ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク)   作:i-pod男

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アインクラッドへのダイブ開始です。


The World of Blades

翌日、針が午前十二時五十五分を指し示した。正式サービス開始まで、残り五分。全ての準備が整った。紅一は灰色の合成樹脂で出来たフレームに覆われたヘルメット、ナーヴギアの後頭部を開き、ソードアートオンラインのROMカードをセットした。

 

「やっと、戻れる。」

 

誰ともなしにそう呟く紅一の顔はまるで誕生日に新しい玩具をプレゼントされた無邪気な子供の様に明るかった。口笛でベートーベンの交響曲第五番、『運命』を吹きながらLANケーブルを差し込んだ。最後にベッドでナーヴギアを被り、稼働型の目元を覆うバイザーを下ろして横になる。後は正式サービスが立ち上がるのを待つだけだ。

 

バイザーには時刻がデジタルで表示されている。午前十一時まで残す所後三分。ベータテストの一ヶ月だけでは全くと言って良い程物足りなかった。紅一自身ゲームは嫌いではなく、やり込む隙間があるならとことんやり込む性格もあってどんなゲームもある程度理解出来れば大体二週間、長くて三週間前後でクリアしている。だがソードアートオンラインはどのゲームとも違う。VR技術を使ったゲームは従来のMMORPGと同じく戦略や武器はプレイヤーが考えなければならない。だが、それに加えてプレイヤー自身がそれをスクリーン内のキャラ———『アバター』となって実行に移さなければならない。

 

加えて、広大な空に浮かべられたソードアートオンラインの舞台、アインクラッドは電脳空間内だけに存在する石と鉄の城であるとは言え、正しく一つの巨大な世界だ。階層は始まりの街がある一層から百層まであり、どんなやり手のゲーマーであろうと一ヶ月で全ての階層を踏破して第百層まで登り切ると言うのは、どれだけ時間を費やそうと不可能だ。簡単にクリア出来る穴と言う穴を全て網羅して作り上げた茅場の徹底振りを紅一は畏怖の対象として見ていた。

 

——————59, 58, 57, 56, 55, 54・・・・・

 

残り一分を切り、心の中で秒読みを始める。だが、何故かふと昨日トリッシュとの会話を思い出した。茅場がインタビューの際に行っていた、妙に心に残るフレーズを。

 

これは、ゲームであっても遊びではない。

 

そしてイーグル9で本人からゲームを渡された時、最後に茅場の口から漏れた言葉。

 

ようやく夢が実現する。

 

何故今になってそれが脳の奥で引っ掛かっているのか分からなかったが、すぐにその考えを振り払い、バイザーの左端にあるデジタルクロックの数字が変わるのを待った。そして、ようやくその時が来た。

 

「リンク、スタート!」

 

午前十一時になると即座に仮想空間にダイブする為の音声コマンドを力強く腹の底から入力した。目を閉じると、まるで後ろ向きには知るジェットコースターの様に頭から後ろに思い切り倒れて落ちて行く感覚を感じた。目の前が真っ白になり、様々な色が直線状に迫って来た。次に感覚エンジンが正常に作動しているかのチェックが行われる。OKの表示がされて行き、それが五つになるとウィンドウが表示された。

 

『ベータテストのデータが登録されています。使用しますか?』

 

ゲームを始める前はパソコンのマウスを操作する様に視線がカーソルの代わりとなり、瞬きがクリックとなっている。迷わずYESを選択し、登録されたアカウントコードとパスワードが自動的に入力されて行く。

 

WELCOME TO SWORD ART ONLINE!!

 

灰色の背景と立体的な黒い文字が一瞬見えた瞬間、巨大な彗星が飛んで来ているかの如き青白い光の奔流に飲み込まれた。

 

再び目を開くと懐かしい景色が広がっていた。石畳の地面に壁、そして円状の広場の中心に据えられた二十メートル近くはあるモニュメント。全てが同じだ。一足早く来たのか、まだログインしたのは自分だけだ。下を見ると、黒い指ぬきグローブを嵌めた両手、黒い長ズボンと赤いシャツ、そして簡素で軽い革製の鎧に身を包んだ自分の体が目に入った。試しに指先を動かし、握り拳を作ってみると確かな感触がある。どれも本物だ。仮想空間である筈なのに、怖い位に現実味がある。

 

「感謝するぜ、茅場。この世界なら、俺は、心置き無く暴れられる。」

 

今の自分は、もうイーグル9の開発研究部長の最上紅一ではない。今の自分はアインクラッドを訪れた一人のアバター、『Dante』だ。ダンテの周りも次々と青白い光が迸り、残りの九千九百九十九人のプレイヤー達が一斉にログインして来た。

 

「Let’s get this party started!」

 

