ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
ではどうぞ。
西暦2023年 10月31日
第44層のフィールド『魂の居城』にて、アスナはキリトの腕にしっかりと抱きついたまま、まるで通り魔でもどこからか飛び出して来るのではないかと思っている様な怯えた目付きで辺りを見回した。
そのフィールドは数メートル先で完全に視界を経たれてしまう程の濃い霧に覆われており、不規則にモンスターが現れて不意打ちに来る事がある。視界に入った時点で相手のソードスキルが発動されている状態が殆どで、プレイヤーの致死率は高い。その為かなり危険視されており、攻略組の猛者達もおいそれと立ち入ろうとする様な場所ではなかった。たった一つのギルド、『Devil May Cry』を除いて。
「な、何もいないわよね?ね?」
腕に抱きついている状態でアスナの体の柔らかさと心地良い体温が伝わって来るが、恐怖での震えも直に伝わって来る。相反する感触を現在進行形で同時に味わっているキリトは反応に困った。
「大丈夫だよ、アスナ。スケルトン・ソルジャーやジャックランタン、後はデュラハンとかのアストラル系モンスターは平気なのに、幽霊とかが苦手って矛盾してないか?」
キリトの言葉に斧を担いだエギルも頷いた。
「オレンジジュースは好きでもみかんは嫌いだって言ってる様なモンだぜ?しっかりしてくれよ、『閃光』様?」
元々図太い性格の持ち主だからか、この状況下でもエギルは笑っている。と言っても気の所為か、口角がひくついていた。口では何とでも言える物の、彼も少しばかりは怖いのだろう。
「い、良いからこのままで行きましょう!」
「いや、腕を掴まれたままじゃ移動スピードが落ちるんだけど・・・・いざ攻撃されたら対応も出来ないぞ・・・・」
普段は堂々とした性格で落ち着いた佇まいの持ち主であるアスナが異常と言える様な挙動に走っているのは理由がある。四十四層は既に攻略された9層や13層、そして42層と同じホラー系フロア、つまり世界各地の伝承に存在する怪物や幽霊、魑魅魍魎の類いが高確率で現れる層の一つなのだ。そしてキリトが指摘した様にアスナは甲冑に身を包んだ『スケルトン・ソルジャー』、鎧の中が空洞な首なし騎士『リトル・デュラハン』、そして顔を刳り貫いたカボチャを頭にしたカカシ、『ジャックランタン』などのモンスターは難なく倒せる。されど怪談話や幽霊などの類いの物にはめっぽう弱い。
キリトの言葉も空しく、アスナは器用にキリトの腕に抱きついたまま腰に差したレイピアの柄を何時でも抜ける様に握り締めた。
「見えて来た。あれが『魂の居城』だ。」
ようやくぼんやりと巨大な石造りの城が見えて来た。もう何百年も前に廃墟となってしまったかの様に朽ち果てたその城は、丁度エドガー・アラン・ポーが書いたゴシック風の恐怖小説『アッシャー家の崩壊』にでも登場しそうに見える。もし屋敷ではなく城だったらきっとこの様な風体をしているんだろうな、とキリトは考えながら城内に続く桟橋を渡った。腐った木は歩を進めるその都度、嫌な軋む音を響かせる。渡り切った瞬間、その橋は役目を終えたかの様に腐り落ち、堀の中へと落ちて行った。
「キ、キリトく〜〜ん・・・・戻ろうよぉ〜〜・・・・」
転移結晶を使わない限りこの場からは脱出出来ない。アスナは最早半泣き状態である。
「キリト、クエスト内容をもう一度教えてくれるか?」
「ああ。えーっと、これだ。」
気を引き締め直しながらキリトはメニューを開いてクエストをクリアする為の条件を確認した。
『クエスト名:雷纏いし黒翼
クリア条件:『魂の居城』のフィールドボス討伐
城を支える『雷剣・アラストル』を回収せよ』
キリトは苦い表情でメニューを閉じた。攻略目的でフィールドに出るのは良いが、流石にボスを三人でと言うのは無理がある。いや、もしボスのモンスターが幽霊の様な物だったらアスナの状態も考えると実質二人で戦う事になってしまうだろう。
「今回ばかりは金に目が眩んだのが裏目に出たな。」
