ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
叫び声を上げたのは、一人の少女だった。布で出来た水色のインナーの上に胴体を覆うシンプルなプレートアーマーを身に付けている。恐怖のあまり腰を抜かし、更に持っていた武器はいつの間にか手元から離れてしまっていた。持っているのは鉄枠に嵌った木製の楯のみ。彼女以外の男性プレイヤー四人も命の危機に瀕していた。彼らの装備も二人は耐久値が底を突きかけており、後の二人は麻痺毒で動けず、回復アイテムも二人分しか無い。
胸にお揃いの三日月型バッジを付けた彼らはギルド『月夜の黒猫団』のメンバーだ。軽く出かけて少しばかり稼ぎに行こうと近くの狩り場でまだ行っていない場所へと踏み入ったが、運の悪い事に彼らが入った場所はそのフィールドの中でもかなり癖のある場所だった。
彼らを襲っているモンスターは『サンセット・スネーク』。サイズは1.5メートル弱と少しばかり大きいがアナコンダの様な長蛇ではない。山吹色の外皮と四つある目が特徴だ。一匹だけなら大した脅威にはならないが、中には雌のサンセット・スネークもいる。この雌はフェロモンを撒き散らし、近辺にいる同族を高確率で呼び寄せるのだ。更に麻痺毒もこの層にいるモンスターの割にはかなり効き目も強い。
群れになると時間差で波状攻撃を行うのでパーティーを組んでいても対応は間に合わない。一度噛まれてしまえばそのまま群れに飲み込まれ、HPが枯渇するまで噛み続けられる。死ぬのはほぼ確定だ。
誰か、助けて。
だが祈った所で誰かがやって来る筈が無い。ジタバタ足掻いた所で助かる訳でもない。そう思いながら少女は楯から手を離して最後位は潔く死のうと目を瞑った。
「いた!キリト君、ダンテさん、広範囲の攻撃!急いで!」
「了解!」
「お〜〜、蛇だ蛇だ!」
ダンテとキリトは点ではなく面を制圧する為、横薙ぎに剣を大きく振るった。更に交替でホリゾンタルやスネークバイト等の左右に切り払うソードスキルを発動し、まるで雑草でも刈り取るかの様にサンセット・スネークの数を減らして行く。
アスナはその間に動けなくなっているプレイヤー達に麻痺毒の解毒ポーションを飲ませ、その場から退避させた。あれだけいたサンセット・スネークも二人の奮闘で全滅にまで追い込んだ。
「終わった終わった。ああ言う数合わせしなきゃ何も出来ないモンスターってかったりいな全く。こちとら麻痺対策万全だっつーの。」
ゴキゴキと首を鳴らし、ダンテはソリッド・ヴァーミリオンを鞘に納めたまま肩に担いだ。
「おいアスナ。そちらさんの被害は?」
「とりあえず生きてるから大丈夫。回復ポーションも飲ませたから、フィールドから出るまでは私達が一緒にいれば安全よ。立てる?」
アスナは呆然としたままの少女の手を掴んで助け起こした。そして少女は我に返ると再びストンとその場に座り込んでしまう。極限まで張り詰めていた緊張の糸が切れてしまったのだ。
「おい、サチ・・・・」
「ごめん、ケイタ。大丈夫だから。」
ケイタと呼ばれたダークブラウンのインナーに所々プレートアーマーを付けた茶髪の青年が近付いて彼女を助け起こした。他の二人も彼女を気遣う。
「ほら、ダンテさん。だから言ったでしょ!このまま無視してたらこの人達死んでたのよ!」
「遠方から声が聞こえたからってピンチかどうかなんて直ぐには分からないだろうが。行くのを遠慮したのはVRMMORPGプレイヤーとしてのマナーだ、マナー。お前だって獲物をいきなり横槍入れた奴に捕られちゃむかっ腹立つだろ?そうならない様にしてたんだよ。」
再び口論を始める二人にケイタやサチは何と言えば良いか分からずぽかんとしていた。
「ああ、あの二人は気にしないでくれ。何時もの事だから。」
二人の方を見ながら苦笑し、キリトはケイタ達に立つ様促す。
「本当に、本当にありがとうございます。助けてくれて。」
「お礼ならあそこにいる彼女に言ってくれ。彼女が先に叫び声を聞きつけてここまで来たんだ。さあ、また蛇共がウジャウジャ湧き出る前にここを離れよう。全員麻痺が抜けたんなら直ぐに移動するよ。」
五人のプレイヤーを連れてフィールドの離脱に成功したキリト達は転移門がある噴水近くのベンチで一息ついた。
「た、助かったぁ〜〜!!」
オレンジの外套ですっぽりと覆われた青年が大袈裟に溜め息をついた。
「ホント、ダッカーと同じであれはマジで殺されるかと思ったよ。一瞬走馬灯が見えた。」
未だに手が震えている細目の青年『テツオ』は持っていたハンマーをしまい、両手で頭を覆って何度か深呼吸を繰り返していた。
