「おれは 第一話で島風が砲撃による損傷と書いたと
思ったら いつのまにか魚雷による損傷のストーリーを書いていた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をしているのか わからなかった…
司令は、まだお気付きになられていないようでした。雪風が、一体どんな思いで陽炎ちゃんたちとお話していたのかを。
『提督はどんくさいところがあるからね』とは、北上さんの台詞です。北上さんは練習艦隊勤務を終えて聯合艦隊に配属された司令の、最初の乗艦だったといいます。
北上さんは基地の艦隊で二隻いるうちの軽巡に当たる艦の一人です。艦隊では最も練度の高い艦で、そして最も多くの敵を葬り去った強い船です。そんな北上さんが、度々司令に行っている言葉がありました。
『
北上さんには、過去の記憶があるようでした。雪風と同じです。重雷装巡洋艦から回天母艦になった北上さんは、結局回天を使用する機会には幸い見回れず、終戦後は定係工作艦となっていました。それでも、自分が回天を運んでいた、という事実が、北上さんには強くのしかかっていたのです。
雪風は沈みません。呉の教育隊の頃、辛いときは何度もこう言い聞かせて自分を鼓舞していました。
雪風は北上さんと同じく、あの戦争では沈みませんでした。けれど、雪風の仲間はみんな沈みました。谷風も浜風も天津風も初風も浦風も磯風も――みんな沈みました。それでも雪風だけは沈みませんでした。
沈みたいと思ったことは一度もありません。雪風には家族がいたからです。239人の乗組員たちを守るため、雪風は最後まで戦い続けたのです。
けれど、周囲の人々はこう言いました。――あいつは死神だと。
雪風と隊を組んだ艦は軒並み沈んでいきました。沈んだ艦の魂を喰らってあいつは生き残っているのだと、そう言われても仕方のないくらいみんな沈んでいって、雪風は生き残りました。
もはや、雪風に家族はいません。
艦娘として蘇れたことは幸運です。でも、雪風は過ちを繰り返してはならないのです。雪風に仲間はいません。もう沈む艦はありません。もう、雪風だけが生き残ることはないのです。
この基地へ着任する時、島風はそんな話をする雪風を、「つまんない奴」だと言いました。島風は自分の速力にしかまるで興味がないようで、他の陽炎型や白露型のみんなとも、そんなに仲がよくないと言うのです。その実、島風はその速力故にどの駆逐隊にも参加せず、直率の艦となっていました。
だから同じだ、とも言われました。
島風が直率部隊で一人なように、雪風も一人だからだというのです。
雪風は、島風はなにか勘違いをしていると思いました。島風は一人でなくても別によいはずだからです。雪風は一人にならなくてはならないのです。一人であるべきだから、一人なのです。最後には一人になってしまうから、一人になっているのです。
それならさ、と島風は言いました。
「どちらが最後の一人になるか、競争をしてみよう」
そんなときです。あの艦が現れたのは。雪風たちの電探に反応があり、そしてすぐに潰えました。敵――深海棲艦です。海上護衛総隊の駆逐艦は、雪風と島風に、
「自分が囮になるから先に逃げろ」と通信を送ってきました。
「それには当たらない」
と返信したのは島風です。島風は武装を満載していました。雪風も武装をしていたことにはしていましたが、実戦で使ったことは一度もありません。雪風がもたついているうちに、島風は戦闘態勢を整えて、もう目視できる距離まで近づいてきている敵艦の方へ向かっていきます。
「そんなで、最後の一人になれるの」
振り返る島風は、笑っていました。雪風は思わず、海上を駆け出していました。
