ニンジャ・ビジット・ゲンソウキョウ   作:ハングネック

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イノセント・ジェイル #2

「それじゃあ、あの壁を超えるための手段について軽く説明していくぜ。長話になるんでな、ゆっくりしてくれ」

 

 ディスセンブルとの死闘の後、キリサメ・マリサ達は密かに会談を行っていた。ニンジャスレイヤーにとってそれはキリサメ・ダイフに託された八卦炉の、そしてその際にかけられたあの言葉の真意を尋ねるためのものであった。

 

「して、どのようにあの壁を超える。マリサ=サンの箒にでも乗るのか」

 

「ハハ、そいつで行けりゃ苦労しないんだけどな」

 

 そう苦笑いを零しながら彼女が壁に貼ったのは手書きの地図であった。

 

「魔法の森がここ、んでもってその左にあるのがあの城だ」

 

 キリサメ・ダイフに習ったような手書きの地図の中央には、やはりオオサカ・キャッスル・ピラーの図。その周辺にも何やら殴り書きで文字が記されている。彼女は隠匿生活の中で情報を集め、得た情報をこの地図へと密かに書き足し続けていたのである。

 

「当然ここにまっすぐ向かうと自殺行為だ。そこで次に私たちが向かうのがここ、ヨーカイの山だ」

 キリサメ・マリサは魔法の森を指し示していた指をつついと地図の左上へと走らせると、ヨーカイの山、と大きく書かれた箇所を強く指し示した。ヨーカイの山、ニンジャスレイヤーがハクレイ・シュラインから見たあの送り火のあった山だ。

 

「反ソウカイ・シンジケート思想を掲げる者共と合流するのか?」

 

「あー、そう出来りゃ良かったが、どうもそいつは罠くせぇ。なんてったってお山のてっぺんにいるのはシックスゲイツだからな。背中にでけぇ柱背負ったやつだ、見たらすぐわかるぜ」

 

(((柱……あの時の者か)))

 

 驚愕の事実!ヨーカイの山は既にソウカイ・シンジケートの手に落ちていたのだ!しかしそれならば尚更、なぜヨーカイの山に?という疑問を視線として出力するニンジャスレイヤー。

 

「私らが行かなきゃならんのはヨーカイの山の地下……カワシロ工業本社だぜ」

 

「工業施設?飛行船でも奪うのか」

 

「いーや違う、私らが奪うのはこいつさ」

 

 飛行船、あるいはジェット機か?至極当然に浮び上がるその疑問を即座に切り捨てると、懐から取りだした写真を勢いよく机に叩きつけるキリサメ・マリサ。そこに映っていたのはなんとも可愛らしい顔の描かれた円柱状の……いや、待って欲しい、飛翔体めいたこの形状は……!?

 

「……これは?」

 

ATICBM(自律思考大陸間弾道ミサイル)、通称()()()()()だぜ」

 

 オオサカ・キャッスル・ピラーへと突撃する唯一の道、それはミサイル!この光景を見ていれば、ブッダも腹を抱えて笑うだろう。それほど荒唐無稽な、であるが故に対策などしないであろう一手!

 

「こいつのエンジンを動かすためにミニ八卦炉が必要なのさ。あたしのオカンの肩身2号だぜ」

 

 それはダンマク・ゴッコ裁定以前の話、彼女の母親が死闘の末異世界からもぎ取った一つの兵器である。ニンジャ往来以前にカッパの研究施設に維持と点検のために預けられ、未だ保持され続けている代物。それがこのミミちゃんなのだ。

 

「ならば早速……」

 

「直進と行きたいけどな。そうしちまうと十中八九死んじまう」

 

「……何故だ?」

 

 行先は確かなものとなり、そこで行わなければならない目的もはっきりとした。にもかかわらず、この返答は?

