ニンジャ・ビジット・ゲンソウキョウ   作:ハングネック

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エンカウント・ゲンソウガール #2

 マッポすら疲れ果て家路を辿るウシミツ・アワー。ニンジャスレイヤーとルーミアによる激闘が繰り広げられる一方、ゲンソウキョウのマヨヒガではニンジャとヨーカイによる密談が繰り広げられていた。

 

「ドーモ、ヤクモ・ユカリ=サン。スライです」

 

「ドーモ、スライ=サン。本日は如何なさって?」

 

「ホーッ、ホーッ!! お人の悪い……例のクローンカッパヤクザ人里導入の件のお返事を聞きに参りました」

 

 木と紙により作られた伝統的フスマが開かれ、互いにアイサツが交わされる。

 

 スライと名乗るのは顔を眼鏡のごときメンポで隠したサラリマン。否、ニンジャだ。首元のネクタイにはカタナを交差させたようなマークが光っている。伝統的ヤマトアトモスフィアを感じさせるクロスカタナ・エンブレムだ。

 

 スライと名乗る忍者の後ろには全く同じ顔をした五人の男が立っていた。

 否、顔だけではない。体格、ダークスーツ、ガン飛ばしのタイミングまで全て同じだ。更に頭頂部には皿。なんとブッダを恐れぬ所業か!あれはヤゴコロ製薬とカワシロ工業により共同開発された、クローンカッパヤクザだ!!

 

 通常のネオサイタマ市民であれば非人道的行いに恐怖し失禁していたかもしれない。しかしながらヤクモ・ユカリに混乱の様子はなかった。その胸は豊満であった。

 

「前も仰ったようにカッパヤクザを人里に導入するつもりなどありません。そもそもこのゲンソウキョウにあなた方……”ソウカイ・シンジケート”を介入させるつもりもありません」

 

「「「「「ザッケンナコラー!!!!」」」」」

 

 なんと大胆不敵なモノイイ!! これを見過ごせぬと言わんばかりにクローンカッパヤクザが口を開く。ヤクザスラングだ!! コワイ!! 

 

「「「「「テメッコラー!! ケジメッコラー!! スッゾオラー!!」」」」」

 

 さらに捲したてるようにヤクザスラング!! 同時に一糸乱れぬチャカ構えだ!!リアルヤクザと言えどこれには失禁を免れなかったであろう。しかしながらヨーカイ、ヤクモ・ユカリは未だに冷静だ。

 彼女はゲンソウキョウきっての古参ダイヨーカイであり、ゲンソウキョウと外を隔絶する境界を管理する役割も持つゲンソウキョウにおける重役である。当然ながら、その精神力は人間とは比べ物にはならない。

 

「……ヤクモ・ユカリ=サン。前も言ったはずです。ゲンソウキョウにおけるニンジャ被害者は未だ増えるばかりです。その度に心を痛める家族が生まれ、その傷は一生消えることはありません」

 

 そんなクローンカッパヤクザを制止しつつ、スライが口を開く。

 サラリマンめいたニンジャのショウダントークは過剰なまでに丁寧だ。

 

「ですがカッパヤクザであれば死んでも誰も悲しまない! それどころかニンジャに対して武力による抵抗もできる! 実際安心、心置き無く生活できるようになるでしょう。分かりますかヤクモ=サン。私はゲンソウキョウの為を思いクローンヤクザのご利用を推奨しているのです」

 

 なんたる欺瞞! ヤクモ・ユカリのカンニンブクロはふつふつと暖まっていた。人を疑わぬ善良なネオサイタマ市民ならば騙せたであろうがヤクモ・ユカリはそこらのモータルとは訳が違うのだ。

 

 ゲンソウキョウにて多発するニンジャ関連の事件がソウカイ・シンジケートの手の者によることは見抜いている。しかしながらそれを口に出したとしても無駄な事なのだ。

 

 どう足掻いてもその事実は揉み消され、良くて先のクローンヤクザのシツレイを理由に目の前のニンジャにケジメさせる程度が限界だろう。最悪ソウカイ・シンジケートとの総力戦になるやもしれない。

 故に沈黙。スライもそれを見抜いてか陰湿な笑みを浮かべる。

 

「イヤーッ!!」

 

「「「「「グワーッ!」」」」」

 

 突如フスマを裂き鋼鉄の影が飛びこんでくる。

 チャカを抜く暇もなく、クローンカッパヤクザの首が一斉に吹き飛び即死!緑色のバイオ血液が噴出し、青臭い臭気を発する。鎌のごとき恐ろしき蹴りだ! スライは側転回避により無傷! 

 

 乱入者は背中から火花を散らしそのままヤクモ・ユカリに暴れバッファローめいて突進! ナムサン! 神速のチョップ突きだ! 

 

「イヤアババーッ!?!?」

 

 放たれたチョップ突きは突きを放った襲撃者の胸を貫通! 

