主人公君の過去に触れます。
脳裏に浮かぶ最愛の人の悲痛な姿に心打たれるのは、慣れるものではないなとしみじみ思う。何度それが起きようと、すり減らされる心と身体に寄り添う事すら、あの時の私達には出来なかったから。
私、卯ノ花瑞稀は坊っちゃま、
まあ最も、この肩書きは最早必要無いのかもしれない。坊っちゃまが高松宮家から離縁となった今、私を含め3人の側仕えは坊っちゃま専属の使用人の為、坊っちゃまと共に高松宮家から離れたので名乗る必要も無い。
今思うだけでも忌々しい。あのクソ豚共が坊っちゃまに楯突くとは。高松宮家は最早終わったと同然だろう。
坊っちゃまのお父上、御当主様の血縁者だからといって正統後継者で在られる坊っちゃまを独断で離縁など出来るはずが無い。
分家の方から話を聞いた所、どうやら坊っちゃまの療養と称して本家から離しただとか。結局それに誰も口出し出来るはずもなく、坊っちゃまの心身が回復するまでの間、臨時当主として君臨すると文面上はなっているらしい。
巫山戯ている。一体誰がそんな書類を通したのだ。誰一人としてその書類にサインする人間等居ないはずなのに。既に手回しはしているのだろう。本家にも今の地位に満足していない者も数多く存在していた。
不正かどうか確認しようにも、あれは間違いなく御当主様のサイン。御当主様がそんな書類にサイン等するはずが無いと思いつつも、それを証明する手立ては無い為事態はそのまま流れている。
腹立たしい。なんと腹立たしい事か。御当主様が、これまでの高松宮家が築き上げてきた長い歴史に泥を塗る行為だ。今すぐあの醜い腹部を削ぎ落とし、食肉にも成れないクソ豚の自覚を脳髄の奥まで叩き込んでやりたい。
私達にも坊っちゃまから離れて本家に残れという声はあった。不愉快だ。どうして私達が坊っちゃまから離れなければならないのか。
本家に残った後は決まっている。あの男は女癖が悪いと有名で、多くの使用人と体の関係にあるという。私達にもその毒牙が向いていたのだろう。私達の身体は体の芯まで
その時は丁寧に、懇切丁寧に断らせてもらった。もう二度と顔を見たくない。あの時はどうしても坊っちゃまの傍に長く居たかったのだから仕方が無い。
少し坊っちゃまの話をしましょう。
私の口から言うのもなんですが、坊っちゃまは容姿端麗文武両道、まさに高松宮家に相応しい方であります。幼少期から
坊っちゃまは髪のケアが何よりの楽しみでありました。敬愛する御母上様譲りの透き通った金色の髪は、女である私から見てもきめ細やかな、それでいて存在感のある素晴らしい物だと言えるでしょう。
出会った当初、私に髪のケアの方法を懇願し、髪の毛を大切にされる姿を見てどれだけ胸打たれた事か。
髪の長さはあまり拘らない様で基本短髪で過ごすのですが、髪の毛を切るタイミングがあり、金曜日のその日自分の金運が良く太陽が眩しい晴天の日でないと髪の毛をお切りならないのです。かなり条件が絞られますが、それ程までに髪の毛に執着されているのです。
内緒話ですが、お切りになった髪の毛は束ねて保管しているのですが、美嘉さんがそれを持ち出しておりまして。一体何に使っているか、気になりますが彼女の名誉の為に知らないフリをしていた方が良いですわね。
高松宮家は古くから四国。旧暦の時代、四国がまだ日本という島国の一つであった時から日本の顔として存在していた御家であり、今は大赦に殆どの権威を譲っていますが、今でもこの家の声は強いと言えるでしょう。
極秘ですのであまり公言されないで頂けると有難いのですが、四国は神樹様という神様の集合体が結界を作って護っており、結界の外には人類に仇なす神の下僕が蔓延っているのだとか。私も実際に見た事は無いのですが、世間一般的には未知のウイルスが蔓延っていると情報統制されており、これを公言したとなれば存在が消されてしまうので御身の為にあまり口にされない方が宜しいかと。
そんな現状を打開すべく、旧暦時代に選ばれた勇者という存在。それを何代も何代も選出して少しずつ敵を殲滅しているのだとか。
決まった周期でやってくる勇者の務め、所謂御役目という話は坊っちゃまが本家にいらっしゃる時に舞い降りました。
古くから四国に存在している御家という事で、今回勇者に選ばれた方達が御挨拶に見えたのですが。
