ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
2023年1月1日、元旦。第二層は十二月の終わりに早くも突破され、第三層へと足を踏み入れた。この層の主街区『トローワ』では攻略されて間も無いからかまだNPCとごく少数のプレイヤーしかいない。これを好機と見て、ダンテは朝方に皆を集めた。
「とりあえず、明けましておめでとうございます。今年もこのパーティーのメンバーが誰一人欠けずに生き残れるよう祈っていてくれ。」
祈っていてくれ、つまり自分は祈らないと言う事だ。
「ダンテは祈らないのかよ・・・・?」
「俺は基本的に他力本願や神頼みってのが嫌いなんだ。いもしない奴に頼んだ所でどうにかなる訳じゃない。それは兎も角、今日集まってもらった理由は一つ。作戦会議だ。そこで、昨日の夜立てた計画がある。」
神妙な顔付きで語るダンテの言葉にキリトとアスナは一体どんな事を話すのだろうかと思いながら身を乗り出した。その神妙な顔付きが見事に期待を裏切る言葉を口にするなど知らずに。
「観光と買い物だ。」
「・・・・・・・は?」
珍しくキリトとアスナが声を合わせた。ダンテは今何と言った?観光?それに買い物?ようやく波に乗り始めて来たと言うのに?先程口走った言葉は空耳だろう。そうに違いない。
「えっと、観光?買い物?何言ってるんですか?」
困惑して詰め寄るアスナをどうどうとアルゴが落ち着かせた。
「まあまあ、焦るな。前にもトールバーナで言ったが、このSAOはベータの時とは違う。細かい所から大きな所までだ。コボルドロードの武器がタルワールではなく野太刀だったし、モンスターのAIの精度もそうだ。もしかしたら街の形状自体も多少は変わっているかもしれない。」
「それを確かめる為に街を回って必要な物を観光がてら買いに行くって事だヨ。」
現時点で一番ダンテの思考を理解しているアルゴが更に続けた。
「まだプレイヤーの数が少ないかラ、本格的にごった返す前にNPCがやってる各種の店の当たり外れを確認しておけるしナ。何より今日は新年だシ、ゆっくりしようヨ。」
「何悠長な事言ってるんですか!?ゲームをクリアしないと、リアルでの私達の時間がどんどん無くなっちゃうんですよ!?」
アスナは声を荒らげ、テーブルを乗り越えながらダンテに迫って行ったが、喉元にアニールブレードを突き付けられて動きを止めた。眉一つ動かさずにメニューから呼び出し、既に抜き身になっている刃はぴったりと彼女の顎の下で止まっている。まるでしつこい野良猫に居候されているかの様な面倒臭そうな顔付きで溜め息をついた。
「落ち着けクソガキ、最後まで人の話を聞け。焦った所でゲームクリアには帰結しないぞ。パーティーメンバーに死なれちゃ困るのは事実だが、ここは無法地帯だって事を忘れるな。それに、アルゴを無事にここから出す為の足を引っ張るってんならそれなりの覚悟はして貰う。」
今まで感じた事が無い気分にアスナは生唾を飲み込んだ。ダンテの瞳は虚ろで、何も映していない。只々明確な殺意を向けていた。喉がカラカラになって行き、呼吸も浅くなり始めた。
怖い。この男が、怖い。まるで静かに怒りに燃える本物の悪魔を前にしている様な気分だった。舌が麻痺してしまったかの様に思う様に言葉を発する事が出来ない。既に人を殺しかけたか、最悪の場合殺した事があるのではないか。
そう思い始めた矢先、次の瞬間にはまるで何も無かったかの様にダンテが剣をしまっていつもの人を食った様な笑みを浮かべていた。
「つまり、だ。この世界は遊びの世界ではなくなってしまったかもしれないが、ゲームの世界である事に変わりは無い。ゲームとは娯楽。つまり現実世界に於ける数少ないゆとり。何事にも、ゆとりは大事だ。意味分かるよな?」
アスナは無言で頷いた。
「つまりはそう言う事だ。お前がリアルじゃどんな環境で生きているのかは知らないしマナーとして聞くつもりも無いが、今後からそう言うやり方は変えた方が良いぞ。自分から窮屈な生き方するなんて、お前よっぽどの堅物だな。アルゴ、付き合ってやれ。女同士なら気兼ねなく色々やれるだろう。ついでにクエストの変更、増量も探ってもらえると助かる。何かあったらメッセージ飛ばせ。」
「そうさせてもらうヨ。アーちゃん、こっちダ。」
アスナは終始ダンテを睨みながらも半ば強引にアルゴに手を引かれて宿を出て、人込みの中へと紛れ込んだ。
「さてキリト、お前は俺と来い。フィールドでモンスターの調査だ。」
「その前に一つ良いか?」
