魔法の森の奥へと辿り着き、キリサメ・マリサとアイサツを交わすニンジャスレイヤー。
しかしニンジャスレイヤーがミニ八卦炉を見せた瞬間、キリサメ・マリサはニンジャスレイヤーへとその銃口を向けるのだった……
リベンジ・ニンジャ・アヴェンジ・ガール #1
「ハジメマシテってやつだな。会えて嬉しいぜ、ニンジャスレイヤー=サン。私がキリサメ・マリサだ」
月下に照らされ合皮製のジャケットが薄らと光沢を帯び、金糸のような細やかな髪が風になびき広がる。サファイアのような光沢を帯びた碧目に、幼くあどけないような、しかし冷徹な戦士の面影を見せる少女は、ニンジャスレイヤーの挨拶を受けそうにこやかに答えた。
「さて、私は下らんジョークが嫌いでね。オマケに短気だ。イライラすると引き金が軽く感じるんでな、要件は簡潔に、面白く頼むぜ?」
しかしそれが演技であると言わんばかりに、その手に握られた大口径の銃口をニンジャスレイヤーへと向ける。明らかに危険な代物だ。ニンジャといえど、直撃すれば命は無いことは明白である。
「……では簡潔に述べよう。ワタシはキリサメ・ダイフ=サンの遣いだ。オヌシにこれを届けるよう命じられて来た」
ニンジャスレイヤーは、懐の小包にしまっていたそれを見せつけた。光の加減で七色に変わる色彩、ネオンライトめいて中心で光り輝く"霧雨"の文字。足のついた、八角形の奇妙な物体。ミニ八卦炉か?しかしその風貌は、あの日託されたものとは到底……。
「馬脚を現したな、イディオットの蛮族め!」
それを視認した途端、キリサメ・マリサの後方に控えていたカミキが声を荒げた。サラリマンとは思えない非常に口汚いスラングだが、しかし言葉すら取り繕わないその姿勢が、逆に談合で述べたカミキの発言の真実味を増させていた。
「随分な言いがかりだな。紛うことなき本物の八卦炉ではないか」
「
「……」
その言葉にニンジャスレイヤーは沈黙し目を伏せた。後ろでは、リンノスケがオロオロとニンジャスレイヤーとキリサメ・マリサを交互に見ている。
「最早語ることもありません、賊は間違いなくこやつです!マリサ=サン!」
「成程な。……一応聞いておこう、なにか言いたい事はあるか?ニンジャスレイヤー=サン」
「……」
その問に対する解もまた沈黙。赤黒のニンジャは左右にかぶりを振ると、静かにキリサメ・マリサを見上げた。
「……そう、か。よく分かった、私の撃つべき敵がな」
ガチャン、という重苦しい音と共に、手にした大口径の長銃の銃口が、照準が、その電光がニンジャスレイヤーの眉間へと合わせられる。その黄金色の、酷く冷たく無機質な瞳にニンジャスレイヤーの姿が映し出される。
「これでサヨナラだ、クソッタレのニンジャ野郎。イヤーッ!!」
ZAAAAAAAAAP!!!
「グワーッ!!」
夜の森に、閃光と悲鳴が木霊した。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
一方その頃、サカタはアリスと妖精達の警護を受けながらシェルタールームへと誘導されていた。LEDライトがチカチカと点滅し、薄汚れたコンクリートの床と赤錆の目立つ凸凹の壁に囲まれた長い廊下を照らし出す。その最奥、金庫めいたハンドル付きの重厚な扉の左右に存在する『安全』『安心』のネオンボンボリ。誰が見ても間違えようのない、あからさまにセーフティールームへと続く扉だ。
「イヤーッ!!」
唐突にアリスが扉の横の壁面を殴りつける。安心して欲しい、彼女の気は確かだ。それを示すように、ガラガラと音を立てて崩れた壁面の下から生体認証パネルが出現し、叩きつけられた拳の表面上からDNA情報を読み取っていく。ブゥーンと、ノイズめいた識別音が数秒なり続けた後に『認証確認 ダゼ』と女性のものと思しき合成音声が響く。次の瞬間、蒸気と共に舵輪めいたハンドルが高速回転し、分厚い金属扉が自動的に開かれた。中には明かりのひとつも無く、木霊してくる風切り音もあってか非常に不気味だ。
「こ、この奥でよろしいので……?」
アリスは手を擦り合わせながらそう尋ねるサカタに口で返答はせず、顎で奥へと進むように指示をした。
「ダイチャンはここで警護だ」「ヨロコンデー!」
