ニンジャ・ビジット・ゲンソウキョウ   作:ハングネック

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ミチスガラ・シーク・ヨモスガラ #2

「もの言えば、懐寒し秋の山。唇震わすキリギリスかなぁ〜……はぁ、それにしても、なんで私がこんな……リンノスケ=サンが案内したら良いじゃない」

 

「いやぁ、僕は魔法の森に入れるだけで迷わない訳でも襲われない訳でも無いのでね。ヨーカイでも出口を見失うくらいだ、とてもじゃないが歩けないさ」

 

「はぁー……まぁ、私のお願いさえ守ってくれるならいいけど」

 

 提灯を掲げ、何やら妙なハイク混じりの短歌を口ずさむ少女の背を、リンノスケとニンジャスレイヤーの二人は追い掛けていた。三人が今いるのは魔法の森、紛れもない危険地帯の奥地であり、木々の隙間に視線をやれば何やら巨大な影が通り過ぎていくのが見える。異形の影、間違いなくヨーカイだ。

 この地に生息するヨーカイには見境の無いものが多い。カラテ技巧者たるニンジャスレイヤーと言えど、彼らの目には餌として映り込むことだろう。

 

「やけにヨーカイが大人しいな」

 

 しかし提灯を携え、船頭は鼻歌交じりであるにも関わらずヨーカイがこちらに襲いかかるどころか、気付くような様子もない。皆一様に近辺を彷徨いた後に、諦めたようにどこかへ飛び去ってゆく。こちらが見えていないのだろうか?

 

「私の……というより夜雀の歌を聴いたら鳥目になっちゃうから。あなた達がなんともないのは私のヤツメウナギの療養効果のおかげ」

 

 それを聞き、ニンジャスレイヤーは若干顔を引き攣らせた。歌を聞き鳥目になった客に、視覚疲労回復効果の高いヤツメウナギを売り付ける、実際自作自演に近しい商売。彼女の客の半数は、彼女の歌で鳥目になったが故にヤツメウナギを求める客が占めている。ある意味、というよりかなり悪質な詐欺ではないか?という疑念が首をもたげるものの、それを追求する場ではないと判断するとニンジャスレイヤーは口を噤んだ。

 

「たま〜に寄ってきちゃうけど、そういう輩はこの子達に誘導してもらうし」

 

 そう言いつつミスティアは提灯へと視線を向けた。見ればそこに居たのは巨大なオバケモスの群れであった。彼女が口をすぼめ雀めいた声を鳴らすと、そのうちの一匹がパタパタと羽ばたきながら彼女の指先に留まる。原理は不明だが、これもまた彼女の力なのだとニンジャスレイヤーは理解した。歌による擬似的な視線誘導と蛾による誘導、この二つにより身の安全を確保しているのだ。「味方で良かっただろう」と言わんばかりのリンノスケの視線に、ニンジャスレイヤーは頷きを返した。

 

「だから私はある意味最適解、運が良かったわね。にしてもルーミアチャンと知り合いだったなんて……どういう仲?」

「出会い頭に殺されかけた程度の仲だ。首を跳ねた翌日に出会った時は流石に度肝を抜かれるような思いだった」

 

「あら素敵、貴重な体験ね」

 

 ごく一部の例外を除けば、ヨーカイに襲われ生き残るというのは実際稀だ。無論ニンジャスレイヤーはニンジャであるため例外側ではあるだろうが、それにしても貴重な体験であることに違いない。

 自身の友人と命のやり取りがあった事を告げられても顔色を変えぬミスティアを見てニンジャスレイヤーは少女に見えたとしてもやはり精神構造が人間とは違うことを理解し、リンノスケはげんなりするような顔を浮かべた。

 

「まぁそういう訳で、この道中は危険なんてないのさ」

 

「……ところが、最近そうもいかないの」

 

 道路の安全性を説こうとしたリンノスケの言葉を否定するように、ミスティアはため息混じりにそう告げた。

 

「ソウカイヤって知ってる……よねぇ、ニンジャの連れいるし。……まぁそいつらがここら辺うろちょろしてる訳。ご丁寧にトラップまで置いてね」

 

