ソードアート・オンライン~The Devil May Cry (リメイク) 作:i-pod男
それではどうぞ。
ボス打倒の会議が終わり、徐々に広場にいたプレイヤー達の数も減って行った。その最中、ダンテは密かにディアベルの後を追い、先回りして待ち構えた。
「おい。」
突如目の前に飛び出して来た赤衣の男に、相反する青い頭髪のディアベルは驚きのあまり尻餅をつきそうになった。
「ダンテか・・・・お、脅かさないでくれよ。」
やはり声はうわずり、目も左右に泳いでいる。
「いや、お前が勝手にビビッてるだけだろうが。そんなに俺がおっかねえか?ま、いい。ちょいとツラ貸せ。」
ダンテの目には腹に一物どころか二物、三物はあるぞと言うのが在り在りと出ており、ディアベルは嫌とは言えずに半ば強引にトールバーナの中でも大きめの店に入り、角の席に入った。
「それで、用事って何かな?」
「まあ、別に大した事じゃねえ。そう堅くなるな、一応同期なんだからさ。少なくともここでは。」
ディアベルは隠してはいたが、彼もまた元ベータテスターなのだ。顔を見られた直後の反応で、直ぐにピンと来たダンテは記憶の糸を辿り、ディアベルの顔を思い出したのだ。僅かにディアベルの口角がピクリと引き攣ったのをダンテは見逃さなかった。
「心配しなくても良い。同期のよしみって事で誓ってあいつらにお前の素性はバラさない。ビギナーにも比較的温厚な態度で接してもらってる見たいだし、お前の事をバラしたら信頼なんて大恐慌並に暴落する。お互いに損だし、こっちも色々とやり難くなる。お互い危ない橋渡りはしたくないだろ。」
笑みを浮かべて入るが目は全く笑っておらず、先程から瞬きも殆どせずにディアベルを凝視している。居心地が悪そうに身を揺するディアベルの事など一向に気にせずにダンテは続けた。
「後は、警告、と言ったらちょっと物騒な臭いがするから言いたくはないが、まあアドバイスだ。別にお前がレイドのリ—ダーをやるのが気に食わないとかそう言うんじゃない。寧ろ、ああ言う言い回しが出来るお前だからこそ適任だと思ってる。」
ただ、とダンテは続け、口元に浮かべていた薄ら笑いが消えた。目の色も剣呑な物にあっという間に変わった。
「あんまし欲の皮突っ張らせたら、手痛いしっぺ返しを食らう事になるぞ。前にも言ったよなあ?ベータ時代に。アイテム欲しさにまだ大してレベルを上げてないのにも拘らず中ボスクラスに二、三発でぶっ飛ばされたろ。」
ディアベルは悔しそうに奥歯を噛み締め、今にも自分の体に巨大な穴を開けてしまうかの様なダンテの視線から顔をそらした。
「あの時はゲームだったから良かったが、今回はそうはいかねえ。断っておくが、またあんな事をするつもりなら次は助けねえからな。お前の神風特攻の側杖を食らうのはゴメンだ。」
「僕は、皆をここから出してあげたいんだ。第一層で挫けてたら永久に出られないし、迷っている間に今でも誰かが死ぬ。正直人数は少し心許ないが、あれでも命を賭けてくれている人達ばかりだ。彼らの期待に応えないと。だからボス攻略をその希望の一歩にしたい。」
弱気だったディアベルが少しばかり語気を荒らげるのを聞き、意外に骨があると内心驚いたダンテは、少し眉を吊り上げた。
「そりゃまた結構な事だ。こう言うゲームでレベルを聞くのは失礼だが、敢えて聞こう。今どの辺りだ?」
「13ぐらい。もう少しで14になる。」
足りない。もしボス攻略の時に下手を打てばほぼ間違い無く数度攻撃を受けただけで殺される。
このゲームでの安全マージンとは現在いる階層、例えば第一層にいれば十を足して11。これはその層にいる時に最低限到達していなければならないレベルとなる。ディアベルは確かにそれを超えてはいたが、ダンテやキリトなど殆ど連日連夜レベリングに励んでいたプレイヤーなどには足元にも及ばない。彼らは既に20前半に到達しているのだから。
「随分中途半端な安全マージンの超え方だな。所で、一つ聞いて良いか?」
「何だい?」