 

「戦力差が洒落にならん。ヨーカイのニンジャだって少なくない。それに何より……あの山には()()()()()()()()()()()()カミサマのニンジャが居るんだよ」

 

 それはあまりにも恐ろしい事実であった。キリサメ・マリサとヨーセイカルテットに人形の数々、そして万全に近しいニンジャスレイヤー。これだけの戦力を持ってして辛勝であったディスセンブル。彼こそがシックスゲイツ最強だったと仮定したとしても、それよりも強大な相手が確実にいる状況。加えて配下にファイアフライのようなヨーカイのニンジャが……?無策で突っ込めば正しく玉砕。足踏みをするに留まるに足る理由を聞き、ニンジャスレイヤーは静かに地図に視線を落とした。

 

「アンタをこいつで送り届けられりゃアタシたちは死んでもいいが、それまで死ぬ訳には行かん。つまり私たちがまずしなきゃならんのは戦力の増強だ。その為に私達に味方してそのままヨーカイの山まで着いてきてくれる物好きを探さんといけないぜ」

 

「アテはあるのか」

 

「あるぜ。……たった二人、とびきり頼りになる奴らがな」

 

 とても浮かれているとは言えない渋い顔をしながら地図を見るキリサメ・マリサの表情で、ニンジャスレイヤーは現状がどれほど不利なのかを悟った。今から行うのは決死行、それを覚悟できる者が果たして何人いるだろうか……?候補として上がりそうなアリス=サンも、今は人形の修復とヨーセイカルテットクランの面々の護衛に付きっきりだ。つまり現状、彼らの戦力数はたったの現状二、リンノスケを含めてもたったの三。強大な敵に挑むにはあまりにも絶望的な数字であった。

 

「けどその居る場所ってのが問題だ。特にここが厄介だ」

 

「……なるほど、ここか」

 

 地図上に示されたいくつかの地図記号。そのうちの一つ、牢獄を表す箇所につけられた赤い丸。そこは小兎カスタマーセンター。収監された人間をソウカイヤの従順な犬に作り替える(カスタムする)魔の施設。地下百階まで、それぞれに十万人以上は収監出来る監獄塔が三柱、それぞれを三人の看守長が束ねる非人道的洗脳矯正施設なのだ。

 

「この三柱のうちの一つの最下層……そこにアタシらが探してる奴がいるはずだぜ」

 

「なるほど、それで私は拐われちゃったのね」

 

 そこで初めて口を挟んだのは、手足を縛られ床に転がされた人影……紫色の着物を着た赤髪の女性、小兎カスタマーセンターの看守長が一人、コトヒメその人であった。

 

「まぁそういう訳だ。いいか、死にたくなけりゃアタシらに協力して……」

 

「いいわよ〜」

 

「最後まで言わせろよ」

 

 ソウカイヤを裏切り、こちらにつけという脅迫まがいの提案。その問に対する肯定の回答は意外なまでに早かった。

 

「だってだって、職員知らない人ばっかりにしちゃうし、私の檻に勝手に知らない人ぶち込んじゃうし。それに名前だって可愛くないもの。何?カスタマーセンターって」

 

「……あー、まぁそういうことなら三人まとめてよろしく……」

 

但し

 

 縛られていたはずの紐はいつの間にか解かれ、キリサメ・マリサの唇にピタリと人差し指が押し当てられる。先程までの呑気な態度はどこへやら、彼女の瞳は冷たいカタナめいたアトモスフィアを灯していた。

 

「招くのは一人だけよ」

 

「おい、そりゃどういう……」

 

「三人で仲良く潜入して、そのまま囚われのお姫様を解放してトンズラ?……あなた、あの場所を舐めてない?ましてそこのニンジャ君は今やシックスゲイツ殺しのビッグネームよ?疑わしきを収監するだけで警戒態勢よ」

 

 舐めているわけが無い、という反論の言葉はキリサメ・マリサの喉元で留まり下へと落ちていった。この場であの監獄塔に最も詳しいのは今目の前にいるこの女性だ。つまり彼女の見立てでは、仮にニンジャスレイヤーが居たとしても即時解放、即離脱は厳しいのだ。さらに彼女の言うとおりニンジャスレイヤーはシックスゲイツを手にかけたニンジャ、彼女にそれが知れ渡っているということがそっくりそのまま、ニンジャスレイヤーに対する警戒度を示しているのだ。

 