 そう言いながらミスティアが指を指した先にあったものはナリコであった。草木の影に隠れるように、巧妙に設置されている。蛍の光が無ければ視認することは出来なかっただろう。なんと恐るべきトラップか。このような危険地帯で引っかかってしまえば、付近のヨーカイに居場所を悟られてしまう。そうなれば、残るものは骨だけだ。

 

「ま、とはいえ私の伝手を頼ればトラップの位置なんて丸わかりなんだけど」

 

 次にミスティアが指で指し示したのは蛍の群れであった。ぼんやりと、微かに光を放つ蛍がトラップの周辺へと集っている。あの蛍光色の光は、さしずめトラップの存在を知らせる警告光なのだ。知覚しやすく、しかしながら意味を知らなければそれが何であるか理解することは叶わない。なんと巧妙な伝達法であろうか。

 

「伝手、というのは?」

 

 ニンジャスレイヤーのその問いを受け、彼女はくるりと振り返りニンジャスレイヤー達の方へと顔を向けると。

 

「リグルチャン、私の大事なお友達。……さっき話した、何の仕事してるか調べて欲しい人」

 

 自慢するように、しかしどこか不安げにそう告げた。

 ナリコの周りにいる蛍は偶然居るものでは無い。トラップの位置を自身の友人に知らせるべく、リグルが残したメッセージ代わりなのである。これにより、このメッセージの意味を知るものは蛍の光を避けるだけでトラップを避けることが可能となっているのである。

 

「……」

 

「ニンジャスレイヤー=サン、なにか?」

 

「……いや、杞憂だ。気にしないでくれ」

 

 それを聞き、何か考え込むような表情をニンジャスレイヤーは取った。

 ブービートラップの隠蔽精度はとても高度な物だ。己が過去に竹林に張り巡らせた物と比べても位置、ワイヤーの長さ、その隠し方どれをとっても遥かに上だ。正しくタツジンと呼べるだろう。では何故そのようなものをその日のうちに見つけることが出来る?そこまで捜索の類に長けたヨーカイなのだろうか?それとも、トラップの()()()()()していた?であれば、その人物は……。否、これは憶測に過ぎない。目の前の少女はソウカイヤを忌み嫌っている。そんな人物と繋がりのある人物が、何故ソウカイヤに与する?そもそもトラップ設置技術にこの地の人間全般が長けている可能性は?疑念など、掘り起こそうと思えば幾つでも出てくる。疑い出せばキリがない。ならば己が摂るべき行動はその全てに対応できるよう精神統一、即ちチャドーすることなのでは無いだろうか。センセイがもしこの場に居れば、今の迷いを叱るに違いない、そう感じるとフジキドは、メンポを確かめるように深く深呼吸をした。

 

「イヤーッ!」「「アイエッ!?」」

 

 その直後、ニンジャスレイヤーはリンノスケとミスティアを小脇に抱え込むと、有無を言わさず前方へと跳躍回避運動を取った。

 BANG!BANG!両名が何事かと訪ねようとするよりも早く、銃弾が木々へと着弾するような異音が響き渡る。アンブッシュだ!この暗闇の中、なんと精密なアンブッシュか!しかし発砲音はない、果たして敵はどこから何を撃ってきたのか?

 

「ここで待たれよ!イヤーッ!」

 

 それを確かめるべく、ニンジャスレイヤーは二人を木の上へと避難させると、射撃物の飛来した方向へとスリケンを投擲した。樹皮へとスリケンが突き刺さる硬い音に混じり、肉を切り裂き鮮血が散る異音が混じるのを、ニンジャスレイヤーのニンジャ聴覚が感じ取る。

 

「GROOOWR!!!」

「イヤーッ!」

 

 直後、鰻にも似た体表と裂けたような大口を持った、蛇めいたヨーカイがぼんぼりの灯りの内へと姿を曝け出す。涎を振りまきながらその長い牙でニンジャスレイヤーを噛み砕かんとする影に対し、ニンジャスレイヤーは冷徹にチョップを振り下ろした。一本だったヨーカイの巨体が、ニンジャスレイヤーのチョップにより裂かれ左右へと逸れてゆく。