その、あまりにも幼過ぎて、本当に大丈夫なのかと正直思ってしまいました。
現に、まだ小学生という年齢。はっきり言って巫山戯ているのかと大赦に苦言を呈しました。御当主様も、坊っちゃまも。紹介された誰もが大赦に苦言を述べたのです。
しかしそれは無駄な事だったようで。選ばれた少女達は戻れぬ所まで引き上げられているのだとか。神樹様に選ばれた者が辞退するなど言語道断と大赦の方から一喝され、当時なんとも言えない空気が流れていました。
そんなギクシャクした出会いでしたが、少女達と坊っちゃまは直ぐに打ち解け、休日もよく共にする程には仲を深めていらっしゃいました。
中には、坊っちゃまの許嫁である
御役目が本格的に始まり、彼女達との関わりも段々と減っていく一方で、彼女達の身体に増えていく生傷に坊っちゃまはいつも苦虫を噛み潰したように歯を食いしばっておりました。
その時からでしょうか。坊っちゃまが
大赦という存在は、そもそも四国全土を統治出来るほどの組織ではありませんでした。
元々は五穀浄土を生業とする第一次産業の中核を担う組織でありました。しかし世界が滅んでいく中で、神の声を聞くことが出来た大赦はその力を使い四国に結界を神様と協力して貼り、よいしょよいしょされる形で四国を統治する組織になってしまったのです。当時あった内閣や国組織はほぼほぼ解体。後に残ったのは、大赦と国の顔である高松宮家のみ。高松宮家にも分家はいくつか存在しますが、そこまで発言権はありません。坊っちゃまの新居を作ってくださったのもこの一分家の方々で、この時から動き出していた坊っちゃまの姿に感銘を受けて今も尚御支援下さる方々であります。
話を戻しますが、そんな大役を担う大赦には、当然見過ごせない穴があります。
それは圧倒的人材不足。これを解決せずに、四国全土を統治するなど無理な話でしょう。
旧暦の大赦を私は知りませんが、今程自身の地位に胡座をかいている組織では無いはずです。肩書きは立派でも、その権力と実績には間違いなく見合わない方々が数多く。
勇者の少女達を管理する方々も多くのものがそれらに該当されており、正直杜撰な状況でよくもまあ命のやり取りをする少女達を管理しているものだとしみじみ思います。
特に、坊っちゃまはそんな大赦に怒りを抱いておりました。
坊っちゃまは御当主様に直談判し、大赦が受け持つ事業の幾つかを高松宮家で賄おうと進言されました。
最初は御当主様も困惑されていらっしゃいましたが、坊っちゃまや傷ついていく少女達の姿、大赦の今ある組織としての腐敗等を考え、坊っちゃまの提案に賛同され、大赦の方に話を持ち込むようになりました。
渋々といった感じで大赦は御当主様の提案を少しずつのんでいくのですが。
忘れもしない。ここで起きてはならない
全ては順調に進んでいました。もう少し、もう少しだった。
寧ろ遅すぎたのではと思ってしまった。確かに、坊っちゃま方が行われた行動は既に遅かった。
当時はだいぶ坊っちゃまは荒れました。当然です。昨日まで、さっきまで笑いあっていた友達が、思い出が一瞬にして亡くなったのですから。
その話を耳にしてから数日は、食事も手を付けずずっと部屋に篭ったきり。私達の声も届かぬまま、葬儀の日取りは淡々と進み、そして葬儀の当日。
葬儀に参加する為に部屋を出た坊っちゃまの憐れな姿に、思わず涙を流してしまいました。痛々しく、そして弱々しい。数日前までの逞しい存在を放っていたお姿は見るも無惨な姿に。
会場で数日ぶりに残った勇者の少女達と顔を合わせました。
我慢していたのでしょう。坊っちゃまを見た瞬間、涙を流しながら謝罪を口にした少女達。そんな少女達を、坊っちゃまは何も言わず、ギュッと抱き締め静かに涙を流しておりました。
しかし、ふとそれも消え去りました。坊っちゃまの前から少女達の姿が消えたのです。
聞かされてはいましたが、見ると聞くのとではやはり違う。お役目を果たすべく、少女達は消えた一瞬で敵と戦っていたのです。
虚空を掴まされた坊っちゃまは、自分の胸の中にいた少女達が居なくなった事に驚き、何度も何度も掌を開いては閉じを繰り返していました。
━━━━━なんで、なんで俺の手元には何も残らねぇんだよ………っ!!