「気にしないで。私達が運良く見つけただけだから。私はアスナ。よろしくね。」
「ちょ、ちょっと待って。アスナって・・・・『閃光』のアスナさん?」
アスナの満開した花の様な明るい笑みに四人の男性プレイヤーは暫くボーッと見惚れていたが、サチの疑問ではっと我に帰った。
「そうだ・・・・そう言えば・・・・レイピア持ってる・・・・!じゃあ、隣の二人は・・・」
「あーあーあー、やっぱりバレちまったじゃねえか。時間の問題ってのは仕方無いとしても、さっきみたいに後先考えずに突っ走った所為で・・・・だから警告しようとしたのに。」
お忍びで来たつもりだったのにアスナのお陰で見事に正体がバレてしまった。もしこのまま他のプレイヤー達にここにいる事を知られてしまえば、芸能人を追跡するパパラッチよろしく追いかけ回されて調査どころではなくなる。だがここで下手に隠しても逆に怪しまれてしまうためキリトと自分の正体も明かした。
「そうだ、彼女が噂に名高い『閃光』のアスナだ。で、黒尽くめのあいつが『黒の剣士』キリト。俺は、『
アスナは数少ない女性プレイヤーの中でも一際目立っている。まず女性自体がVRMMOをプレイする事が珍しいと言う事もあるが、その容姿と剣先すらまともに見えなくなる必殺の突きはアインクラッドでは有名だった。キリトとダンテもアインクラッド攻略が本格的に開始されるきっかけを作った功績とスタイリッシュで華麗な戦闘で知名度は上がっている。勿論どれもアルゴの仕業だ。
「三人とも・・・・攻略組プレイヤーだ!」
「すげえ・・・・・本人見るなんて初めてだ・・・・」
まるで神を目の当たりにしているかの様に呆然とする彼らを地面に金属が当たる耳障りな音が現実へと引き戻した。ダンテがソリッド・ヴァーミリオンを地面に突き立てた音だ。
「俺達がここにいた事は一切他言無用だ。こっちとしても動き難くなる。命を救ってやったお返しとしちゃ安い代金だろ?アスナ、アルゴから合流してくれってメールが来てるから俺は先に行くけど良いよな?」
口ではそう言っているが、目はこう語っていた。俺はお守りなんてごめん被る、と。
「分かりました。私達はもう少し遅くなるって言っておいて下さい。」
アスナは彼に別れを告げ、ダンテはアルゴの現在地をマップで確認してから主街区の名を唱えて消えた。
「あー、彼の事はあんまり気にしないでやってくれ。ダンテは気難しい気分屋なんだ。でも、あんまり無茶なレベリングしてると本当に死ぬぞ。それだけは覚えててくれ。やる事に少しでも不安を覚えるなら直ぐに再検討だ。」
「はい・・・・あの、キリトさん。こう言うのを聞くのって失礼だとは思うんですけど、レベルってどれ位あるんですか?」
答えようとした所で、メッセージが届いた事を知らせるアイコンがちかちかと点滅した。ダンテからだ。
『アスナとお前の事だからそいつらのアフターケアはしなきゃ駄目だと言うだろうから、好きにすると良い。ただし、呑んで貰う条件が四つある。
一、単純明快に死なない事。
二、常に警戒する事。何をとは言わなくても分かる筈だ。敵はモンスターだけじゃない。
三、定期連絡を怠らない事。キリトは俺に、アスナはアルゴに。朝、昼、晩と、一日三回。
四、俺かアルゴのどちらかが呼び戻しのメッセージを飛ばしたらすぐに戻る事。
この四つを守れるなら、今日から一ヶ月の間だけソイツらの面倒を見るなり他の中層圏を視察するなりお前らの自由だ。無理ならお前らの両足切り落としてから無理矢理にでも連れ戻す。』
キリトはそれを見て迷った。結局の所はビギナーを第一層で見捨てた負い目への埋め合わせをしようとしているだけかもしれない。それに文面から滲み出すダンテの本音が嫌と言う程伝わって来る。
そんな事しても何も意味はない。神や仏でもない奴に中層プレイヤー全員を救う力なんてありはしない。降りた所で、何を宣おうと死ぬ奴は結局死んでしまう。落ち度が無いのに自分を責める理由なんてどこにも無い。
だがそれでも良い。それで自分の気が済むのだ。ダンテには悪いが、彼が言った様にリーダーはいない。だから、好きにやらせてもらう。条件を呑むと言う返事を出すと、ケイタの質問に答えようとしたが一瞬迷った。攻略組である事はバレてしまった以上、隠す必要は無い。だがまだ相手の事を良く知りもしない状態でこちらの情報を迂闊に渡すとなると、多少なりとも警戒してしまう。強化詐欺の事もそうだがダンテの忠告が頭の奥で引っ掛かり、声が出せない。
「キリト君は42よ。私は40ぐらい。二人共元々はソロだったんだけど成り行きでパーティー組んじゃってね。今でもたまに別行動とって狩りやってるけど。」
