長きに渡る仕事の末、なんとか揚げきったかき揚げ。あ、書き上げたや間違えた。
次から原作入りますのでお待ちください。
どうぞおまたせ致しました。今年も一年宜しくお願いします。
ーーーむか〜しむかし、ある所に勇者がいました。
勇者は王様に選ばれた勇気ある少女で、人々を恐怖させる魔王を倒す為に一人旅をしています。
ーーー旅を始めてから何年も過ぎた頃、ついに。長きに渡る旅の末、勇者はついに魔王が居る城に辿り着きました。
「やっとここまで辿り着いたぞ、魔王!!さぁ、皆を怖がらせるのはやめるんだ!!」
ーーー勇者は高らかに叫びます。旅の道中、幾多の人々を見てきた勇者の心には、必ずやめさせるという決意が強くかためられています。
「━━━━━ふはははっ、何を言うかと思えば。最初に私に恐怖して怖がったのは貴様ら人間の方だろ?私はその通りにしたまでよ!!」
「だからって嫌がらせするのは違う!!ちゃんと話し合えばきっと分かり合える!!」
「分かりあった所でどうなる?人間達には無いこの力がある故に私は貴様らから怖がられ嫌われたのだ。話し合った所で、私を嫌う心は変わらない!!」
勇者は叫びます。しかし、その言葉は魔王には届かない。
それもそうでしょう。人々に嫌われてしまった魔王には、言葉だけでは信用を得られない。もっと何か、力強い何かが必要なのです。
「変わらない!!私は、貴方のことを嫌う事なんてない!!」
「そんな言葉信用出来るか!!貴様ら人間の言葉等、ゴミ箱にでも捨ててやるわ!!
ーーー魔王はバッ、とマントを翻して後ろを振り向きます。つられて勇者もそちらを見ました。
窓際、外の光を背景に背が高くガタイのいい人が立っていました。
「紹介しよう!!私の右腕にして私の伴侶となる為にわざわざ辺境の地からやってきて私に実力を示すと言って私を負かし魔王城を乗っ取るかと思えば私の右腕になってくれると言ってくれてそこから2人で城に暮らす内に私の心の拠り所となっていつしか私の想い人に変わり私の為に人生を上げると言ってくれた心優しくて強く凛々しく逞しく私の最強のペラペラペラペラ━━━━━」
ーーー……あ、えっと、ちょっと待ってくださいね。
「……お、お姉ちゃんそんなセリフ用意してないんだけど……」
「……あー、これはアレね。愛しい人を思うからこそ出る愛の告白ね。でも風先輩、場所はもうちょっと………」
「……誰か台本と違う事指摘して欲しいんだけど?俺この後魔王が言ったこと復唱するんだよ?こんな長文覚えらんないんだけど?」
ーーー……えーと、じょ、饒舌に話す魔王に勇者は思わず後退ります。魔王の言葉に、勇者が恐怖してしまったからです。
「ちょ、美森ちゃん?そういうフォローいらないから!風ちゃんのこと止めてくれ!」
ーーー言葉から伝わってくる強さに、思わず。思わず勇者は恐れおののいてしまいました。
「そ、え?そのまま行く?!全然聞いてないから分かんないって!感想文軽く2枚ぐらいある長文を完コピして言うなんて無理だって!」
「━━━━━って言ってくれた私の私だけの右腕を倒してから言うのね!!」
ーーー光の中からやってきたのは、大きな大きな身体を持った大男でした。
「さっきの復唱?いや無理無理……どっから引用してきたんだよそんな長文怪文書は」
「あ、わ、我こそは……、えーと、ま、魔王様に忠誠を誓った右腕だァー」
ででんっ。
ーーー魔王の隣に立つ大男は言います。大切な魔王様を倒したければまずは私を倒していけと。