全プレイヤーがログインしたエリアの名は『始まりの街』。このエリアは馬鹿みたいに広い。一日や二日で網羅出来る様な生半可な面積ではなかった。だが、じっくりと街を探索したお陰で様々な情報を手に入れる事が出来た。例えば、どの店に行けば格安で目当ての物品を買い取る事が出来るか、など。ダンテは一心に石畳を踏みしめ、まだ人込みが出来ていない街道から裏路地に抜けた。煉瓦作りの建物を通り過ぎ、こぢんまりとした出店を見つけた。

 

アインクラッドでの通貨、『コル』は全プレイヤーはまず三百からスタートする。街道に出ている店の商品はクォリティーは良いが、値段が馬鹿高く、下手をすれば武器を買っただけで全財産の三分の二も削る事になる。それでは他のアイテムを買う事も出来ない

 

「これで、よしと。」

 

右手を小さく振り下ろすと、空中にメニューが現れた。なれた手付きで先程買った武器を人差し指でチョンと押した。即座に左腰が馴染みある重さを感じた。手をそこへやると、現実世界で普段持つ事が許されない物、『武器』がそこにあった。重さは大体二キログラムあり、やはり初期装備である為に装飾なども簡素極まり無い。一度それを引き抜いて何度か素振りをしていると、

 

「お前・・・・」

 

後ろから声を掛けられた。それもダンテに取っては聞き覚えのある声だ。振り向くと、青い長袖のシャツの上に簡素な革製の鎧と黒いズボン、そしてうなじまである男の割には長めの髪を持つ男が立っていた。見ると、彼が背中に背負っている剣も今しがたダンテが買い求めた物だった。

 

「キリト、久し振りだな。大体二ヶ月ちょっとって所か?」

 

「ダンテ・・・・・やっぱりそうか、喋り方と言い、見た目と言い。アンタならここにいるだろうと思ったけど、当たりだな。相変わらず行動が早い。」

 

「お前もな。レイド組んでた頃が懐かしいぜ。」

 

「レイドも何もあったもんじゃないだろ、勝手に一人で動く癖に。」

 

「オーイ!そこの兄ちゃん、ちょっと待ってくれー!!」

 

二人が過去の出来事を振り返って歓談している最中、大声を張り上げる男の声が遠方から聞こえた。しばらくすると、赤いざんばら髪にバンダナを巻いた男がやって来た。そこの兄ちゃん、と言われても男は二人居る。

 

「知り合いか?」

 

「いや、あの様子からすると恐らくビギナーだ。息切れはしない筈なのにマラソンランナー見たいにゼイゼイ息を切らしてる。ここが仮想空間だって事を忘れてる。」

 

キリトの指摘通り、仮想空間での出来事は全て脳が行っている事なので、入浴や着替えは必要無いし、食欲や睡眠欲も感じない。だが多少抜けている所があるらしいその男性プレイヤーはかなりの長時間キリトを追っていたらしく、ダンテとキリトの前で止まると多少大袈裟に肩を上下させた。

 

「あんた、その迷いの無い動き・・・・元ベータテスターだろ?俺、クライン。今日が初めてなんだ。だから、そのコツをレクチャーしてくれねえか?な?」

 

キリトは答えに詰まり、目を泳がせた。元々人付き合いが苦手な性分なのだが、ダンテが代わりに快諾して右手を差し出した。

 

「良いぜ。暫くやってなかったから肩ならしにも丁度良い。俺はダンテ。キリトと同じ、元ベータテスターだ。」

 

フィールドに到着するまでの間、キリトが歩きながら簡単な説明をして行き、ダンテは人込みを流し目で見ながら二人の後を付いて行った。

 

その時、後ろからタックルを食らった。だがギリギリ踏みとどまり、背中にぶつかって来た人物の方を振り返る。焦げ茶色の外套を身に着けた小柄なプレイヤーで、顔はフードの所為で見えないが金髪の巻き毛がフードの中からのぞいていた。

 

「ったク、ログインした途端走り出しやがっテ・・・・・寂しかったんだからナ?」

 

その特徴的な喋り方とヘアスタイルで直ぐにその者の正体を見破ったダンテは、その人物を横抱きにして持ち上げてフィールドへ運んだ。彼女は懸命に暴れたが無駄と判断したのか五分程してから大人しくなった。当然ながら二人は奇異の目で見られた事は言うまでもない。

 

「ダンテ、覚えてろヨ!後で絶対泣かすからナ!?」

 

目的地である西フィールドに辿り着いてようやく下ろされたそのプレイヤーはフードと頭半分程は身長が勝っている所為で見えないが、明らかに憤慨していた。

 