「ん?」
「アンタが強い事は分かった。でも、アスナにあそこまでやる必要は無かった筈だ。相手は女の子だし、それは歴とした凶器なんだぞ!?」
キリトはダンテの腰にあるアニールブレードを指差し、激しく講義した。
「もう忘れたか?圏内でPKが出来るのはデュエルの時のみ。ノックバックはあるが、死にはしない。」
「それでも!」
尚も食い下がるキリトの胸ぐらを掴み、筋力値に振った高レベルのステータスに物を言わせて片手で持ち上げた。暴れて必死に暴れてダンテの顔に手を伸ばしたが、元々身体的には圧倒的に分が悪いキリトに出来る事は何も無い。
「良いか?一度しか言わないから良く聞け。俺は三度も人を殺しているんだ。今更目の前で他人が死にそうな目にあっても俺から感情移入なんてリアクションを取れると思うな。パーティーから抜けたきゃ勝手にしろ、俺は止めない。だが、断言する。今のお前にはソロプレイを続ける事は不可能だ。人間は特定の獣と違って集団の中でしか生きられない不便な生き物だからな。」
キリトの胸ぐらから手を離し、ジャガイモが詰まった袋の様にどさりと床に落とした。
「人を、殺しているだと・・・・?」
ダンテはしまったと小さく舌打ちをした。ついつい余計な事を話してしまった。
「俺が手を直接下した訳じゃないが、結果的にな。まあそれはどうでもいい。お前一人では」
「勝手に決めつけるな。俺はベータテストの時でも一人でやって来たんだ!」
ダンテの言葉を遮ったキリトも段々と語気を荒らげ、目尻が怒りで吊り上がり始めた。だがキリトの威圧などものともせずにダンテは鼻で笑った。
「強がりを言うな。中学生の心の強さなんて程度が知れる。さっきも言ったが、抜けるなら俺は止めない。だがリスクを良く考えて行動しろ。生存率以外のリスクをな。どうする方が得か、よぉ〜〜く考えるんだ。」
キリトの息遣いが荒くなり始めた。何なんだこの男は?まるで文庫本の様に容易く自分が考えている事を口にしている。読心術でも使っているのかと思ってしまう程的確に図星を突かれ、何も言えなくなってしまう。
その刹那、ダンテのアバターが悪魔に見えた。人の心の奥底に眠る邪な欲望だけでなく、呼び出した者の全てを見透かした、いやらしい笑みが口元を歪める悪魔に。
生存率以外のリスク。ソロプレイをすれば経験値やコル、そしてアイテムなどは全て独占出来る反面、多数のモンスターに囲まれた時は絶望的だ。援護、トラップからの救出、状態異常やHPの回復、その他の支援をしてくれるプレイヤーもいない為、ほぼ間違い無く死んでしまう。
それに続くもう一つのリスクは精神的な物。キリトもまだ中学生なのだから当然許容量を超える様な苦痛を味わえば小枝の様に心は容易く折れてしまうだろう。だが孤独感による精神的苦痛より酷いのは集団の『温もり』を知った後にそれを全て失う事だ。
例えば、もしキリトがソロプレイを決行して別のパーティーないしギルドに誘われ、首を縦に振ったとする。そして何らかのアクシデントでそのパーティーが瓦解してしまったら真っ先に責任を感じるのはベータテストでSAO攻略の先陣を切って来たキリトだ。今の今までクラインの事を引き摺っていたのだからまず間違い無い。更に生き残った者達からの攻めと自責の念に押し潰されてしまえば、十中八九発狂し、最悪の場合自ら命を絶ってしまうかもしれない。
「このパーティーは小数だし、四人中三人がベータテスターだ。加えて、俺はアルゴとテスト期間で第十二層まで登りつめた。生存率だけなら、このアインクラッドで俺の右に出る奴は早々いない。それに他人のミスを自分のミスの様に言い繕う様な厚かましい奴もいない。立てよ、ほら。」
尻餅をついたままのキリトを引っ張り起こし、彼らも宿を出た。
「・・・・・本当なのか?人を、三人殺したって。」
人込みの中でキリトは低い声でダンテに恐る恐る訪ねてみた。
「ああ。俺がまず最初に殺しちまったのはお袋だ。俺が生まれてから数年後に衰弱死してな。元々虚弱体質だったのに出産の無理が祟ったのさ。まだ六歳のガキだったよ。思い出と呼べる物も殆ど無い。あるのは写真位だ。」
キリトは思わず足を止めてしまった。
「次に殺したのが、親父さ。高校の時にちょっかい出したのがド三流のチンピラだと思ってたら、実は元ヤクザでよ。どっから手に入れたかは知らねえが、マジモンの
凄惨過ぎる。そんな風に周りの人間が自分を残して死んで行ったら、自分は間違い無く発狂する。精神病院に入れられる。それなのに目の前にいる彼はそれに屈する事無く自分の足で立ち、前に進み続けているのだ。
