ナガト(ガルグ)
黒と茶のツートン、ドーベルマンのような色合いのガルグ
ムツ(オトモ)
茶と白のツートン、糸目のような細い目が特徴、ボマー
「うっ…」
全身に走る痛みに思わず言葉を漏らす。外部からの圧迫感のある痛み以上に体内から感じるつんざくような痛みの方が堪えた。
状況が全く理解できない、明らかに全身をくまなく怪我しているが自分にはそんな心当たりは全くなかったのだ。
「なにが…っ!?」
痛みに耐えかねて上半身を跳ね上げる全身から同様の痛みが襲いかかり声にならない悲鳴を上げる。
「グゥ…」
襲いかかる痛みに耐えていると隣に寝ていたガルグが心配そうにこちらを見つめてきた。
それを見た自分は痛みを忘れて驚く、目の前にいるガルグは見覚えがある、しかしそれはあくまでゲームの話であったからだ。
「うっ」
急いで周囲を見渡すと周りには和風の内装が広がりゲームで見た景色が広がる。
布団の横の壁掛けの写真には若干自身の面影のある男の子とヒノエ、ミノトが三人で仲睦まじく写る姿があった。
鏡はないかと痛むからだを動かす、するとまるで自身の家であるかのように引き出しから違和感なく取り出せた。
「あ…」
鏡に映っていたのは写真には映っていた男の子。
短めの黒髪を靡かせ少し幼さが残る顔立ち、左頬には引っ掛かれたような傷跡があるが顔立ちは整っている。
「ユウ!」
鏡を見ていると家の入り口からオトモのアイルーと共に水桶を持ちながら入ってきたヒノエが大きな声を出す。
目覚めていた自分に向けて持っていた水桶を手放し駆け寄る。
落ちた水桶はガルグがすんでのところで口でキャッチする。
「ヒノエ…さん」
「ユウ…」
自身の体を気遣ってか駆け寄ってきた勢いを殺し優しく労るように抱き締められる。
「3日も目を覚まさないからどうしようかと。先生のお話で大丈夫と伺っていましたが」
「3日ですか」
「ええ、その前にユウ」
「は、はい」
「なぜ敬語なのでしょう?」
ズイッと寄せられたヒノエの顔に顔の温度が急上昇するのが分かる、それと同時に脳内にヒノエとの思い出がフラッシュバックする。
頭から溢れだした存在しない記憶とかこの感覚なのかと思いながらも自身の立場を冷静に観察する自分が結論を導き出す。
「ごめん、ちょっと混乱してて」
「なら良いのですが」
ヒノエは激しく狼狽するユウを心配しながらも体の傷に響かないようにゆっくりと寝かせる。
ハンターズギルドからハンターとして認めれてから様々なモンスターを圧倒していた彼がジンオウガとの戦いで負傷して帰ってきた時はどうなるかと慌てたものだ。
「とにかく無事に目覚めてなにより。今は体を休ませて回復することに努めてください」
結果的にジンオウガの狩猟には成功したものの彼自身も大怪我をしナガトの背に乗せられ里に帰ってきた時は言葉を失ってしまった。
「ありがとう」
体が痛むのか表情が優れないユウからの言葉にヒノエは優しく頭を撫でる。
ナガトが拾ってくれた水桶で布を濡らし汗ばんだ彼の顔を丁寧に拭き取る。
「ヒノエや里長、皆も心配していましたよ。今は夜更けですので明日、報告しましょう」
この3日間、ミノトと二人で目覚めない彼の世話をしていた。最初はウツシ教官もいたが終わりの見えないマシンガントークにミノトが耐えかねて追い出した。
「後のことは任せて欲しいニャー」
「はい、ありがとうございます」
ユウが眠ったのを見届けるとムツが顔を出し後を託す。
また目覚めないのではないかと言う一抹の不安を持ちながらも彼の左頬に触れその場から立ち去るのだった。
ーー
夢を見た。