その言葉に勇者と魔王は顔色を変えます。
「そ、そんなっ……。私は話し合いをしたいだけなのに………」
「そ、そんなに思っていてくれたなんて………」
「完全にセリフ違うんだけど。美森ちゃんもヤケクソに変えてるし。……あぁもう収集つかねぇなおいぃ」
「……いいや俺もヤケクソだ。うぉー、魔王様の為に戦うぞー(棒)」
ーーー大男が魔王の為に戦いを挑みます。心ときめかせた魔王は大男を信じて送り出します。
勇者は剣を握り、覚悟を決めました。
「……本当は嫌だけど、分かってくれないなら…………分かってくれるまで何度でも「ゴンッ」……あえぇ?」
鈍い音と共に今まで直立していた人形サイズの舞台が倒れる。少しホコリが舞うと舞台の後ろにいた役者達が露わになる。
共に金髪の男女に赤毛の少女。少女達の右手にはそれぞれパペットが嵌められており、露わになった後、パクパクとパペットの口を数回パクパクさせた。
「━━━━━あ………え………っと……」
暫しの沈黙。舞台前に座っていた子供達と目が合う最中、いの一番にあたふたし始めたのは赤毛の少女、結城友奈。
普段から行動力ある動きを見せる友奈は、この場でもその能力を発揮する。数秒有した後、友奈は直感で行動に出たのだった。
「━━━━━ゆ、勇者パンチッ!!」
結果として出たのは渾身の
ノールックからのノーガードからの不意打ち。闇討ち、辻斬りと比喩されるであろう行動をとった友奈は、拳を土手っ腹に突っ込んだ後数秒を空けた時に自分がしてしまった事を知るのだった。
「━━━━━ごはぁっ!?……み、ぞ………おち………っ」
被害者は丁度対面していた男、高松宮誠二。誠二の鳩尾にパペットごと拳を叩き込んでおり、女子中学生と男子高校生という体格の差を感じさせない見事までのストレートパンチが突き刺さり、誠二を一発クリティカルKOしてしまった。
誠二が倒れ込むと同時に友奈は己がしでかした事に気が付き、急いで誠二の隣にいたもう一人を見つめるのだった。
「━━━━━……は……は……」
最初は驚愕だった。それが一気に真っ青になって恐怖し、次第に目尻に涙を蓄え始めわなわなと震え出す。
金髪の少女、犬吠埼風。今の一瞬の光景に自分の死期を悟った女である。
再び静寂、かと思えばそんな事は無く。震えていた風がうぎゃーっと友奈に飛びかかったのだ。
「あっ、あんた何やってんのよ!?何今の右ストレートは!?物理で本体に叩き込めなんてシナリオにないでしょ!?」
「ふぇえええ!?!?ととととっさだったんですぅ!!つい手が出てしまったと言うかなんと言うか……」
「だからって全力で叩き込むぅふつう!?さっきまで話し合いで解決しよとか言ってた相手がいきなり武力行使とか鬼よ!!魔王よ!!私よりも魔王よあんた!!」
「ひぇええええ!?ぇぇぇぇぇぇっとっ、ゆゆゆゆ勇者キークッ!!」
「いだぁあああああい!?!?」
責め続けられる友奈、万尾獅子て再び武力行使。今度は本体ではなく魔王のパペットに。しかしパペットの下は右手があるので、キックと称されたパンチもほぼ100%の威力で飛んでくるわけで。
容赦なくパペットと風の右手に強烈な一撃を与えた。
「だから暴力で解決すんなぁ!!??しかも今のキックじゃなくてどう見てもパンチでしょうが!!」
「お願い皆力を貸して!!皆の応援で私に勇気と力を!!」
「話を聞けぇ!?」
━━━━━み、みんな〜。一緒に勇者を応援しよう!!皆の応援が勇者を強くするよ!!一緒に魔王を倒そう!!