指示を受けると即座に踵を返し、仁王立ちの姿を見せるダイヨウセイの背を視界の端に追いやりながら、三人は真っ暗なシェルタールームへと足を踏み入れて行く。チルノが最後に扉の縁を跨ぐと、地鳴りのような音を立てながら再びドアが閉まる。室内は完璧な暗闇に包まれた。
「あの〜……」
「指示があるまでここで待機」
「は、ハイ!」
自分の手すらまともに見えぬ暗闇、加えて耳をすませば、狼の遠吠えや小鬼の邪悪な笑い声が微かに聞こえてくるような環境下。まともな人間ならば数分と持たずに恐怖から来る幻覚を見出すであろう状況に思わず口を開いたサカタを制しつつ、アリスは静かにライターの火を灯し、口元の葉巻に火を付けた。
甘ったるい香りと共に、コホコホとむせるような音が聞こえてくる。
「ったく、アロマでも炊いときゃ良いだろうに。……さて、待ち時間無言で待つのも暇でしょう。その間幾つか下らない質問をしても?」
「は、ハイヨロコンデ。なんでしょう?」
煙をぱたぱたと手で掻き分けながら、アリスはサカタへと向き直った。葉巻の小さな光が、僅かにその口元だけを照らし出す。サカタはごくりと唾を飲み込みながら、アリスの方向へと向き直った。
「それはどうも。キリサメ・コーポに入社してからどのくらいで?」
「一年と少しです、ハイ。コーポの方々、特にキリサメ社長には親切に接して頂きまして……」
一見まともな返答であるように見えて、サカタの回答は実に中身のないものだっだ。少し、と具体的な日数を濁しつつも一年と前持って宣言しておく事で具体性のある回答であるかのように見せる実に巧妙な手口だ。対人経験豊富な人事の者で会ったとしても、違和感を持つものが果たして何人いるだろうか。
「キリサメ・コーポはとっくの昔に零細企業に成り下がったと思っていたけれど、そんなに居心地良かった?」
「ハイ、商談のやり方までご指導頂きまして。……そうして何とか働いている中突如やってきたのがあの悪魔、ニンジャスレイヤーだったのです」
ギリギリと歯ぎしりをしながらそう答えるサカタ。一切の反応を示さないものの、深呼吸していることを示すように葉巻の灯りがチリチリと音を立てて後退する。吐息と共に、白い煙が辺りへと広がってゆく。
「社長は、我々従業員を押し退け一人あの邪悪なニンジャに……!」
「そこから急いであの写真を撮ったわけね」
「エェ、あのニンジャの素性を明らかにし、必ず仇を取るべく……」
「……わざわざ戻ってきて、逃げるニンジャの後ろ姿を、それもバレずに撮った訳か?」
その言葉を境に、場の空気が凍り付く。不気味な雰囲気を押し退けるような、一触即発と言わんばかりの緊張感が急激に辺りへと立ち込める。
「更にはマッポも呼ばずに戻って来ました、と。らしくも無い粗だ、随分痛手を負ったと見える。キリサメ・ダイフの名前を出せば勢いで誤魔化せると思ったか?それを狙うにはちと遅かったな」
「……いつから勘づいていた」
サカタの声色が一段低いものへと切り替わり、瞳孔が大きく開く。大型殺人メキシコライオンめいた、闇夜の中で光る鋭い眼光がアリスを、目の前の女を捉えていた。明らかにごく普通のサラリマンの気配では無い。もっと恐ろしく、しかしカタナのように冷たく、それは正しく……。
「たった一日さ、たった一日、アイツらの方が早く来た。笑える話だろ?血みどろのままここまで走ってくるような馬鹿がいなけりゃ、私は末代の笑いもんになってたかもしれないんだぜ」
そう呟くと、サカタの目の前の少女は指で葉巻を弾き捨てた。
「イヤーッ!」「グワーッ!」
カラテシャウトが響き渡る!誰よりも先に動いたのは……チルノだ!壁のブレーカーに手をかけると、レバーを下へと勢いよく引く!次の瞬間、眩い光に室内が包まれる。葉巻を無意識に目で追っていたサカタの視界を白色のLEDが包み込んだ!完璧なタイミングで放たれた目眩しだ!
「イヤーッ!!」「イヤーッ!」
そこへアリスから追撃として放たれる縦拳!音を頼りに出処を探知すると、前腕を盾のように構えつつ軌道を逸らす!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
そこへ追撃として放たれる裏拳!音を頼りに出処を探知すると、咄嗟に屈み拳を躱す!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」
そこへ追撃として放たれる縦拳!音を頼りに出処を探知すると、前腕を盾のように構えつつ起動を逸らす!
