ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
ダンテ vs バージル ラウンド2、決着です。
『背教者ニコラス』、英名 Nicholas the Renegadeは、深夜を告げる鐘の音とそれに重なる鈴の音と共に空から降って来た。凄まじい雪の飛沫を四方八方に撒き散らし、その場にいた皆は思わず顔を覆った。やせ細った青白い不気味な聖ニコラスのカリカチュアだった。身長は樅の木と殆ど変わらず、顎髭は下腹まで届く程長い。お馴染みの赤と白の服は肩と腕の一部が露出している。
「これが・・・・・背教者ニコラスなのか?嫌なクリスマスになりそうだぜ。」
乾いた笑い声を小さく上げながらニコラスの見てくれを皮肉り、クラインは腰の刀に手をかけた。
「ああ。」
「何か・・・・ヤダ・・・・」
錆び付いた蝶番が動く様な耳障りな叫び声と共に四段のHPバーが現れ、左右別々の箇所を見据えていた目がぎょろりと二人の方を向く。背負っていた袋の中から取っ手に布を巻き付けた樵が使う物の数十倍はある馬鹿でかい斧を振り上げた。
「散開しろ!」
キリトの号令と共にアスナとクライン一行は右に、キリトは左に跳んだ。風切り音は重く、低い物で、斧が雪原に叩き付けられると同時に巨大な雪の波が襲いかかる。一番最初に動いたのはキリト以上のスピードを誇るアスナだった。振り下ろされた斧が再び振り上げられる前に斧の上に飛び乗り、ニコラスの腕を足場にして顔に接近した。間合いに入ると直ぐに目を狙って突進技の『ストリーク』を放った。だがその攻撃は斧の面で弾かれ、ニコラスが大きく腕を振るってアスナの足場を奪う。レイピアはしっかり握って離さなかった物の、空中では反撃も回避も出来ない。重力に従って落ちて行くアスナに狙いを定めたニコラスは独楽の様に回転し、アスナを木の梢へと吹き飛ばした。
「アスナ!」
「キリト、おめえはあのデカブツに攻撃当てる事に集中しろ!アスナさんのカバーと回復は俺の仲間が何とかする!」
クラインの合図で再び振り下ろされるニコラスの斧を風林火山の中で楯を持った片手剣使いの二人が受け止め、一際目立つ大柄なプレイヤーがそれを薙刀で力一杯上に切り上げた。ニコラスが仰け反った隙にキリトが前に飛び出し、ニコラスの左足首を狙って『シャープネイル』を発動した。垂直に振り下ろす三連撃の隙の無い動作は縦三本の赤いダメージエフェクトを残す。
「クライン、スイッチ!」
「おう!」
クラインも左腰に差した朱塗りの刀を抜刀し、構えを取るとソードスキル『緋扇』が立ち上がった。素早い上下の斬り分けから一呼吸、最後に全力の刺突を繰り出す技も同じ様にキリトが攻撃した左足首に命中する。ジワジワと時間は掛かっているが確実にニコラスのHPは下がっている。
「二人共下がって!」
回復を終えてうかがっていた機会が巡って来たのを期に、アスナの指示が上から飛んで来た。再び木の上に登ってそこから全力で飛んだのだろう。その証拠に敏捷寄りのレベリングをどれだけ行っても到底辿り着けない様な高さから落ちて来るのだから。
「よしッ!アスナ、目だ!ニコラスの目を狙え!視界を潰せば壁プレイヤーの負担を一時的にとは言え減らせる!」
「了解!」
重力に従って落下しながらもレイピアを正眼に構え、自分に向けられるニコラスの斜視を真っ直ぐに見つめ返した。そして右手を引ける限り後ろへ引き、両目と額を狙う三角形の頂点を突く様に繰り出す『デルタ・アタック』の構えを取った。だがニコラスも当然そのまま黙って当たる筈も無く、斧を天高く掲げた。緑色の光が斧頭に収束して行き、今までとは比べ物にならない程の力強さで雪原に迫って行く。衝撃波を繰り出す単発の範囲技『スマッシュ』だ。キリトは直ぐに行動を起こし、走りながら『レイジスパイク』の突きを繰り出す。威力は低くても良い。少しでも斧の軌道がアスナからずれれば。
だが、仕掛けたのはキリトだけではなかった。クラインを筆頭に風林火山の面々も鬨の声を上げながら突撃して彼に続いた。
「良いか!アスナさんへの攻撃はもう二度と当てさせんじゃねえぞ!」
