「激符『ウォーズ・オブ・ピースメーカー』!」
欧我との弾幕ごっこは、実のところこれが初だ。かつて素子と一戦を交えた時と同じように、小手調べのミサイルを撃ち出す。
「撮符『激写封印』!」
何を思ったか、欧我は首にかけていたカメラを構えた。すると弾幕を囲う形で銀色の枠が現れ、シャッター音と同時に眩いフラッシュが焚かれて弾幕が忽然と消え去る。
「写符『封印解放』!」
そして彼はどこからともなく取り出した写真を平手で叩く。それを皮切りに、写真から俺の放ったのと同じミサイルが発射された。
「…ふん」
だが、それを見た俺はすぐに、それを避ける必要性はないと判断した。極めて高い追尾性を持つ弾幕は俺の極近くまで迫り、そして接触する。それだけだ。爆発しない。
「なっ?!」
「驚いているようだな」
起爆しないのは当たり前だ。何も入っていないからである。
「マルチロックオンマイクロミサイルシステムに使用する超小型ミサイルは、爆薬の代わりに圧縮されたバイオエナジーを積み込んでいる。接触を感知すると信管が叩かれ、圧縮状態にあったバイオエナジーを一挙に解放、爆発現象を起こすものだ。先の貴様のスペルカードは、写真に撮った相手の弾幕を再度実体化させるものだろう。貴様の撃ったミサイルに、バイオエナジーは入っていない。バイオエナジーがそういった形で干渉されないことは、今までの経験則で実証済みだ」
鈴仙が自身の位相を変化させても、スキャニングを持つ俺にはバイオエナジーが丸見えだった。幻想郷拡張計画の要となった巨大空中要塞ファンタズムキャリアは、首謀者たる源弾蔵の『遮り妨げ害する程度の能力』によりコーティングが施され、あらゆる攻撃を無効化できる、はずが、船内のガンカメラはバイオバレットの一撃だけで容易く破壊できてしまった。欧我のスペルカードも、ミサイルに充填されたバイオエナジーはコピーし切れなかったのだろう。この宇宙に於いて、バイオエナジーに干渉できる生物はインフィニタスだけなのだ。
「ぼさっとするな。戦いはまだ始まったばかりだ。遺恨『フューリアスパスト』」
ミサイルを放った後元の状態に戻っていたアームキャノンの銃口が再び変形し、毎分700発以上の速度でバイオバレットがばら撒かれる。その中には、温度変化エフェクターによって加熱・冷却されたものや、バイオダイナモで作られた指向性高圧電流が混じっている。
「っと!」
欧我がそれを紙一重で避けて見せる。着弾地点で土煙が舞い、物が焼け、凍てつき、紫電が立ち上がる。これは俺のスペルカードの中でも唯一と言っていい『魅せる』弾幕だ。実用には適していない。
そもそも、俺は弾幕ごっこを行なう上で必要な要素が欠けている。俺はアームキャノンがなければ弾幕を張れない。それは即ち自分を中心としてしか弾を発射できないということである。故に、
「後ろがガラ空きだッ」
背後をとるのもアナログでマニュアルだ。スペル終了直後にブースターを噴かし、無理やり彼の後ろに回り込んだのだ。
「え?!」
「急襲『ブラインドサドンアタック』」
振り返ろうとした彼の脇腹に、アームキャノンを装備した右手で渾身のコークスクリューを炸裂させ、同時に引き絞っていたトリガーを放して、キャノンのマルチシューターマシンで圧縮されたバイオエナジーをぶちかます。出力さえ上げれば内臓破裂を起こし死に至る一撃だ。
「ぐうっ!!」
呻き、吹っ飛ぶ銀髪。目も当てられない。
「素人に毛が生えた程度の実力で戦場に立つなど言語道断だ。幼稚なガキが踏み込んでいい領域ではない」
「くそっ…!禁忌『フォーオブアカインド』!」
欧我のスペル宣言を合図に、バイオエナジーの流れていない3人の分身が現れた。大勢でタコ殴りにしようという魂胆だろうが、俺はコーカサスにいた頃、これよりずっと多くの人数を相手取ることもあった。1対多の戦闘なら、不利どころかむしろ大の得意だ。
「自己流『柳下惨々』」
本体と分身、合わせて4人の欧我が動き出す前に、それらの目前に接近。目標を中心に三角形を描いて飛びつつ、すれ違いざまに高めの出力で形成したバイオブレードで分身を両断。三角形の始発点に戻ったら、踵と尾てい骨のブースターによる加速力にものをいわせ、半ば暴虐的な飛び膝蹴りで本体を打ち上げる。自由落下が始まる瞬間に上方から肘打ちを繰り出し、少し出力を下げて十字に斬りつける。
「ぐはっ!?」
欧我が地面に叩きつけられたのを見届けてから、すかさず次のスペル宣言に入った。ダイヤルを回し兵装を変更、銃口を変形。
「爆誕『バイオロジックスーパーノヴァエクスプロージョン』!」
その名の意味は、『生物的超新星爆発』。直径6mの巨大な光弾が投げつけられ、その名に違わぬ衝撃と強烈な光が辺りを包む。サングラスをかけていなければ目を押さえて悶えていた。
「…そう簡単にはいかない、か」
勿論、俺は彼がこの程度でくたばるようなヤワな男ではないと分かっている。視界が明瞭になるにつれて、立方体の光弾で自身の周りを固め身を守る青年の姿がはっきりと見えてきた。
「行け!」
そしてその光弾が螺旋を描いて舞い上がり、俺に向かってくる。隙間を縫って回避したが、俺の体力は大分消耗されていた。俺は一般的なインフィニタスより疲れ易いのだ。
「まだ終わってない!!」
対して欧我は疲れの色を見せていない。いや、確かに疲れてはいるが、俺よりずっとタフで持久力のある男なのだろう。
欧我が再び弾幕を展開した。
接近戦に持ち込まれると不利。欧我はその事実に既に気付いていたらしい。弾幕で俺の進路を阻み、一方的に封殺する戦法に出てから、俺は徐々に衰弱し、退路を切り拓く為にブレードを振るうのも億劫になっていった。ブースターで「浮いている」分には問題ないが、踵のブースターは飛行制御に脚を使う。疲労が蓄積し、俺は最早虫の息だ。
「はぁ…はぁ…ッ!」
「もういいじゃないですか!!どうして正邪を殺すことにこだわるんです!!」
弾幕が止み、彼は投降を勧めてくる。
「ここで…引く訳にはいかない…!奴を殺さねば…」
「彼女の笑顔が無くなるんですよ?!死んだら何も残らないじゃないですか!!」
死んだら何も残らない。その言葉に、俺は反射的に食らい付いた。
「齢6で人を殺した!俺にその言葉を言うか!!」
虚しく木霊する声。彼は呆気に取られているようだった。
俺がここで引けば、あの時殺した男が被害者になってしまう。俺が悪に仕立て上げられてしまう。そんなことは、絶対に嫌だ。
俺は最後の力を振り絞り、スペルを宣言した。
「これで、終わりだ!!貫義『マイジャスティス』!!」
ブースターを最大出力で噴射、展開したブレードで袈裟斬り。瞬きする暇も与えるつもりはなかった。
だが。
「ぐっ…」
やはりベストコンディションでなかったが故に隙を突かれたか、俺は、意識を失った。