「さぁっ!ハクレイ・レイム=サン!」
「スゥーッ…ハァーッ……」
ハクレイ・レイムは答えられなかった。ハクレイ・ジンジャの地上げかヤクモ・ユカリの発言権を自分が封じ込めるか。どちらにせよ、ゲンソウキョウの未来が暗闇に沈むことを悟っていたからだ。
「早く答えろ、ハクレイ・レイム=サン!」
「スゥーッ…!ハァーッ…!」
それを見抜いているが故にスライは捲し立てる。クローンヤクザもケースを閉じ、チャカを何時でも発砲できる体制を取っている。このまま沈黙を続けていれば強硬手段に出てくることは間違いないだろう。為す術なし!なんたる危機的状況か…!
「スゥーッ!ハァーッ!」
「えぇいっ!さっきからうるさいぞっ!そこのフスマ!!」
スライが声を荒らげる。スライは先程から聞こえてくる奇妙な呼吸音の出処をニンジャ聴力により感知したのだ。ニンジャ聴力を持つ皆様も当然お分かりであったであろう。そしてニンジャ学問について研究している方々が居たのなら更にお解りのはずだ、この呼吸が何を意味するのかを。
「スゥーッ!ハァーッ!!」
「チッ…ダンマリか…引きずり出せ!」
「「「「「ハイヨロコンデー!」」」」」
クローンヤクザが一斉にフスマの前に仁王立ち!!これにはハクレイ・レイムも動揺を示した。
フスマの奥にいるのはニンジャスレイヤーだ。ニンジャスレイヤーがソウカイニンジャでない以上、見つかればモノイイ・タクティクスによりハクレイ・シュラインはおろか他の私有土地すら地上げされてしまうかもしれない。
しかしハクレイ・レイムにクローンヤクザを倒す事は出来ない。そうなればスライは即座に救援を呼び、ソウカイニンジャとの戦闘に発展、たちまちアビ・インフェルノめいた光景へと変わるだろう。打つ手なしだ!ナムアミダブツ!
「イヤーッ!!」
「「「「「アバーッ!!」」」」」
「何っ!?」
誰もが終わりを確信した瞬間、フスマを貫いて無数のスリケンが飛来。
スリケンはハクレイ・レイムとルーミアを避けるように、クローンヤクザの眉間のみを撃ち抜いた。なんたるワザマエ!
これはヘルタツマキだ!無数のスリケンを嵐の如く放つ残虐な殺戮スリケン・ジツである!
「ドーモ!スライ=サン!ニンジャスレイヤーです!」
中からとび出てきたのはニンジャスレイヤーだ!赤黒のニンジャ装束と凶悪なメンポで身を包んだ、恐ろしきニンジャだ!
「ドーモ、ニンジャスレイヤー=サン。スライです。馬鹿なっ!なぜ私の名前を!?」
「先程名乗っていたでは無いか」
なんと冷静な受け返しか。これによりスライは動揺、同時に屈辱!コトバのやりとりもまたカラテ。激高したスライの頭の中からは、合理的な判断は既に抜け落ちていた。
そして何よりスライは知らなかった。目の前のニンジャがどれだけのワザマエを持つニンジャなのか。故に臆せず!故に憤怒!故に救援は呼ばず!スライは己の力で目の前のニンジャを叩き伏せることを誓った。
「ホーッ、ホーッ。ソウカイ・シンジケートにそのような口を効くとはなんと蛮勇。しかしニンジャスレイヤー(ニンジャを殺すもの)とは……目的はなんだっ!」
「オヌシにインタビューする!」
「何っ!?何故だっ!」
「貴様がソウカイ・シンジケートのニンジャだからだ!!ソウカイニンジャ殺すべし!慈悲はない!!」
ニンジャのインタビューとは即ち拷問を意味する。つまりニンジャスレイヤーはスライに対して、「今から叩きのめした後に拷問して殺す」と勝利宣言をしたのだ。これにはスライも目に見えて激怒!メンポの上から血管が隆起した。
「サンシタ風情が!やって見ろ!イヤーッ!」
スライの両腕から隼めいた飛翔物が飛来!側面にはソウカイ・シンジケート、スライの文字!サラリマンとして社会に潜伏するニンジャが持つ、メイシスリケンだ!発火性のインクが摩擦熱により着火!燃え盛るスリケンとなりニンジャスレイヤーへと飛んでゆく。
当たればニンジャと言えど、即座にローストチキンになるであろう一撃。しかしニンジャスレイヤーは冷静に側転回避。同時に指の間に挟んだスリケンを3枚投擲しつつ、迎撃の姿勢を摂るように跳躍した。
それを見たスライも、スリケンを避けるようにして跳躍。胸元のアイアンネクタイが巻取られ、鋭利なブレードへと変化する。
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」
ネクタイブレードによる破滅的威力の斬撃群!持ち手に対するチョップによる迎撃で相殺!続けざまにニンジャスレイヤーのチョップ突き!伸縮するアイアンネクタイによる受け流しにより回避!その弾みにより毒コブラめいた起動を描きながら、アイアンネクタイがニンジャスレイヤーの首元に迫る!指で先端を挟み込み回避!タツジン!