今アスナが当てようとしている攻撃は恐らくキリトが普通に繰り出す攻撃よりも遥かに重く、高威力の物となるだろう。重力を味方につけた攻撃はどれも得てして高い効果を発揮する。特にダンテの戦い方を見てキリトはそう思った。ダンテも良く手近な高台や、果てはキリトの肩を足場に飛び上がって中ボスクラスのモンスターに斬り掛かり、普通の『バーチカル』が与えるダメージよりも更に上を行くダメージを叩き出していたのだから。だが、今回は面での攻撃では無く点での攻撃だ。あの速度ならばダメージは絶大な物だ、目を抉り取る事も容易いだろう。全員での集中的な波状攻撃を左足に受けたニコラスのソードスキルはアスナから逸れた。肩から下の左腕をすっぱりと叩き斬られたが、それでもレイピアは離さない。
そして紫色のライトエフェクトが軌跡を描き、ニコラスの両目が潰れ、額が穿たれた。大きく体を震わせてニコラスは雪の上に倒れ伏す。これでニコラスのHPバーは一本目が完全に、そして二本目の半分以上が削られた。
「アスナ、下がれ!」
「大丈夫!レイピアなら片手でも使えるから!」
「駄目だ!片腕の状態だったら体のバランスが左右非対称な所為で上手く動けないし、何時もみたいな命中率は出ない!腕が生えるまでで良いから下がってくれ!」
ニコラスは下から上に斧を切り上げ、再び樅の木の梢まで届く様な雪の飛沫を飛ばした。幾らモーションが違うとは言え同じ攻撃はそうそう何度も食らう事は無い。そう思った矢先、ニコラスの発する声とは別の、獣の唸り声が聞こえた。
「え?」
「全員後ろに下がれ!」
一瞬思考がフリーズしたキリトを我に返らせた声はクラインの物だった。フィールドの縁へと下がって目を凝らすと、雪原にはニコラスが肩に担いでいた大きな白い布袋が置いてあった。唸り声はそこから聞こえて来ている。
「この唸り声・・・・ラパン・イェティーじゃ?!」
「ラパン・イェティー・・・って何だ?」
「雪原タイプのフィールドで出没する比較的珍しいモンスターだ。白ウサギと雪男の組み合わせって言ったら分かるか?三十五層にある『迷いの森』に出るドランクエイプよりも動きが複雑だから厄介なんだよ。連携力は全くと言って良い程無いけど、余計に対策の立て様が無い・・・・」
まさかこんな土壇場でこんな厄介なプレゼントを寄越されるとは思わなかった。ギリッとキリトは苛立ち紛れに奥歯を噛み締めた。
顎を狙った上段蹴りを受け止め、そのまま後ろに倒そうと深く前方に踏み込みながら捻りを利かせた突きでバージルはダンテを木の幹に叩き付けた。
「つつつ・・・・っかぁ〜、やっぱジムに行かねえ所為で鈍ってるな。改善の余地大有りだ。」
能天気に頭にへばりついた雪を振り払ってダンテは立ち上がる。だが内心は何時もとは比べ物にならない程焦っていた。徒手格闘でここまで苦戦するのは久し振りだから無理も無い。バージルのHPは半減しているが、まだギリギリ安全圏のイエローゾーンに留まっている。対するダンテはレッドゾーンに突入していた。後もう四、五回程攻撃を受ければポリゴンとなってアバターは永久に消滅し、ナーヴギアが脳味噌を蒸し焼きになってしまう。
「余裕ぶっていられるのも今の内だぞ。見なくても分かる。お前のHPはもう風前の灯だろう?」
ダンテはキックボクシングの突きや蹴りを会得している。それに恥じない動体視力も育んで来たが、どれもバリエーションや派生する技が多い。型と呼べる様な動きは殆どと言って良い程無い。その自由さがダンテの興味をそそったのだろう。だがどれもこれも喧嘩で使う様なダーティーな手法で、実用的であるとは言え洗練されているとは言いがたい。
それに対してバージルは現実世界では剣道以外に亡父から空手と合気道を習っていた。十年以上にも渡る厳しい鍛錬により磨き上げられた技には、一切の無駄や隙が無い。それも今のバージルの攻撃は一撃一撃にあらん限りの殺意が籠っている。もしこれがSAOの中でなければダンテは間違い無く殺されていただろう。事実今までの攻撃も全て受け流され、隙が出来た所で何度も素早く、的確に体術スキルを急所に叩き込まれて来た。
