ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク)   作:i-pod男

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DMC以外にもベヨネッタのキャラも登場させます。


A Devil in the Floating Castle
Tony Redgrave


少し空けられた窓の隙間から小鳥の囀り声が聞こえ、隙間風が舞い込んで来る。午前六時を告げる耳障りでけたたましいアラームがシンプルな正方形の置き時計から発せられ、2LDKの一室に響き渡った。時計が置かれたテーブル脇のこんもりと膨らんだベッドの掛け布団の中からゆっくりと腕が伸び、乱暴にアラーム停止のスイッチを叩いた。

 

その腕の主は癖っ毛の強いショートな若白髪が混じった黒髪を持った痩躯な垂れ目の青年だ。掛け布団を蹴脱いで起き上がり、目を擦りながら若干大袈裟な欠伸をする。そして、そのすぐ後にテーブルの充電器に繋いだ二つある携帯の内の一つが大音量で着信音を流し始めた。電話をしてきた相手により別々に着信音を設定している為、直ぐに電話の主が分かるのだ。液晶に映し出された発信者の名前が幻でない事を再三確認し、青い鳥が翼を広げた背景と暫く睨めっこをした。

 

やばい。

 

夢であると思いたかったが、無情にもコールは三回、四回、五回としつこく続く。もしかしたら間違ってこの着信音を別の誰かに設定したのかもしれない。必死にそう祈りながら目を閉じて携帯を手に取り、耳に当てた。

 

「・・・・・もしもし?」

 

『取るの遅いわよ、こ・う・い・ち・く〜〜ん?』

 

ぞわりと肌が粟立った。やはりこれは夢ではない。悪夢と言う名の現実だ。メゾソプラノボイスの女性の声を聞いて、紅一の僅かに残っていた眠気も吹き飛んだ。

 

「・・・・セレッサさん?・・・・?おはようございます。」

 

『今はヴィグリッド支部長と呼びなさい。昨日の研究レポートと報告書、後は前回の出張の明細書がまだ届いてないんだけど。あれ、どうなってるのかしら?』

 

電話の向こう側から脚を組んで革張りの椅子に背を預け、ニコニコとした表情を浮かべる妖艶な美女の姿が鮮明に紅一の脳裏に浮かんだ。声から全く怒気は感じられないが不思議と冷たい手で心臓をゆっくりと握り潰されているかの様な不思議な感覚に陥る。

 

「そりゃ無いぜ代表。俺、仮にも日本支部の開発研究部部長ですよ?拾って貰った以上、仕事はしっかりやりますしやってます。この年齢で首斬られるとか笑えないですから。徹夜して書き上げてメールで送った筈ですよ?」

 

セレッサの言葉に紅一は再確認の為にベッド脇に鎮座したパソコンを立ち上げた。二つのキーボードとタワーに四つのスクリーンを持つこの巨大なハードウェアの塊は彼自身が一年程駆けてパーツを買い集めて作り上げた自前の物であり、性能も折り紙付きだ。メールボックスを開き、送信済みメールが入っているボックスを開いた。

 

「あー、ほら。やっぱりこっちには間違い無く昨日の夜日付が変わる前に送ったって記録、しっかりとありますよ?」

 

『あら、そお?分かった。私もこっちでもう一度確認してみるわ。メールアドレスって携帯も含めると四つもあるものだから忘れてしまうのよ。年取るって嫌よね。ああ、そうそう。今から三十分後に各部門のトップ全員で私の部屋で会議があるから。』

 

「え?」

 

『遅れたらどうなるかは承知してるわよね。待ってるからね、トニー?Arrivederci♪』

 

イタリア語の別れの挨拶と共にブツッと電話が切れた。時計を見ると現在六時五分と少し過ぎ。多少の準備と朝食も兼ねるとギリギリ間に合うか間に合わないかだ。

 

「おい、ユウ。起きろ。」

 

青年は未だに自分のベッドで丸まっている女性の頭を指先で少し強くつついた。布団から覗く明るい茶髪が小さく扇状にマットレスの上に広がっている。掛け布団の下からスラリとした脚が太腿辺りまで見える。何やらムニャムニャと聞き取れない事を口にする彼女に痺れを切らし、包まっている布団を引っ剝がした。

 

「おい、遊里。遊里ってば。早朝で悪いが、早速呼び出しが掛かったから先に出るぞ。冷蔵庫にあるもん、好きに食って良いから。昼休み、暇ならメールくれ。」

 

下着姿であられもない格好を晒している遊里に再び掛け布団をかぶせてやると、額に軽く唇を押し付けて直ぐに離れた。堆く積まれた菓子パンの山から適当な物を取り出してオーブントースターに中に放り込み、脱衣所に向かって部屋中に脱ぎ散らかされた服を洗濯機に投げ落としてシャワーを浴びた。相変わらず水は冷たいままである。

 

菓子パンが焼けた事を告げるチンッと小気味のいい音がし、紅一はそれを口に銜えた。黒いチノパンに長袖の白いインナー、そしてクリーニングから戻って来たばかりの赤いワイシャツの袖に腕を通す。

 

「よし、行くぜ。」

 