最後に互いに放った蹴りにより、両者は距離をとりつつ着地。その風圧によりクローンヤクザの死体が吹き飛んでゆく。
「ワッザ…」
1秒にも満たぬ時の中で、なんたるカラテの応酬か!一般人では何が起きているのか認識すら出来ぬ神話的光景に、ハクレイ・レイムは静かに固唾を飲んだ。
「サンシタの癖に中々やるっ!イヤーッ!」
「血迷ったか!バカめ!」
地上に降り立ったスライはニンジャスレイヤーに背中を見せたまま突進!何たるウカツか!
人体の中で背中は極めて強靭。しかし背中の防御力が高かろうと、ニンジャのカラテを持ってすれば一撃で内部の心臓まで破壊することは容易!ニンジャスレイヤーは罵倒の言葉を吐きながらスライの背中にポン・パンチを放った。
「バカはどちらかなっ!?イヤーッ!」
「グワーッ!?」
ニンジャスレイヤーの拳がめり込んだ瞬間、ニンジャスレイヤーの腕からシャンパンめいて出血!!馬鹿な、ニンジャスレイヤーの攻撃は命中したはずだ!ニンジャ学問について研究されている方が居れば、スライの放ったワザの正体が分かっただろう。
((あれは……テツザンコだ…シャチク・ニンジャクランのカウンターワザよ……))
「ヌゥッ、大人しく殺されれば良いものをっ!」
ニンジャスレイヤーの脳内に声が響く。その言葉通り、スライが放ったのはテツザンコだ。背中から受けた衝撃に自らの突進の威力を加え相手に返す、マンイントレイン内でも寄りかかりを許さない強力なワザだ!
「ならば正面から叩くのみっ!イヤーッ!」
「上等!イヤーッ!」
「グワーッ!?」
ワン・インチ距離でニンジャスレイヤーのポン・パンチとスライの拳が相殺!否、ニンジャスレイヤーの腕から出血!先程の負傷が再度開いたのだ。即ちこれはスライのパンチがニンジャスレイヤーのポン・パンチに匹敵する威力を持つことを示している。なんと優れたカラテ!
((ウカツ…なんたるウカツか……マンイントレインにて鍛えられた足腰を見よフジキド……奴らはワン・インチ距離でこそ本領を発揮するのだ……))
フジキドへと語りかける、謎の声の言う通りである。地震、雷、火事、ニンジャとは極めて普遍的なジョークであるが、彼らは地震めいて揺れるマンイントレインの中で立つことが基礎中の基礎なのである。
見よ、年月を重ねた樹木のように大地に根を張る強靭な足腰を!その足腰は優れたヨコヅナの足腰に匹敵するのだ!
