ニンジャ・ビジット・ゲンソウキョウ   作:ハングネック

5 / 23
あらすじ:サラリマンニンジャ「スライ」がニンジャスレイヤーによって殺されてから一週間。
差出人不明の手紙に案内されるままに不気味アトモスフィア漂う雪山ペンションに訪れたモリチカ・リンノスケは、そこでコケシマート支店長、ミヤシタ・セキボの死体を見つけてしまう────────


クローズド・ルーム・キリング・ピラミッド
クローズド・ルーム・キリング・ピラミッド #1


 豪雪を伴う突風が木枠の窓を揺らし、木製の壁の隙間から抜けてくる風が身震いを呼ぶ。

 部屋には三人の人間とおおナムアミダブツ!死体だ!高級サラリマンスーツを身につけた、実際裕福な男性である。額にはナイフが突き刺さっている。間違いなく即死だ。

 

「ミヤシタ・セキボ=サンはコケシマートの支店長だった!つまり!犯人の動機にはコケシマートが大きく関わっていることは明白!」

 

 男の一人がキセルに手をかけながら、死体に虫眼鏡をかざしつつ雄弁に語る。その立ち振る舞いはとても知性的だ。探偵であろうか。

 インバネスコートの隙間からサイバネ義足が覗き、蛍光灯の灯りを受けてぎらりと光る。

 

「更に!このダイイングメッセージ!この幾何学的三角は明らかにあなたのピアスの形をしている!角度、形状、サイズ、統計的にどこから見てもまた明白です!エェ!間違いない!」

 

 男は続けざまに、壁に画かれた奇妙な図形を叩いて指し示した。部屋全体がその衝撃で揺れる。図形はどうやらダイイングメッセージのようだ。正三角形が血で描かれている。

 

「つまりモリチカ・リンノスケ=サン!犯人はコウリンマートの店主であるアナタしかいないんですよ!」

 

「あ、アイエエエエエエ!?ワタシが犯人!?そんなバカな!ち、違います!」

 

「嘘をつくな!快楽殺人鬼め!」

 

「アイエエエエエエ!!」

 

 マフラーで口元を覆う探偵風の男に指をさされた男、良心的個人経営店コウリンマートの店主、モリチカ・リンノスケは慌てふためいた。

 それも当然である。なにせ彼は身に覚えのない殺人事件の犯人に仕立てあげられ、あげく快楽殺人鬼のレッテルを貼られているのだから…。

 

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 

「つまりここはネオサイタマとは別の世界だと言うのか」

 

「えぇ、パラレルワールドともまた違う、あなたのいた世界から切り離されたマルチバース途絶空間。それがこのゲンソウキョウよ」

 

 時はスライが爆死してから1時間後。ニンジャスレイヤーはハクレイ・レイムからこの地、ゲンソウキョウについての説明を受けていた。

 

 イニシエの文献にのみ残された、スピリチュアル的ハラキリ儀式によりあらゆる世界から切り離され、だからこそあらゆる世界と繋がるようになった擬似キンカク・テンプル。

 それこそがこのゲンソウキョウであり、故にヨーカイやドラゴン、吸血鬼などのニンジャ以前に幻想として排斥された神話めいた存在が存在し、オヒガンすら内包するのだという。

 

「で、このゲンソウキョウに十年前に現れたのが…」

 

「ニンジャというわけか」

 

 ハクレイ・レイムは静かに頷いた。

 

「最初のうちはたった一人だったわ。アイサツしても偽名を返してくる、みすぼらしいニンジャ一人だったの。けれどいつの間にか三人、四人と増えていって、あの城が出来た頃には何もかも手遅れだったわ」

 

 そう言いながらハクレイ・レイムが指し示したのは巨大なビルだ!先端に金瓦の屋根で構成される城のついたビルだ!立てかけられた巨大なノボリは、城から放たれるサーチライトに照らされ、”オーサカ城”の文字を煌々と映し出している。

 さしずめオーサカキャッスル・ピラーである。なんたる悪魔的アトモスフィアを放つ建造物か!

