ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
2023年 5月9日
今日でダンテが提示した中層圏の視察の期限が終わる。現在キリトとアスナは第二十層にある日だまりの森と言う草木が生い茂ったフィールドで月夜の黒猫団のメンバーを伴って狩りをしていた。
最初の数日に議論したのは、サチのポジションだった。リーダーのケイタは彼女を中衛の槍使いから楯と片手剣の前衛ポジションに転向させようと言う物だった。しかしアスナは女の子を危険な目に遭わせるつもりかとケイタを叱責し、猛反対した。幾ら同級生で気心の知れた仲間でも、サチも本来引っ込み思案で気が弱い。それを誰よりも良く分かっているのにワザワザ危険な目に遭わせるのは同じ女として頂けない。
キリトもこれには賛成した。勿論率先して女性を前に出すのは気が引けると言うのもあるが、戦術的な人選ミスと言う理由もある。何度か彼女が前衛に出るのを見たが、剣を振る時も防御する時も楯で自分の視線をほぼ完全に遮って更に目を閉じている。そしてその都度自分かアスナが彼女を下がらせて援護し、モンスター討伐に成功するのだ。とてもではないがアタッカーのポジションを彼女に任せる事などとてもではないが出来ない。
結局、サチのポジションは槍使い兼ポーションや料理などのスキルを上げる後方支援に収まり、片手剣に転向したのは短剣使いのダッカーだった。元々レベリングの際はキリトと同じ敏捷性に重きを置いているし、何よりサチよりも前に出る度胸も持ち合わせているため適材適所と言える。その証拠に、フィールドで遭遇したカマキリ型のモンスター『キラーマンティス』を黒猫団は二人の力を借りずに自力で倒す事に成功し、最後に止めを刺したテツオもレベルがに上がった。
「よっしゃあー!」
歓声を上げるテツオにメンバーが労いの言葉をかけた。少し離れた所でアスナはそれを微笑ましく眺める。キリトも彼らの成長振りを見て素直に感心していた。自分達が唯一口を挟んだのは誰が新しく前衛に出るかの議論と効率の良い狩り場だけで、後は彼らが自主的に事を進めて来た。
「アスナ、嬉しそうだね。」
「うん。だって考えてみてよ。血盟騎士団も頭が固い人達ばっかりみたいだし、聖竜連合もやり方が汚過ぎるし。このまま彼らが成長して攻略組に入ったら、閉鎖的なあの重っ苦しい空気が変わるかもしれないじゃない。伸び代はありだと思わない?」
「思うさ。ダンテもクォーターポイントを含めて一気に二十八層まで行ったんだ。ああ言うのを無言の檄、とでも言えば良いのかな。まあ本人にそんなつもりは毛頭無いだろうけど。」
ダンテは自分の利益になる様な事しかせず、デスゲームですらまるで遊びの一環の様に笑い飛ばす快楽主義者に見えるが、その実権謀術数に長けている。一件無作為に事を進めていると思ったら実は意外な意味で優位性を増したり、また逆に綿密に立てた計画かと思ったらその場しのぎの考えで切り抜けたりする。頭のネジが幾つか外れてしまっている為か、全く読めない。
命を捨てる事にまるで躊躇いが無いと思わせる程にあっさりと誰もやらない事や考えつきもしない事を臆せず実行に移し、尚且つ成功させてしまう。相手が何であろうと誰であろうと、薙ぎ倒して来た。加えて人を食った態度と小馬鹿にする余裕の笑みを武器に交渉で常に優勢になる。
今は味方だからこそ頼もしいが、敵に回せば命が幾つあっても足りなくなる。正に悪魔との戦いになってしまうだろう。
黒猫団のメンバーのレベルが揃った所でフレンド登録を済ませて袂を分かった。
「あーあ、でも今日で視察も終わりか。もうちょっと一緒にいたかったなあ。」
名残惜しそうに何度も後ろを振り返りながらアスナがぼやく。
「それは残念だったな。わりいがそうも行かないぜ。言ったろ?条件を呑まなければお前らの両足ぶった切ってでも連れて帰るってな。もう一日遅れてるんだぜ、お前らはよぉ?」
突如ダンテの声が聞こえたが、声はすれども姿は見えない。二人は頻りに辺りをキョロキョロと見回したがイメージカラーの赤いコートを身に纏った銀髪の男はどこにもなかった。
「どこ見てやがんだ馬鹿野郎共。上だ、上。」
十重二十重に枝分かれする樹木の梢からダンテが飛び降り、二人の前に着地した。背中には青緑のシミターの柄が左脇辺りに来る様に吊ってあり、左腰にも同型の赤いシミターを差している。
「ダンテさん!」
「よう。一ヶ月振り。どうだ、カッコいいだろ?これ、実は
まるで新しい玩具を貰った無邪気な子供の様にはしゃぎながらそれを二人に見せびらかす。
「アルゴはどうした?」
「エギルと一緒に店番だよ。」
「え、会ったのか?どうしてる?」
アスナは顔と名前しか知らない上、まともに話した事も無いので大して反応しなかったが、キリトは目を見開いて驚いた。最後に会ったのは去年のトールバーナでのボス攻略会議以来なのだから。