痛ましく叫ぶ坊っちゃまは泣き崩れ、その場に偶出くわした亡くなられた少女の御家族、少女の弟君と抱きしめ合いながら涙を流していました。
私には、私達には何をすることも出来ませんでした。支える事も、慰める事も、私達には力不足。坊っちゃまのそばに居ながら、坊っちゃまに声をかけてあげることすら出来なかった。
どんな顔をして、これから坊っちゃまと過ごせばいいのか、分からなくなってしまいました。
それから幾分か日が経ち、坊っちゃまの精神も段々と回復してきた頃。
それまで減っていた少女達との交流を再び元に戻すという流れになり、坊っちゃまは毎日のように少女達と時間を過ごしていました。
夏祭りに出向き、御家に招待し、私達も巻き込んで様々な場所に足を運びました。
楽しかった。ええ、一緒に過ごせる時間は私達にとってもとても有意義な時間でありました。坊っちゃまが仰るように、こんな時間がずっと続けば良いのにと思える程に。
しかし、そんな時間もつかの間。
再び悲劇は起こることになりました。
坊っちゃまの前から忽然と姿を消した少女達の無事を願いつつ、一度家に戻った坊っちゃまを待っていたのは、私達でも耳を塞ぎたくなるような悲報。
━━━━━勇者の安否不明。行方不明という形で処理。
━━━━━御当主様並び、奥方様の安否不明。生存は望み薄。
思わず崩れ落ちました。状況が理解出来ませんでした。その報告を聞いた誰もが上手く理解出来ず、困惑した空気になります。
少女達の安否不明はまだ何となく理解出来る。しかし行方不明という形になるのは早すぎる。経ってまだ時間は差程変わっておらず、明らかに何かを隠していると私は考えた。しかし坊っちゃまには今正常な判断が出来るほど心に余裕がない。
御当主様、御母上様の安否不明。坊っちゃまの心に刺さっているのはまさにこれでしょう。意味が分からなかった。どうして同時にそんな事が起こってしまうのか。
理由は
では何故御当主様方は大橋にいたのか。
………私が口にするのもはばかれますが、その日大橋で大赦の役員と新しい組織運営の環境視察を行っていたのです。新しい組織とはその……、坊っちゃまが進言された大赦の事業の幾つかを受け持つという話の件です。
坊っちゃまはご自分を責めました。自分のせいだ、自分が言ったからこんな事になったと。
少女が亡くなられてからというもの、坊っちゃまの心はだいぶ脆くなってしまい、これには打ちひしがれるのみ。
生きた抜け殻と表現出来てしまうほどのお姿になられてしまいました。
高松宮家御当主様方の葬儀が進み、大赦が大橋崩落で亡くなられた方々の葬儀を別で行うという事で坊っちゃまもそれに参加。
その時大声をあげて泣きじゃくる2人の
調べると、どうやら御当主様の視察に付き添った大赦の方の娘様方の様で、ご両親共々崩落に巻き込まれたのだとか。
坊っちゃまは2人の姿を見て呟きます。俺の被害者だ、俺が全ての元凶だ、と。
無論私達は否定しました。誰もこんな事起こるなんて分かるわけがなかった。坊っちゃまのせいではない。私達は何度も何度も坊っちゃまにそう申しましたが、坊っちゃまは違う違うと否定され、私達の説得は坊っちゃまに届く事がありませんでした。
坊っちゃまはあの姉妹に最大の援助をしろと私に伝えると、それから部屋に引きこもられました。食事にもあまり手をつけず、何日、何週間と部屋から出ることはありませんでした。