テーブル下のデスクトップPCの筐体が収められた棚から乱雑にファイルや書類を纏めたバインダー、更には記録媒体を幾つか引っ張り出し、それらを大小様々なサイズのポケットを多数持った大型のショルダーバッグに次々とその書類や媒体を中に収めた。最後にアタッシュケース型のノートパソコンを持って部屋を出た。

 

仕事が終わるのが待ち遠しい。紅一はそう思った。会議なんて堅苦しい物は必要だと分かっていても面倒臭いのだ。元々一つの場所でじっとしているのがあまり得意ではない性格だが、今束ねている部署では書類やデータの提出やプレゼンなどが極めて多い為、様々な所に移動しなければならない。それがせめてもの救いだった。定期的に体を動かしていないと息が詰まってしまう。

 

「後十五分か・・・・行けるか?」

 

ヘルメットをかぶり、マンションの地上階にある駐車場に置いてある愛車、ZX-14Rと言う大型二輪車のイグニッションにキーを差し込んだ。ヘルメットを被ってバイザーを下し、エンジンを何度か吹かして車道に出ると、ハンドルにマウントしてあるGPSを使って効率の良い道を探し、他の走行車両の間を縫って進んだ。

 

早朝とは言え警察車両に出くわす事無く目的地の会社に辿り着いた。見た目はリゾートホテルに見えるのだが、ここは歴としたサイバーセキュリティー企業、イーグル9の日本支部なのだ。エレベーターで一気に代表取締役の執務室に向かった。時計を見ると秒針が一周回るのを終えた所で、ドアノブを開けて丁度六時半となる。

 

だが部屋は二人の人間を除いてがらんどうだった。

 

「・・・・・代表、事ある毎にこう言う理不尽な呼び出しやめてくれません?俺にも私生活のリズムと言う物があるんだから。」

 

「あら、理不尽だなんてとんでもない。後、貴方が言った通りちゃんとあったわ。ごめんなさいね?」

 

紅一の抗議をどこ吹く風と受け流したのは、タイトフィットな黒いパンツスーツに身を包んだスタイル抜群の女性だった。丁度グラスにワインらしき物を注いで一気に飲み干した所だったらしく、ワインが入っていると思しきボトルとワイングラスをしまっていた。

 

「紛らわしい物飲まないで下さい。見た目まんま朝っぱらから酒搔っ食らってる様にしか見えませんよ?まあ俺は赤シソのエキスだって知ってるから良いですけど。」

 

「あら、綺麗でいたいって思うのがそんなにいけないかしら?」

 

澄まし顔のセレッサは蝶の形をしたブローチを指先で撫で、眼鏡を押し上げた。

 

「いや、悪いとは言わないですけどその飲み物に関してはTPOって奴をですね・・・・」

 

樫材で出来た一目で高級品と分かるデスクの上にはパソコンと置き時計、複数のファイル、そして役職とセレッサのフルネーム、セレッサ・ロダン・ヴィグリッドの名が書かれたプレートがあるだけだった。

 

「はいはい、分かったから黙らっしゃい。今回の呼び出しは私も予定外の物だったんだけど、どうしても茅場主任が直接御礼が言いたいからって。」

 

茅場の名を聞いて、紅一は動きを一瞬止めた。一拍置いて息を吸うと、改めてセレッサの隣にいる白衣姿の男の顔を見た。三十代後半から四十代前半の彼はまるでお茶会で一服している様な涼しい表情をしている。

 

茅場秋彦、それは今や世界で名を知らぬ物はいない男だった。世界が悪戦苦闘していたバーチャルリアリティーを実現させるマシンの設計と開発でいち早く成功にこぎ着けたソードアートオンラインの生みの親にしてゲームデザイナー、更には量子物理学者と、『天才』と言う称号に恥じない能力を持つ人物だ。

 

「いや、申し訳無い。こちらの一方的なアポを無理に通してもらって。最上紅一君だったね。ソードアートオンラインに必要不可欠だったカーディナルシステムの作成を手伝って貰った事に関して改めて直接礼を言いたくてね。ありがとう。君のお陰で色々とスケジュールを繰り上げる事が出来た。」

 

「あら、あの出張ってその為?ていうか、貴方そんな事してたの?ずるいじゃな〜い、会社の宣伝にもなったのに。」

 

子供の様に膨れっ面を見せたセレッサは引き出しの中から緑色の棒付きキャンディーを取り出して口に銜えた。

 

「手伝わせてくれるのと、ソードアートオンラインやナーヴギアに関する情報開示をする代わりに企業秘密漏洩を防ぐ為に守秘義務を守ると言う契約書にサインしなきゃならなかったんで。社会人として契約違反とか論外ですよ。」

 

「そう言う訳だ、ヴィグリッド代表。その事に関してはあまり彼を責めないでくれ。それと、もう一つ。君に渡す物がある。」

 

茅場は所属企業ARGUSの社印が押された大きめの茶封筒を取り出した。それを見て紅一は息を飲んだ。

 

「初回のソードアートオンライン。一万本のうちの一本・・・・」

 