 

 麓にはネオン光に包まれた近未来的サイバーパンクシティの数々。

 周囲が未開発の山村で囲まれる中、そこが世界の中心であるかのように輝いている。その有り様は江戸時代の中に突如として都市が現れたかのような、驚異的な違和感を感じさせる。

 

「カワシロ工業もヤゴコロ製薬も買収されてソウカイヤの手先。反抗したキリサメコーポもジアゲと嫌がらせで経営縮小しちゃって、挙句愛娘がヤクザクランを率いてるなんてバラされちゃったから見る影もないわ」

 

 ハクレイ・レイムは続けて淡々と語った。ケミカル色の化学スモッグと、メガロポリスの隙間から時折覗くのは宣伝用の遊覧飛行船だ。

 側面のモニターに映るのはクロスキューカンバーエンブレムと、ユミ・エンブレム。今あの都市部の上空ではカワシロ工業とヤゴコロ製薬のマーケティングが行われているのだ。

 

「あの山はなんだ」

 

 続いてニンジャスレイヤーは右奥に見える山を睨んだ。暗闇の中、山の側面には橙色の光が輝いている。山火事だろうか?

 否、あれはオクリビである。古来の戦争において、人々は山の側面で草木を焼き、文字を作る事で情報の送信を行っていたのである。

 

 しかしおおゴウランガ!山の側面にオクリビで描かれているのはブッダだ!それも逆さのブッダである!なんとマッポーめいた光景か!

 

「あれはヨーカイの山よ。昔から人間は入れなかったけど、今は自らがブッダと名乗るヨーカイとテングだけがいられる、排他的反ブディズムタウンと化してるわ。ソウカイ・シンジケートとも敵対中ね」

 

 逆さのブッダは反ブッダ精神を表すエンブレムなのだ。実際恐ろしい。まともな精神の持ち主であれば、心理的恐怖によりPTSDを引き起こすこと間違いなしだろう。

 

「ニンジャについては」

 

 ハクレイ・レイムは首を左右に振った。

 

「何も知らないわ。そもそも、ゲンソウキョウにはニンジャが本当にいるってことすら知らない人も沢山いるの」

 

「このような有様に変わり果てているのにか」

 

「表向きは建設ファンドがやってることになってるから」

 

 なんと用意周到な手口か。社会の裏で暗躍し、その全てを操らんとする。今まで見てきたニンジャと変わらぬ手口だ。

 

「そうか。情報感謝する」

 

「どこに行くの?」

 

 オジギをし、立ち去ろうとするニンジャスレイヤーの背にハクレイ・レイムは声をかけた。

 

「ニンジャを殺しにゆく。この地にいる全てのニンジャをだ」

 

「…本気で言ってるの?」

 

 ハクレイ・レイムの表情は不安げだ。

 ニンジャスレイヤーの言葉は実際狂人。ソウカイ・シンジケートに一人で立ち向かうなど正気の沙汰ではない。ましてや彼は重傷なのだ。

 

「それがワタシの使命なのだ」

 

 ニンジャスレイヤーは瞳に狂気じみた決意を滾らせつつ答えた。例えどれだけ敵が強大であったとしても、それがニンジャであるなら彼は殺しにゆくだろう。

 

「ならワタシも連れて行って」

 

 ハクレイ・レイムのその言葉にニンジャスレイヤーは目を細めた。

 

「自分が何を言っているのか分かっているのか」

 

「えぇ、分かっているわニンジャスレイヤー=サン。それでもワタシは、ソウカイ・シンジケートなんかに屈したくない」

 

 彼女の表情は悲愴さを滲ませていた。

 

 ハクレイ・レイムは、かつてはこの地におけるデッカーであった。人間に仇なすヨーカイがアクシデントを起こす度に、彼女はオハライボーで叩いてきたのだ。

 

 しかしニンジャに対してはそうはいかなかった。

 たった10年で山や森の大半は土地開発のために消え、電子IRCが異常普及。ゲンソウキョウの住民すらゲンソウキョウを売り始め、巷では違法薬物が横行し産まれたばかりの子供の内臓が闇市にばらまかれている。

 

 これは全てニンジャのせいかもしれないが、その暴挙を見逃し、あげくイッキをしなければならない時に何も出来なかったのは自分なのだ。

 

 一人で刃向かっても犬死にするだけ。それを深く理解してしまっているからこそハクレイ・レイムは生きているだけで後悔と怒りに苛まれ、ニンジャスレイヤーの狂気めいた目的に強く惹かれたのであった。

 

「お願いよ、ニンジャスレイヤー=サン。ワタシはせめて、ゲンソウキョウのために戦って、何かをゲンソウキョウの未来に残して死にたいの」

 

