(((迷うなフジキド。かすかに漂うこの気配……間違いない、タナカ・ニンジャクランのレッサーニンジャソウルよ。脆弱なキネシスしか扱えん羽虫、あの光も所詮子供騙し……カラテで叩き潰してやるがよい)))
ナラク・ニンジャのその言葉を受け、フジキドは改めて目の前のニンジャを睨んだ。レッサーニンジャソウル憑依者とて油断出来ぬニンジャも山のように見てきた。記憶の中から、サラマンダーの姿が蘇る。
ジツを匂わせながらカラテのワザマエで強襲する油断ならぬニンジャ、それが彼の見立てだ。それが真かどうか確かめるべく、フジキドはすり足で距離を詰めた。
「おっと、まぁ待て。その前に、邪魔なやつを消さんとなぁ!イヤーッ!」
「イヤーッ!」
ディスセンブルが手にしたスリケンに燐光が移る。キネシスか、あるいはエンハンスか。ニンジャスレイヤーが分析するよりも早くスリケンが投擲される。それを迎撃するニンジャスレイヤーのスリケン。二つのスリケンは空中で衝突し、互いに相殺される。
「グワーッ!」
否、衝突した瞬間ニンジャスレイヤーのスリケンへと燐光が乗り移り、次の瞬間バラバラに分解される!ディスセンブルのスリケンは弧を描きキリサメ・ダイフの左肩に突き刺さった。
「チッ、外されたか。やはり片手間に殺させてはくれんか」
(((バカな、なんだ今のジツは!?ワシの記憶にもないニンジャ?いやしかしこのソウル、確かに覚えが……いや、これは……)))
スリケンで仕留めるつもりだったのか、悔しげな様子を見せるディスセンブル。一方ニンジャスレイヤーの脳内では、ナラク・ニンジャが困惑の様子を見せていた。
「思案は後にせよ!イヤーッ!」
「カラテか、面白い!イヤーッ!」
首を刈り取るような回し蹴りが衝突!カラテのワザマエは五分と五分!
「手負いか!?随分軽い!イヤーッ!」
「グワーッ!」
しかし負傷が尾を引く分、身体能力ではニンジャスレイヤーが不利!ディスセンブルの筋力に押され、ニンジャスレイヤーの身体が後方に弾ける。
「イヤーッ!」
再びディスセンブルの両手が怪しく光る。彼は掌を前腕と垂直に立てる、コッポ・ドーの基礎的な構えを取ると、ニンジャスレイヤーへと前進した。
(((ジツの正体は分からぬが危険な事は明白!受けるでないぞ、フジキド!)))
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
ナラクの忠告は実際正しい、ニンジャスレイヤーはそう判断すると、床を大きく踏み鳴らした。辺りに散らばる凶器が宙に浮く。
眼前に迫ったディスセンブルの右掌底!釘バットにより左へ逸らす!釘バットは粉状に分解され消滅!次いで左掌底!ヘルメットを被せチョップで右へ逸らす!ヘルメットはプラスチック片と化し消滅!次いで一回転した上での右肘打ち!身をかがめ回避!次いで燐光を伴う蹴り上げ!咄嗟に角材で防ぐと、それを足場に跳躍回避!二つに折れた角材にヒビが入り、弾け飛ぶ!