「これも君へのお礼の一環だ。ベータテストの時に君のデータを見せて貰ったが、いやはや数値と言い適応能力の高さと言い、驚かされたよ。凄まじいの一言に尽きる。トッププレイヤーの中でも三本の指に入る。もし本当に御伽話の世界で生きていたら君は差し詰め魔王の右腕か最強の勇者と呼んでも差し支えないだろうね。それに、君がプレイ中に感じた違和感や、その他の気付いた事を指摘してくれたお陰で更に細かい修正を施す事が出来た。私の夢も、これで実現出来る。」

 

「俺も楽しかったっすよ。いやー、流石に現実世界であんなにハジける事は出来ないんで良いストレス解消になりました。」

 

内心飛び上がらんばかりに喜んでいる紅一は拳を振り上げて歓声を上げるのを必死で堪えていた。ベータテストのプレイ期間では正直物足りなかったが、再びソードアートオンラインのソフトが開発者から直々に渡された。

 

これでまたあの『ゲームであっても遊びではない世界』————アインクラッドで、存分に暴れられる。踊る心を胸に隠して自分の部署に戻った紅一は、部下達を集めた。

 

「Ladies and Gentlemen、お前らも知っての通り、今日から八日後にソードアートオンラインの正式サービスが開始する。この中に運良く手に入れられた奴がいたかどうかは分からないが、いると仮定して、定時に帰って思う存分攻略に励みたいと考えている奴は多いだろう。お前らには悪いが、その日の為に今から数日は死ぬ気で働いてもらう。残っているプロジェクトを最小限の力で完了させ、尚且つ最大限の結果を残す。当然俺も付き合う。以上だ、解散!Let’s rock people!」

 

パンパンと手を打ち鳴らし、皆はそれぞれデスクへと戻って仕事を初めた。紅一もまたオフィスにあるデスクに積まれた書類の山と、これから部下が運んで来る報告書やその他のレポートを整理する為に奔走を始めた。

 

「よし、良いぞ。吉岡、江藤と一緒にこのレポートの束を営業まで持って行け。」

 

「はい!」

 

「吉富、ここ数字の桁が違う。こっから下全部やり直せ。時間無いから大至急で。」

 

「はい、すいません!」

 

「佐伯、来年度の予算はもう少し余裕があるからって調子乗り過ぎ。後々になって使える金が多少なりと残ってた方がいざという時の為に役に立つから。そうだな〜・・・・え〜〜、うん、この二つはもうちょい削れ、さじ加減はお前に任せる。終わったら経理部のレディーから判子貰って来い。」

 

「レディー・・・・さん・・・?あのぉ・・・」

 

佐伯の面食らった反応を見てしまった、と紅一は己の額をピシャリと打った。

 

「悪い、今のはあいつの渾名だ。リディアだ。経理部のリディア・アーカムに渡せ。トニー・レッドグレイブからだと言えば彼女も分かる。」

 

三人が走り去ると内線で営業部に電話をかけた。

 

『ハァ〜イ、営業部のエバンズよ。』

 

ハスキーな女性の声が耳に飛び込んで来た。

 

「トニーだ。吉岡と江藤が今からレポートの束持ってそっちに行くから。誰にどれをやらせるかはトリッシュに任せる。あー、後、経理部のレディーに佐伯が予算の明細書を持って行くって伝えといてくれないか?今こっち一杯一杯なんだ。」

 

紅一は受話器を耳と肩に挟み込みながらも左手でキーボードを操作し、右手でペンを書類の上を走らせている。

 

『悪いけど無理。今こっちもてんてこ舞いなんだから。』

 

「おいおい、電話の一本もかけられない位忙しいってどんだけだよお前?」

 

『仕方無いのよ、今監査役が来て目を光らせてるから。こっちも下手に沢山仕事を部下にやらせたら不当な職務執行行為だって見なされちゃうかもしれないでしょ?だから殆ど私がやらなきゃならないの!』

 

「まあ、部下を動かす事に関してはお前、俺以上だからな。正に最小限の努力で最大限の結果を出してる。分かった、俺が電話する。後でな、トリッシュ。」

 

一度受話器を置いて経理部に繋げようとする下が、その手間が省けた。既に経理部からの連絡が来たのだ。

 

「はい、開発研究部。」

 

『トニー、予算にまだ余裕があるんならもっと色々と買いなさいよ。へそくりでもするつもり?』

 

今度の声は多少幼さが抜けない拗ねた様な女性の声だ。

 

「正確には部署の奴ら全員の分だがな。いずれ全員でパーッと飲み会でもどうかと思ってる。その明細書の事をどうにかして貰えればお前も一枚噛ませてやれるんだがなあ。」

 

『仕方無いわね。良いわ、何とかしとく。それより、アンタ昼休みは暇?』

 

「あー、まだ分からんな。」

 

ポケットから携帯を引っ張り出したが、不在着信もメール受信も無い。

 

「どうせ俺に奢らせるつもりだろうが。ま、良いけど。暇だったら電話する。」

 

『何よ、まるであたしがたかりみたいじゃない。』

 

違うのか、と言いたいのをグッと我慢して受話器を置いて紅一は仕事を続けた。

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