━━━━━ガンバレガンバレ勇者♪♪
『ガンバレガンバレ勇者♪♪』
「うぉおお!!力が湧いてくるぞ!!さぁトドメだ喰らえぇ!!」
「だから暴力ふるあだぁっ!?ぐへぇっ!?」
魔王の鳩尾を、ついでに風のお腹にも叩き込んで完全にノックアウト。魔王改めて風は身動きすること無く倒れるのだった。
友奈はパペットを高らかに天井向かって掲げ、誇らしげに胸を張った。
「皆のお陰だよ!!ありがとう!!」
━━━━━………え……と、ゆ、勇者は遂に魔王を説得?懲らしめ?て人々への嫌がらせをやめさせたのでした。
巻き起こる喝采。パチパチパチと疎らだが気持ちが伝わる拍手。
賞賛を受ける友奈は笑顔でありがとうと愛想を振りまく。
その下、視線に入らない隅の方。微動だにしない人型の塊が2つ、風化していくのを誰にも見届けられないまま忘れ去られていくのだった。
「……東郷先輩、これは……」
「言わないで樹ちゃん。これが世の中の世知辛い風潮よ」
「………BGM流さなくて良かったぁ」
ボタン1つで更に修羅場と化せる事情を見た樹は、しなくてもいいことだってあるのだという教えを自ら導き出したのであった。
樹はまた1つ、大人になった。
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早い様で皐月の4月。桜満開のこの時期は出会いの時期揶揄される事が多い。
新学期、新学年、新社会人。頭に新と付けば大抵4月に多そうなイメージがある程の印象を持つこの時期は、例外なく出会いをくれる。
ここ、讃州中学校でもその括りに収まっていた。学年が上がり新入生が入学。香川県は小学校の時から制服姿で登校することが決まっている学校が多い為か、讃州中学校の門を潜る新入生達はそつなく制服を着こなしていた。
煌びやかな新品の制服に袖を通し通学する生徒達の心の中には、どんな出会いがあるのかという期待と不安でいっぱいなのだろう。
この少女、犬吠埼樹もその中に入る。
金髪という悪目立ちしそうである髪色。ショートボブという小柄な彼女に似合う髪型を念入りにチェックし、時折手に持つ手鏡で癖毛や寝癖が無いか確認する。
何度も何度も確認する姿は微笑ましく思えるが、彼女の表情にはあまりに余裕が無い様に見える。
どういう風に見えるかと言われれば、緊張して表情が固いと言えるだろうか。何度も胸に手を置いて緊張を解している様ではあるし、眉毛を釣り上げ気合を入れてもすぐに自信が無い表情になる。
一体彼女には何があるのか。道行く人は深くは考えないが、少し心に残るぐらいの印象はある。
そして樹は、ピタリと足を止めた。視線の先にある光景に目を奪われたからだ。
「━━━━━おう、樹。おはようさん」
樹と同じ金髪で、樹よりも何十センチと背が高く、運動をしている故にガタイのいい体格。緩く手を振り、無愛想に笑うが樹にはそれがとても心地よくて仕方ない。
無き父親を思い出すその表情に、思わず涙が零れそうになる。
しかし樹は成長している。グッと涙を堪え、不安を振り払って彼の元にかけていく。
「━━━━━おはようっ、お兄ちゃん」
血の繋がりは無い。戸籍上本当の兄妹では無い。だが樹は彼の事を、高松宮誠二の事を兄と慕う。
誠二もまた樹の挨拶に口元を少しだけ緩ませると、右手を樹に差し出した。
樹は戸惑いながらもその手を握り、誠二の方に体を寄せる。
今日は冷えると言い訳をしながらも、誠二の体温を感じたいという乙女な行動に、言わずとも誠二は理解したか、指を絡めるように手を握る。所謂恋人繋ぎと言うやつだ。樹は赤面し恥ずかしがりながらも、それを受け入れて歩き出す。
会話は無くてもいい。だけどこの時間は誠二の事を感じていたいという樹の思い。誠二もまた新しい樹を見れた事で満足している様子。
中学校と高校は離れている為途中までしか一緒に歩けないが、それまではと。樹は誠二の恋人のように睦まじく隣を歩くのだった。
「━━━━━ハイカットカット。一旦終了」
パンパンパンパンと手を叩いて現実に引き戻される。これが
ジト目で手を叩いた人物を見る。そこにはサングラスとスカーフを装備した樹の姉、犬吠埼風が立っていた。後ろには車椅子に座る東郷美森とそれを押す結城友奈の姿が。
「……えー、も〜ちょっとー」
「だーめ。時間が押してるんだからスピーディーに。ほら、次行くわよ」
現在彼女ら、勇者部は依頼された
内容としては中学生になった少女が、昔から焦がれていた先輩と過ごす学校生活を描いたラブコメがコンセプト。少女漫画雑誌に掲載する読み切りだそうだが、依頼者曰く経験が浅い為現役の子達でイメージを膨らませたいとの事。