エギルは頭を掻いたが、なる様になるさと肩をすくめるしか無かった。
「無茶苦茶な奴だって事は会った時から分かってたけど、これは無茶が過ぎる。ダンテの奴、覚えてろ・・・・」
キリトは初めて心の底からダンテを呪った。
事の起こりは、今から一日前に遡る。
「依頼が来た。」
「「はい??」」
前日の朝、朝食を済ませた後にダンテはそう口火を切った。
「依頼?」
「何の事ですか?」
「あー、実はなぁ、モンスター倒すだけじゃ資金が碌に増えなくなったんだよ。ほら、俺らレベルが他の攻略組に比べると抜きん出て高いだろ?んで、副業としてちょこっとだけ便利屋をやろうと考えたんだ。勿論中層プレイヤー限定だがな。エギルのプレイヤー育成にも役立つし、俺達も下の奴らも物資が行き届く。で、今朝早くから依頼が来たんだ。そんな大した事じゃねえが、ちとばかし時間が掛かる。そこで問題になるのがこの次の日、ハロウィンだ。風魔忍軍の情報によると、このフィールド『魂の居城』でイベントボスが現れる。」
喋りながらメニューを操作して『魂の居城』のマップデータを渡した。
「俺はソイツをどうにかしたいんだが、依頼者の払う額が中層プレイヤーの割に妙に高額でな、断ろうにも断れんのだよ。そこでだキリト、お前とアスナ、そして肩ならしの為にエギルを連れて三人でそのボスを倒してもらいたい。ちなみに既にエギルの了承は得ている。行けるか?」
「嫌ですっ!!」
アスナは血の気が引いた青い顔で叫んだ。これにはダンテも驚いてしまい、ビクッとしてしまった。
「何ですかそれ魂の居城って明らかにお化けとかお化けとかお化けとか出そうな名前の所じゃないですかそんな所私絶対行きたくありませんお化けと遭遇する位なら今すぐ世界が滅ぶかこの場で消えて無くなった方が良いです〜〜〜〜〜!!!」
早口で一息にそう言いながら膝を抱えて俯いたままゴロゴロと転がり始めたアスナを見てダンテは目を丸くした。
「おお、おお、どうしたどうしたどうした?え?あれ?何?アスナって、まさかお苦手な物はおば」
「お化け嫌ぁーーーー!」
一目散にアスナは唖然とするキリトと腹を抱えてソファーの上で笑い転げるダンテを残してその場から逃げ出した。
「ダンテ、幾らなんでもこれは無茶が過ぎるんじゃないか?ボスの部屋までマッピングは済ませてあるが、マップのデータ自体が完全じゃない。万全を期して行くならまだしも、この橋は渡るには危な過ぎる。」
「心配無い、ボスの攻略法なら後で渡す。それに、克服してもらわなきゃ困るのは俺達だけじゃなくてあいつ自身だ。未だに俺達は第二のクォーターポイントにだってまだ届いてない。次に何時またホラー系の階層に行き着くか分からない状態で彼女をあのまま放って置くのは流石にマズい。攻略組の一角を成すプレイヤーとしてアインクラッドで先陣を切る責任が俺達と同じ様にある。だが、これもアインクラッドから出る為だ。」
「・・・・・明らかに俺とアスナでまた遊ぶ腹積もりだろ?」
キリトの疑いの眼差しを受け止めながらダンテは溜め息をついた。
「お前、俺に対してはまるで猜疑心の塊だな。言いがかりも大概にしろよ。たとえそうだとしても有益である事に変わりは無いだろう?」
「せめて否定しろよ。」
だがキリトのツッコミを無視してダンテは続けた。
「ボスを倒せばお前もアスナも経験値が上がる。コルも貯まる。LABも手に入る。アスナも苦手な物を克服出来る。一石二鳥どころか四鳥だ。俺も依頼を済ませたら直ぐに後を追って援護する。心配は無い。すぐ行ける様に回廊結晶の出口をフィールドのど真ん中に設置してある。アスナに漢見せろよ?」
「どう言う意味だよ・・・・?」
だがダンテは何も答えずにリベリオンを担いでその場を後にした。
そして冒頭に戻る。アスナを一人にする訳にも行かないので三人は固まって城内の未踏エリアのマッピング作業とボスの探索を始めた。アスナは二人を両脇で歩かせると言って聞かないが、互いの攻撃やその他のアクションの邪魔になっては元も子もない。そこでキリトの提案によって彼がアスナの左前方を、エギルが右後方を歩くと言う妥協案で落ち着き、斜め一列に並びながら歩くと言う奇妙な図が出来上がった。
