこの基地でうまくやっていけるに違いないと、確信できる。顔も知らない姉妹と初めて会うのが戦争の最前線というのは、立派に悲劇だ。だがどこでそれを果たしたとしても、その絶対的な幸せさには変化を与えない。
「………………」
わたしは姉妹たちに雪風と後のことを任せると、部屋のドアを閉じた。
主人公が鈍感を発揮するのはこういう方向でもいいはず