ニンジャ・ビジット・ゲンソウキョウ   作:ハングネック

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あらすじ:人里から遠く離れた眠らない街『ネオヒトザトシティ』。ソウカイヤのニンジャ『スライ』を殺したニンジャスレイヤーは、偶然か意図してか、ネオサイタマの生き写しのごときこの街へと降り立っていた。
一方その頃、キリサメ・コーポ社長キリサメ・ダイフは、また一つ辞職の電話を受け取り、薄暗い空を見上げるのであった……


ディム・ドリーム・ダイ
ディム・ドリーム・ダイ #1


「…そうか、分かった。今までご苦労だったな。奥さんにもよろしく言っておいてくれ」

 

『スミマセン、ダイフ=サン……オタッシャデ』

 

「気にするな、全ては盛者必衰。私の酔狂によく付き合ってきてくれた。君の幸運を祈るよ、…オタッシャデ」

 

 ガチャン!ツー、ツー、ツー。

 

 受話器を置けば物悲しい電子音が暗い社長室へと木霊する。横殴りの酸性雨が叩きつけられる窓越しに、キリサメ・ダイフはオオサカキャッスル・ピラーを睨んだ。

 あの建物が出来てから、このゲンソウキョウはおかしくなってしまった。古き良き時代の、夢物語のような美しき風景を夢想する度に腹の奥でふつふつと怒りと後悔が煮えたぎるのを感じる。衝動的にテロルを引き起こそうとした回数などもはや数え切れない。

 しかしそんな事をしたところで何も変わることは無い。故にその思いを押し殺し、筆を和紙に叩きつけてフラストレーションを発散する。

 穏やかな気持ちでショドーが書けなくなったのは何年前だったか。起業当初に書いた『キリサメ・コーポ』の看板の文字は酸性雨に流され殆どがかすれてしまっている。

 

「「「キリサメ・コーポは暗黒メガコーポだ!」」」

 

「私はこの会社の杜撰な安全管理基準により溶液タンクに落ち、全身に化学火傷を負いました!」「私は右手をプレス機に!」「俺の女房は歩けなくなった!」「私の息子は目を!」

 

 下で騒ぎ立てているデモ部隊は、いつからあそこに立つようになっただろうか。上から見下ろせば、民衆を先導するブラックスーツの男が見える。ヤゴコロ製薬製のクローンヤクザY12である。恐らくはそれがソウカイ・シンジケートの手の者なのだろうと察しつつも、キリサメ・ダイフは問題から逃げるようにそれを視線の端に追いやった。

 

「下の方々に傘を渡してあげなさい。今日は雨足が強くなる」

 

「ピーガガッ、ヨロコンデー」

 

 旧世代のからくり式秘書アンドロイドへとそう命令を下せば、カタカタと歯車が噛み合う音を響かせながら和服に身を包んだ人形が部屋を去る。

 

「マリサ…せめてお前だけは……」

 

 キャビネットの上に置かれた、家族三人で撮った最後の写真。それを愛おしそうに一撫ですると、キリサメ・ダイフはデスクの前に項垂れるようにして座り込んだ。

 

 

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

 

 BRATATATATATATATA!!

 オオサカキャッスル・ピラーの周囲に広がる、石垣ウォールの上部に敷き詰められた大口径マシンガンが火を噴く。

 

「「「ザッケンナコラー!!」」」

 

 BANG!BANG!!BANG!!!

 クローンヤクザの一糸乱れぬチャカ射撃が、また一つ高層ビルの壁面にチーズめいた穴を開けてゆく。

 

「イヤーッ!」

 

「「グワーッ!」」

「グワーッ!スッゾオラー!」

 

 その照準の先、一筋の風となり駆ける赤黒い風から嵐のように鋼鉄の星が飛来する。なんと的確なスリケン投擲か!