「エギル、中層プレイヤー育成の調子はどうだ?」
アスナの恐怖心を少しでも取り払おうとそんな会話を始めた。
「大丈夫だ、と言いたい所だが、段々と犯罪者プレイヤー達が中層で勢い付いて来た。殺される時間も場所も所属ギルドも全部バラバラだ。まったく、どれだけ頭が良いんだかお目にかかってみたいぜ。」
「そうか・・・・やっぱりまずそいつらをどうにかしないと最上階を目指すまでにプレイヤーの数が大幅に減って行くな。」
「だが、それと一緒に奇妙な噂を聞いた。何でも、オレンジやレッドプレイヤーを倒してる奴がいるらしい。それも黒鉄宮に送るんじゃなくPKだ。既に『ハーケンクロイツ』や『クルセイダーズ』、『ベヘモット』のメンバーが全員殺されてるらしいぞ。」
これにはキリトだけでなく怖々と頻りに辺りを見回していたアスナも驚きを隠せなかった。犯罪者プレイヤーや殺人を犯すレッドプレイヤーの尻尾をアインクラッドで掴める確率は攻略組でもかなり低い。それを三つのギルドをどう言う訳か見つけ出す事に成功し、単身で壊滅させたとなると攻略組でも名うてのプレイヤーでなければあり得ない。そこまでの事を平気でやってのけられる人物を、三人はダンテしか知らなかった。
「ちょっと待って・・・・大人数相手にして互角以上に渡り合うんだったらダンテさんと同じかそれ以上のレベルって事になるわよ。攻略組レベルのプレイヤーキラーなんて・・・・エギルさん、他に何かその人の特徴って無いんですか?」
「刀を使うのと、アスナ以上のスピードファイターって事と一刀両断する事もありバラバラにする事もありで、ついた通り名が『斬滅』って事ぐらいだな。お、おいでなすったぞ。」
エギルは背負っていた斧を何時でも振り下ろせる様に構えた。目の前に仰々しい棺がゆらゆらと地上から二メートル程浮かびながら三人に向かって来るのだ。アスナはキリトの後ろに隠れて袖を握ったままぎゅっと目を閉じる。
「エギル、悪いけどソレの始末頼めるか?アスナがこの状態じゃ・・・・」
「やれやれ。おら、よっと!」
何度か斧を振るい、棺は焚き火に焼べる巻程の大きさに断ち割られ、ポリゴンになって消えた。だが直ぐにまた異変が起きた。三人が通る廊下の両脇にある壁から半透明の手が無数に現れ、三人に向かって行く。
「いぃぃぃぃやあああああああああああああああーーーーーーーーーー!!!!!」
悲鳴と言うよりは背筋が凍る様な女性らしからぬ絶叫を上げ、アスナは一目散に廊下を駆け抜けた。それでも尚不気味な青白い輪郭を際立たせながらも伸びる手の追求は続く。
「あ、おいアスナ待て!一人で行くな!」
キリトは手の海をかいくぐって彼女の後を追おうとするが、上半身に掴み掛かるてばかりに気を取られ、足首を掴まれたのに気付かず地面に引き倒されてしまう。だがその手も気合いの籠った低い唸り声と共に叩き斬られた。
「エギル・・・・!」
「ダンテが俺を同伴させた理由、分かった気がするぜ。アストラル系のモンスターは斬撃や刺と付けいの攻撃には強い反面、打撃系の攻撃には弱いからな。」
キリトの首根っこを掴んで肩に担ぎ、アスナを見失った廊下の突き当たりまでエギルは全力で走った。
「キリト!アスナの居所をマップで追跡して俺に教えろ!俺の足元と後ろから来る手は任せた!」
何時に無く厳しい表情と巨体が醸し出す頼もしいオーラに圧されてキリトは頷くしか無かった。背中の剣を何とか引き抜きながらエギルを後ろから掴もうとする手を必死に切り払う。
左折、右折、右折、左折、また左折とアスナは常に十数メートル先を行く。
「クソッ、どんだけ速いんだアスナは!」
そう毒突きながらもエギルは足を動かし続けた。
「止まった!」
そして左上に表示されるギルドメンバーのHPバーの内の一つが若干だが減少した。
「アスナのHPがへってる!急げエギル!」
一抹の不安があっと言う間に巨大化し、キリトの心を飲み込んでいた。信心深くない性分だったがこの時は神でも仏でも悪魔でも良い、間に合わせてくれと一心に祈った。