「イヤーッ!」
天井に指をめり込ませ、宙に浮いたまま頭部を狙い済ました二連蹴り!両腕を交差しガードしたディスセンブルの身体が後方に押し込まれる。
「イヤーッ……!?」
降り立ったニンジャスレイヤーは側転で距離を詰め、追撃のランスキックを放った。当たれば必殺となりうるカラテ、しかしディスセンブルは回避行動を取らない。ニンジャスレイヤーの第六感が危機を感知し足を止めた次の瞬間、ディスセンブルの頭部が燐光を帯びた。
「惜しいな、迂闊に蹴りこんで来てりゃ両足バラしてたんだが」
(((防御にも転用でき、当たれば致命傷か。しかしここまで強力なジツ、弱点も必ずある)))
距離を取りつつ、ニンジャスレイヤーは息を整えた。触れたものを分解する、なんと厄介なジツであろうか。その上蹴りをわざと貰い、こちらの油断を誘った上でこちらを仕留めんとする策も仕掛けてくる切れ者だ。しかし無敵ではないはずだ。ニンジャスレイヤーは光明を探るべくジュー・ジツを構えた。
「どうした?打つ手なしか?」
「ほざけ!イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーのスリケン投擲!それを迎撃するディスセンブルのスリケン投擲!スリケンの射出速度は互角、しかし砕けるのはニンジャスレイヤーのスリケンのみ!回避行動を取りながら射撃を続けるも、徐々にニンジャスレイヤーの輪郭をスリケンがとらえ始める。
「そらどうした!逃げてもどうにもならんぞ!」
「イヤーッ!グワーッ!イヤーッ!」
脇腹を、頬を、右肩を。スリケンがニンジャスレイヤーの身体を掠めてゆく。二つの風は間に火花を散らしながら、社長室へと飛び込んだ。
「もう逃げるのは終いか?」
「スゥー……ハァーッ……」
ニンジャスレイヤーの身体から夥しい量の血液が滴る。スリケンによる負傷に加え、オンバシラにより負った傷が再び開いたのである。チャドー呼吸を重ねるその姿は、酷く弱々しい物に見えた。
「……オヌシのジツは、やはり無敵では無い」
「……ほう?」
歩を進めたディスセンブルに対し、ニンジャスレイヤーはそう言葉を投げかけた。苦し紛れの時間稼ぎか?狂人の妄言か?否、こいつはなにか打算を持っている。ディスセンブルは直感でそう判断すると、愉快そうな笑みを浮かべながらコッポ・ドーを構えた。
「では思い知らせてやろう、俺のジツに隙などないと言うことをな!イヤーッ!」
火の消えたセンコのように座り尽くすニンジャスレイヤーへ、バッファローめいてディスセンブルが迫る。両者の間にあった距離は瞬く間に消え失せ、ディスセンブルの燐光を纏ったチョップ突きがニンジャスレイヤーへ繰り出される。ああニンジャスレイヤー、負けてしまうのかニンジャスレイヤー!
「イヤーッ!」「ナニーッ!?」
ニンジャスレイヤーの瞳に赤黒い火が灯る。次の瞬間、ディスセンブルの眼前を壁が覆った。否、これは畳だ。社長室に敷きつめられた畳である。
「グ、しかしこの程度!」「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」「ナニーッ!?」
畳は受け止められ、両手の燐光は畳へ移る。このままでは先の再現だ。やはり苦し紛れの一手なのか?否、否!ニンジャスレイヤーは連続して畳を投擲!燐光が畳を覆い尽くすよりも、畳が増える速度の方が速い!
(((やはり、巨大な物や大量の物は即座に分解できぬか)))
「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
畳に叩き込まれた拳の衝撃は、畳の先のディスセンブルへと伝播される!ニンジャスレイヤーは目にも止まらぬ速度で畳へと拳を叩き込み続ける。
己とキリサメ・ダイフを殺すだけならこのビルを崩落させてしまえばよかったはずだ。そうしなかったのは、その方法では殺しきれないと判断したからに違いない。詰まるところ大きさか分解までにかかる時間か、そのどちらかに制限のようなものがあるのだ。ニンジャスレイヤーは僅かな情報からジツの弱点を推察し、即座にこの恐るべきジツへの対抗策を編み出していた。
「グワーッ……!これが、俺のジツの攻略法か、クク、なるほど……」
「イヤーッ!」
畳が砂めいた破片へと分解され、打撃の嵐に晒され膝を付くディスセンブルが映る。満身創痍か、しかし油断はしない。ニンジャスレイヤーは再度畳を投擲しながらディスセンブルへと距離を詰めた。
「残念ながら!」
(((いかん!下がれ、フジキド!)))
ディスセンブルの身体が一際大きな光を放つ。投げた畳が一瞬にして塵になる。
「不正解だ!ニンジャスレイヤー=サン!イヤーッ!」
次の瞬間、フロア一帯が白く光り輝き、前進していたニンジャスレイヤーの身体は浮遊感に包まれた。
馬鹿な、一瞬にして階層の床を分解したというのか。否、この階所では無い。数十階はあったはずの階層の尽くが分解されたのか、遙か遠方に次の床が見える。
「イヤーッ!」
落下するキリサメ・ダイフへと降り注ぐ瓦礫をスリケンで打ち落とす。しかしそれは隙を曝け出す事にほかならず。
「イヤーッ!」「グワーッ!」
強烈な踵落としがニンジャスレイヤーを打ち据えた。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「グ……ここは……」
瓦礫の山から身を乗り出したニンジャスレイヤーは当たりを見回した。白い壁に白い天井。どこまでも白づくめな部屋だ。上に朝日が見える。地下室だろうか。しかし壁に備え付けられたあの大きな鉄の扉は一体……?
