Unsinkable Ship   作:admiral56

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前回がバトル回だったので、すこし休憩

夏ですね


『演習の始まり 6月21日』

 基地の軍港を出て少しの海上。ここ基地周辺海域は、常に駆逐艦一隻がレーダーピケット艦として駆り出され、哨戒任務に当たっている。近年電子戦性能を上げ、大規模警戒設備のレーダー網には映らなくなった深海棲艦も、艦娘保有の妖精工廠製の電探にはその姿を捕捉することができる。

 

「これより第一二回、小演習を実施する」

 

 わたしが今回の演習指揮所となる軽巡洋艦・夕張の甲板で文書を読み上げている最中も、南方の太陽は容赦なく照りつけてくる。年数回開催できるようになった小演習だが、今回は稀少型の雪風という新戦力の参加に伴う新しい戦術研究という側面があってのことで、そうそう軍令部からも演習の許可は下りない。

 

 参加艦艇は、高雄型重巡で編成される第八戦隊。二個駆逐隊による変則編制である第一二水雷戦隊。そして赤城・加賀が参加する第一航空戦隊と、瑞鶴・隼鷹で構成される第五航空戦隊の計・一六隻による紅白戦である。航空戦と砲雷撃戦の昼間、そして数時間後には空母を抜いての夜戦という日程が組まれている。

 

「演習指揮所は、わたし、兵装実験軽巡・夕張が務めます。――どうぞよろしく」

 

 わたしの背後から、にこやかに女子高生ぐらいの少女が出てくる。軽巡洋艦・夕張だ。全体的に細身で、濃灰色の髪を束ねた緑色のリボンが目を引く。この基地きっての対潜戦闘のエキスパートだが、陸上ではまた別の顔――兵装実験軽巡の名にふさわしく、研究者としての側面も持っている。研究者といってもそのフィールドは広く、新装備開発から戦術研究まで手広く行う。

 

「今回は新任の雪風を交えての演習となる。各員、奮闘を期待する」

 

 艦娘たちの返礼を待ってから、わたしは演習計画書に目を落とす。白い紙が日光を照り返してくる所為でまぶしい。文字がよく見えない。

 

「今回は紅白戦だ。空母二隻を中心とする任務部隊を編成し、重巡洋艦二隻ずつと一個駆逐隊が護衛に当たる。なお、赤城・瑞鶴のチームは侵攻側というハンデを埋めるため、北上が参加する。――以上だ。状況開始は〇九〇〇。各員、配置につけ」

 

 はい! という力強い返事にわたしはうなずき、夕張の艦橋に入っていく。夕張所属の妖精たちが大慌てで修正版のスケジュールを参加する艦娘たちに配り始める。涼風が哨戒任務で不参加と、島風が予備パーツの不足から修理が進んでいないために、今回の参加を見送っている。本人は数ヶ月ぶりの演習に参加できないことにひどく落胆していたが。

 

「状況開始時刻まで、あと五分」

 

 夕張がオペレーターとして時刻を読み上げる。わたしは夕張の指揮所に置かれた複数のモニター越しに、各組の様子を見守る。

 

 雪風は今回、紅組に所属している。この組には正規空母の赤城・瑞鶴。第八戦隊の重巡、摩耶・鳥海。そして一二水戦旗艦の北上、第一駆逐隊の不知火・陽炎・黒潮の計九隻がおり、比較的高速艦がそろったため、機動的な戦術が取られるものと考えられる。今回は、こちらが侵攻側となり、この基地沖に敷設されている防衛線の突破を図る。基地にある対空砲火と航空隊の一部も迎撃に出るため、激しい戦いが予想される。

 

 だが侵攻側も、船渠と司令部の所在地である基地周辺市街の対岸にある西吹山付近の南飛行場から航空支援が得られることになっており、航空戦力自体の差はそこまで戦局に影響しないように調整されている。あくまで見たいのは水雷戦闘と砲撃戦なのだ。

 

 戦闘要員の空母としては一人だけ留守番になってしまった龍驤は、自分が出れないことに関して表立った文句をつけには来なかったが、練習母艦としての所属で待機命令を受けていた鳳翔が言うには、相当悔しがっていたらしい。

 

「雪風ちゃん、どんな娘なんでしょうね?」

 

 気がつくと夕張が隣にいた。普段は付けていない、赤い眼鏡をかけている。艦娘といえども、おしゃれの一つや二つ、やはりするものだろう。

 

「眼鏡かけるんだな、夕張は」

 

「えっ――」夕張の面食らったような表情が失望のそれに変化していき、こらえ切れないといった様子でわたしから顔をそむける。「一昨日もかけてましたよ……眼鏡」

 

「あ……」

 

 ごめん、という台詞がもはや手遅れであることは明白だった。わたしは指揮所のモニターに視線を緊急避難させ、この場をやり過ごすことを画策する。画面には、白組――加賀と隼鷹の部隊が映っていた。白露型の三隻――時雨・夕立・五月雨と高雄と愛宕の七隻からなる白組は、防衛側として多少のアドバンテージを持っている。

 