「お前をいたぶってから殺すと言う考えも一興と思ったが、生憎と俺はお前の様にそっちの趣味は無い。お前が殴り殺したヤクザの様に殺す事にしよう。」
ダンテは激突した木を背に正座し、目を閉じた。
「ほら、来いよ。」
後ろに引いたバージルの右手は輝き始めた。単発型の体術ソードスキル『閃打』だ。ダンテの頭が胴体から離れて吹き飛ぶ様を想像して冷たい笑みを浮かべながらバージルは一気に踏み込んだ。風を切る音と共に拳がダンテに迫る。
10センチ。
5センチ。
2.5センチ。
1センチ。
5ミリ。
そしてバージルの拳とそれが狙う顔面との隙間が残り一寸も無い僅かな隙間に、ダンテの目が開いた。
「Royal Guard」
両手を交差させすぐさまそれを大きく左右に開くと赤黒い光が閃く。
バージルはよろめき、困惑を悟られない様に俯き、砕けてしまうのではないかと言う位歯を食い縛った。何が起こった?さっき奴が発した言葉は何だ?さっきの光は何だ?またか?また自分は、負けてしまうのか?駄目だ。それだけは絶対駄目だ。ここまで追い詰めたのにそれをひっくり返されてたまるか。乗せられるな。奴のペースに飲まれたら、それで全てが頓挫する。
「ヒール。」
その言葉と共にダンテの体力はあっという間に安全圏のグリーンゾーンまで回復して行った。バージルがよろめいたその隙を見逃さず、ダンテはポーチからHPを概ね全快させる回復結晶を取り出したのだ。
「さてと。」
バージルは再び修羅場を腰撓めに構えて抜刀術のユニークスキルを発動した。鞘から抜き放たれると同時に幾重もの飛ぶ斬撃が折り重なってダンテに襲いかかる目で追う事は出来ても全てを完璧に避け切る事は出来ない様に計算したパターン。だがダンテは再び両腕を交差させ、赤黒い光を何度も瞬かせて斬撃の約半分を打ち消した。与えられると予想したダメージも遥かに下回っている。
「ロイヤルガードと言ったな・・・・・ふざけた真似を。」
バージルは静かに毒突いたが、ダンテは意に介さず小さく肩を竦めた。
「今の今まで効果的な使い所が無かったんでな、俺自身忘れかけてたのさ。ロイヤルガードはてめえがお得意なカウンター戦法で真価を発揮する。さっきみたいに体勢を崩してから小技、大技と繋げて行って最小限の努力で相手を叩き潰す。でもタイマン限定なんだよな、これが。一人の攻撃を防御してる時に後ろから来られたら絶対に防御し切れない。でもこの戦いではもう使わねえ。小細工も無し。真剣勝負だ。」
それをアピールするかの様にメニューを開いてユニークスキルを外して見せた。そしてストレージからエンジェルスレイヤーを取り出して脇腹に突き立てると、HPがバージルと大体同じレベルに下がるまで待った。
「小癪な・・・・・以前の様には行かんぞ。推して参る。」
「お相手仕るぜ。」
バージルは半身になって切っ先を相手に向ける霞の構えを、ダンテは切っ先を下に向ける下段の構えを取り、数秒の静寂の後、両者は再び互いの命を刈り取らんと相対した。雪原で火花を散らす刀の剣戟は森の中で妙に良く響いた。
「真剣で勝負なんて、何年振りだろうなあ?相変わらず北辰一刀の正当流か?」
「お前も、木刀や竹刀を握ったのは遥か昔だと言うのに柳生新陰流の名残が見える。」
二人は木々の間を縫って走り、刀を振るう。何もかもが正反対の二人とは言えどちらも完璧に互いの呼吸を、一挙手一投足を読んでは対処し、反撃した。
「で?その後
「奴らは只の駒だ。お前を殺す為に利用しているだけに過ぎない。奴らが何をしようと構わん。必要無いと判断すれば、いずれ俺がこの手で処分する。」
バージルはダンテの繰り出した突きを納刀したままの修羅刃で跳ね上げ、
「中々良い顔になってんじゃねえか、ええ?」
オールバックになった髪を振り乱したバージルは身に付けている装備と武器を覗けば顔立ちはダンテと瓜二つだった。そして磨き上げられた己の刀に写る表情を見て驚いた。笑っているのだ。ダンテと、実の弟と命を賭して刃を交える事に愉悦を感じている、狂気と呼べる物を孕んだ笑みを浮かべているのだ。
「お前と血を分けたと言う事実を思い出すだけでも腸が煮えくり返る。いっそ顔に傷を幾筋も刻んだ方がマシだ。」