「ここは火葬場さ、ニンジャスレイヤー=サン」「グワーッ…!」
その声と共に、ニンジャスレイヤーへと重体のキリサメ・ダイフが投げ込まれる。声の主はディスセンブルであった。瓦礫による負傷こそあれど、ニンジャスレイヤーと比較すればその負傷の差は一目瞭然であった。
「さて、続きをしようか。そこの老いぼれにお前が死ぬ様を見せつけ、ソウカイヤに一度でも歯向かった者がどうなるか思い知らせてから殺してやる」
コッポ・ドーの構えを取るディスセンブルに対抗するように、ニンジャスレイヤーは弱々しくジュー・ジツを構えた。
(((あのようなものを助けこのザマとは、何をしておる愚か者!!このような状態で勝てる相手ではない!引け、フジキド!)))
「スゥーッ……ハァーッ……」
その声に反論する気力すら最早無い。引けば後ろのキリサメ・ダイフは死ぬ。故にニンジャスレイヤーは戦意を示す様にチャドー呼吸を重ねた。
「……サン、ニンジャスレイヤー=サン……」
弱々しい声でニンジャスレイヤーに語りかけるのはキリサメ・ダイフである。肋骨が肺に突き刺さっているのか、掠れるような呼吸音を漏らしながら、彼はニンジャスレイヤーに声をかけていた。
「喋るな、無茶をすれば死ぬぞ」
「頼む、──────────、だから時間稼ぎを」
「……何?」
ニンジャスレイヤーの忠告すら無視して投げ掛けられた言葉に、ニンジャスレイヤーは目を見開いた。それはあまりにも救いの無い願いで。
「頼む」
しかし最後の希望に縋るようなその声を切り捨てることなどできず、ニンジャスレイヤーは苦心の末静かに頷いた。
「「イヤーッ!」」
両者のカラテが激突する。チョップが交差し、鍔迫り合いめいて拮抗する。
「哀れな男よ、ジツを加減していたのも、あの男を生かしておいたのも、今こうしてカラテ遊びに付き合ってやっているのも、全て俺の気まぐれにすぎん!全力を出してしまっては遊べんだろう!?イヤーッ!」
「グワーッ!」
突如としてディスセンブルの手が緩む。急な脱力により前方へと流れたニンジャスレイヤーの胴体を、強烈な掌底が突き上げる。
「グ……イヤーッ!」
「イヤーッ!」
天へと叩きつけられ、ニンジャスレイヤーの意識が一瞬ブラックアウトする。しかし即座に意識を取り戻すと、天井を蹴り加速と共に踵落とし!それを迎撃するディスセンブルの対空パンチ!双方渾身のカラテ、しかしこの衝突はディスセンブルの拳が勝る!脚部を跳ね上げられ、ニンジャスレイヤーの身体が宙で回転する。
「イヤーッ!」「イヤーッ!イヤーッ!」「グワーッ!」
その勢いを利用した、一度に八枚のスリケン投擲!サイドステップ回避!カウンターの肘打ちがニンジャスレイヤーの脇腹へと突き刺さり、鈍い音が響き渡る。致命打と成りうる鋭い一撃、さしものニンジャスレイヤーと言えどこれでは……!
「スゥーッ、ハァーッ!」
否、カウンターに合わせ後方へ飛ぶ事で僅かに勢いを殺し、そこにチャドー呼吸による回復力も合わさることでなんとか耐え凌ぐ!そしてチャドー呼吸により高まったカラテは即ち、ニンジャスレイヤー反撃の合図!
「イィィィィヤァーッ!!」
振り絞るようなカラテシャウトと共に突如として高速回転!咄嗟に距離を取ったディスセンブルの僅か数ミリ先を、鎌の如く鋭い蹴りが掠める!最後の一撃か!?否、それは一撃では終わらず。チャドー暗殺拳奥義、ニンジャスレイヤー渾身のタツマキケンだ!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
射程外へ逃げんとするディスセンブル、それをニンジャスレイヤーのタツマキケンが執拗に追う!ディスセンブルの笑みに、初めて緊張の色が刺した。
「イヤーッ! 」「イヤーッ!」なんとか防ぐもブレーサー破壊!「イヤーッ!」「イヤーッ!」なんとか防ぐもチェストプレート粉砕!「イヤーッ!」「イヤーッ!」なんとか躱すもメンポ破損!「イヤーッ!」「イヤーッ!」なんとか防ぐもレッグガード破壊!ディスセンブルの逃げ場が、次第に無くなってゆく!
(((このまま逃げてもいずれは……ならば!)))