「さてと、もうすぐフィールドに到着する。下らん昔話はこれで終わりだ。漏らしたらお前も殺すからな?」
NPCの店で売られている装飾品や日用の服装を見て回っている時に不意にアスナはアルゴに訪ねた。
「アルゴさん。」
「ん〜?どしタ、アーちゃん?」
「ダンテさんて、どんな人ですか?」
「ん〜〜、ぶっきらぼうで気怠そうな顔して大抵の事は面倒臭いの一言で片付けるガ、結局はやってくれるんだ。いざと言う時は頼りになる男だゾ?」
「それは、そうかもしれないですけど・・・・でもやっぱり言葉の選び方って物が・・・・」
シニカルと言うか辛辣と言うか、現実主義だと自称しているダンテの口から吐き出される言葉は兎にも角にも不快感や苛立ちしか募らせない。
「いつもああする訳じゃないゾ?ただ、ハッピーエンドや正義なんて物はあんまり信じないんダ。善くも悪くも影響されて今に至るって事サ。普段はツンツンしてるガ、あれでも可愛いトコはあんだゾ?」
やはりパーティーメンバーの陰口を叩くのは気が引けるため暫く言うのを躊躇っていたが、アスナは意を決して口を開いた。
「正直に言います、私あの人の良さが分からないし、好きになれないです。トールバーナのボス攻略会議の時もそうだし、さっきの会議でもそう。何であんな捻くれた物の見方しか出来ないんですか?それにあんなに実力があるのにヘラヘラしてて、不真面目で・・・・これじゃ本気で攻略に取り組んでいる人達が馬鹿みたいですよ!!」
良家に生まれた事もあり、根が真面目なアスナにとってどこからどう見てもちゃらんぽらんな不良としか取れないダンテの一挙手一投足がどうも神経を逆撫でするらしく、宿でもあの様に食って掛かってしまったのだ。
アルゴは盛大に愚痴を零すアスナをまるで手のかかる妹を見る様な眼差しを向けた。
「まあ、どう思うがアーちゃんの勝手サ。でモ、人は見掛けによらないからナ。にしても、アーちゃんは真面目だナ。でモ、ちょっと真面目過ぎダ。リアルじゃ学級委員とかだロ?」
「・・・・生徒会長です。」
口内に限定されるとは言え学級委員より更に輪をかけて責任重大なポストである。アルゴは思わずお〜っ、とわざとらしく驚いた。
「でもナ、俺っちも言っとくゾ、アーちゃん。四角く考え過ぎダ。ヘラヘラしてる様に見えて、実際色々考えてるんだヨ。リアルじゃあいツ、26でイーグル9日本支部の開発研究部部長だからナ。」
それを聞いたアスナは思わず耳を疑った。イーグル9と言えば、キャリアの元警察官僚が立ち上げたサイバーセキュリティー会社で、国外にも幾つか支部がある。時には警視庁や警察庁も手を借りる事も少なくない、正にエリ—トが集う企業だ。そんな所にあんな男が26の若さで幹部など、エリ—トの中でも指折りと言う事になる。俄には信じられない。あの若さでそれだけのポストに就任出来るのも重役達もそれだけ彼の腕と知識を買っていると言う事だ。
「嘘・・・・・・」
だが彼女が疑うのは無理もなかった。自分が知っているダンテに関する情報があまりにも少な過ぎたのだから。気怠そうで緊張感の欠片も無い態度や挑発的な物言いもそうだが、つかみ所の無い人を食った様な態度、死を前にしても全く動じない強靭な精神力。英語で言うEnigma、謎の存在と言う表現がよく似合う男だ。蓋を開けてみればまさか企業の中核を担う重役の一人とは。人は見掛けに依らないとは良く言った物であると、アスナは改めて自分の浅薄な見立てと見かけの固定観念に囚われた考え方を恥じた。
「ホントだヨ。兎も角、ダンテもリアルじゃ色々あったシ・・・・ま、この先は本人の許可が無いと喋る訳には行かねえがナ。アーちゃんも彼氏が出来たら男の良さが分かるサ。因みに今のダンテの情報、二千コルだヨ?」
流石(ダンテ以外には)商売するのを忘れない情報屋、鼠のアルゴ。抜け目が無い。
「さてト、視察を兼ねた観光に行くんだかラ、ウルバスに戻ってトレンブル・ショートケーキを食べに行くヨ。」
トレンブル・ショートケーキは第二層にある食べ物で、トレンブリング・オックスの絞ったミルクを材料にしている。値段は張るがその味は勿論折り紙付きで、それに加え一定時間アイテムのドロップ率が格段に上がると言うバフもあるのだ。
ちなみにアスナもそのトレンブル・ショートケーキを一口食べた瞬間から気に入り、更に上の層に行っても時折それを食べる為だけにワザワザ下の層に足を運ぶ事も多々あった。
感想、誤字脱字の報告、評価、その他色々と首を長くしてお待ちしております。