 

「よ、ヨーカイ?嘘でしょ、なんで見つかって……でも、終わったなら急いで……」

 

「まだ終わりでは無い」

 

 ニンジャスレイヤーがそう呟くと、途端に地面が揺れ動き出す。まさか敵はこの下に居るというのか!?隆起した地面が、ニンジャスレイヤーへと一直線に迫る。

 

「グワーッ!」

 

 跳躍し姿を見せぬ敵の背後を取ろうとしたニンジャスレイヤーの脚部に激痛が走る。視界の端に映るのは真っ二つに裂けたヨーカイの腸からニンジャスレイヤーの脹脛へと伸びた白い糸……否、それは巨大な寄生虫だ!ヨーカイの腸から抜け出すと、ニンジャスレイヤーの体内へと潜り込むべく、身をよじらせていたのだ!その光景におぞましさを覚えながらも、冷静に踏みつけて処理するニンジャスレイヤー。

 しかしその分飛ぶまでが遅い!CLAAACK!!牙を擦り合わせ、金属音めいた音を響かせながら地中から現れた巨大な影が、ニンジャスレイヤーの眼前へと迫る!ヨーカイのムカデだ!

 

「イヤーッ!」

 

 零距離のスリケン!僅かに突き刺さるも、装甲の分厚さに阻まれダメージならず!左右から迫る牙をニンジャ握力で止めるも、その推力によりニンジャスレイヤーの身体が宙へと運ばれる。そのままムカデは天へと身体をのばし、見上げるような木々の壁と枝葉の天井を突き破る。朝日がニンジャスレイヤーとムカデの上半身を照らし出した。

 

(((なんという規格外の大きさ、敏捷性も油断出来ぬ……!)))

 

 ジェットコースターの頂点めいた光景が、ニンジャスレイヤーの眼下に広がる。高さにして2、30mはあるだろうか。これでも尚全体が見えぬその巨体に、ニンジャスレイヤーの眉間に驚愕のシワが寄る。

 

「イヤーッ!」

 

 突如握りしめた牙が脈動するのを感じ取ると、ニンジャスレイヤーは手と共に牙を左右に交差させ、大ムカデの眼前から離脱!その直後、見るからに強酸性の毒液が牙の先端から吹き出した!あのまま掴み続けていれば、ニンジャスレイヤーの上半身はドロドロに解け消えていただろう。

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

「AAAARGH!」

 

 自由落下しながら、大ムカデの腹部へと連続してストレートを叩き込む!ニンジャの鉄拳が数発。しかしその体格差故か、あるいは分厚い甲殻故か効き目が薄い!ニンジャスレイヤーの猛攻は僅かに大ムカデに身動ぎをさせるに留まった。

 それに対してカウンターするように、天高く聳え立つような上半身の振り下ろしと共に迫るは、大地が隆起するような下半身の振り上げ!回避の出来ない空中を狙い済ました挟み込み!

 

「イヤーッ!」

 

当たれば即死、しかしニンジャスレイヤーは冷静に身体を弓なりにしならせると、ムカデの巨体が指先に触れた瞬間、自身の身体を弾き出すことで冷静に回避した。なんと優れた判断力とニンジャ敏捷性か!

 砂埃で線を描きながら後退るニンジャスレイヤーを、感情の読めぬ瞳で睨みつけながら、牙をカチカチと鳴らす大ムカデ。現状は僅かにニンジャスレイヤーが優勢。しかしそれもやがてはジリー・プアー(徐々に不利の意)。それは即ち、次両者が触れ合った時こそが勝敗を分ける分かれ目である事の合図!

 

「GRRRRRRRRR!!」

 

 先に動いたのは大ムカデだ!その長い巨体を波上に折り畳み、一瞬で伸ばす事で飛翔!ミサイルさながらの突進だ!ソニックブームにより木々がなぎ倒され吹き飛んでゆく!ニンジャと言えど、当たれば即死は免れない質量弾。

 

(((誤れば死ぬるぞ)))

 

(((覚悟の上よ!)))