「お前は、ベータテストの時も含めて、人生で英雄になりたいと思った事はあるか?お前の言葉を聞いているとどうもそんな気がしてならない。」
「英雄、か・・・・・君は、無いのかい?」
「質問で答えるな。聞いているのは俺だぞ。」
ダンテの声が若干棘のある物に変わり、笑みも消える。
「無いと言えば嘘になる。現にこうして僕は皆を率いて、明後日ボスを倒そうとしているんだから。」
「リ—ダーとしての才能ならやり方次第で大化けするかもしれないが、ヒーローは無理だな。そもそも、お前はヒーローと言う物が何なのかを知ってるか?それは大志を抱き、どんな時にでも備えられる計を持ち、行っては怯まず時代に遅れず、天地の理を知り、万人の指揮に臨む者でなければならない。」
「そんな人間どこにも」
「ああ、存在しない。存在するとしても、もう死んでる。それに、ここにはいない。ヒーローは、ヒーローになろうとした瞬間失格だ。つまり、なりたいと思った事があるお前はもうハナっから
ディアベルは絶句した。
「何だその顔?まさかお前、LABを最初から手に入れるつもりであの時アイテムはゲットした人の物ってルールを設置したのか?」
「ち、違う!他の人に貸し出しも出来るし・・・・」
だがディアベルのその弁解は至極無感動に叩き潰された。
「根拠薄弱な言い分だ。」
ダンテの言う通り、貸し与えたプレイヤーがそのアイテムを持って雲隠れしない保証はどこにも無い。そうなればベータであろうと無かろうと、間違い無く確執は埋まる事の無い物になってしまう。
「近付いて来る奴皆が慈善活動よろしく手伝ってくれると思うな。誰しも多かれ少なかれ下心はあるし、己の利益も計算に入れてる。特にあの詐欺師、キバオウには注意しろ。意外と悪知恵が利く。俺がここで言った事、忘れるなよ?あ、当然他言無用な。」
話はそれだけだとばかりにアディオスと手を振り、ディアベルに背を向けて店を後にする。歩きながらメッセージ作成画面を開き、片手でホログラフィックキーボードを叩きながらアルゴへ宛てに書き始めた。
『決行は明後日だし、安全マージンも充分取ってあるから今日と明日一日は遊びに行くぞ。行き先は任せる。と言っても、第一層に範囲が限定されるがな。』
そこまでタイプを終え、少し考えると更に書き足した。
『追伸:キリトにあのアスナってプレイヤーに付いて行く様に言っといてくれ。体格と声からして女なんだろうが、ボス攻略前日に無茶して死なれちゃ困るし。本人にもコミュ障を直すきっかけにもなるかもしれん。ヨロシク。』
「送信、と。」
メッセージの返事が来るまで少しばかり街でブラブラしていようと歩き出した直後、返事が来た。キーボードを打つのが早過ぎるだろうと舌打ちをしながら受信したメッセージを開く。
『了解。さっきの広場で待っててくレ。すぐに行く。』
文章の終わりに愛嬌としてデフォルメされた鼠の絵文字があり、ダンテは思わず笑った。
「まったく・・・・・ほんと、俺には勿体無い女だよ。」
「なあ、アスナ。」
「・・・・・何で付いて来てるの?」
フードの下から睨みを効かせてキリトに訪ねるアスナは腰に差した鉄拵えの『アイアン・レイピア』を引き抜いて切っ先をキリトに向けた。だがキリトは背中のアニールブレードに手をかける事も避けようと構える様子も無い。
「大方今日は一日中迷宮区に潜ってレベリングをやるんじゃないかと思ってさ。折角組んだパーティーメンバーに死なれたら寝覚めが悪いんだよ。」
「どうせ、皆ここで死ぬのよ。」
アスナは低い声でそう返し、踵を返して数ある迷宮区の入り口の一つに踏み込もうとしたが、背後でキリトが近付くのを察知し、レイピアをキリトの喉元から僅か数センチ前まで突き出した。
「だから、付いて来ないで。私は、最後まで戦って死ぬ。一人で。私が私である為に。」
SAOの中での死亡は現実世界での死亡と同じ。だが、SAOでは血が流れる事も痛みを感じる事も無い。HPがゼロになった瞬間、体が幾千、幾万のポリゴンとなって飛散する。死体は残らないし、墓標も無い。それだけゲーム内での『死』は呆気無いのだ。そんな物に負けたくはない。