しかし入射角が深い!拳と共に前腕が後方へ流れる!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「グワーッ!」
追撃に走るアリスの上体を、強烈な後ろ回し蹴りが捉える!その光景を見てウカツ、とアリスを叱責する者は居ないだろう。到底常人とは思えぬ反射速度、むしろ咄嗟に防御姿勢を取っただけでも賞賛されるべきワザマエだ。
「イヤーッ!」「グワーッ!」
しかしそれでも、その程度では足りないと言わんばかりにサカタが迫る!まだ焦点の合わぬ瞳でアリスの輪郭を捉えると、心臓部目掛けて迅速の掌底打ち!ゴウランガ!何と恐るべき威力か、拳が背中へと突き抜ける!!しかし!
「人形……!?」
枯木がへし折れるような異音と手に伝わる冷たく無機質な感触から、自身が打ち抜いたそれがなんであるかを即座に見抜くサカタ。
「貰うぜ、アリス=サン!シャンハイ!」
「シャンハーイ!」
「グワーッ!!」
その分析の時間を突いた、渾身のクグツ・ベアハッグが炸裂する!シャンハイは胴体を貫かれている事すら意に介さずサカタの身体を鷲掴みにすると、後方の壁へと一直線に突っ込んだ!
「グ……ドラム缶……?……貴様何を!?」
ガランガランと金属製の円柱が辺りへと散らばる。ぼやけた視界でも当然わかる、ドラム缶だ。妙なのはその中から、何やら液体が揺れるような異音が薄らと聞こえて来ることだ。それに煙草の匂いの中で微かに香る、この油くささは……?その瞬間、サカタの脳内で点として点在していた情報が線として一つに繋がる!
「イヤーッ!……ヨーセイッ!貴様ッ!」
即座にシャンハイを振りほどかんとするサカタ。しかしサカタのスーツとシャンハイ人形が、否、それだけでは無い!ドラム缶までもがスーツへと張り付いている!その隙間に見えるのは氷だ!氷が接着剤のようにサカタとドラム缶らをくっ付けているのだ!
「あの世で親父に詫びてこい!イヤーッ!!」
サカタの前方から、少女の声が響いた刹那
KA-BOOOOOOOOOM!!!!
壮大な閃光と爆炎が一瞬にして炸裂し、地鳴りめいた振動と爆音が大気と大地を揺らす。轟々と巻き上げられる黒煙の中から姿を現したのは、純白のスノードームだ。電気を付けた瞬間から作り出していたであろうその氷壁の分厚さは軽々と一尺はあるだろう。爆風を凌ぎきるにたる防御能力があるとひと目でわかる、シェルターめいたドームだ。中の人影は二人。チルノと、その横に立つ白黒のドレスに古典的な魔女帽子が特徴的な、金髪の少女だ。
そしてその対岸から、ゆらりと白いオーラが立ち昇った。サカタか?否、それは半分不正解だ。漆黒の焙烙頭巾にすす焦げたような長ローブ。そして手に握られたスリケン。サラリマンのサカタの手に握られているはずのないその獲物こそが、その男がニンジャであると示していた。
「イヤーッ!!」
迅速のスリケン投擲!スノードームを容易く貫通!しかし!
「イヤーッ!」
七色の光弾がスリケンを撃ち落とす!何たる反射速度、そして威圧的な構えか!白黒の少女が撮るその構えは、暗黒武道ピストルカラテの構え!両手には星の浮かび上がる青い宝石の埋め込まれた、銀色のチャカ・ガンが握られていた。なんと恐るべき事実か、それは魔法でも科学でもない、魔法と科学の混ざりあった、マジカル・チャカ・ガンである!弾切れ知らずのコスモガン!それが二丁!
「……モータルに出し抜かれたのは初めてだ。いや、侮りのせいか?」
「下らんプライドのせいさ。多方、私の手でニンジャスレイヤー=サンを殺させたかったんだろう?親父の思いも無下にする為にな。そのなんの足しにもならんプライドを捨てきれんかった時点で作戦もクソも無かったんだよ」
白黒の少女のその指摘に思い当たる節があることを示すように、そのニンジャは眉に深いシワを寄らせた。そして静かに、カラテの構えを……コッポ・ドーの構えを取った。
「貴様に敬意を表して名乗ろう。ドーモ、ソウカイ・シックスゲイツ、ディスセンブルです」
そのニンジャは……そんな馬鹿な!?キリサメ・ダイフと道ずれになったはずのディスセンブルだ!偽物か?しかしその構えは、あの日と同じ油断ならぬカラテ熟達者のそれである。
「……ドーモ、初めまして、ディスセンブル=サン。……キリサメ・マリサです」
それに相対するように、両手には銀色のチャカ・ガンを。背には箒を。そして腰には八角形の、あの日ニンジャスレイヤーに託されたミニ八卦炉を吊り下げながら。
「私も初めてさ、家族の弔い合戦はな」
魔法少女は不敵に微笑んだ。