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
ディスセンブルは突如として足を止め、暴風域へと身を晒す。そこへ襲い来るタツマキケン!相対すは、ディスセンブル渾身の掌打!破壊のエネルギーと破壊のエネルギーが衝突し、双方の拳と脚が静止する。
「グワーッ!」
突如としてニンジャスレイヤーの全身から出血!威力は五分と五分、しかしニンジャスレイヤーの肉体は、衝突時の反動に耐えきれなかったのだ。ニンジャスレイヤーの体から力が抜け落ち、その場に膝を着く。
「ハァーッ……!中々のワザマエ、出来れば万全の貴様と仕合いたかったが……これも任務よ、カイシャクしてやろう」
ディスセンブルはザンシン!渾身の一撃により絞りだしたカラテを再び充填させるように、呼吸を整えチョップ突きを構えた。
「いや、死ぬのは貴様よ!イヤーッ!」
歩を止めたディスセンブルの眼前に、サスマタが突き刺さる。視線を向けたディスセンブルの視界に映りこんだのはキリサメ・ダイフであった。
「なんのつもりだ?貴様ごときでは敵わんのは……ン?」
なんと哀れな抵抗か、ディスセンブルは蔑むような目をキリサメ・ダイフへ向けながらサスマタへと手を伸ばす。その時ふと、焼け付くような熱気をサスマタから感じる。
「ここの焼却炉は特別製でね、ヨーカイだろうがなんだろうが灰に出来るよう特注品の炉が付いてるんだ」
そう言い放ちながら、キリサメ・ダイフは壁の巨大な扉を開けた。そこにあったのは奇妙な八角形の炉であった。周辺の空気は赤色になるほど熱され、寒暖差で空気が炉の中へとなだれ込んでゆく。
「なんだ、それは」「正真正銘、本場の八卦炉さ!ここで貴様は焼け死ぬのだ!イヤーッ!」
八卦炉、ゲンソウキョウに住むものなら誰もが聞いたことのあるマジックアイテム。その現物がこんな所に?まさか、あの妙な回転蹴りは熱された外気を冷却し、俺にこれを悟らせないようにするために?ディスセンブルのニューロンに僅かに思案の影が刺した隙を見逃さず、キリサメ・ダイフは突進をしかけた。
「阿呆が…!イヤーッ!」「イヤーッ!」「ナニッ!?まだ動けたか!」「イヤーッ!」「グワーッ拘束!」
跳躍しそれを躱そうとするディスセンブルの脚を、ニンジャスレイヤーが掴み取る!その瞬間、キリサメ・ダイフはディスセンブルへと手枷を取り付けた。八卦炉の熱にも唯一耐える、ヒヒイロカネ製の手枷だ!その鎖は焼却炉の中へと繋がっている!
「貴様ッ!イヤーッ!」「グワーッ!」「ダイフ=サン!」
ディスセンブルの無慈悲なカラテフック!それは人間に耐えられるものではなく、キリサメ・ダイフの腹部を拳が貫く。しかしキリサメ・ダイフは怯むことなく、その腕をしっかりと掴んだ。
「ニンジャスレイヤー=サン!これを持って、モリチカ・リンノスケ=サンを探すんだ!彼ならきっと私の娘……マリサの居場所を知っている!」
「ダイフ=サン、あなたは!」
「私は、ここでコイツとサヨナラだ」
ニンジャスレイヤーに投げ渡されたのはミニ八卦炉だ。彼はニンジャスレイヤーがそれを受け取るのを見届けると、何かを成し遂げたかのようなほほ笑みを浮かべた。その様子は、まるでかつて己を助け死んだ……。
「ダイフ=サン!」「行け!ニンジャスレイヤー=サン!行くんだ!」「しかし!」「私の死を、犬死ににしないでくれ……!」「……ダイフ=サン、サヨナラ!」
思わず駆け寄るニンジャスレイヤー、しかしキリサメ・ダイフのその言葉を受け、彼はその場から飛び去った。八卦炉が一際強い光を放ち始める。
「ニンジャスレイヤー=サン、どうか、娘を……」
赤黒い影は朝日に混じり消えてゆく。その様子を見て、キリサメ・ダイフは静かにそう呟いた。
KA-BOOOOOOOOOM!!
轟音と共に、虹色の火柱が天へと昇る。ネオヒトザトを駆ける彼の目に滲むものは後悔か、それとも憎悪か。ニンジャスレイヤーは顔を隠すように頭巾を深く被ると、ネオヒトザト郊外へと駆けて行った。
【ディム・ドリーム・ダイ】終わり