ふと気が付いた時には、私はそこに居た。此処とは違う世界の記憶を持って。別世界の私は狼を模した仮面を被り、その身に金色に輝く鎧を纏った騎士と共に空を、陸を駆け、架空の物語に出てきそうなおどろおどろしい見た目をした得体の知れない化物達を薙ぎ倒している。
私の背に乗り、身の丈以上の両刃の大剣を軽々と振り回して化物を薙ぎ倒すその騎士は、金色に輝く鎧から由来が来ているのかは不明だが騎士の仲間からは
別世界の私も黄金騎士と同じ金色に輝く鎧をその身に纏い、黄金騎士と共に幾度となく戦場を駆け抜ける四足歩行の生き物。その生き物に付けられた名称なのは分からないが、今この世界に居る
───私の名はゴウテン。魔戒騎士の一人、
»»»»»»»»»»
トレセン学園、正式名称は日本ウマ娘トレーニングセンター学園。
そんな学園の一員にとあるウマ娘が居た。夏だろうが冬だろうがお構い無しに一年中白いコートを羽織っており、髑髏を模した小さな耳飾りと金色の二房の流星がトレードマークのウマ娘。
学園指定の制服の上に白いコートという見た目の彼女は否応なしに目立つ為、彼女は色々な意味で一目置かれている。そんな目線は全く気にしない、といった様子の彼女に声を掛ける者が居た。
「やぁ、ゴウテン。君のその姿は遠目から見ても目立つね。毎度毎度思うのだけど……制服の上にコートは、些か暑くないのかい?」
「……ルドルフ会長。えぇ、心頭滅却すればなんとやら、です。それに、私にとって大事な物であるコレを手放す事など毛頭、考えられませんから」
「ルドルフで良いさ、君と私の仲だろう? まぁでも、君らしい返答だね」
「……そうね。貴女が生徒会長に就任して以来話す機会が滅多に無いものだから、つい」
トレセン学園現会長にして無敗の三冠バことシンボリルドルフ。彼女にゴウテンと呼ばれた白いコートを羽織るウマ娘は表情一つ変える事無く振り返り、返答する。
いつも通り、といった様子の彼女に対してシンボリルドルフもまた、いつも浮かべている厳格な表情を崩して笑みを浮かべていた。ルドルフにとってゴウテンは生徒会の業務を忘れて気兼ねなく話す事の出来る友人の一人なのだ。
そして、ルドルフはゴウテンの数少ない友人であり、彼女が持つ秘密であり弱点を知る数少ない人物でもある。
「それにしても……だ。未だにトレーナーを付ける気持ちは無いのかな、ゴウテン。君のその脚なら……いや、君の持つ
「えぇ、家の掟を破る訳にはいかないから。それに、
「……ふふ。やはり手厳しいな、ゴウテンは。確かに私とて無敗で三冠、尚且つその先の七冠を手にするのは容易では無かったよ。海外のターフは日本のターフと違う為に熾烈を極めたし、何より君を含め、私と同期のウマ娘達にいつ追い抜かされるか分かったものじゃないからね」
「私は兎も角、貴女の同期……マルゼン、シリウス、シービー、他にも貴女と同じ高みかそれより先の景色を目指しているウマ娘は沢山居る。追い抜かされないよう頑張って。一応、応援はしてるから」
「勿論だとも。途方もない苦労の果てに手にした皇帝の座は……まだ誰にも渡さないつもりだからね」
そう言い、微笑みを浮かべるルドルフ。対するゴウテンはあまり表情を崩す事なく返答を返す。彼女の数少ない友人であるルドルフでさえもゴウテンの笑顔などを見た事が無い。
ゴウテンは『
それから、他愛もない世間話をした後の事。休憩もそこそこに生徒会の仕事へと戻っていくルドルフを見送ったゴウテンは自主トレーニングに向かう。更衣室にてジャージへと着替えたが、流石にジャージの上にも白いコートを羽織る訳にも行かず、シワひとつ付かないよう丁寧にロッカーの中に仕舞った上でトレーニング用のレーストラックに出る。
タイム計測用のストップウオッチを片手にもう一つのストップウオッチを首に提げ、自身のタイミングでターフを蹴る。一定の呼吸と共にペースを上げていき、第一カーブを曲がっていく。
(……まだ、いける。まだ走れる)
首に提げているストップウオッチが着々と進んでいくのを他所目に、一定のペースを保ちつつ最終コーナーを曲がる。そうして、最後の直線に入ると同時にストップウオッチから鋭い音が鳴り響く。
その音を聞いた直後、ラストスパートに入るべくピッチを上げる。そしてそのままの勢いのままゴールを切った。その直後、それを見越していたかのように極端にスピードが落ちていく。首に提げていたストップウオッチを見遣れば、ストップウオッチの秒数は
そうやって何本も走り込むが、いつも決まって
これが、誰よりも速さを追い求めるウマ娘という種族に生まれ落ちていながら制限時間という宿命を背負ったゴウテンの弱点。彼女が短距離、マイル以上の距離を走り切れない唯一の原因だった。
「やっぱり、この秒数だけは越えられない……か」
強く噛み締めた奥歯がキリキリと痛むのを我慢しつつ、ゴウテンは走り込みを終える。空を見上げれば日も落ち始めていた。門限が近いからもう帰らないと、と足早に更衣室へ向かっていく。
彼女の同期達の中には既にデビューを果たし、輝ける栄光を手にした者も居る。七冠を手にした皇帝シンボリルドルフがその一例だ。だが、シンボリルドルフの同期の中でゴウテンだけは
それには彼女が抱える弱点もそうだが、彼女というウマ娘を出自した家の掟も影響を及ぼしている。それ故に彼女の力強い走りに見惚れたトレーナーが我先にとスカウトしにやって来るものの、彼女は家の掟を理由に断り続けている。
そうして、そんな事を続けていた彼女は遂に誰からもスカウトされる事も無くなり、いつしかデビュー戦すら経験しないまま学園に在住し続けていた。一応、学業成績は一定の成績を修めており、模擬レースの方も中距離以上の距離であれば黒星も少ない為、辛うじて退学は免れている。
(……私だって、ルドルフと同じ景色を走りたい)
そう思ってはすぐに邪念を振り払うように頭を振り、何時だって変わり映えのしない灰色の景色を横目に
然し、その願いも虚しく叶わず仕舞いのまま。自分の手が届かない夢を追い続け、来る日も来る日も自分を追い込むように自主トレーニングに励み続けている。
───何時しか、別世界の自分と共に翔ける騎士と同じ二つ名を得る為に彼女は走り続ける。その夢が叶うのは、果たして。
好評だったら続く……かも?