ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
ではどうぞ。
リベリオンに胸を貫かれたまま、ダンテは未だに雪が降り続ける夜空を見上げた。視界の端にあるデジタルクロックによると、もう既に午前一時近くになっているらしい。その間にもどんどんとHPのゲージが空になって行くが、残り数ドットと言う所で何故かHPの減少が止まった。
この状況でシステムエラーが起こったのか?
ダンテはそう訝り、リベリオンを抜こうと手を伸ばした。だがその瞬間、リベリオンの柄の装飾である角を生やした髑髏の両目が禍々しい赤い光を発した。その直後に髑髏の口がまるで咆哮を上げているかの様に大きく開く。両側面にある骨のパーツも左右に展開し、より剣の鍔らしき形状へと変化した。
「おいおい、何がどうなってやがるんだこれは?」
更にリベリオンは独りでにダンテの胸から抜け落ち、回転しながら空中に舞い上がった。立ち上がりながらもダンテは落ちて来るそれを再び掴むと、目の前にスクリーンがポップした。
『ユニークスキル「スタイルチェンジ」に新たなスタイル『Dark Slayer』が追加されました。』
自分が開発してシステムに紛れ込ませたユニークスキルにこんなスタイルを追加した覚えは無い。それによって導き出される結論は只一つ、今もどこかでアインクラッドで四苦八苦するプレイヤー達を傍観している茅場秋彦が自分のデータに手を加えたのだ。
「ダークスレイヤー・・・・?ソードマスター、トリックスター、ロイヤルガードと来て、これも加えたらスタイルの合計は四つか。いよいよ俺もベータテスターから只のチーターに成り下がり始めてるな。」
ポーションの大瓶を空けるとそれをラッパ飲みし、僅か3しか無いHPバーの残量が回復するまで待った。だが、只待っているだけと言うのもつまらないので、さっそくダークスレイヤーと言うスタイルがどんな物なのか試してみようと思い立った。
「Game set!」
スタイルの発動条件である口頭による変換でダークスレイヤースタイルに変わった。試しにリベリオンを振り抜いたが何も起こらない。剣を振るった時に生じた風圧が雪を高々と巻き上げるだけだった。
もしや使う武器が違うのか?そう思いながらダンテは手持ちの武器でダークスレイヤーの能力がどう言う物なのか検証を続けた。そして遂にエンジェルスレイヤーで発動が成功した。
「おいおい、こりゃあいつの、只の猿真似じゃねえかよ。」
刀を装備している時だけ限定的に発動出来るダークスレイヤーの能力は、神速の抜刀。つまりバージルが所有しているユニークスキルと同じなのだ。それに気付いたダンテは落胆と共に憤りを感じずにはいられなかった。自分はバージルとは違う。顔を合わせる度に熟血は争えないと思い知らされる。それだけで十分だと言うのに、ダークスレイヤースタイルはそれに輪を掛けて意識させてしまう。
「永久封印じゃ、こんなモン。」
直ぐにソードマスターにスタイルを替え、リベリオンを装備し直した。
「レディーやトリッシュ達、どうしてっかなぁ〜・・・・・帰ったら怒られちまうんだろうなあ、仕事恐らく肩代わりさせちまってるからそれを口実に色々奢らされて・・・・」
ふと現実世界に残して来た仲間の事を思い返した。再びあの世界に戻っても彼女達は何事も無かったかの様に接して来る所を想像して、ダンテは思わず笑ってしまった。
「あ、でもヴィグリッド支部長にはまず間違い無く殺されるだろうな。勝手に退職させられてなきゃ良いけど・・・・まあそんときゃヨーロッパのパラディーソ支部長にでも口利きしてもらうか。」
そう独り言を言っていると、空間が波立ち始め、そこからキリト、アスナ、クライン、そして彼のギルドメンバーが現れた。全員かなり精神的に消耗しているのか、足取りは重いが表情は明るかった。見ると、アスナの手には瞳を形取ったフレームに嵌った宝玉がしっかりと握られている。
「よお、アルゴ。無事で良かった。お前らも、随分遅かったな。」
「ダンテさん・・・・!!やりました!死傷者ゼロで!」
「かなり危なかったけどナ。」
ぶんぶんと子供の様に大手を振ってアスナが嬉しそうに叫ぶのを見て、ダンテは再び笑わずにはいられなかった。
「勝ったのか?」