「元気にやってたぜ。エギルも危なっかしそうなお前の事心配してたぞ。出会い頭にお前がまだ生きてるかってさ。それとお前ら二人、結局一ヶ月ず〜っとコイツらとつるんでたらしいが、それじゃ調査にならないって事理解してるよな?それとも俺がお前らを自由にさせた理由を忘れたのか?」
呆れと非難のが濃厚に入り交じったダンテの視線が痛い。二人はそろーりと気まずそうに目を逸らした。そう、指摘されるまですっかり忘れてしまっていた。溜め息をついて項垂れると、それぞれデコピンを二回連続でお見舞いした。
「あだっ!?」
「いったぁい!!何するんですかダンテさん!?」
「本来調査はお前らの役目だったんだから自業自得だ。この程度で済んだ事をありがたく思え。お前らを許すのはエギルの顔を立てての事だ。あいつは中層プレイヤーの育成に店の売り上げをかなり注ぎ込んでるんだ。リアルではそう知らない間柄じゃ無いし、理由はどうあれ俺と利害は一致してる。アルゴと風魔忍軍が纏め上げた中層プレイヤーの平均的なレベル、死亡率、武器と防具のステータスなどの統計されたデータを買ったんだからな。」
中層プレイヤーの統計データ。一体どれ程の金額なのか想像に難くない。加えて中層プレイヤー育成の為のコルの振り分け。恐らく自分の店を赤字ギリギリに傾けて結果的に潰してしまう事なっても手に入れたかった情報なのだろう。エギルの迷いの無い義侠心に溢れるその行動に、キリトは胸が熱くなった。
「ちなみに、あいつには非公式だがウチのギルドに入団してもらった。俺らと大して変わらない位までレベリングをして貰わなきゃ困るってのはあるが、今はとりあえず中層プレイヤー育成を優先してもらう。いざと言う時は協力してくれるらしいし。それに一人位は純粋なパワーファイターが欲しいと思っててな。」
現在ダンテ達のギルド構成はオールマイティーなバランス型パワーファイター、そしてスピードファイターが三人。今まで全く問題は無かったと言えども確かに偏り過ぎている事は否めない。
「土産として二十七層のLABだった斧、アービターと軍資金に十五万コルを持ってったら目の色変えて条件飲んでくれたぜ。」
物は言い様とはこの事だ。お前の場合土産じゃなくて只の
「ちょっと待って下さい。ダンテさん、一体何回LABを取ったんですか?」
「ん?二十五層、二十七層、二十八層の三回だけだが?」
「三回・・・・って殆ど全部じゃないですか!?」
ラストアタック・ボーナス、通称LABを三回。つまりフロアボスの息の根を三度止めたと言うこと。それは大抵その者が強力なプレイヤーであるのを意味するが、逆に横槍を入れて漁父の利を得た卑怯者と罵られる事にもなる。
「まあ、そこら辺微妙なんだよな。一人で勝手に突っ込んで死んだら単細胞だと陰口叩かれる。逆にLABを取ったら卑怯者だなんだと野次られるし、とどめ刺しに行かなかったら臆病者だと罵られる。どうしろってんだよ?俺は卑怯者と呼ばれる事を選ぶね。別に嘘じゃないし。人間生きて行くのに小細工弄してナンボの生き物だからな。」
だがダンテは気にも止めずに肩を竦めた。元々十六の頃から世間に爪弾きにされて来たのだ。今更嫌われようと、別にどうとも思わない。
「二十五層はしゃーねー状況だったんだよ。アインクラッド解放隊がボロクソにやられてな。編成された部隊の七割以上が殺されちまった。残りの奴らはビビッて攻撃する気も起きずにほうけてたか、逃げたかのどっちかさ。あの場で引き下がったら一からやり直す必要がある。俺は兎に角、二度手間と言う無駄な行動が大っ嫌いなんでな。だから俺一人でぶっ倒した。二十六層は聖竜連合に譲ってやった。代わりに二十七層のフロアボス『キリングフェイス・ザ・バスタード』のLABを譲り受けた。」
「じゃあ二十八層のLABは・・・・?」
「こいつだ。」
メニューを開いてダンテがオブジェクト化したのは、長尺の刀だった。刀と言っても、その形状は現実では全くあり得ない形をしていた。柄は刀が持たないサーベル特有のシンプルなナックルガードが付いている。刀身を貫いて走る鎬と言う稜線は独特の青と緑のグラデーションで彩られている。
「名はエンジェルスレイヤー。サーベルみたいな装飾をしてるが、これでも刀のカテゴリーに入るらしい。それに長めだから俺にも丁度良く扱える。ちなみに、これは血盟騎士団のリーダーでヒースクリフって奴が取ったんだが、別に自分は使えないから好きにしろってポンとくれたんだよ。いやー、中々面白ぇ奴でな。そうそう、面白いと言えば。」
能天気に語ろうとした所で言葉を切り、ピックを近くの木に向かって合計十本飛ばした。小気味の良い音を立てながらリズミカルに突き刺さって行く。
「さっきから俺達の会話を立ち聞きしてる行儀の悪ぃストーカーがいるんだよなあ。三人ばかし。」