 壁上タレットのレーザーサイトへと狂いもなく突き刺さり、追っ手のクローンヤクザの額から緑色のバイオ血液が飛び散る。一人即死を免れたクローンヤクザですら、左肩を大きく緑色に染めていた。

 

「イヤーッ!」

 

「グワーッ!」

 

 ドスダガーを持ち接近戦を仕掛たクローンヤクザの頭部を、ニンジャスレイヤーは回し蹴りで切断した。

 

『この銃撃は防衛システムの動作チェックであり、怪しくない。カワシロ工業は今日も皆様に安心と安全を届けますドスエ』

 

 肩で息をしながら、オーサカキャッスル・ピラーの頂上、天守閣を睨む。

 上空には帯びたしい数の重装ツェッペリンが飛び泳ぎ、電子マイコ音声で嘘ぶきながら近辺へとサーチライトを照りつけている。

 

(((グググ……この程度の罠すら突破できんとは、未熟よのうフジキド)))

 

(((黙れナラク)))

 

 頭の内からくぐもった、地獄の底から響くようなおどろおどろしい声が鳴る。

 声の主はナラク・ニンジャ。ニンジャスレイヤー、フジキド・ケンジがニンジャとなったマルノウチ・スゴイタカイビルでの惨劇の日、サンズリバーを渡ろうとしていたフジキド・ケンジの命を繋ぎとめ、ニンジャを殺し続ける呪いと力をフジキド・ケンジに渡した謎多きニンジャソウルだ。

 フジキドはナラク・ニンジャの嘲笑のような叱責を聴き流すと、大きく息を吸い乱れた呼吸を整えた。

 

(((このトラップの数、無傷で超えるのは至難の業か)))

 

 備え付けられたAI制御タレットに無数のクローンヤクザ。更には敷地内どころか、まだ外であるはずの現在地にすら対人地雷やブービートラップが仕掛けられている。あのツェッペリンも脅威であるし、何より護衛としてどこかに必ずいるはずのニンジャの存在、特にシックスゲイツの存在もある。それらを全て掻い潜った上で、顔も知らないソウカイ・シンジケートの首領の首を取る。

 冷静に考えてみれば何たる無謀か。数多の死線を潜り抜けたフジキド、ニンジャスレイヤーの脳裏に『不可能』の文字がちらつく。

 

(((殺気!)))「イヤーッ!」

 

 ならば警備の薄い箇所を探すまで。自分を奮い立たせるようにそう思案したニンジャスレイヤーは、反射的に連続バク転で後方へと下がった。

 その直後、地面に手を付きバネめいて回避運動を取るニンジャスレイヤーの背中を飛来物が掠め、地面にクレーターを作りだす。何たる予測射撃か!僅かにでも回避が遅れていれば、股間から脳天にかけて一直線に撃ち抜かれていたであろう。

 

「ユミ…!?一体どこから、イヤーッ!」

 

 地面に突き刺さっていたのは矢であった。何者かが、ニンジャソウル探知能力すら及ばない遥か遠方からニンジャスレイヤーを狙撃したのだ。なんという脅威的なワザマエであろうか。飛来した方向を確かめるべく摩天楼を見上げたニンジャスレイヤーの視界を、巨大な影が覆い尽くす。

 

 反射的ポムポムパンチ!勢いを相殺しても圧倒的質量は変わらず、受け止めたニンジャスレイヤーの体がコンクリートへと僅かに沈み込む。飛んできたのは柱だ!しめ縄の付いた、ニンジャスレイヤーの二倍はあるであろう巨大な木製の柱であった!側面には『オンバシラ』『信仰するなら守谷』の文字。

 紙垂からゆらりと光が立ち上る。何らかのエンハンスが込められているのか、木でありながら金属のごとき強度を持つそれはニンジャスレイヤーの拳とせめぎ合い、間に火花を散らしていた。

 

「何らかのキネシス・ジツか…!しかしこの程度!」

 

(((油断してはならぬ、構えよフジキド!)))

 

 御柱とニンジャスレイヤーの筋力が拮抗、否、ややニンジャスレイヤーが優勢!じわじわと柱が押し返されてゆく。しかし空を見よ!オオサカキャッスル・ピラーから、ニンジャスレイヤーに向けて飛来する三つの柱。御柱の四連撃である!

 

「イヤーッ!」

 

 御柱の後方に、第二の御柱が着弾!破裂音と共に生じた衝撃波が、辺り一帯を吹き飛ばす。側面には『オンバシラ』『博麗はカルト』の文字。

 それを迎撃するニンジャスレイヤーのポムポムパンチ!威力は拮抗!