私は坊っちゃまのご命令道理、あの姉妹に今後の生活の援助金。考慮して2人が大学まで行くにあって最低限必要であろう額を少しずつ渡し、それを条件に坊っちゃまの事を考慮して二度と私達の前に現れないよう釘を指しました。
きっとあの2人の姿を見れば、坊っちゃまはきっと思い出してしまうのでしょう。
何も出来ない私に出来る事を少しづつする。他の2人も何か出来るかと動き回っているようだ。
しかし、坊っちゃまの安否が心配でならなかった。
邸宅の扉の作りは頑丈で、ちょっとやそっとでは破る事が出来ない。
扉の向こうで何をしているのか私達には分からないが、どうか早まった事をしないで欲しいと願いながら数日が経った頃。
坊っちゃまの部屋から物音が響いた。心配が不安に。危惧が恐怖に。
思わず部屋まで走り扉を叩いた。中から鍵がかかっているため、扉を開けるには容易では無い。男性の使用人を数人呼んで全力で扉を破ってもらう。
扉が壊れ、部屋の中に入った時目に入ったのは。
━━━━━天井から垂さがる
━━━━━うつ伏せに倒れる坊っちゃま。
━━━━━衰弱した坊っちゃまの首には。
━━━━━かなりキツめに締められた縄がかかっていた。
思わず駆け寄り、急いで首から縄を外す。
呼吸はあるが弱い。ここ数日食事に手をつけておられなかったせいか、身体がかなり衰弱し脱水症状を起こしている。
急いで病院に搬送。何週間の入院。お医者様からは何故あんなになるまで放置していたと言われる始末。
それには何も反論出来るはずがなく、ただ深く頭を下げるしか無かった。
短い期間で起きた高松宮家の悲劇に、正直誰もが怖気付いていた。敬愛する御当主様御夫婦、そしてそのご子息様である坊っちゃまに降りかかる悲痛な運命。
衰弱していく坊っちゃまをそんな呪いから解放する為に、一度この家から離すのは至極当然の事のようにも思えるが。やり方が私は認められない。
ともかく、坊っちゃまが入院されている間にことは淡々と進み、坊っちゃまは離縁という形になった。
私達3人は最後まで坊っちゃまの傍にと、本家にいた使用人の方々に後押しされ、当主となったあのクソ豚に真正面から断りを入れて私達も事実上の自主退職。分家のお家に在籍する形で移動し、坊っちゃまの生活を支えていく事になった。
坊っちゃまは意識を取り戻されてから、前よりも少し雰囲気が
それと、目を覚ましてから何処と無く行動が少し可笑しくなったと思う。髪の毛を
それらを踏まえて時折見せる
それから退院し、分家の方から提供して頂いた新居に向かいます。
場所は美嘉さんの御自宅の傍。坊っちゃまが入院している間に、美嘉さんの
兎も角これで、坊っちゃまも平穏な日常を送る事ができるようになりました。酷な話ですが、どうか彼女達の事は忘れていって欲しい。彼女達の事よりも、私にとっては坊っちゃまが最優先なのだから。
私からの坊っちゃまの話はこれにて区切らせていただきます。
本当はもう少しあるのですが、そこはまた別の機会に。
長々と失礼致しました。語り部は私、卯ノ花瑞稀が努めさせて頂きました。
次は私以外の2人のどちらかと思いますので、その時もまた。
グランドフィナーレログチケ回してもなんも出ないぃ!!
どうしてみんな出るのにURどころかSSRまで出ないんだァ!?
お、おれってば………き、嫌われてる……?
ぴえん………。