 勝敗の基準は、互いの旗艦が大破以上に追い込まれるか、防衛側の戦力が五割を切るかのどちらかだ。戦力自体はほぼ拮抗している。航空戦力は若干白組が上回っているが、水雷戦力では北上の参加によって紅組に軍配が上がる。

 

「昨日話した限りだと、雪風の奴、いやに自信なさげだったような――」

 

「そうなんですか?」

 

 わたしの言葉に反応して見せた夕張の口調は、どちらかと言えば同調と言うよりも意外という因子が強い。どういうことだ、という表情を浮かべた私の顔を見て、どこか怪訝そうな夕張が答える。

 

「他のみんなの話だと、なんか付き合い悪いって――」

 

「そうなのか」

 

 まあ、雪風もまだまだ艦隊の同僚とは打ち解けられていない、ということだろう。一昨日の宴会では皆にぐるりと囲まれて、いろんなことを聞かれていた。それで少し皆に苦手意識を持ってしまったのかもしれない。そのうち、陽炎や黒潮辺りがお節介を焼いて引き合わせようと画策し始めるに違いない。

 

「演習の連携に影響しなきゃいいですけど」

 

「そこまでではないだろう」

 

 不安そうな夕張の横顔は、曖昧な返事をしただけだった。

 

 

 

 ラタンガイ島南方の海上が、紅組のスタート地点となる。赤城と瑞鶴の航空隊がまず基地の湾内上空に侵攻し、そこに南飛行場航空隊が加わって、基地航空隊と白組空母の航空隊との模擬空戦を行う。このとき明石や鳳翔がトンボ釣り――つまり不時着機の回収にあたる。

 

 同時に、砲撃戦と水雷戦は始まっている。ペイント弾による重巡同士の中射程での砲撃戦の合間を縫った、駆逐艦たちの肉薄しての水雷戦。演習用の魚雷は信管や炸薬が抜かれており、起爆はしないように調整されている。

 

「あーあー」

 

 勝手に持ってきた演習計画書を読んで、司令部の屋上にいる島風はさもつまらなさそうに空を仰ぐ。

 

『仕方ないでしょ、修理終わんないんだし』

 

 最近工廠に入りっぱなしだった明石が、トンボ釣り任務で港湾に停泊した艦船形態の甲板の上通信している。外にでるのは久しぶりだった。島風の修復もあったが、夕張立案による北上の改修作業に思ったより時間をとられていたのである。夕張に連絡役を頼んでからというもの、外にはこの三日間出ていなかった。籠もりきりの作業中提督が何度も差し入れと共に来てくれたことには、感謝しなくてはいけない。

 

「でもさー雪風が出るんだよ? 出たかったなー」

 

 島風も無理を言っていることは承知の上で、あくまでこうして不満を垂れている。通常の武装などの損傷なら陽炎型とも多少融通が利くのだが、機関部の損傷が痛かった。提督が言うには、今回のソンソロール諸島沖遭遇戦を受けた海上護衛総隊が、東南アジアで輸送部隊として活動している戦隊の一部をこちらに回し、万全の護衛体制を整えてから補給部隊がくるらしい。

 

『あと一週間の辛抱よ。それまでは哨戒任務もしなくて良いんだし』

 

「暇だなー」

 

『座学でもやってなさいよ』

 

「ヤダよめんどくさい」

 

 島風は翳した腕の間から、太陽を恐る恐る見上げる。今日も天気は晴れだった。雲がちらほらと出ているが、今は乾季なこともあって滅多に降ってこない。初め着任したときはその気温の日較差に驚かされた。意外と朝晩は過ごしやすいぐらいにはなるのだ。

 

「艦娘ってさー」

 

『えっ!……なに』

 

「どしたの」島風の不意の発言に、明石が露骨に反応した。ところが既に日差しに茹だっている島風は大した違和感も抱かずに、先を続ける。「……なんで筋トレとかしなくていいんだろ――ロボットだからとか?」

 

『ま、まあそんな感じね。き、教育隊で習ったでしょう?』

 

「じゃあ暑いの感じる機能とか止めてくんないかなー」島風が無気力感を全身から発しながら、ごろごろと転がる。「明石」

 

『うん?』

 

「なんで艦娘になったんだろ、わたしたち」

 

 通信相手が急に黙ってしまったので、島風はほんの一瞬、通信機能の故障を疑った。が、向こうから海鳥の声が聞こえてきたことで、それが間違いであることを悟る。

 

『……わたしは、そう決めたから、かな』

 

「なにそれ」

 

 どういうこと――という島風の問いは、打ち切られた通信のノイズに阻まれた。演習がもう始まるのだろう。参加艦艇の集中力を削がないために、無線封鎖が行われたのだ。

 

「まあいいか」

 

 島風は寝そべるのを止めて、上体を起こす。フェンス越しに港湾が一望でき、島風は見慣れた光景を不機嫌そうに眺めてから大きく息を吸って、吐き出す。

 

 その時、演習開始のサイレンが鳴った。




明石さん初登場 

そういえばまだ1レベのままなんですよね
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