 

「イヤーッ!」

 

 御柱の後方に、第三の御柱が着弾!破裂音と共に生じた衝撃波が、風化したビルの壁面を崩壊させていく。側面には『オンバシラ』『核エネルギーはクリーン』の文字。

 それを迎撃するニンジャスレイヤーのポムポムパンチ!威力は拮抗!

 

「イヤーッ!」

 

 御柱の後方に、第四の御柱が着弾!破裂音と共に生じた衝撃波が、竜巻めいて周囲の自動車を打ち上げる。側面には『オンバシラ』『信じるものは救われる』の文字。

 それを迎撃するニンジャスレイヤーのポムポムパンチ!威力は拮抗!

 

「グワーッ!」

 

 しかしその後方へ、後押しするような追撃のスナイプの嵐!伸びきった腕が折れ曲がり、ニンジャスレイヤーへと御柱が押し込まれ大きな砂埃が上がる。一本でも象に劣らぬ質量を持つ御柱が四本。これに押しつぶされてしまえばニンジャと言えどひとたまりもない。

 僅かに粘つく血潮を纏った御柱が浮かび上がる。窪みには柱の下にいた、ニンジャスレイヤーのものと思しきニンジャ装束の残骸。ニンジャスレイヤーは哀れにも押しつぶされ死んでしまったのだろうか?その答えはきっと、光ひとつ無い路地裏へと続いていく血痕が知っているだろう。

 

 

 

「……やったかしら?」

 

「いや、逃げられたな」

 

 その光景をオオサカキャッスル・ピラーのテラスから眺める二つの影。

 光背の如く背中に円を描いたしめ縄を掲げた赤装束の女と、赤と青の装束に銀の長髪を携え、ナガユミを手にする女だ。当然どちらもニンジャだ。その強大さを示すように立ち上るオーラにより、周囲の時空が歪んですら見える。

 

「フム、ただのネズミでは無いわね。とは言え手負い。あの近辺にいるニンジャは…スニッチ=サンか。連絡を入れておきましょうか?」

 

 弓を背に戻しつつ、銀髪の女ニンジャは手甲に内蔵されたIRCを叩き、ゲンソウキョウの地図を展開した。そこに映り込んでいるのは、ソウカイ・シンジケート所属のニンジャの位置情報だ。彼らはこれにより常に互いの位置を把握し、効率的にタスクの伝達、達成を行うのである。

 

「……いや、スニッチ=サンでは荷が重い。下手に神経質になられても迷惑だ、そのままでよかろう」

 

 赤装束のニンジャは手元へと引き戻した御柱の一本、最初に直撃させたそれに生じていた、大きな亀裂を見て片方のニンジャを制すように連絡を意味するハンドサインを取る。

 

「ここはディスセンブル=サンに頼もうでは無いか。それならどう転ぼうと、我々に不都合は生じまい」

 

 その一言を境に、二人の女ニンジャは不敵な笑みを浮かべ、次の瞬間にはその場から霞のように消えていた。

 

 

 

 空にはネオンの光すら吸い込む灰色の雲が広がり、冷たい酸性雨がコンクリートの大地へと降り注ぐ。水はけの悪い郊外では多少の雨でも道路が小さな川のように水浸しになる。

 少し前に帰って行ったデモ集団の残した、ZBRアドレナリンの空容器や見るからに違法な薬物の入っていたであろう携帯注射器の残骸をかき集めているのはキリサメ・ダイフであった。

 

 この周辺には靴すら満足に所持していない人々も多い。公共整備の行き届いていないネオヒトザトシティでは、歩くだけで重篤な薬物中毒や感染症に晒される人間も後を絶たないのだ。その為、彼はそのような人々の為に、せめてこれくらいはと日々ボランティア的活動を、誰に見せる訳でも無く黙々と行っているのである。なんと献身的な行動であろうか。世がこのようなマッポーでなければ、彼の行いは多くの人々の目に晒され、賞賛の声に包まれていたに違いない。

 しかし、今彼に降り注ぐのはオヒガンめいて冷たい雨だけだ。ゲンソウキョウの雨は、今や人々の涙すら奪い去ってゆく。

 

「死体か……ナムアミダブツ」

 