「アルゴ、一人にしたのは謝る。だが、お前も俺がこの世界じゃ思いっきり暴れまくりたいフリ—ダム人間に豹変する事位知ってるだろう?それに、前にやった時にやられて悪い気はしないって言ってたのお前だぞ?」

 

どうどうとアルゴを宥めるダンテは悪戯が成功した子供の様な無邪気な笑みを浮かべ、フードの上から彼女の頭を撫でてやる。

 

「ダンテ、アルゴ、夫婦漫才もそれ位にしてクラインのレクチャーを手伝ってくれ。俺じゃ上手く出来ないみたいだ。初動のモーションが大事だって言ってるのに。」

 

クラインはやはり初心者と言う事もあって未だにフルダイブでのレベリングに悪戦苦闘していた。広大な草原で腰元までの高さしかないフレンジーボアと言う剛毛を持つ蒼いイノシシの突進をがら空きになった股間にまともに食らい、ひっくり返った。

 

無様にのたうち回るクラインを見てダンテは腹を抱えて笑っていたが、直ぐにやめて剣を抜いて肩に担いだ。

 

「やれやれ、見てられんな。こんなんに苦戦してる様じゃ、お前まだまだ先は長いぞ。マニュアルにちゃんと目を通したのか?」

 

「・・・・マニュアルとか読むの苦手なんだよ・・・・・それにあいつ動き回るしよ。」

 

バツが悪そうな表情で顔を背けるクラインを助け起こしながらやれやれと頭を振るダンテ。

 

「動き回らなきゃ面白くないだろ。ま、ここは先輩が説明しながら見せてやる。ゲームで『溜め攻撃』ってあるだろ?ボタンを押して完全にチャージしたら同じタイプでも数倍は強い攻撃が出来るって奴。」

 

「あ、ああ。」

 

「ソードスキルの発動に必要なのもそれだ。初動の動きをしっかりやって、照準を合わせれば、後は離すだけ。残りはシステムが勝手に細かい修正をやってくれる。こんな風にな。」

 

右手を大きく後ろに引構えを取ると、ダンテの剣が青く光り始めた。そして光が最も明るくなった瞬間に踏み込んで適当にいるフレンジーボアを斜め上段からの一撃を浴びせる。急所を的確に捉えたらしく、頭上に表示されたHPバーが緑から一気に削られ、空になると同時にガラスが割れるパリン、と言う音と共に蒼いポリゴンになって消えた。その直後、戦績の画面で手に入れたコル、経験値、そしてアイテムが表示される。

 

「今のが片手剣の基本ソードスキル『スラント』だ。名前の通り斜めに相手をぶった切る単発技。」

 

「チャージして、照準を合わせて・・・・・」

 

ブツブツとダンテの言葉を復唱し、クラインは持っていた反りが付いた片刃のシミターを肩に担いだ。すると、刀身が同じ様に赤く光り、ソードスキルが立ち上がり始めた。そしてキリトがフレンジーボアを一匹けしかけ、タイミングを見計らったクラインがそれに向かって突進した。一が入れ替わる瞬間に得物を振り下ろし、フレンジーボアがポリゴンとなって弾け飛ぶ。

 

「よっしゃああああああああああ!!」

 

天に向かって拳を振り上げ、歓声の声を上げるクラインは初めてソードアートオンラインに触れたダンテを見ているかの様だった。それがおかしかったのか、アルゴは小さく噴き出した。

 

「何がおかしい、アルゴ?」

 

「いヤ、昔のダンテに似てるなーと思っただけサ。ニャハハハハ。さて、俺っち達も本腰入れてレベリング始めるカ。キー坊、そいつの事任せたからナ。」

 

メッセージなどを送ったりする事が出来る様にフレンド登録を済ませ、アルゴはキリトに向かって小さく手を振った。

 

「ああ。まあ、このフロアで死ぬ事は無いと思うけど一応気をつけろよ。」

 

西フィールドの更に奥へと分け入った二人は、息ぴったりのコンビネーションで襲って来るモンスター達を次々と葬ってはポリゴンの欠片にして行った。

 

「駄目だなあ・・・・全然駄目だ。ベータテスト中の方が遥かにスムーズに動けた。体術スキル位デフォルトで使える様にしろってんだよ全く。耐久値もヤバそうだし、一旦戻るか。」

 

やはりベータ版で組み上げた時の方が使っている武器やスキルはどれも充実しており強力だった為、始めからそれを全てやり直す事になっているのがやはり気に食わない。不服そうにダンテはぼやいた。

 

「うン。」

 

フィールドのかなり奥の方まで進んで行ったので、戻るのもかなり時間が掛かる。加えて現実世界とは違って車などの移動手段が存在しない為この移動が面倒な事この上無い。

 

「ダンテ、聞きたい事があるんだガ、良いカ?」

 