キリトが元々口数が少ないと言うのを共に時間を過ごしている内に早くも察したアスナが助け舟を出して代わりに答えた。
「あ、ああ。パーティーメンバーに無理言って暫く別行動を取らせてくれって頼んだんだ。それでOKが出たからここにいる。一人でも多くのプレイヤーに生き残ってもらわないと。」
彼女の機敏さに感謝し、そっと胸を撫で下ろしながら助け舟に便乗して更に続けた。
「もう暫くここら辺のプレイヤーの調子を見ようとは思ってるんだ。」
「あ、じゃあじゃあ!ここ俺達の拠点なんスけどお礼させて下さい。美味いモン一杯ありますから!」
「こらダッカー。二人は別に中層圏に遊びに来てる訳じゃないんだから。」
飛び跳ねるダッカーをテツオが窘めた。
「何言ってんだよテツオ、俺達の命の恩人に何のお礼もしないって方が失礼だろ。なあ、ケイタ?」
テツオの肩に腕を回して下手糞なヘッドロックをかけたのは緑色の上下に身を包んだササマルだった。
「それもそうだな。あの、ご迷惑じゃなければご一緒して頂けませんか?」
彼らからすればアスナとキリトは戦士なのだ。最前線で文字通り命を賭して攻略に挑んでいるプレイヤーには嫌でも畏敬の念が生まれるので、普通に話しかける事すら恐れ多いのだろう。
「良いけど、その代わり敬語はやめにしてくれ。馴れてないから何か変な感じなんだ。」
「そうよ、同年代なんだし。」
「ダンテ、良いのか行かせちまっテ?」
二十四層にある貸し部屋では丁度シャワーを浴び終わった所なのか、上気した顔でバスルームからアルゴが出て来た。うっすら赤くなった肌と濡れた髪が実に扇情的な姿である。
「あの二人は確かにコンビネーションも良いシ、ソロでもこの階層じゃ充分通用するレベルだけド、俺っち達の戦力の半分だゾ?」
「構わないさ。中層にいる風魔の連中に二人をバレない様に見張る様に頼んでおいた。あいつらも馬鹿じゃない。中層圏のプレイヤーも早く攻略組に追い付いてもらわなきゃいつまで経っても出られないしな。」
起き上がり、返事の最中に欠伸が出た。目尻からこぼれた涙を拭って立ち上がり、装備を整えた。
「出来るだけプレイヤーを死なせない、そんな理想を持つ事自体は悪くない。だがそれを実現出来るだけの力を持っていなければどうなるか、身を以て知る為の良い機会だ。」
「けど中層圏にもオレンジやレッドは絶対いる筈ダ。もしアーちゃんやキー坊と鉢会わせたラ・・・」
その時はその時だ、とばかりにダンテは肩を竦めた。
「今の所は俺達がレーダー役になってオレンジプレイヤーがいそうな所をあえて避けてたから大丈夫だったが、自分の身を守る為にいざと言う時は腹を括らなきゃならない。俺が言った所で分かりゃあしないし、可愛い子には旅をさせろって言うだろ?」
「そりゃ親の言う事だヨ。」
言いたい事は分かるだろうと言いた気な視線を受けてアルゴは悪戯っぽく笑った。
「お前があの二人を気に入ってるのは分かるが、こればっかりは身を以て知らなきゃ染み込む様なモンじゃないからな。後、願わくばあの二人がさっさとくっ付いてくれます様に。」
アルゴは思わず噴き出した。そして腹を抱えたままゲラゲラと大声で笑い始めた。
「最後のソレ、何だヨ?」
「いや、だってお前もそう思うだろ?あんな美人と四六時中一緒にいて何も感じない方がおかしいぞ。どっちかからさっさとアプローチをかけてくっ付いて貰わなきゃ二人を弄くると言う楽しみが無くなっちまう。」
不純な動機にアルゴは更に笑った。笑い過ぎてそのままさっきまでダンテが寝そべっていたベッドに倒れ込んでしまう。その上にダンテが覆い被さって来た。
「ちょ、おイ・・・・シャワー浴びたばっカ・・・」
「いつまでもそんな格好してるお前が悪い。」
彼女の顔に息がかかる程顔を寄せ、耳元でそう囁いた。
「遊里が言ってた様に、俺はサディスト色情魔ですから。」
耳から首筋へと唇や舌を這わせると、アルゴが自らの口を塞いでもぞもぞし、時折小さな喘ぎ声が口端から漏れる。タオルで体を隠しながら弱々しく抵抗する。
「ちょっ、ほんとニ・・・・まダ、報告が・・・」
口ではそう言う物の、抵抗は殆どしていない。
「良いから良いから♪」
彼女の透き通る柔肌の温もりと滑らかさを味わいながらも兄バージルの事が痼りとなって残っている。あの場で勝利はしたがかなりギリギリだ。次もああやって勝てる保証も無い。向こうは恐らく寝る間も惜しんで迷宮区を彷徨い、今もレベルを上げているのだろう。
次回はアインクラッド解放隊がボロクソにやられたクォーターポイントにおける番外編で、ダンテとアルゴを物語の主軸に据えようと思います。