 バサバサと、雨音の中でも聞こえるような羽音に思わず顔を向ける。その先に居たのはバイオスズメであった。スズメとの交雑種故に小型ではあるが、その毛並みは毒々しいまでにピンク、あるいはシアンブルーのネオンカラーで染め上げられていた。バイオスズメの食性は雑食であり、コメのないこの近辺で漁るものと言えば、そこら中に群がる肉のみ。……即ち、人の死体である。

 また罪なき浮浪者が倒れ、自然の食物連鎖に組み込まれたのだろうと察してか、キリサメ・ダイフは静かに手を合わせた。

 

「家族の元へは送れんだろうが、せめて私の元で弔おう。どうか成仏して⎯⎯⎯⎯」

 

 ゲンソウキョウにおいて、死人がゾンビーやヨーカイとして蘇ることはそう稀ではない。故にゲンソウキョウでは火葬が主として扱われ、死人の頻発したダンマク・ゴッコ裁定前の名残で火葬場が備え付けられている住居は多い。キリサメ・コーポもその一つである。

 秘書アンドロイドへと招集命令を出したキリサメ・ダイフが、バイオスズメを散らすべくその鳥群へと近づいた時であった。

 

 死体から赤黒い、業火が立ち上った。発火現象では無い。自然の炎が、あの様な、オヒガンの亡者がこちらを睨み、嘆き、手招くような模様を浮かべるものだろうか?

 バイオスズメは一斉に飛び立ち、数多のヨーカイを、ダイヨーカイすら見てきたはずのキリサメ・ダイフですら足が止まる。

 

「ここは、どこだ…!」

 

「ね、ネオヒトザトの郊外だ」

 

 ゆらりと、死にかけと言わんばかりの様子で立ち上がったそれが男であると、キリサメ・ダイフはその時初めて気が付いた。人間の、恐らくはニンジャだ。破れた頭巾からは黒い毛髪が覗き、上下に開き、牙のようにすら見える面頬には『忍』『殺』と刻まれていた。収縮したカタナのように鋭い瞳孔はセンコのように光り、薄暗いビルの隙間の中で一際目立つ存在感を放っている。

 どこから来たかも分からぬ赤色が川のようになった雨水の中を蛇のように履い、男の足元へと集まっていく様が狂気から来る幻覚なのかどうかすら、キリサメ・ダイフには分からなかった。

 

「郊、外。早く、早く戻らねば……ニンジャ…不覚……」

 

 男は空を、オオサカキャッスル・ピラーを見上げると掠れた声でそう呟き、かと思えば次の瞬間、瞳がぐるりと上を向き糸の切れたジョルリ人形の如くその場に倒れ伏してしまった。

 

 その光景を見て、キリサメ・ダイフはぺたりと、自身の正気を確かめるように手を頭に置いた。

 ニンジャだ。ソウカイヤの?ならばなぜこんな怪我を?ヌケニン?バカな、ソウカイヤのヌケニンなど未だ嘗て聞いたことがない。

 

 助けるべきか、それとも見捨てるべきか、或いは殺すべきか。果たして何が正解なのか答えを出せないまま、キリサメ・ダイフは手元のチタン合金製火バサミを固く握りしめていた。

 その時、キリサメ・ダイフの視界に一つの異物が写り込む。雨水に流され、男の衣類から漏れ出てきたアミュレット。しかし何より見逃せなかったのは、それがハクレイのミコに代々伝わるオンミョウ・アミュレットだった事であった。

 

「……全く、馬鹿なことをするものだな私も」

 

 次の瞬間、キリサメ・ダイフはその男を担ぎ上げていた。

 ハクレイのミコがこれを持たせているのなら、間違いなくこの男はソウカイ・シンジケートの敵対者だ。もしこの事がバレれば、ケジメなどでは済まないだろう。それが分かっていながら、彼は男を医務室へと運ぶべく担ぎ上げたのである。

 それは「ハクレイのミコが信じた男だとするなら、ゲンソウキョウを元に戻してくれるかもしれない」という、希望的観測から来る、現実逃避とすら取れるものであった。

 

「大丈夫、死なせはしない」

 

 しかし何よりキリサメ・ダイフの直感が、この男は救わなければならないと告げていた。それは幸か不幸か、ゲンソウキョウの未来を大きく変える選択であった。




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