「いや。負けたよ、僅差でな。」
キリトの質問にダンテは首を横に振った。
「なら、何で・・・・?」
「何で死んでいないか、か?さあな。俺に対するあいつなりの意趣返しだろう。以前俺も同じ事をやった。これで一勝一敗・・・・三度目は恐らくどちらかが死ぬ事になる。クライン、ちょっと来い。」
「ん、な、なんスか?」
ダンテはメニューを開いてストレージからエンジェルスレイヤーを取り出すとそれをクラインに投げて寄越した。
「あれだけヤバい目に遭わせておきながら何の見返りも無いってのも何かアレだしな。その刀の名はエンジェルスレイヤー。随分前に倒したフロアボスがドロップした武器だ。インゴットに戻すなり何なりお前の好きにしろ。」
クラインはそれを何とか取り落とさずに受け止めてパラメータを確認すると目を丸くした。ドロップ武器と言うだけあって数値はかなり高く、強化も限界までしてあるので尚更だ。
「え、良いんスか?」
「良いんだよ。俺からの礼金だと思ってくれりゃあ良い。蘇生アイテムに比べたら見劣りするかもしれないが。じゃあな。また縁があったらどこかで会おうぜ。死ぬなよ?」
ダンテはそれだけ言い残すと足早にそのフィールドから出て行った。
「あ、ちょっとダンテさん!?」
「どうしたんだ、アレ?あいつらしくもない。」
「アーちゃん、キー坊、今は一人にしてあげてくれないカ?」
彼を追おうとするアスナとキリトをアルゴは両手で制した。
「アルゴさん・・・・・」
「紅一ハ、思い詰めると一人で頭冷やしに行くんだヨ。元々人に相談するのとか苦手なタイプだからナ。」
「アルゴさんにも相談事を持って行かないんですか?!その、心配じゃ・・・?」
アスナからすれば信じられない話だ。もし自分に彼氏がいるなら相談して欲しいし、自分がもし思い詰めていたら誰かに打ち明けている。それをしないダンテは正に人に心配をかける天才と言えるだろう。それとも余程思い悩むのが好きなのでは無いだろうかと思い始めている
「心配だヨ。別に相談する事は無くは無いけド、本当に深刻に悩んでる時は何も言わないんダ。特に家族の事となったら尚更・・・・・元々自分のカッコ悪い所見せるの嫌い出しナ。ま、そんな所も可愛いんだけド。」
ニャハハハと笑うアルゴだったが、その表情はちょっぴり寂しそうだった。
「クソックソックソックソックソックソックソックソックソックソッ!!!!」
何度も何度もダンテは頭を聳え立つ大木にぶつけた。その度に紫色の表示とImmortal Object、つまり破壊不能であると言う事を示す黒い文字が浮かび上がる。だが心の蟠りが火に油を注いだかの様に一気に大きくなったのだ、そうせずにはいられなかった。
自分は両親の死の原因を作った。そんな自分をバージルは恨んでおり、殺そうとすらした。だが自分は————バージルを殺したくはない。彼との戦闘は正に命懸けでそれ故にまたと無いスリルを味わう事が出来るが、それと彼の命を奪いたい体と言うのは別の問題だ。
だが、もし彼もそう思っているとしたら?それが理由であの場で自分に止めを刺さなかったとしたら?ほぼあり得ない話だが、もし自分に対するバージルの憎しみが・・・・・消え始めているとしたら?
「ありえねえ・・・・あいつが俺を殺したくない筈が無い。この俺を殺したくない筈が無いんだ。水に流すなんてあり得ねえ。そうだろ?蒼介。殺したい程憎いんだろうが?」
喧嘩やデュエルなどの肉体言語での語り合いは手に取る様にお互いの動きが分かると言うのに、行動の真意を読み取る事が出来ないと言うのもおかしな話だった。
「親父、俺はどうすりゃ良いんだ?教えてくれよ、お袋もよぉ。」
だが当然答える筈も無い。
「おいおいおいおい、どう言うつもりだ、バージルさんよぉ?あの場であいつぶっ殺す大チャンスだったのにみすみす見逃すってのはよぉ?」
レッドギルド、ラフィンコフィンのアジトにて、ジョニー・ブラックはバージルの行動に対する不満を隠そうともせずにそう吐き捨てた。
「答える義理は無いな。奴と戦い、打ち倒すのは俺だ。戦って、打ち倒して良いのは俺だけだ。誰にも邪魔は差せん。後、俺はあくまで貴様らに協力しているのであって、傘下に入った訳では無い。そこを履き違えるなクソガキ。」
「んだと、てめえ・・・・」