アグニとルドラをストレージに戻し、エンジェルスレイヤーをいつでも抜ける様に左手で鯉口を切ってダンテは身構えた。アスナとキリトもそれぞれの得物に手を伸ばして構えを取り、後ろを取られない様に三人は背中合わせに立つ。
「I know that you’re there, scumbags. Show yourselves(そこにいるのは分かってるんだ、屑共。出てきやがれ)。」
英語に切り替えてダンテはそう凄んだ。
「あ〜らら、ばれちゃってるよヘッド。俺らのハイディング見破るってコイツすげえな。」
ハイテンションで剽軽に喋る男は、両腕の甲を覆う艶消しを施された防具以外は全て真っ黒い布製の服で、頭からずた袋を被った様なマスクをしていた。右手には両刃の鋭利なダガーナイフを手慣れた様子で弄んでいる。まるで忍者とホラー映画のサイコキラーが融合したかの様だ。
「見縊るな、ジョニー。こいつは、攻略組の、トップだ。」
ずた袋マスクの男をジョニーと呼んだ男は外套で体と頭をすっぽりと覆っており、フードから赤毛が覗いていた。途切れ途切れで喋る低い声と装着している赤目の髑髏型マスクの所為で不気味さが殊更引き立つ。
「まあ、良いさ。」
二人の間に立つ男はフード付きの黒いポンチョを身に付けており、人を引き付ける落ち着いたトーンの持ち主だった。そして三人とも、頭上に浮かぶカーソルの色はオレンジ。つまり犯罪者プレイヤーと言う事だ。
「この人達、何なの・・・・?」
「犯罪者プレイヤー、つまり他のプレイヤーを攻撃した事があるって奴さ。もっとも、こいつらは攻撃だけじゃなく自主的なPKを行って来たと思うがな。それも一度や二度じゃ無い。元犯罪者としての勘だ。」
レイピアを握るアスナの手がジンワリと嫌な汗で滑り、自然と柄を握る手に力が籠った。それでも彼女は小刻みに手が震えていた。自分は今殺人犯と戦おうとしている。本来ならあり得ないその状況に寒気を覚えた。
対するダンテは、心の中で狂喜乱舞していた。棚から牡丹餅とは正にこの事だ。『レジェンドブレイブス』の連中から聞き出した自分達をそそのかしたプレイヤーの特徴と完全に一致している。三人組、黒尽くめ、ネイティブ並みに流暢な英語と別の聞き慣れない言語。
リーダーと思しきポンチョの男も緊張した様子など無く、薄笑いを浮かべながら散歩の様にゆったりとした足取りでダンテに近付く。
「Showtimeはまだまだ後だ。それに、元々今回は只のご挨拶に来ただけだからな。Hola. Me alegro de verte, Caballero Oscuro(こんにちわ。会えて嬉しいよ、
日本人があまり聞き慣れない言語。その正体はスペイン語だった。男のまるでビジネスパートナーと挨拶を交わすかの様な喋り方に、アスナとキリトは更に警戒心を高めた。手には武器を持っていない事をアピールするかの様に左右に広げている。そしてダンテと握手をしようと右手を差し出した。
「Nice to meet you too, Jack the Ripper. Kill any puppies lately?(俺も会えて嬉しいよ、切り裂きジャック。最近子犬でもぶっ殺したか?)」
ダンテも彼の手を握ろうと己の手を伸ばしたが、その掌には投擲用の投げナイフが隠されていた。笑みを浮かべたままその右手を突き刺そうと力を込めると、低い風切り音が聞こえた。ダンテは瞬時にナイフを捨ててエンジェルスレイヤーを少しばかり鞘から抜いた状態で受け止めた。男の手に握られているのはスプラッター映画でもかなりポピュラーな凶器、肉切り包丁だ。見た目だけでもかなりのインパクトがある。
更に左側からジョニーが二本のナイフをダンテ目掛けて投げつけて来たが、キリトがそれを叩き落とした。
「油断も隙も無いわね・・・・」
「ダンテ、大丈夫か?」
「御陰様で。」
一度受け止めた所で後ろに下がり、武器をアグニとルドラに戻して構えた。
「やると思ったぜ。ゲームマスターでない限りメニューが開けるのは
「Excellent(お見事)!」
PoHは肉切り包丁を握ったままわざとらしく拍手を贈った。
「流石元犯罪者と名乗るだけの事はある。紹介が遅れたが、俺はPoH。ここにいるジョニー・ブラックとザザ、二人の
PoHと名乗った男はずた袋を被ったジョニーと赤目の髑髏マスクを被った男、ザザを手で指し示す。
「お前、中々考えるな。実にエグい。」
けど、と言いながらダンテの顔から笑みが消えた。
「システムをそうやって潜り抜けられると俺も困るんだよねえ。さっさとここからおさらばしてストロベリーサンデーをたんまり食いたい。だ・か・ら・さ、ここで死のうよ。三人とも仲良く殺すからさあ!」
素早くPoHの懐に踏み込み、左右から挟み込む様にアグニとルドラを振るった。
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