ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
2022年11月18日、第一層の主街区、トールバーナ。茅場秋彦がデスゲーム開始を宣告してから二週間程の時が経過した。第二層に続く迷宮区の入り口は見つかったが、ボスの部屋は未だ発見されておらず、迷宮区自体もまだ半分程しか攻略されていない。
その二週間、ダンテ、アルゴ、そしてキリトの三人は只管レベル上げに専念した。トールバーナに到着したその翌日から迷宮区の入り口探索を始め、見つけてから直ぐに潜った。連日連夜の五日間攻略を続け、モンスターの種類、その攻撃パターンの変化、新しいバフやデバフの有無など様々な情報を集めた。七日目と八日目は休息を取り、再び五日間のレベリング地獄へと足を踏み入れる。
現在三人は迷宮区限定で登場するルインコボルドシリーズのモンスター、ルインコボルド・メイサーを相手に戦っていた。尻尾を生やして兎の様な大きな耳を持ち、二足歩行するこのモンスターは身の丈は三人の中で最も長身のダンテの倍近くあり、急所のみを覆った簡素な革製の防具と木製の丸い楯以外の攻撃を妨げる装備は無い。
だが手には鉄製の槌矛、メイスを握っている。ルインコボルドは総じて動きは俊敏だが、持っている武器はプレイヤーに取っても重い部類の物に入る。それでも移動スピードは殆ど変わらないが、やはり他のルインコボルドに比べると動きが遅く、更にメイスの攻撃間隔が他の武器よりも遥かに遅い為、付け入る隙も探せば幾らでもあるのだ。
「ダンテ、スイッチだ。足元を崩してくれ。」
空振りに終わったルインコボルドのメイスを踏み台に飛び上がったキリトはアニールブレードで三連撃のソードスキル『シャープネイル』で楯を持った左腕を肩口から切り裂いた。スキルの名前が由来する鋭い三本の爪で引き裂かれたかの様な傷が現れ、ダメージエフェクトの赤いポリゴンが血の様に噴き出した。
「任せな。」
次に同じアニールブレードを装備したダンテが低い耐性で飛び出し、ルインコボルド・メイサーの数歩手前で低空タックルをかますかの様に地を蹴り、刀身が光り始める。そしてそのままメイサーの両膝を狙って左右に切り払う『サイドバイト』を発動した。左足への斬撃は浅かったが、反対の足は膝から下が完全に切断されていた。バランスが取れずにメイサーは地響きを立てて倒れた。
「アルゴ、スイッチ。頭狙え。」
「うイ!」
音楽に合わせて体を揺するダンテは軽快なバックステップで後退し、入れ違いにアルゴがナイフを片手に突貫した。右足を軸に回転しながら続け様に二度斬りつけるソードスキル、『ラウンドアクセル』が淡い光と共に放たれる。メイサーのHPバーが空になると、パリン、とガラスが割れる様な小さな破裂音と共にポリゴンの欠片に四散した。
「にしても相変わらず広いな、ここはよお。」
「ベータテスターである俺達すらボスの部屋を見つけられないなんて。ダンテの読み通り、難易度が上方へ修正されてるな。」
「俺っち達は少なくともこの層にいる間は平気だロ?俺っちのレベルは15、キー坊が17、ダンテが19ダ。ボスの部屋が見つかる頃にはもう充分強くなってる筈サ。」
アルゴは短剣の耐久値を確認し、満足そうに右腰の鞘に納めた。
「強化素材も売る程あるかラ、金にも困らねえナ。」
「まあ、今はベータもニュービーも大体俺達と同じ様に自分強化で必死だからな。競売屋で儲けさせてもらってるよ。数が揃えば意外と金額が跳ね上がるな。レディーから為替のレクチャー受けといて良かったぜ。」
「ダンテ、お前、熟こう言う事に関しては性格エグいな。」
キリトはアイテムストレージから取り出したパンを千切り、それを口にしながら呟いた。
「俺は自分を善人だと思った事なんて一度も無いぞ。これでも一応学生時代はやんちゃして何度かサツのお世話になりかけた身だ。」
「おま・・・・・何したんだよ・・・・?」
呆れながらも訪ねるキリトに対して待ってましたとばかりにダンテは胸を張る。