腰のナイフに手を掛ける素振りを見せたその直後にバージルの左手に握られた刀の鯉口は既に切られておりいつでも居合いにかけられる事を示している。
「だからガキだと言うんだ。今度は片手片足だけでは済まさんぞ?」
片手片足、と言う言葉でジョニーはずた袋のマスクの奥で血の気がさあっと顔から引いて行くのを感じた。バージルと初めて会ったのはとあるフィールドで彼が一人でいる時だった。アイテムや装備を分捕るついでに、嬲り殺しにしようと襲わせたラフィン・コフィンのギルドメンバー全員を三枚下ろしにされて失い、自分自身も応戦しようとした直後に右腕の肘から下と右足をバッサリと一刀の下に切り落とされた。PoHがあの場に駆けつけなければ間違い無く自分は殺されていただろう。
「頭に血が上り易く、それ故浅はかで短絡的。これが青年期に入ったガキで無くて何だ?まあ、不意打ちしか能が無いのも頷けるが。それもそうか、己の命をドブに晒して事を為そうとする勇気も無いお前に、真っ向から人を殺す度胸などある筈も無い。」
怒りに容赦無く油を注ぐバージルにジョニーも遂に堪忍袋の緒が切れた。だがバージルに掴み掛かる前にPoHに肩を掴まれた。
「やめろジョニー。お前らが束になっても、ソイツには勝てない。」
認めたくはないがPoHの言う通りだった。レッドプレイヤーとして相手の力量を見誤ると事はこの世界に於いて敗北、最悪の場合は死を意味する。既にジョニーはそれを嫌と言う程思い知らされた。ここで同じ間違いを繰り返せば今度こそ本当に殺される。
「賢明な判断だ。お前は既に俺の間合いの中にいる。」
そして全身を突き刺す様な鋭く、冷たい殺気にも未だ馴れず、怒りに任せて噛み付こうとしたジョニーはナイフの柄に近づけた手を下ろし、閉口せざるを得なかった。だが実際バージルの言っている事は間違いではないのだ。麻痺毒を使った不意打ち攻撃を得意とするだけあって殺気や気配に関しては敏感だが、直接的な戦闘はザザやPoHより劣る。
「ジョニーの言う事には一理ある。俺も少しばかりお前が本当に協力する気があるのかどうか疑いを持たざるを得なくなっている。改めて協力すると言う証拠を見せて貰いたい。」
「ほう?どの様にだ?」
PoHの言葉にバージルは眉一つ動かさずに訪ねた。
「ザザ。」
PoHの合図を待っていたとばかりに髑髏の仮面を被ったザザが現れ、鎖で縛り上げた三人のプレイヤーをバージルの足元に向かって蹴り飛ばした。
「そこにいるソイツらを殺せ。捕まえたばかりの活きが良い奴らでな。方法は任せる。」
「お前らの事だ、どうせ苦痛と恐怖を長引かせろとでも言うのだろう。確かにそれは造作も無いし方法は知っている。だが俺はダンテやその他の強い相手と相見え、斬る事を望んでいる。こんな雑魚共に俺の刀をワザワザ手向けに使う価値など無い。弱者のみを付け狙う辻斬りと一緒にされるのは極めて心外だ。俺に誰かを殺して欲しければ、俺と同等かそれ以上の強さを持つ奴を連れて来るんだな。それが出来ないなら・・・・今直ぐ貴様らの首を貰ってからこの場を去る。」
バージルの射竦める眼光を真っ向から受け止めるPoHの顔はフードで上半分が隠れて見えないが、口元の笑みはニヤァーッといやらしく広がった。
「確かに、只いたぶって殺すってのも時が経てば退屈になる。この三人は後で互いに殺し合わせるとしよう。ジョニー、ザザ、連れて来てもらったばかりで悪いが、元の所に返して来い。」
人払いを済ませると、PoHは改めてこう切り出した。
「こちらとしても有力な協力者がいるに越した事はない。だから取引をしよう。お前が欲しいのは強い相手、俺が欲しいのは新しい殺人の方法。」
バージルは何も言わずにメッセージ作成画面を開き、PoHにメッセージを送った。
「ほぉ・・・・これは・・・・おもしれえなあ。」
PoHの邪悪な笑顔は見る見る内に大きくなって行き、小刻みに体を揺すりながら笑い始めた。
「成立か?」
「ああ。文句は無い。」
「では、強い相手が見つかったら連絡しろ。俺は暫く別行動を取る。」
バージルはアジトを後にし、右手で首から下げた青い水晶に触れた。そして己の胸に問うた。
何故俺は、あの時止めを刺さなかった?兄弟の情など、もうとっくに捨てた。なのに何故?
だが、答えは出ない。
如何でしょうか。質問や感想など、色々とお待ちしております。