陽炎型は他の駆逐艦に比べると、わずかではありますが鈍足です。しかしそのわずかな差が海の上では生死を、そして勝敗を分かつのです。島風は後にも先にもない、40ノットの類稀なる速力を持っています。天津風の持っていた機関はその試作品でした。
敵の艦影は、駆逐艦のものでした。もらった――という島風の独白が聞こえました。しかしその時です。敵の駆逐艦から砲撃音がしました。約四発が二度。全砲門の二連斉射です。中空を黒い砲弾が弧を描いて飛んできます。即座に艦娘としての勘が働いた雪風は、あえて速力を落として右へ回頭して回避運動をとります。次の瞬間、雪風が進んでいたであろう針路に水柱が立ちました。島風も速力を生かして強引に砲撃を躱していきます。
もう敵の駆逐艦――艦型による判別ではイ級――まで10キロもありません。早朝の海上、イ級の姿をよりはっきりと捉えたとき、雪風はそれがただのイ級でないことに気が付きました。
赤い、邪気のようなものをまとっていたのです。
駆逐イ級エリート、深海棲艦のうちでも、特に精鋭はそのような邪気をまとっていることがあります。船体は通常のそれよりも巨大で、その分耐久も増しています。イ級エリートの耐久性は、近代化改修を行った駆逐艦と同程度であり――つまり雪風よりも強大です。
「すぐに沈めてやるわ!」島風は敵がエリートだと分かると更に息巻いて、急激に左に進路を取りました。「連装砲ちゃん、全門開け!」
島風の背中についてきている自律型の連装砲塔がイ級の方角へ向きます。砲身の調整をしているようでしたが、島風が速度を出し過ぎる所為で砲身がぶれ、うまく照準が定まらないようです。しかし、それを気にする島風ではありませんでした。
「
連装砲が火を噴き、後部の赤く焼けた砲弾がイ級の方角へ向かって滑空していきます。砲撃を感知したイ級の髑髏のような形状をした艦首が突然、船とは思われないような動きをとり――首を上に向けて、口を開きました。内部からは先ほど砲撃に使用したのであろう砲身が出てきて、再び連続射撃がなされます。
雪風はそれが我々を狙ったものではないとすぐに理解しました。イ級の正確な射撃による砲弾が島風の砲弾を全て撃ち落とし、薄明の空に火球を浮かび上がらせます。イ級は速力をぐんと上げ、島風に迫り始めました。
「接近戦をやろうってのね!」
島風はそれまでの敵に対して弧を描くような航行を止めて急速に回頭すると、一直線にイ級に向かって走りだしました。白波が島風ちゃんを取り囲み、その姿を半分も隠してしまいます。雪風はイ級が島風に気を取られている隙に、イ級の側面に回り込んでいました。
「喰らえっ!」
雪風は提げていた12.7cm連装砲二基を構え、斉射しました。ずん――という反動が腕に響き、四発の砲弾が少しずつの時間差を置いて大空へ撃ち出されます。しかし初撃で弾着観測できていない砲撃が当たるはずもありません。が、砲弾は運よくイ級のだいたい前後に落下しました。
「よし、挟叉!」
この相対距離を保てば、次回砲撃ではかなりの確率で直撃弾を出せるはずです。
「先を越されてたまるかっ!」
イ級に数十メートルと肉薄した島風が、魚雷を三本、背中の発射管から海面に向かって投射します。小さな水柱を上げた三本の水中を進む魚雷が、一切の航跡も見せずに進んでいきます。――前線にのみ配備されているという新型兵装・酸素魚雷です。帝国海軍はこれをいち早く実用化し、米軍への漸減邀撃戦略を実現する兵器として駆逐艦などに搭載していました。しかし、今の相手は米軍ではありません。深海棲艦です。奴らは酸素魚雷の情報をどこからか入手し、複製して使用していました。――エリート以上の艦には、それが搭載されているのです。