「傷害罪数件、電波法違反二件、ハッキング三件、無免許運転一件、未成年飲酒、後は未成年喫煙だ。昔は一日一本だったが、レディーやトリッシュが煙草の味がするキスは嫌だって言ってな。今じゃ半月に一回吸うか吸わないかの頻度だ。」
「そうなのカ・・・・たまぁにちょっぴり苦みがすると思ったラ・・・・」
極稀にキスの時不思議な味がする理由の謎が解けたのか、ポンとアルゴは手を打つ。
「ちなみに、先程の罪状だが、俺は捕まっていない上、補導もされていない。まあバレた時は親父にぶっ殺されそうになったがな。」
キリトは唖然とした。義務教育中にここまでの前科を持っている札付きが一度たりとも補導された事が無い物など普通はあり得ない話だが、現にこうしてダンテがいる。何故か頭痛を覚えたキリトは目を閉じて顔を顰めた。
「キリト、参考の為に良く覚えとけ。大人ってのはな、綺麗な顔してる程内面が腐ってる。まあそれだけならまだ良いが、その上頭も切れる様な奴だったら殊更に始末が悪くなる。俺なんかが良い例だ。で、自分に取って脅威となりうる奴を潰す為のエグい計画を考えてそのエグい事を実行に移してなんぼのもんなんだよ。さてと、くっちゃべるのもここまでだ。マッピング続けるぞ。」
三人はしばしの休息を終えて身支度を整えると、未だ未踏の迷宮区エリアへと歩を進めた。攻略のペースはごく少数のパーティーである為身動きは自由に取れるとは言え、お世辞にも速いとは言えない。だが逸る気持ちを一心に抑え、手堅く進まなければ一気に死期を早めるだけとなる。
進んで行くうちにあっと言う間に時は過ぎて行き、いよいよ日付も変わろうとしていた。迷宮区で幾つ目か分からない十字路に辿り着くと、その中心には仰々しい石柱が一本立っていた。そしてそこには羊皮紙が杭で打ち付けてある。赤いインクで書かれたその文字は不可解な物で、歴史や語学が得意なアルゴやダンテさえ意味が分からない。
「警告か、トラップか・・・・・」
ダンテはその柱に近付き、いつでも走れる様に身構えながらその羊皮紙を指先で押した。ポップアップしたスクリーンには『試練の書』とだけ書かれており、詳細は不明だ。
「はたまた何かの役に立つアイテムか・・・・兎も角一度持って帰るか。」
キリト達が止める間も無く石柱に固定されていたそれを引っ張って取り外すと、ブォン、と赤い光がダンテを包み込み、光が消えると同時に彼の姿もまたなくなっていた。
「何だここは?」
ダンテが辺りを見回すと、空に浮かぶ半径二十メートルはある円状のフィールドに自分一人がポツンと立っていた。念の為にと武器を手にし、周りの様子をうかがう。ガコン、とフィールドの床が落とし戸の様に開き、そこから六体のモンスターが列を成して現れた。兜から露出した兎の様な長い耳からルインコボルドシリーズのモンスターである事は間違いない。
「ルインコボルド・・・・・さしずめナイトって所か・・・・?」
アニールブレードを構え、爪先で何度か体を浮かせ、ワン、ツー、と口ずさみながら左右に体を小さく揺すった。そしてルインコボルド達の頭上にゆらゆらと揺れながら文字が現れた。
Annihilate your enemies unharmed
無傷で敵を全滅させろ、と言う事だ。
「上等だコラ。遊んでやるぜ。」
鎧を付けている分攻撃力は勿論、防御力も今まで戦って来たルインコボルドより遥かに高い。アニールブレードの耐久値はまだ大して減ってはいないが、まともに攻撃を受けたりすればたちまち折れてしまう。
まず最前列の鎧に身を包んで槍を持ったルインコボルド・スピアナイト三体が三方向からダンテに向かって来た。しかし、ダンテは相変わらず体を揺するだけで動かない。スピアナイトがそれぞれ槍のソードスキル『フェイタル・スラスト』と『ツイン・スラスト』、更に『ソニック・チャージ』を僅差で次々に放って来た。
「まあ、常套手段だな。」