「死んで誰が喜ぶ?君も家族はいるだろう?確かに俺達が必死でこのアインクラッドで生きている様は見られない。だが生きていればたとえ望み薄でも生還は十分にあり得る。死んだら、家族には二度と会えない。全てが終わりだ。生きて帰って来てくれると信じる人を傷つける事にもなる。俺はネトゲ廃人だけど、親不孝者にはなりたくないし、君を親不孝者にしたくない。」
今度こそ二人は迷宮区に足を踏み入れた。しばらくは無言で歩いていた二人だが、アスナが口火を切る。
「・・・・・勝手にして。後、一つ聞いていいかしら?私の名前、どうやって知ったの?自己紹介をした覚えは無いんだけど。」
「はぁ・・・・?」
アスナは恐らくビギナーなのだろうが、まさかここまで抜けているとは思わず、キリトは思わずそんな間抜けな声を上げてしまう。このSAOの基本中の基本である事なのに。
「何よ?」
「いや、ちょっと意外でさ・・・・・割とレベルが高いから知ってるかと思って。視線を左上に向けてみて。そうしたら自分のHP以外にバーが三つ見える筈だから。」
言われた通り目だけを動かして左上を注視すると、キリトの言う通りローマ字で書かれたアバターネームが縦一列に四つ並んでいた。一番最初の物はアスナ自身の体力値で、それ以降の物はDante, Argo, そしてKiritoの名がある。
「あ。貴方は・・・・」
「キリト、だ。」
「なあんだ・・・こんな所にあったんだ。」
当初の冷たい声音とは真逆の明るく、照れくさそうな声がフードの下から漏れた。
「暫定だけど、よろしく。アスナ。」
「よろしく。」
そしてモンスターがポップし始め、二人はそれぞれ武器を抜いて狩りを始めた。キリトと同じ様にアスナもスピードファイターらしく、レイピアで次々と現れるモンスターをソードスキルで葬って行く。発動エフェクトの光がライトショーの様に美しい残像を残すその情景に、キリトは思わず魅入ってしまう。
「凄い・・・・急所だけをあそこまで正確に捉えるなんて・・・・」
「ぼさっとしないで、次が来るわよ!」
「あ、ああ・・・」
いつの間にかアスナがリーダーになっている事を内心大丈夫かと思いつつキリトもモンスターの攻撃を回避してソードスキルを発動し、応戦した。
「ん〜、実に心地良い。」
「・・・・・馬鹿。」
一方ダンテとアルゴはフィールドにある安全地帯で休息を取っていた。アルゴの膝を枕に大の字に手足を伸ばして芝生に寝転がり、うつらうつらしながら彼女と空を見上げる。
「リアルじゃお前は良く俺の腕を枕にして寝てるんだから、おあいこだ。コレ位良いだろ?それにユウの太腿、柔らかくて寝心地が良いんだ。」
最後の部分を聞いてアルゴは思わずダンテの脇腹を抓った。
「痛いって。」
本人は痛がる素振りは見せないが、やはり不快感はあるのだろう。その証拠に顔が少し引き攣っている。
「いきなり何言い出すんだ、お前ハ!?」
「良いだろ別に?減るモンじゃなし。」
「言わなくて良いって言ってるだろうニ。」
「事実だから仕方無い。」
蠱惑的な笑みを浮かべるダンテに何も言えず、アルゴはむすっとしてそっぽを向いた。
「・・・・・何でこんな奴好きになったんだろうカ・・・・・?」
「恋は盲目って奴だろ?いや、ちょっと違うか?」
「アホ・・・・」
暫く二人は黙ったまま吹き抜けるそよ風の心地良さに目を細めた。
「・・・・出られる、よナ?」
「ああ。今年中には、ってのは無理だが、絶対に出られる。つーか、出してみせる。お前だけでも。お前に死なれたら、俺恐らく自殺するかもしれん。」
笑顔で言えない様な事をサラリと良いながら、アルゴの頬に手を添えた。
「危なくなったら、迷わず逃げろ。俺を残してでも。」
「そんな事しねーヨ。紅一が生きてなきゃ、俺っちはまた独りぼっちなんだゾ?一人でいるのは、もう嫌なんダ。だからそんな事言わないでくレ。」
ダンテはすまん、と小さく謝り、寝返りを打った。