「何だ?」

 

「正規版のSAO、ベータとどう違って来るかを考えていてナ。ベータテストの時は俺っちと一緒に十二層位まで行ったっけカ?ニュービーでもフェアーにする為に色々と変わっているんじゃないカ?」

 

「確かに。あり得なくはない。いや、十中八九は変わっている筈だ。俺が運営者なら間違い無くそうする。特に、俺はやり込むタイプのゲーマーだからそこら辺はちゃんと見てる。それなりの難易度設定にしてもらわなきゃ面白くない。」

 

ベータテストの時と正規版が同じでは元ベータテスター達が不公平なアドバンテージを手にしてしまい、ゲームバランスが崩れてしまう。運営している側とて当然それを避けたい筈だ。

 

「アルゴ、ベータテストの時の情報は当然まだあるよな?」

 

「勿論ダ。SAOじゃ情報は俺っちの食い扶持を稼ぐ為の売り物だからナ。当てになるかは分からないからまた一から集め直しになっちまうガ。」

 

「大丈夫だったのはダンテが俺っちを守ってくれたのとそのお陰で心置き無くレベル上げで敏捷値を上げられたからだヨ。ベータ版じゃなんて呼ばれてたか知ってるカ?『魔剣士 (ダークナイト)』だゾ?デュエルで負け無しとか聞いた事ねえヨ。」

 

図らずも拝命してしまった異名を聞いても、ダンテは別になんでも無いと言いた気に肩を竦めた。MMORPGでは互いの本名も素顔も見えない為、多少は演出に色をつけて立ち回ってもどうと言う事は無い。

 

「キー坊も若干ビビってたゾ?」

 

「キー坊?・・・・ああ。あいつの、キリトの事か。後、俺が怖がられてる理由を知りたいか?それは、俺が大人気無い大人からだ。幼稚で負けず嫌いでムキになって掛かって来る奴や、やり手のゲーマーだと粋がってるガキ共をいたぶるのが大好きな、ね。」

 

典型的な悪魔っぽいサディステックな笑みに顔を歪めるダンテは容姿も相俟って尚更恐ろしく見える。

 

「まあ、ダンテは結構根に持つタイプだからなア。彼女で良かったよ全ク、ニャハハハ。」

 

「さてと、とりあえずレベルも3に上がったし一度ログアウトするか。」

 

「そだナ。」

 

右手を軽く振り下ろしてメニューを開いたが、ある異変に気付いた。

 

「こ、紅一?ログアウトボタン、ねえゾ?」

 

ログアウトと書かれている筈の項目は真っ新になって何も書かれていない。それを指先で幾ら押しても現実世界に脳が引き戻される気配も無い。再三再四メニューを開いてもやはり変わらなかった。

 

「ゲームマスターへのコールも繋がらない・・・・・もしこれがバグならログアウト出来次第、運営側にクレームと共にワーム型の特性ウィルス三点セットを送りつけてやる。これARGUS全体の沽券にも関わる問題だぞ、初日からこんな調子じゃ客足も遠退く。」

 

「やばいゾ、緊急脱出なんてマニュアルに乗ってなかったシ。」

 

「自発的ログアウトはメニューを介してしか出来ない以上、リアルで誰かがナーヴギアを外してくれない限りはどうにもならんな。」

 

若干パニック状態になりかけているアルゴに反してダンテは能天気だ。

 

「まあ異変に気付いてくれる奴なら二人位は心当たりがあるんだが。」

 

「・・・・・あの元カノ二人カ・・・・?」

 

別に隠す必要も無いのでダンテは頷いた。

 

「俺は売りに出すプログラムとかソフトウェアの開発と研究を担当してるからな。プライベートでもトリッシュやレディーと話す事はある。使ったリソースやその他の必要経費をカバー出来るだけの予算の交渉とか、それに見合った商品の値段とかな。しかもあの馬鹿共、俺のマンションの鍵が特殊な奴で替えようにも値段が半端無い事を見越して鍵を返してくれねえんだ。人が折角書き上げた資料に勝手に赤ペンで修正を付けてきやがるしよお。まあ、それでも嫌いになれねえのは親父の筋金入りのフェミニストだからかねえ。」

 

そう言い終わった直後、始まりの街にある時計塔の巨大な鐘が鳴り響いた。そして瞬きした瞬間いつの間にか始まりの街にテレポートしてしまっている。まだまだ道程が長かったのでありがたいが、今はそれ所ではない。

 

「鐘と言イ、ログアウトボタンの消失と言イ・・・・何が始まるんダ?」

 

「まあ、それはおいおい話してくれるだろ。この世界の神様になった茅場秋彦がな。」




久々に平均目標を多いに上回った・・・・・
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