鞘を地面に突き立ててそれを足場にジャンプすると、顔を狙って突き出された『フェイタル・スラスト』を回避し、体を捻りながらルインコボルド・スピアナイトの頭を力任せに蹴り飛ばした。レベル上げではやや筋力値寄りのバランス型で、その衝撃は突撃して来たルインコボルドを後ろに弾いた。その為、すぐ後ろから付いて来ていたスピアナイト二体もそれにぶつかり、結果的に三体ともソードスキルの発動をキャンセルされてしまった。そしてソードスキル命中の成否に関係無く動きが硬直する。
「バーカ。」
無様にこけたそのルインコボルド達が立ち上がる前にアニールブレードを左右に持ち替えながら鎧の隙間———正確には喉を———狙って幾度も斬りつけ、最後に暫く動けない様に足を切り落とした。だがソードスキルはまだ発動出来ない。
スピアナイトが倒れた時に偶然穂先が地面に突き刺さった槍の上を駆け上がると、今度は片手剣と楯を持ったルインコボルド・ナイトが二体飛び出し、突進技の『レイジスパイク』を同時に放って来た。倒れているスピアナイトを蹴って空中に飛び上がり、ナイト二体の攻撃を避けた。それだけで無く、『レイジスパイク』はダンテの後ろで立ち上がろうとしているスピアナイト二体に突き刺さったのだ。槍の穂先は容易く鎧を貫き、HPがゼロになる。硬直が終了する前にダンテもまたナイト二体の足を切り崩して執拗に急所を狙う。
だが背後から差す影を見て思い切り左へ飛んだ。その直後、ずしんとフィールドが一度大きく揺れた。先程立っていた所に目を向けると、巨大な斧が地面に突き刺さっていた。ヴァイキングや中世の騎士が使った様な戦斧、バトルアックスである。それを握っているのは通常のルインコボルドより少し大柄なルインコボルド・バスターだ。両肩にある棘付きの肩当てが更に威圧感を上げている。
「あっぶねぇ〜・・・・」
無傷で敵を全滅させなければならない。もしダメージを少しでも受けてしまったらどうなるか分かった物ではない為、もう悠長に遊んではしていられない。ブランカ・ザ・ブラッドグリズリーを倒した際に手に入れた剣、『ブラッディー・ファング』を装備し、鞘から抜き放った。地の様な深い赤色が放つ光沢は美しさと同時に恐ろしさを醸し出す。
「第二ラウンド、開始だ。」
狂気を宿した笑みを顔に浮かべ、時間差をつけて手持ちのアニールブレード二本を空高く投げ上げた。その直後にブラッディー・ファングでまずようやく足が再構築されたルインコボルド・ナイト二体と残り一体のルインコボルド・スピアナイトに躍りかかる。
一歩間違えれば自分の命が消えてしまうと言うのに、ダンテは笑っていた。血飛沫の様に飛び散るダメージエフェクトの赤いポリゴンを存分に浴びる様は、まるで水遊びに夢中になる子供だ。落ちて来たアニールブレードを指先だけで掴み取り、今度はブラッディー・ファングを投げ上げる。鎧の隙間を狙い、まず一番HPが喉笛を後頭部から深々と突き刺し、抉った。貫通ダメージを継続させる為にアニールブレードは刺さったままにしておき、次に落ちて来た二本目のアニールブレードを構える。一本目を突き刺した場所とほぼ同じ所をまた突き刺し、両手で左右に切り開いた。
「まず一匹。残り、三匹。」
耐久値もそろそろ覚束なくなって来たアニールブレードの一本をストレージにしまい、回転しながら放物線を描くブラッディー・ファングを掴んだ。
右後方からルインコボルド・ナイト二体が前方から楯を持って突っ込んで来る。恐らくそれによって壁を作り、ルインコボルド・バスターの攻撃から逃れるのを防ぐつもりなのだろう。更に逆方向からバスターの大斧が上から振り下ろされて来る。
「『ランバー・ジャック』かよ・・・!」
両手斧の三連撃ソードスキルは連続で三度斧を楯に振り下ろす斧の攻撃の割にはスピードがある技だ。間に合え、とダンテは心の中で今しがた立てた無謀極まり無い計画の成功を祈り、楯を前に突進して来るルインコボルド・ナイトに向かって行った。
