天神竜と天空の巫女   作:FAIRY NAIL

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六神竜

『天神様、天神様………私はこの景色が大好きです』

 

 毎日泥にまみれながら必死に山を登り、花を届ける少女はある日、夕焼けに染まる王都を見下ろしながら笑う。

 その笑顔に安心を覚えた。■からドラゴンへと成り果てた身に笑い掛ける少女は■を思い出した。人を癒やす魔法を教え、人の為に何時も奔走する彼女を見守った。

 彼女の国を守るために黒き翼から逃れた他のドラゴンとも戦い、血を浴び、肉を食い千切り、倒し、追い払い、時に死にかけながらも戦い続けた。彼女が死に、彼女の娘が次の代の巫女として学びに来て、何10年と人を喰らうドラゴン共と戦ってきた。何時しか竜王の一角に数えられるほどに戦い続け、過去を振り返る余裕すらなくなり、巫女が今日も誰かを癒やした、旅人からこんな話を聞いたと報告に来ることだけが楽しみだった。好きな人と結ばれ新たな命を授かったと腹を撫でる彼女が、生まれてくる子にも魔法を教えてほしいと何度も繰り返した約束をかわした。

 彼女が好きな国が、好きだった。責めてくる国を追い返し、人と人との争いに手を貸してしまうほど。

 しかし、その力を恐れた人間達が軍を率い襲いかかってきた。

 魔法を教えた少女を、ドラゴンに惑わされた魔女の一族最後の末裔として死体に変え、ドラゴンに罪を問いながら。彼女の夫すらも、その中にいた………。

 気が付けば何もかも滅ぼしていた

 瓦礫ばかりの国の跡地で、死体の匂いにさそわれた獣はしかし彼を恐れじきに去る。それでも誰も埋葬しなければやがて腐り、乾き、朽ちる。人の居なくなったそこを己の巣とし、瓦礫を積み上げ町の形を不格好に真似た。

 それを遠慮なく踏み潰す人間の魔導師達、国の軍。何度も追い払ってやれば何時しか来なくなった、かと思えば定期的に魔導士がやってくる。エレフセリアがどうとか、クエストがどうとか……。

 殺す気で来るものと会話などする気はない。故に解ったことは、彼等は自分の事を天神竜、六神竜と呼ぶということだけだ。

 

 

 

 

 

「…………て、天神竜?」

 

 100年クエスト。

 100年間誰にも達成されなかった最難関のクエストにして、最古のクエスト。その内容は六神竜と呼ばれるドラゴンを封じるというもの。現在居場所が分かっている神竜の一体、水神竜メルクフォビアから聞いた神竜の一体の名に、ウェンディが反応した。

 神竜の中で人間と共に歩むことを決め、白魔導士に魔力を消してもらうも利用され操られ、妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツ達に倒され魔力を失った彼は、自分を止めてくれたお礼にと自分が知りうる六神竜の情報を話したのだ。

 

「どうかしたのかい?」

「あ、えっと………私のお母さんが、グランディーネだったので」

「グランディーネ………天竜のグランディーネか?」

「知ってるんですか!?」

 

 一年ほど前永遠の別離を味わった育て親の名にメルクフォビアが反応したのを見て思わず立ち上がる。自分が知らない母のことを聞けるかもしれないと思ったのだ。

 

「いや、直接は知らない。ただ天神竜グランは昔、自分の事を天竜グランディーネの息子だ、と良く言っていた。母を誇りに思ってたんだろうね」

「グランディーネの、子供!?」

「ナツに続いてウェンディまで!?」

「ぬぐ!」

 

 実はつい先程、ナツの育ての親であるイグニールの子を名乗る炎神竜イグニアが現れたのだ。弱体化していたとはいえ、メルクフォビアを倒せたのは彼がナツに食わせた炎のお陰だ。しかしナツは街を平然と燃やそうとしたイグニアをイグニールの子とは認めたくない。

 それはそれとして、ウェンディも自分にもいた兄弟姉妹が何者なのか気になっている。

 

「ウェンディは覚えてないのか? あの野郎が言うには、ドラゴンの子育ては母ちゃんがするもんだって言ってたぞ?」

「すいません。小さい頃ですし、よく覚えてなくて………」

 

 ナツ達第1世代の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)は400年前の時代から時をこえてきた。その代償か、記憶の一部が欠落している。事実彼等は再会した時も互いのことが解らなかったし、特にウェンディは他の皆よりも幼かった。

 