 なんたるヤバレカバレ!彼女はソウカイ・シンジケートを根絶するためなら命を投げ捨てる覚悟でいるのだ。二十歳にも満たぬであろう年頃で、なんたる決意であろうか。

 少女にこのような決断をさせてしまうほどに、この世はマッポーめいているのである。

 

「それは出来ぬ」

 

 ニンジャスレイヤーは首を左右に振った。

 

「どうして!」

 

「足でまといだからだ。ニンジャとの戦いの中で、オヌシを守れる保証はない」

 

 ハクレイ・レイムはそこで口を噤んだ。

 守ってもらうつもりなど無くとも、自分がニンジャスレイヤーについて知っている時点で捕まってしまうこと自体がニンジャスレイヤーにとってのリスクとなる。

 実際、自分のオハライ・カラテはせいぜい70段。カラテを疎かにしたサンシタニンジャなら不意をつけば仕留められるかもしれないが、先のスライのような使い手が相手では少なくとも勝ちの目は無いだろう。

 

「で、でもダンマク・ゴッコならニンジャにだって」「レイム=サン」

 

 それでも尚自分の有用さをPRせんとするハクレイ・レイムを、ニンジャスレイヤーは静かに制止した。

 

「死ぬことだけが、復讐だけが未来に繋がるわけではあるまい」

 

 それはあるいは自分自身への一種の自戒であったのかもしれない。ニンジャスレイヤーは実際復讐鬼だ。途方もない報復の道の中で、いくつもの出会いと別れ、そしてインストラクションを受けてきた。

 

 故にこそ彼はその道がどれだけ過酷なものかも知っている。その道の果てに何が残っているのかもだ。

 

「オヌシはワタシと同じ穴のラクーンになる必要は無いのだ」

 

 その諭すような言葉を、ハクレイ・レイムは静かに聞いていた。その言葉には実際重みがあった。復讐を誓い、復讐に生きてきた壮絶な人生経験が産む、真の重みである。

 

「ちょっと待ってて」

 

 ハクレイ・レイムはハクレイ・シュラインに走ってゆき、小さな札を抱えて戻ってきた。

 

「これ、オマモリ・アミュレット。ヨーカイに対しては、実際気休めくらいだけど……」

 

 表面に書かれているのは森羅万象を示す陰陽である。ハッケ!

 

 札は日本では古来からヨーカイに対するオマモリとして用いられてきた由緒正しき品である。ミコである彼女であれば、一から作ることも出来るのだ。読者の中に東方について詳しい方がいらっしゃれば、彼女のアミュレットがヨーカイに実際有効なのもご存知だろう。

 

「…感謝する」

 

 この地にはニンジャに匹敵するヨーカイが存在する。ニンジャを殺す上での障害となりうる存在に対して魔除のような働きをするのであれば、リスク回避もできるだろう。

 

 ハクレイ・レイムからの蜘蛛の糸めいたギフトを受け取り、ニンジャスレイヤーは深くオジギをした。

 

「また、会えるかしら」

 

「…オタッシャデー!」

 

 ハクレイ・レイムのその問いかけにニンジャスレイヤーは何も答えられなかった。マッポーめいた混沌の世の中では明日も生きていられるという確証を得るのは実際難しい。

 ましてや彼はニンジャを滅ぼさんとする復讐鬼なのだから。

 

 彼は言葉を返せず、バツが悪そうに目を瞑れば、礼儀正しくシュラインにお辞儀をした後に石畳を蹴りその場を後にした。ハクレイ・レイムが空を見上げれば、朝日に吸い込まれていくように、一つの赤黒い影が消えてゆく。

 

「オタッシャデ、ニンジャスレイヤー=サン」

 

 ハクレイ・レイムはブッダに祈るような声で挨拶を告げた。

 

 朝日が、ゲンソウキョウの空に輝いている。




あらすじを見てください。時系列順に続いている。ニンジャスレイヤーが時系列順に更新されますか?おかしいと思いませんか?あなた?

時系列を裏で考えながら投稿するワザマエが無かったのだ!原作遵守が出来なかった担当者に待ち受けているのはカンヅメのフタによるセプクである!
当然次回以降も毎回セプクしなければならない!なんたるキリングインシデントか!ナムアミダブツ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。