失敗すれば、確実に死ぬ。迫って来る楯の壁と振り下ろされる斧、二つの動きを交互に中止しながらタイミングを測り、飛び上がった。そして楯を足場に飛び上がり、ルインコボルド・バスターの頭上を超える。直後、迫って来たルインコボルド・ナイト二体は『ランバー・ジャック』の攻撃をまともに受けてしまい、楯が粉々に吹き飛んだ。その勢いはフィールドの端まで二体を押しやる。
「Gotcha now, bitch!これで、残るは、」
スキル発動後で動けないルインコボルド・バスターを捨て置き、フィールドの端まで吹き飛ばされた二体を追い打ち、飛び蹴りで突き落とした。
「てめえだ、デカブツ。」
スキル発動後の硬直が解けたルインコボルド・バスターはダンテが突っ込んで来るのを待ったが、間合いに入った瞬間ソードスキルを発動した。今度は全方位への攻撃が可能な回転系の技、『ワールウィンド』が飛んで来る。だが、ダンテは数歩前に出て耐久値が低くなったアニールブレードでも受け止められる様にした。その圧力にダンテが立つフィールド一帯にピシピシと亀裂が入り始める。
「これで、ラスト。」
アニールブレードから手を離すと、直ぐにブラッディー・ファングを装備し、このフィールドに来て初めてソードスキルを発動した。まずは硬直が少なく次のスキルに移る事が容易な『シャープネイル』。硬直が終わった瞬間、すぐ次のスキルに移る。次はV字型に切り裂く『バーチカル・アーク』だ。
「あと少し・・・・」
だがルインコボルド・バスターもただでやられる訳ではない。体勢を立て直した直後にフィールドに走った亀裂に『グランド・ディストラクト』と言う単発の範囲技をぶつけた。ビシビシと嫌な音が走る。
まさか、こいつは自分ごと俺を道連れにするつもりなのか?
硬直後、再び『グランド・ディストラクト』。亀裂は更に大きく、深く走り、ダンテが立っている部分が傾き、沈み始める。
「とどけ、とどけ、とどけぇ〜〜〜〜!!」
プレイヤーステータスは敏捷値が若干劣るので全力で走らなければ落ちて死ぬ。落ちる瓦礫の上を踏みながら未だ浮遊する半円となったフィールドに降り立つ。
「・・・・やりゃあ出来るじゃねえか、AIでもよお?」
ダンテは再び剣を空中に投げ上げ、両手にありったけのピックを装備した。足の間や振るわれる斧をかいくぐりながら鎧の隙間に確実且つ丁寧に突き刺して行き、落ちて来たアニールブレードとブラッディー・ファングを掴んだ。じわじわとHPが減って行き、アニールブレードを突き刺した直後に渾身の『バーチカル』で縦一文字にルインコボルド・バスターを切り裂いた。リザルト画面が一瞬だけ表示されたが、詳細を確認する前に視界がまた真っ赤な光で塞がれ、再び迷宮区に戻っていた。
直後にアルゴが彼に抱きついたまま地面に組み伏せた。
「ダンテ!!今までどこにいたんだヨ!?」
「急に消えたからびっくりしたぞ。てっきり死んだのかと思った。」
「・・・・・どうやら隠しステージを偶然見つけたみたいだ。それを今さっき終わらせて戻る事が出来たらしい。」
隠しステージの内容をざっくりと話すと、キリトは只々驚くばかりだった。
「無傷で鎧を付けたルインコボルドをたった一人で六体も・・・・・?!そんな無茶苦茶な隠しステージ、聞いた事無いぞ。あ、リザルト画面はどうなってる?」
「ん、ああ・・・・」
リザルトが面を確認すると、普通にモンスターを倒した時とは比べ物にならない程の経験値とコルが手に入っていた。一気にレベルが二、三は上がっている。更に、与えられたアイテムをオブジェクト化すると銀色の輪に赤い水晶が通され、その輪が鎖で繋がれたペンダントが現れた。
「コイツァ儲けたな。」
数値もかなり高い。アクセサリ—系の装備はレベルが上がれば上がる程その効果が大きくなる。使わない手は無い。
「プラウド・ソウル・・・・誇り高き魂、か。」
「ダンテ、今日は一旦帰ろう。耐久値もそろそろヤバいだろ?」
「ああ。そうする。」
「ダンテ、帰ったらお仕置きだからナ?」
「へいへい、分かった分かった。好きにしやがれ。」