「敵はそこのニンジャ君かあなたが死ねばよし。目当ての人間を抱えて、あなた達を守りながら、監獄から抜けでてそのまま追走を振り切る無理難題……さて、何回コンテニューしたら行けるかしら」

 

 指をおりながら最低限クリアしなければならない条件を数えつつ、「問題はまだあるわ」と続けて口を開くコトヒメ。

 

「何かしらのアクションを起こした時点でシンジケートだって対策に動くわ。時間が経てば経つほど包囲網は厳しくなるし、そのうちその馬鹿げた目論見だってバレる……その様子じゃもう一人の方だって一筋縄じゃ確保できないんでしょう」

 

「……じゃあどうしろってんだ。それじゃあニンジャスレイヤー=サン一人でも厳しいだろ。私が行くにしても……」

 

「……多分、僕が行けばいいんじゃないかな」

 

 話に割って入るように挙手したのはリンノスケであった。恐る恐る口を開きながらその解が正しいか確かめるようにコトヒメの顔色を伺うリンノスケを見て、コトヒメは再び温和な笑みを浮かべた。

 

「待て待て待て待て!リンノスケ=サン一人!?馬鹿言え、死んじまう!」

 

「だから相手も、僕が問題を起こしたとしても監獄塔の戦力で何とかできると考える。少なくともニンジャスレイヤー=サンのように応援を呼ばれたりはしないだろう。それに、僕なら死んだり出れなくなったとしても本来の目的に影響は出ない。……そうだろ?」

 

「そ、れは……そうだけどよ……」

 

 リンノスケの指摘は実際正しい。ただの人間に等しい人物の監視に応援を要請したとあっては監獄塔の沽券に関わる。もしニンジャスレイヤーを収監したかのような対応を取れば、責任者はその行いを恥じカンヅメの蓋でセプクすることだろう。

 

「コトヒメ=サンの言った通りスピードだって重要さ。つまりここでやるべきは()()()()。僕はここで人探しをして、君達はその間にもう一人を確保する。……上手くいく確率は低いだろうけどね、低ければ低いほどリターンが大きいのが賭けの定石だろう?」

 

「……でも、にしたって……」

 

「大丈夫、死なないよ。保証は無いけどそのつもりさ。それに君だって、僕が行くしかないって初めから分かってただろ?」

 

 キリサメ・マリサの脳裏に未だ根付く肉親の死の記憶。しかしそれでも今は危険を承知で死地に飛びこまなければならない。タイガーの赤子はタイガーの巣穴にしか居ないのだ。それを諭すように、同時にその記憶を少しでも払拭するようにそう語り掛けるリンノスケを見て、キリサメ・マリサは無言で項垂れるように頷いた。

 

「……決まりね。それじゃあ連れて行く前に、リンノスケ=サン。歯ぁ食いしばりなさい」

 

「……その手はなんだい」

 

 その様子を見届けると、コトヒメは拳を固く握りしめながらリンノスケへと近付いた。あからさまな程の暴力の気配に思わずたじろぐリンノスケ。

 

(やぁ)ねぇ。無傷で連行したら怪しまれちゃうでしょ?大丈夫、私加減上手いから」

 

「加減が上手い人はそんなギチギチ鳴るほど拳を握りしめないと思うんだがねぇ!?」

 

 反射的に背を見せ逃げ去ろうとするリンノスケ、しかしその襟首を素早くコトヒメが掴みあげる。こうなればもはや、彼は手のひらの上のハムスター同然だ。

 

「もう、男の子でしょう?だったら少しは我慢しなさい。行くわよ──────────」

 

「ちょ、ちょっと待っ……」

 

イヤーッ!

 

アバーッ!?

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

ピガー!ピガー!

 

「何事だ!異物検知!?……また貴様らか!」

 

 けたたましく鳴り響くネオン提灯サイレンを聞きつけ、即座に看守が駆けつける。行先はまたもリンノスケ達の作業炉だ。あからさまに呼称を引き起こすような角度で机がねじ込まれている、異変は一目瞭然だ。

 

「どうやら一回殴られた程度では理解出来んらしいな!怪力だけの木偶の坊が!イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

「貴様もだ!イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 引き抜かれたバイオバンブー製警棒で激しく打たれるリンノスケとタカノリ。作業房で問題を起こせば、ましてやこうもわざとらしく問題を起こせばこうなることは必然。何故彼らはこんな事を……?