「ならば尚更、ワン・インチ距離で叩き潰す!」
「馬鹿めがっ!返り討ちにしてくれる!」
なんという無謀か!しかしながらそれは致し方ないことであった。ニンジャスレイヤーは実際重傷。チャドー呼吸を重ね続けてはいるが、未だに身体の傷は癒えていない。ニンジャスレイヤーは離れてしまえばスライを殺しきるワザが撃てないと判断したのだ。
「イヤーッ!」
「小癪なっ!イヤーッ!」
ニンジャスレイヤーがカラテの応酬に選択したのはチョップだ!目にも止まらぬ嵐のごとき連続チョップである!!スライもこれに応戦してチョップ!少しでも速度を緩めればカタナのごときチョップが首を落としてしまうであろう。両者の間で炸裂音と共に烈風!更には火花!なんというカラテ!
「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イヤーッ!」「イ、イヤーッ!」
次第に両者の均衡が崩れ始めてゆく。ニンジャスレイヤーがチョップに求めたのはスピードだ!ローカルマンイントレインではなくシンカンセンの如きスピードである!雷のごときスピードを伴うチョップにより次第にスライのメンポが、ニンジャ装束が切り裂かれてゆく。
「カァーッ!図に乗るなっ!ニンジャスレイヤー=サン!」
「グワー目眩しッ!」
ニンジャスレイヤーのチョップにより切り裂かれたアイアンネクタイを咄嗟に投擲!ハンカチのように広がるネクタイがニンジャスレイヤーの視界を覆った刹那、スライは再びニンジャスレイヤーから距離をとった。
「今度はその拳、完璧に砕いてくれるわッ!イヤーッ!」
スライは再びニンジャスレイヤーに背を向けながら、殺人カイソクトレインの如く突進した。テツザンコだ!打つ手なしか!?
「ニンジャに二度同じ技を見せたな!マヌケめ!」
「アイエッ!?」
「イヤーッ!」
「グワーッ!?」
しかしニンジャスレイヤーはテツザンコを放つスライの背中に張り付くようにムーンウォーク!そのままアイアンネクタイをスライの首に回し、ネックハンギングをしかけた!なんたるニンジャ洞察力か!テツザンコは技を放たれなければ成立しない!
「ば、馬鹿なっ!俺のカラテがこんなことでっ…!」
「これこそフーリンカザンだ。諦めるが良い、スライ=サン」
「ふ、フザケルナっ!!こんなことでソウカイニンジャが負けるものかっ!イヤーッ!」
メイシスリケンによりアイアンネクタイ切断!そのままスライは大きく跳躍した。
スライの戦略か?高所から奇襲する作戦であろうか?否、恐れたのだ。自身のカラテを破った、目の前のニンジャのワザマエを恐れたのだ。
しかしなんたるウカツ!シャチク・ニンジャクランのツーキンカラテは地に足をつけねば意味が無い!
「死ねニンジャスレイヤー=サン!イヤーッ!」
「死ぬのは貴様だ!イヤーッ!」
アステロイドの如くスライの身体が落下!さながらイーグル!それに対してニンジャスレイヤーも跳躍!馬鹿な、スライの飛び蹴りに突っ込んでいくぞ!
「血迷ったか!ニンジャスレイヤー=サン!ならば死ね!」
混乱してもワザは緩めない。相手の思考を乱すのはニンジャの常套句だからだ。ニンジャスレイヤーはそのまま推進!ニンジャスレイヤーの頭が脳漿を飛び散らせ破裂してしまうのか!?
「イヤーッ!」
「アバーッ!?」
ゴウランガ!空中ブリッジ回避だ!そのままスライの背後に回ったニンジャスレイヤーが突如きりもみ状に回転!カマのように振るわれた両足はスライの四肢を切り裂いた!筋線維断裂!
「アッ、アバッ…!」
スライはウケミを取れずそのまま脳天から落下!メンポが血に染まる。しかしながら忘れてはいないだろうか。スライが戦っていたのはモータルや並のニンジャでは無い。血も涙も無き復讐者、ニンジャスレイヤーであることを!
「スライ=サン!オヌシにインタビューする!」
「アイエエエッ!?」
ニンジャスレイヤーは地獄めいて重苦しく、おどろおどろしい声で冷徹に告げた。その目は大きく見開かれ、重体のスライを写し出していた。