イ級は島風の挙動から、酸素魚雷の存在を察知したようでした。急激に回頭して半円を描くように回避運動を取ってほとんど時差のない三本の魚雷を躱すと、自分の船体から魚雷を分離しました。歪な形状の鱗に覆われた魚雷が、一挙に三本、海面に撃ち込まれます。そのうちの二本が島風へ、そしてもう一本が雪風へ向かってきます。しかし、その航跡もすぐに見えなくなりました。
「当たるかっ!」
島風は魚雷の発射ぎりぎりまで直線進行を止めず、発射されると同時に左へ体を傾けてブーツの舵が吹き飛びそうになるほど激しく旋回します。
雪風はあのイ級が偏差攻撃を行った可能性に賭け、あえて針路をそのままに突撃していきます。すると、自分のすぐ左で魚雷のものらしき叫び声と爆発が鳴り響きました。思わず耳をふさいだ雪風は、自分の判断が正しかったことを悟ります。
イ級に正対する島風が急激な左舷回頭と減速で、偏差攻撃を全く意識していないことに雪風が気が付いたときには、すでに間に合わなくなっていました。
「なっ――!?」
直後、爆発が島風の周囲の海上を包みます。魚雷が炸裂した音――再び甲高い金属音のような叫び声が轟音とともに波と大気を騒がせます。雪風はその光景を、敵の背後であることも忘れて、呆然とただ眺めていました。いえ、動けなかったというのもあながち間違いではありません。目の前でまた誰かが沈む光景に、耐えられなかったのです。雪風とは逆方向に航行していた駆逐艦が、ミサイルを何発も発射しました。無駄と分かった上の、牽制攻撃です。――雪風を逃がすための。
「そんな……」
立ち尽くす雪風の目の前で、イ級がミサイル攻撃をものともせずに180度回頭し、その途中で駆逐艦へ向けて主砲の砲撃が浴びせられます。発生した高波のせいで速力を落としていた駆逐艦がそれを回避できるわけもなく、瞬く間に直撃を受けて爆発炎上します。通信回線は駆逐艦からの『逃げろ』の声で満たされました。
終わりか――そう思いました。しかし、回頭を終えたイ級が再び魚雷を船体から分離しようとしたところで、突如、晴れかけていた水しぶきから急速に移動する一つの影が現れたのです。
「五連装酸素魚雷っ、行っちゃってぇーっ!!」
水しぶきを振り切って突撃をかける魚雷攻撃を受けたはずの島風は、小破して黒煙を上げながらも、自発装填を終えた五連装発射管を背中からパージしてイ級に向け、一挙に五本まとめて撃ち放ちます。これだけの至近距離、もはやイ級の回避は間に合いません。五条の航跡が消えた数秒後、逃げまどうイ級の船体に二本の魚雷が衝突する音が、かすかに聞こえました。
ゴオオオオ……という腹の底に響いてくるような爆発音が耳朶を覆い尽くします。飛んでくるしぶきの中、薄く目を開いた雪風は、イ級が轟沈していくのを見ました。
――雪風の初陣は、かくして幕を閉じます。
島風とて、歴戦の艦です。偏差攻撃の可能性に気づいていないはずがありませんでした。魚雷の直撃を寸前で回避した島風は、海面に向けて砲撃をし、魚雷を誘爆させたのだと言います。とても、真似できない芸当です。
砲撃を受けて中破した駆逐艦から乗組員を救助すると、一人の死者もいませんでした。近年、海軍の通常艦艇は海軍志願者の減少によって無人化が進められ、実は人間は重装甲区画以外にはいないのです。ほっとした雪風は、身体から煙を上げながらも得意げな島風にお礼をいうことにしました。
「ありがとうございます」
「何言ってんの、わたしたちは同じ艦隊になるのよ。生き残るために協力するのは当然でしょ」
自分は一人だ、という島風にしては意外な発言でした。ですが認めたくないことに、もっともだ、と思う自分も確かにいたのです。雪風一隻では、今の敵にさえ勝つことは叶わなかったでしょう。
「これからよろしくね、雪風」
「はい」
雪風は、着任先でもうまくやっていけるかもしれない――とその時、ほんの少し思いました。
さてバトル回
なんか時系列がめんどくさいことに……そのうち修正かけるかもしれませんね