一人の少年が村のために鍛練を重ねハンターになった夢だった。目の前にいるのは強大なモンスターたち、それをたった一人で狩猟するのは精神的にも肉体的にも疲労する行為であった。
猛き炎と呼ばれた少年には身寄りなく孤独であったがカムラの里の者たちが親のように友のように接することで孤独を感じることはなかった。
だから志願した、猛き炎になることを。
「愛弟子!!!」
「うわぁ!」
突然の爆音に飛び起きた自分は流れるような動きで枕元に置いてあった短刀を抜き構える。
自身の動きに驚きながらもその声の主に心当たりがあった。
「うむ、筋力の衰えもあまりなさそうだ。無理は禁物だぞ!!」
「おはようございます、ウツシ教官」
この元気溢れる声の主はウツシ教官、幼い頃から体術や武器、翔虫の扱い等を教えてくれた大恩人の一人。
「あらあら、声が聞こえると思ったらやはりウツシ教官でしたか」
「相変わらず良く通る声ですね」
痛む体を労りながら布団をしまうとムツがウツシ教官と自分の分のお茶を運んできているとヒノエとミノトがやってきていた。
昨晩に見た夢のお陰でこの世界の知識や自分の歩んできた道は良く覚えた、むしろ思い出したと言う表現が正しいかもしれない。今となっては前世の記憶を突然思い出したという気分だった。
「おぉ、ヒノエから聞いてた通り何もなく何よりだ」
「ハンターに怪我は付き物でゲコが。まぁ無事でなによりゲコ」
ヒノエミノトを筆頭にカムラの村のほぼ全員が家にやってきて大騒ぎだったのだがそれはほぼ一日中続き終わった頃にはクタクタだった。
「よう頑張ったニャア」
「ありがとうございます」
そして夜にはゼンチが診療に訪れ自身の体を検査すると動き回ってよしとのお墨付きをもらった。
つい四日前には瀕死の重症だったというのに自身の身体の頑丈さには驚くばかりだ。
「ここにおるとワシの仕事がニャアからの。念のために狩りは控えておくんじゃぞ」
「はい」
ゼンチはそう言い残すと自身の仕事道具を片付けて家から出ていく。
ゼンチ先生の言う通り昨日よりか身体の痛みはおさまり、普段の行動なら問題なさそうだ。
「ユウ、少し良いか?」
「あ、ロンディーネさん」
「貴殿が目を覚ましたとイオリ殿から聞いてな」
和風が主流のカムラの里には珍しい緑を基調とした西洋風の装束を纏うこの女性はロンディーネ実は自分の一つ上で26歳の自称商人。
その立ち振舞いや間合いの取り方は完全にハンターのそれなのだがだれも触れないので黙っておく。
二つ上の姉が母国であるエルガドにおり、騎士として奮戦しているとのこと、ちなみに最後の情報は自分しか知らない。
元々ユウは新しいもの、珍しいものに対して目がなく年齢も近いと言うこともあって彼女とは積極的に交流していたのだ。
「これは見舞いの品だ。今回は常連の貴殿のために用意した特別な品だ」
そう言って手渡してくれたのはペンダントの形をした護石、緑色に光る石が美しい。
「この護石は翔虫に作用する効果を持っているらしい。ユウの狩りに少しでも役に立てればと思ってな」
「ありがとうございます」
「百竜夜行に対したった一人で立ち向かわなければならない貴殿を私はいくらでも支援する。私もこの里がなくなるのは辛いからな。それと掛け軸もゴコク殿に頼んで新しいのを見繕っている。出来たらまた知らせよう」
「それは楽しみですね!」
目をキラキラさせるユウの姿を見て安心したロンディーネは内心旨を撫で下ろす。
「元気そうで何よりだ。夜分に村を彷徨くのも悪いのでまた会おう」
そうしてロンディーネは明日の夜明けには一度出航する旨を伝えて家から去っていく。
もしかして目覚めるまで待っていてくれたのかと思ったが考えすぎと思いその日は寝るとした。