 

 しかし、そのあまりにも愚直な突進は。

 

イヤーッ!!

 

 ニンジャスレイヤーにとっては格好の的に他ならない!おぉ、見よ!嵐のようなスリケン連打が大ムカデの突進を堰き止めている!否、堰き止める所の話では無い!スリケンの嵐は大ムカデの巨体に亀裂を生じさせ、徐々に、徐々に二つに割いてゆく!しかし先程はかすり傷にしかならなかったスリケンが何故?その答えは、ニンジャスレイヤーの投げるスリケンの先にあった。

 

「イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!イヤーッ!」

 

 執拗にスリケン投擲、スリケン投擲、スリケン投擲!ニンジャスレイヤーの手元から一秒に五枚ものスリケンが射出されてゆく。そしてその全ては、最初の一撃で大ムカデへと突き刺さったスリケンへと降り注いでいた!針のように細いスリケンの頂点へと頂点をぶつける事で効率よくスリケンの破壊エネルギーを伝達し、僅かに刺さっただけのそれを、大ムカデの分厚い甲殻の内側へとめり込ませていたのだ!雨垂れは石をも穿つ。大ムカデにとっては石つぶてに過ぎなかったはずのスリケンのエネルギーは、今や大ムカデの単純なニューロンに死をはっきりと連想させる物へと変貌していた。

 初めて体験する原始的な死の恐怖、絶対強者たる自分の前に現れた死神の姿に百戦錬磨の大ムカデの足が止まり、本能めいた思考が一気に鈍る。逃亡か、応戦か。二択の選択を選ぶまでの僅かな時間。

 

イィィィィッ……

 

 それこそがイクサにおける最大の悪手であると告げるように、ニンジャスレイヤーの背中に縄めいた筋肉が浮び上がる!極限まで捻った上半身、大きく伸ばした右腕の指先に挟まれたスリケン!そこから放たれる技は即ち!

 

ヤァ──────────ッ!!

 

 暗黒カラテ技、ツヨイ・スリケン!

 

AAAAAAAAARGH!?

 

 高速回転するスリケンが突き刺さったスリケンと歯車のように噛み合い、共に高速回転!回転ノコギリの如く大ムカデの身体を両断する!金切り声めいた断末魔を上げ、体液を飛び散らせながら大ムカデは絶命した。鮮やかな、誰の目にも明らかな決着。しかしニンジャスレイヤーは未だジュー・ジツの構えを取り続ける。奇妙な光景だ。

 

「「イヤーッ!」」

 

 もう終わったのでは?と素朴な疑問をリンノスケが投げかけようとしたその時、突如飛来したハチめいたアンブッシュキックとニンジャスレイヤーのカラテパンチが交差する。金属が衝突するような異音が響き、森が一瞬明るく照らされる。

 

「ドーモ、ニンジャスレイヤーです。下らぬアンブッシュは終わりか?」

 

 互いに距離をとると、ニンジャスレイヤーは片手で会釈するようにオジギした。

 

「……えぇ終わり。よく気づいたね、完璧なアンブッシュだったつもりなんだけど」

 

「それだけ酒気を帯びていれば、嫌でも気付く」

 

 ニンジャスレイヤーがそう指摘した通り、目の前の人影からは微かにアルコール臭が漂っていた。深呼吸によりこれを感じとったが故に、ニンジャスレイヤーはアンブッシュの気配を事前に察知したのだ。

 

「そう。しかし残念だね、大人しく私のペットに殺されてれば、一人くらいは生きて帰れたかもしれないのに」

 

 それを受け、飛来した影は纒わり付くようにして身を隠すクロークを片手で払い除け、ニンジャスレイヤーとその後方に控える二人を纏めて見据える。

 

「ドーモ、ハジメマシテ、ニンジャスレイヤー=サン。()()()()()()()()()……改め、ファイアフライです」

 

 そうして姿を現した緑髪の少女は、危険なアトモスフィアを伴うニンジャとして名乗りを上げた。

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