バージルは笑みを消し、首を捻ると髪を再びかき上げ、オールバックに撫で付け直した。
「友人は選べても家族は選べないってのは本当だよなあ。参っちまうぜ。」
刀の峰でトントンと何度も肩を叩きながらダンテは笑った。
「他人から見りゃあSAOでも現実でも、俺達は切れ者だし馬鹿馬鹿しい位に強い。だが、この二度目の斬り合いで俺は改めて理解した。俺からすればお前は切れ者と言う訳でもなく、恐ろしく強い訳でもない。ただ、負けないんだ。無理に勝ちに行かないし、押し込まれても動かない。だが、勝つ時は何時も僅差だが、キッチリと勝つ。お前から見た俺も同じの筈だ。」
「お前も俺も、それ程の領域に立っていると言う事か・・・・・認めたくはないが、こうも的を得た事を幾つも並べ立てられるとそうも行かなくなるな。お互い受けられる攻撃は精々二太刀程度だ。ここらで勝負をつけるぞ。」
「オッケー。仮に死んでも化けて出たりはしねえから安心しろ。盆にも戻らねえよ。お前が迎え火を焚くつもりが無いのは分かり切ってる。」
「分かっているならば結構だ。死んだらそのまま地獄で待っていろ。いずれそこでまた殺してやる。」
冗談が嫌いなバージルの口からその言葉を聞き、ダンテは思わず笑ってしまった。だが脇構に刀を構え直すとその笑みは直ぐに消えた。バージルも腰を低く落とし、指先を柄にかけて居合いの構えを取る。
どちらが先と言う訳でもなく、二人は駆け出した。そして二人の位置が入れ替わると同時に二本の刀は振り抜かれる。
「っきしょお〜・・・・・・やっぱ居合いだけは、勝てねえよなあ・・・」
そう呟いたのはダンテだった。刀を持っていた右腕は肩から下までをすっぱりと切り飛ばされ、少し離れた所に落ちていた。バージルはと言うと脇腹から腹にかけて傷があったが、ダンテ程大きな物ではなかった。腕もまだ繋がっている。
「抜刀する直前、俺は刀の握り方を順手から逆手に変えた。間合いは縮まるが、その方が接近してからより速く抜ける。斬る時も腰の回転以外に力をかける必要も無い。逆手一文字と言うのは俺にとって邪道だが、致し方無かった。」
「構わねえさ。勝ったのはお前だ。今更負け惜しみなんて男が下がらぁ。おら、殺れよ。」
バージルは何も言わずに刀を収めると、降り積もって行く雪に埋もれかけているエンジェルスレイヤーをダンテの横に突き刺して、そのフィールドを後にした。
「おい!!俺の事を殺せればそれで良いんじゃなかったのかよ?!今更どう言う風の吹き回しだ!」
だがバージルは何も答えず、生い茂る木々の中へと姿を消して行った。
「意趣返しのつもりかよ?」
だとすれば効果は覿面だ。あの場でひと思いに殺してくれればお互いの気も晴れた筈だろうに。何故絶好のチャンスを見す見すドブに捨てて何もしなかった?腕が完全に生え変わるとエンジェルスレイヤーをストレージに戻して起き上がり、リベリオンを再び背中に背負った。そして腹の底から沸き上がる屈辱感を発散する為に手近な木を何度も殴った。木はどれも破壊不能オブジェクトである為に壊れる事は無いし、また痛みを感じる事も無い。何も出来ずに目の前で父の命が消えて行くあの感覚が再びダンテを襲う。
それは負けた時、弱い時に心を真っ黒に塗り込める絶望だ。もしバージルがあのまま自分の命を奪っていたらその次に恐らくキリトやアスナ、風林火山のメンバー、そしてアルゴを標的に見定めて葬っていただろう。想像しただけで気が狂ってしまいそうだった。
「Power(力だ)・・・・・Give me more power(もっと俺に力を)!!」
強くなりたい。アルゴを、自分に生きたいと思わせてくれた数少ない人間の一人を守り切るだけの力が欲しい。リベリオンを引き抜き、磨き上げられた刀身に写る自分の姿を見た。自分に対する怒りと不甲斐無さで歪み切ったその顔は、映画で悪魔に憑依された人間がする表情と殆ど変わらなかった。そしてそのまま取り憑かれたかの如くリベリオンで己の胸を貫いた。
ラスト以外はDMC3でダンテとバージルが雨の中で戦うシーンを意識しました。次回の更新までまたかなり空くと思います。