 

「イヤーッ!……ン?これは……」

 

「……アッ!それは、その、金で買った……」

 

「喋る許可は出していない!イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 その時タカノリの懐から箱状の物体がこぼれ落ちる。タバコだ。アルミ製のケースの表面には「少し明るい海」の文字。外で忘れ去られた結果流れ着き、こちらで流通されるようになった普遍的なタバコの一つだ。

 

「良いか!労働時間には脱走や窃盗疑惑によるトラブル回避のため預けることが義務付けられている!貴様はその義務を怠った!よってこの所有権は貴様には無い!しかし廃棄は環境にやさしくないので私がこの場で使用する!」

 

「そいつはいくらなんでも……」

 

「喋る許可は出していない!イヤーッ!」

 

「グワーッ!ぐ、クソッタレ……!」

 

 購買の販売品を購入するのは各囚人の自由、しかし労働時間にはロッカーに預け入れることが義務付けられている。看守の言葉は実際正しい。しかし考えて見てほしい。娯楽という娯楽を絶たれ重労働が課せられる環境の中、やっとの思いでかき集めた小銭で買ったオハギ。あなたならそれを無機質な扉一枚しか守るもののないロッカーに入れられるだろうか?そして、たった一度のミスでそれを奪われ、あまつさえ目の前で消費されることを耐えられるだろうか?これもまた矯正プログラムの一環とはいえ、なんと容赦のない行いだろうか。

 

「その反抗的な目また良し!格別!それでは至福の喫煙──────────」

 

 KA-BOOOOOOOOOM!!!

 突如、看守の頭が爆発!ジツか!?超自然現象か!?否、その答えはフィルターに仕込まれたガソリン入りの綿だ!高温の作業室により染み込んだガソリンは気化し、そこに引火することで爆発を引き起こしたのだ!ここ以外であればその異臭に気が付けただろう。しかしこの場ではガソリンの揮発臭はごく普通!更なる不幸は高い紙巻きのワザマエを持つコーシロが居たことだろうか。極度のスモーカーでもなければ、彼の繊細なワザマエで巻かれたタバコを手作りだとカンパすることは出来なかっただろう。ドサリ、と重い音を立てて看守の身体が倒れる。

 

「っ、貴様ら!動くな!両手を上にあげろ!」

 

「馬鹿!ここでチャカは……」

 

イヤーッ!

 

「「グワーッ!」」

 

 突然の事態ではあるが、直ぐに切り替えチャカを構える。何度も繰り返し訓練した、体に染み付いた動作。しかしここではそれは悪手!万が一の引火を恐れ制止するもう一人の看守員。そこへ投げ込まれる、焼けこげた看守の遺体!!タカノリの腕力をもってすれば、人間の身体すら時速100kmを超えて宙を舞う!

 

 KA-BOOOOOOOOOM!!!

 同時期、別棟の看守長室まで爆発音が響き渡る。

 

「……やはりか、女狐が」

 

 並の人間ならパニックになること必然の状況下においても、その男は冷静だ。しかし怒りの程は果たして……?

 

「か、看守長!兎塔にて爆発です!脱獄の可能性アリとの事で、一刻も早く確保準備を……アイエエエエエエ!?」

 

 それを示すように、大蛇めいた異形の右腕が身体を起こす。その姿を見るだけで取り乱す程の、人からかけ離れたフォルム。右腕以外は人でありながらその姿がとても人とは思えぬのはやはりその腕のせいか、あるいは、その威圧感のせいか……?

 

「じゃあテメェら、準備は良いな!?ここからが待ちに待った……」

 

「確保?バカを言うな。ここから起きるのは……」

 

脱獄だ!

 

殺戮だ。

 

 欲望と怨嗟の塔の中で、二つの思惑が交差した。

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