 胸からシャンパンの如く血飛沫が散る。一体何が起こったのであろうか? その答えはヤクモ・ユカリの前と襲撃者の背中に開いた奇妙なサケメホールを見れば、東方ヘッズの皆様ならすぐに分かるだろう。

 これこそがヤクモ・ユカリの能力であった。空間と空間の隙間を繋げることで、己に放たれたチョップ突きを侵入者へと返したのだ。技を見切り、適切なタイミングでサケメ・ホールを展開しなければ成立しないカウンター、一秒にも満たない一連の流れであったが、それだけでヤクモ・ユカリが如何に強大な存在であるかを明確に示していた。

 

「チッ……イヤーッ!!」

 

「アバーッ! ラフォートです!! サヨナラ!!」

 

 瀕死の襲撃者をスライの回し蹴りが仕留める。フスマを再度突き破りながらミサイルめいて飛翔! 名乗りと共に爆発四散した。襲撃者はニンジャであったのだ。インガオホー。シツレイなニンジャに相応しい最期である。

 

「ドーモスミマセン。サンシタに尾けられたこちらのミスです」

 

「ミスは誰にでもあります」

 

 スライは丁寧にオジギをした。

 自らのミスを素早く認める、カチグミコースのサラリマンを彷彿とさせる丁寧な行動だ。その一連の動作はとても奥ゆかしい。ここで責めたてていれば、ヤクモ・ユカリはムラハチされていたことだろう。

 

「この件と先程の話の結論も伝えねばならぬので私は帰宅します。オタッシャデー!」

 

「ハイ、オタッシャデー」

 

 オジギのまま繰り出されたのは別れのアイサツだ。なんとワビサビを備えた会合であろうか。実際奥ゆかしい。

 しかしながら同時に、この会合は両者の力関係を明確に表していた。

 

 重金属雲の隙間から日光が見える。ネオンすらかき消す日の出とは裏腹に、ヤクモ・ユカリの胸中は酷く沈んでいた。

 

 

 

 

 一方その頃、ニンジャスレイヤーの意識はニューロンの中をバイオヒトデのように漂っていた。

 

「……きよ……お……キド」

 

 ニンジャスレイヤーの脳内ニューロンにおどろおどろしい声が響く。しかしながらその声に耳を傾ける気力すらわかぬまま、ニンジャスレイヤーの意識はニューロンのフートン的安らぎの中へと沈みこんでいく。

 

「お……ケンジ……ニン……」

 

 届かず。ニューロンの深淵の如き闇がマネキネコめいてニンジャスレイヤーを引きずりこむ。

 

「マルノウチでの悲劇を忘れたか」

 

 刹那、ニンジャスレイヤーの目にセンコめいた灯りが灯った。

 

「ニンジャを殺せ……殺すために起きるのだフジキド……」

 

「ニンジャ……殺すべしっ……!」

 

「そうだ、ニンジャを殺すのだ!」

 

「マルノウチ……! ソウカイ・シンジケート……! ザイバツニンジャ……! フユコ、トチノキ……!!」

 

 フートンを燃やし尽くすような黒炎がニンジャスレイヤーの身体から立ち上る。その姿はまるでサンズ・リバー帰りの死神のようだ。

 

「「ニンジャっ!! 殺すべしっ!!!」」

 

 その言葉と共に目を見開いたニンジャスレイヤーが目にしたのは、見知らぬ天井であった。脳内ニューロンに混乱が走るも素早い状況判断。ニンジャスレイヤーは己のメンポと頭巾が枕元に置かれ、身体に包帯が巻かれていることを瞬時に悟った。

 

「あら、起きた? ドーモ、ハクレイ・レイムです」

 

「ドーモ、ハクレイ・レイム=サン。ニンジャスレイヤーです。オヌシ、何者だ」

 

 オジギとアイサツはいかなる場合でも欠かしてはならない。優先順位を履き違えないのはとても丁寧だ。ハクレイ・レイムの服装は極めて奇怪であった。脇を丸出しにした、マッポーカリプスめいた服装だ。新手のオイランであろうか。

 

「私はこのハクレイ・シュラインのミコよ。あんたこそ何者なのよ、ニンジャスレイヤー=サン」

 

 女はミコであった。即ちミコガールだ。なんとミコらしくない服装であろうか。

 

「私は……」

 

「レイム=サン、人里から薬を……アイエエエ!? ニンジャ!? ニンジャ復活ナンデ!?」

 

「ヌゥッ!? 化けて出てきたか!! オバケめ!!」

 

 言葉を遮りNRS(ニンジャ・リアリティ・ショック)を発症したのは金髪の少女。ニンジャスレイヤーが昨日確かに爆発四散させたオバケガールだ! これにはニンジャスレイヤーも思わず困惑! 