幾つかシチュエーションを制作し、誠二を先輩役、樹を主人公に置き、様々なアングルからの撮影と実際キャラクターに準えてセリフを言うのだが。
「樹意外とこういうの似合うわね。演劇センスもある私の妹だからかしら?」
「お姉ちゃんにそんなセンスあったなんて知らなかったよ……。どうですか?ちゃんと取れてますか?」
「大丈夫よ樹ちゃん。バッチリ収めたわ。でもそうね、風先輩の言うように樹ちゃんの演技は目を張るものがあるわ。きっと才能なのね」
「確かに表情とかもすっごく良かったよね!……あとは、こ、声とか?」
「考えつかんのなら前者だけでいいっつーの。おバカさんだな友奈ちゃんは」
ふふんと自慢げに胸を張る風に苦笑いしつつ、録画した映像を確認。全員が言うように確かに樹の演技には魅了されるものがある。表情だけでなく、実際の仕草や行動も的を得ているし、それを見ていて主人公の気持ちに入り込むことが出来る。
様々な賞賛に樹はニマニマと口元を緩ませ、如何にも照れている様子。一番年下という事もあって、樹は勇者部の中で一番可愛がられているのだ。
「お、お兄ちゃんの演技も良かったよ。……その、かっこよかった」
「そうか?こういうのやるの初めてだから分かんないんだが……。まあありがとな。樹に褒められると嬉しくなる」
わしゃわしゃと少し強めに頭を撫でられる樹は、髪型が少し崩れようともあまり気にしない様子。誠二の演技は可もなく不可もなくといった感じだが、樹にとっては中々に焦がれるシチュであり、それを自然体でやってくれている事もあって樹の中の興奮は冷めやまない。バイブスうなぎ登り状態である。
しかしそれをよく思わない人物が一名、樹の姉の存在である。
素直に妹が褒められて嬉しいのだが、樹と誠二がイチャイチャしているのは癪に障る。どっちに嫉妬しているのかと言うよりか、その光景を見ているのが嫌なだけなようだが。
「イチャイチャすんな。帰ってからやれ」
「その通りです。坊っちゃま、次は私とイチャイチャしましょうね」
ジト目の風の隣に現れたもう1人のジト目遣い。いきなり隣に現れた事で風は思わず飛び退くが、それが知り合いとわかるや否安堵する。
風はホラー全般が大の苦手である為、いきなり脅かされるのは嫌なのだ。
「おはようございます、勇者部の皆様。車の手配が出来ておりますので、どうぞお乗り下さい」
「おはようございます、遥さん。いつもお世話になっております」
「おっはようございまーす」
「おはようございます!」
「おはようございます、遥さん」
自然体で佇むのは高松宮家の使用人、満井遥である。錦模様があしらわれた黒い着物を身に纏う和服美人。艶やかな黒い髪と相まって立ち振る舞いが煌びやかに見える。
朝から撮影をするという事で誠二が遥に頼んで車を用意してもらっていたのだった。遥の後ろには黒塗りの如何にも高そうなセ○ン型の車がいつの間にか鎮座している。
「……相変わらず高そうな車ね」
「ふふふっ、坊っちゃまの所有物ですので半端なものは御用意しておりませんからね」
「……過保護も相変わらずなんですね」
「これ俺が親離れしてないって見られる恥ずい奴じゃん」
名義は違えど家の主である誠二に所有権があるので、過保護な遥を始め、他の2人もこのような感じで金に物を言わせている部分がある。
やれやれと言った表情を浮かべる誠二は、車の扉を開けて風達を車内に入るよう催促する。美森の乗る車椅子はトランクに収納し、そこからは誠二が抱き上げて座席に座らせる。
「いつもありがとうございます
「気にすんな。鞄持つみてぇに簡単だから。寧ろ軽過ぎて心配になるぐらいだ」
「あら……、じゃあまた今度、一緒にぼた餅でも如何ですか?」
「ぼた餅食って体重増やそうって?駄目駄目、俺が美嘉に怒られる」
「……むぅ、そういう事じゃ無いですのに」
「早く中に入れ。置いてくわよ」
何やら誠二に鋭い視線が複数。なんでそんな視線を向けられるのか不思議に思いながら座席に座る。場所は風と樹の間。風は恥ずかしそうにしている一方、樹はニコニコと楽しそうに座っている。
撮影場所に選んだ位置は三架橋である為、ほんの10分足らずで向かうことが出来るが、朝の朝礼まで既に10分切っているので車移動でないと間に合わない。誠二の高校はまだ少し余裕があるので先に勇者部を送り届けなくてはならない。
讃州市を始め、四国の車線は狭い印象がある。車が希少価値の高いものであるため交通量はさほど多くは無いが、小回りの効く車でないと細い道の多い住宅街だと回りきれない事が多い。