「ドラゴンの寿命は長い。子育てだって、数十年に一度の周期で行うこともある。かぶらなくても仕方ないよ」

「…………でも、グランディーネの息子なんですよね。じゃあ、私にとってはお兄ちゃんです。その竜は何処にいるんですか!?」

 

 会ってみたい。話してみたい。そんな思い出メルクフォビアに尋ねるウェンディだが、メルクフォビアは済まなそうに首を降る。

 

「解らない。彼はその昔滅ぼした国を()()()()()()()、この大陸を彷徨っている」

「国を!」

「浮かせた!?」

「………滅ぼした?」

「200年ほど前だったかな。彼は一夜にして一つの国を滅ばし、自らを討伐しに来た軍を消し去り、やがて相手するのに嫌気がさしたのか、大地の一部を引き剥がし行方をくらませた」

 

 それはつまり、国の人間を、己に挑んだ多くの命を奪い去ったということだろうか。人間と共存し、悪魔との決戦で人間のために戦ってくれたグランディーネの息子が。

 

「だから、僕が分かっている六神竜の所在は一つだけだ。木神竜アルドロン………300年程前この大陸に来て、数十年程先にいたグランの領域を荒らし殺されかけたと聞く。その彼が眠り続ける地…………死にかけたとはいえ、それも300年前の話。もう傷は癒えているだろうし、君達の勝てる相手ではない。それでも行くかい?」

「あたりまえだ!」

 

 と、不敵な笑みを浮かべるナツ。

 

「わ、私も気になります! 天神竜について、何か知ってるかも!」

「そうか…………僕が知る限りで良ければ、天神竜について話そう」

 

 メルクフォビアの言葉にウェンディを含め全員が気を引き締める。

 

「天神竜は大気を操り天候すら操作する。雷を直接放つことは出来ないが、落とすことはできるようで一軍を壊滅させる雷の雨を振らせたり、付与魔法を扱い自然現象を操る強力なドラゴンだ。大気だけと思えば痛い目を見る」

「天候も!?」

「更に治癒魔法を己にかけることもできる。恐らく六神竜の中で最もタフなのは彼だろう………そして、敵対したものは容赦なく滅ぼしたと聞く。それでも、会ってみるかい?」

「はい。その人が、グランディーネの子供なら………」

 

 

 

 

 

 ギルティナ大陸上空何処か。星々と月の光が地上よりよく見えるその高度に浮かぶ、風を纏った巨大な島。

 島の上には森も川も湖すら存在し、積み木のような形だけの町の中央に一頭のドラゴンが眠っていた。

 

「…………セレーネか」

「久し振りだな、グラン」

 

 不意に目を開き、目の前に立つ着物姿の美女を睨む。

 

「何をしに来た、この国に近付くなと言ったはずだ」

 

 体を起し牙を剥くドラゴン。前足の指にも苛立ちから力が入り、地面がひび割れグランを中心に不規則な風が吹く。

 

「そう睨むな。同じ六神竜だろう」

「人間どもが勝手に名付けた呼び名だ。興味もない」

「しかしその名故に、エレフセリアが性懲りもなく討伐のために魔導士を送ってくる。今回は、聞いて驚け、アクノロギアを殺した滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)もいる」

「……………アクノロギアを」

 

 その名が出たことに多少反応すれど、しかしすぐに興味を失う。

 

「俺は奴より探知に優れている。奴が別の大陸にて滅んだことは知っていて。あれは大陸中の魔導士共が手を組んだ結果だ………その一部が来たからなんだってんだ」

「既に水神竜が力を失った。奴等の次の狙いはアルドロンだ」

「あのデカブツか。メラクフォビアは明らかに本来の力を出せていなかった。同じと判断し挑めば、大地の肥やしになるだけだ……それに、奴は俺が滅する」

「だろうな。その中にグランディーネの系譜も巻き込まれるであろう」

「………………何?」

 

 その名は、興味が失うことなどありえなかった。ギロリとセレーネを睨む目には先程以上の苛立ちが宿っている。

 

「因果なものだ。グランディーネの力を継ぐ滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)が、グランディーネの子たるお前を殺しに来るのだから」

「黙れ」

 

 ゴゥ! と突風が吹き荒れる。大気そのものが軋み、グランの魔力を付与されている浮島が震える。

 

「例えグランディーネから魔法を教わっていようと、人間風情に俺が殺されるものか。我が物顔で母の魔法を使うというのなら、この俺自ら滅してやる」




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