 

「オバケ? ……なーんだ、まさかとは思ってたけどやっぱりソウカイニンジャじゃないのねアンタ」

 

「……ソウカイニンジャ……? なんだグワーッ!?」

 

 ルーミアを見たニンジャスレイヤーの慌てふためきようを見て、ハクレイ・レイムは厳かに笑った。

 しかしながらニンジャスレイヤーは冷静さを失い再度出血。傷口から鮮血がにじみ出る。

 

「ヌウゥッ……! ソウカイ・シンジケートが、ネオサイタマに復活したというのか……!?」

 

「ね、ネオサイタマ……?」

 

 ニンジャスレイヤーは酷く興奮した。

 それもそのはず、ソウカイ・シンジケートとは彼にとって討ち滅ぼしたはずの組織の名であったのだ。ラオモト・カンとの死闘。マッポーカリプスめいた光景に変わるネオサイタマ。

 あの夜のことを忘れられるはずがない。未だにニューロン内のフートンの中で夢を見ているのだろうか? 

 

 その思考を遮るように響く足音。一切ズレぬリズムを保つその足音はさながら機械のようだ。

 ゴウランガ! ソウカイ・シンジケートより派遣されたクローンヤクザ部隊だ! 馬鹿な、ニンジャスレイヤーの情報は未だ漏れていないはずだ! 

 

「……ドーモ、エェ? ハクレイ・レイム=サン。ルーミア=サン。スライです」

 

「「「「「ドーモ!!」」」」」

 

「ドーモ、ハクレイ・レイムです」

 

「ど、ドーモ……」

 

 重体の身体を起こさんとするニンジャスレイヤーを匿うようにフスマを閉めれば、嘲るようなアイサツが飛んでくる。カンイッパツ!! クローンヤクザを引き連れてきたのはソウカイニンジャのスライだ。オジギとアイサツが両者の間で交わされる。

 

「なんの用かしら。ニンジャに来られる理由なんてないと思うんだけど」

 

「ホーッホーッ! 確かに、ニンジャとしての用はありませんよ」

 

 NRS症状を再発しかけるルーミアとは対照的にハクレイ・レイムは至って冷静だ。

 

「してハクレイ・レイム=サン……例のヨーセイの子らはお元気ですか?」

 

「えぇ、おかげさまでお元気よ」

 

「そうですか……ですが残念ながら、あなたに追い返されたラフォート=サンは今朝息を引き取りました」

 

 嘘である。ラフォートを消したのは紛れもなく目の前のスライなのだ。

 それを知らなくても、ニンジャが少し殴られた程度で息を引き取るはずがないということはハクレイ・レイムも十分知っている。

 

「怪我の状態から見てもアナタから受けた傷が原因であることは明白です。となれば当然、アナタには被害者の治療と入院にかかった費用と、ラフォート=サンの親族に対する賠償金を支払う義務があります」

 

 スライの眼光が、獲物を狙う殺人ピューマのごとくいやらしく光る。

 

「ですのでアナタには数千万では済まされぬ金額を支払って頂かなければ……払えないのであれば代わりとしてこのハクレイ・シュラインを明け渡して頂かなければならないのですが……それはそれとして、今回はソウカイ・シンジケートのサラリマンとして1つお願いをしに来ました」

 

 スライのメンポが歪み、凶悪な笑いが写し出される。鬼瓦の如き形相! ニンジャが放つ強烈な威圧感を感じたバイオスズメが一斉に飛び立った! 

 

「アイエェ……」

 

「……して、そのお願いとは? スライ=サン」

 

 ルーミアがしめやかにNRS症状を発症する。無理もない。ニンジャスレイヤー、スライと立て続けにニンジャを見たのだから。

 善良なムラビトであれば既にショック死していたことであろう。

 

「今回の件を見逃す代わりにヤクモ・ユカリを黙らせてください」

 

「「「「「オネガイシマス!!」」」」」

 

 クローンヤクザが一斉にケースを解放。中から出てきたのは大量のコーベインだ! 純金製のコーベインは日光を反射させ、ネオンめいて輝いている。

 

 なんと凶悪なお願いか! 断れば賠償金代わりにハクレイ・シュラインは買収されソウカイ・シンジケートの領土となってしまうだろう。ゲンソウキョウにおいて、このハクレイ・シュラインがいかなる意味を持つのかをハクレイ・レイムは誰よりも知っている。

 

 しかしながら受け入れたが最期ナムサン! ヤクモ・ユカリの努力は水の泡となりゲンソウキョウ中にクローンヤクザが蔓延ることだろう。

 おぉ、ブッダよ! 寝ておられるのですか! 

 

「ホーッ! ホーッ! さぁ早く決断的返事をして下さい! ハクレイ・レイム=サン!」

 

 スライの勝利を確信したかのような卑しい笑いを聞き、ハクレイ・レイムは屈辱と怒りで顔を歪める。

 

「ソウカイ・シンジケート……! ソウカイニンジャッ……!!」

 

 しかしながらスライは知らない。ネクタイのソウカイ・シンジケートのエンブレムを見て怒りに打ち震えるものがいることを。かつてソウカイ・シンジケートを1人で滅ぼした、ネオサイタマの死神がフスマの奥にいることを! 

 

 太陽はサンライズしながらもマッポーめいたゲンソウキョウ。誰も口にはしないが、皆ゲンソウキョウに未来など無いことを確信している。しかしながら今この瞬間、ゲンソウキョウの運命は、1人の男の存在により大きく動き出したのである。

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