駅前はそうでは無いが、神世紀に入ってから街の整備というのは旧暦時代よりも落ち込んだという。限られた資材もそうだが、暗に人材不足とも言える。神樹様の力が無ければ賄えない程に、この世界は衰退の一歩を辿っていた。
真実を知らない一般人からすれば、結界の外に充満するウイルスのせいであると、自分達は悪くないと声を上げるだろう。
確かに一般人からすればその通りなのだ。誰が悪いかなんて誰も分からないし、真実を知ったところでだからどうなるのだということだ。
無知であることは恥である。だが同時に、無知である事ほど身を守れる時は無い。
車に揺られ数分、未だ登校中の生徒を抜き切って校門前に停車。誠二が美森を抱き上げ、友奈が車椅子をトランクが出して組み立てる。
誠二と言う年上の男性が同級生、校内でも美人で人気と名高い美森を抱き上げている姿は、思春期の中学生には刺激が強いモノの様で、足を止めて熱を帯びた視線を2人に向けている。誠二はそんな視線に一切気付いていないが、美森は車で登校する度この視線を向けられるので、恥ずかしさと幸福感、少し愉悦感が混じった気分になっている。
「……じゃあ放課後、こっち来なさいよ。移動する場合は連絡入れるから」
「おうさ。また後で。……なんか怒ってる?」
「うっさいばか。……人の気も知らないで」
「お兄ちゃんっ、また後でね」
「金ちゃんバイバイ!」
「ありがとうございました。遥さんもお気を付けて」
感情の起伏が激しい4人を見送る誠二は、なんだったのかと車内に戻る。
助っ席に座り、ふと目を瞑る。そんなにここから高校までの距離は無いが、少し気疲れしたのもあって軽く寝ようかなと考えての行動。
しかし一向に車が動かない事に不思議に思って運転席に座る遥を一瞥した。
「……どったん?」
「……坊っちゃま」
何やら深刻そうな表情を浮かべる遥。そんな表情をされれば、誠二も気にならないわけが無い。
「……え?マジでどうした?」
「……1つ、お願いが御座います」
真剣そのもの、と言った感じで誠二を見つめる。強い意志が込められた可愛らしい瞳は、揺れることなく誠二を写している。
思わず誠二はなんでも言ってみろ、と口から零れそうになった。反射的に堪えたことでなんとか抑えられたが、ポロッと言ってしまったらどうなっていたかなんて、誠二にしては想像しやすい結末で。
「……後で、私にもお姫様抱っこ、してくださいっ!!」
「よし出発してくれ」
「なんでですか!?中学生に出来て私に出来ないなんて可笑しいですよ!!」
「あー五月蝿い。早く学校遅れる」
「酷いっ。私はこんなにも坊っちゃまの事を愛しているのに」
「あー俺も愛してるよー。だから早く、ほら」
「いーやーっ、坊っちゃまがいいよって言うまで出発しません!!」
「はぁ?何言ってんのお前?」
「坊っちゃまがお姫様抱っこして私に言葉責めして坊っちゃまの声だけで絶頂出来ちゃうように調教するって言うまでてこでも動きません!!」
「本当に何を言ってんのっ!?」
なんと言う我儘。乙女としては強者だが従者としては弱者であった。後半は本当に何を言っているのか分からなかったが。
目尻に涙を浮かばせている遥に、思わずマジかと言ってしまいそうになった誠二。女性の涙を見て謎の罪悪感が誠二を襲う。女性経験が薄い誠二にとって、女性の涙程効果的なものは無い。
度々こういう我儘がある所はあったが、仕事ほっぽり出して我儘になるとは思わなかった。
誠二には分からないが、さっき美森を抱き上げていた時熱い視線を送っていたのは中学生だけでは無いということだ。
構え構えとじゃれつく普段の遥もいつも妥協して、割り切って渋々我儘を叶えていたが、今回は前例が通用しない。運転席に座って運転しませんなんて言う迷惑極まりない運転手を納得させるにはやるしかない。それしか無いのだ。
「……分かった、分かったから。家帰ったら好きなだけやってやるから、向かってくれ」
「じゃあお姫様抱っこしながらべろちゅーと婚約宣言からのベッドINまでお願いしますね」
「お前は何を言ってるんだ……っ!?」
「部屋としては坊っちゃまの部屋でお願いしますね。坊っちゃまの匂いに包まれながらって、多分私もう普通に戻れない自信があります」
「既にお前は普通から逸脱してるよ」
「あ、次いでにあの2人も一緒にします?私としては日頃の感謝を込めて皆で愛されたいなって」
「いい加減にしろっ、今この場で瑞稀を呼ぶぞっ!?」
そこから了承してもらうまで幾つもの要望を聞く羽目になったのだった。
誠二のプライドはズタボロになった。
やっべ性癖がバレる