Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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最近は仕事多いし、気温は暑いしで大変です。
おかけで平日全く執筆時間が取れない……ORZ
まぁ、それでも更新は続けていく予定なので、ご安心ください。


第十話「海苔緒の現状。または彼等の疑惑」

「紫竹さん、終わりましたよ」

 

 看護師の女性はそう云いながら、ベッドに半裸で横たわる海苔緒から計測用の装置を外していく。心電図検査などで用いられるような吸盤式のアレだ。

 海苔緒は上体をベッドから起こすと、看護師の女性に尋ねる。

 

「検査の結果はどうでしたか?」

 

 すると看護師の女性は苦笑を返すばかりで、何も答えてはくれなかった。

 海苔緒は女性の笑みに反して、顔を顰めていく。

 

「…………(ああ、やっぱり)」

 

 どうやら海苔緒は軽く人間をやめたらしい。

 時を少し遡る。

 政府施設で海苔緒が目を覚ました時には既に一週間が過ぎていた。どうやら夢幻召喚の反動で昏睡していたようだ。

 起きた時、側に寄り添っていたのは当然ながらサーヴァントであるアストルフォで……、

 

『おはよう、ノリ。ボクに何か云いたいこと、あるよね?』

 

 目に涙を溜めながら睨むアストルフォに、海苔緒はどう答えていいものやら少し迷った挙句、後ろ髪を掻きながら『お前を見習って無茶してみた。反省はしてるが、後悔はしていない』といった旨の言葉を返した。

 その後、アストルフォは怒ったり、泣いたり、笑ったり、忙しかった。

 

 

『ああ、君ってヤツは……、君ってヤツは本当に……』

 

 最終的に、海苔緒はアストルフォにガシガシと頭を撫でられることになったが、それで無茶したことは許して貰えたようだ。

 しかし代わりと云っては何だが、海苔緒には政府の尋問が待ち構えていた訳だ。

 結論かつ大事なことなので二度云うが、どうやら海苔緒は多少人間をやめたらしい。

 原因は間違いなく夢幻召喚によるジークフリート化だろう。

 心臓や左眼など、海苔緒の肉体の一部は変化後定着し、元に戻らなくなった。

 海苔緒の再生能力が働かないのは、魂自体が書き換わったせいだろう。いやむしろ魂の一部が書き換わったからこそ、再生能力により心臓や左眼はジークフリートのものへと変貌を遂げたのだ。

 デキムス・ユニウス・ユウェナリス曰く、『健全な精神は健全な身体に宿る』とのこと。

 故に魂に何か異常があれば、肉体もその影響を少なからず受けるわけで……どこぞの紛いものの悪魔憑きではないが、海苔緒はこうして人間を逸脱したのである。

 海苔緒の身体検査や体力測定の一次報告に目を通した嘉納太郎閣下は……、

 

「こりゃ……石で出来た仮面を被ったとか、特殊な呼吸法が使えるとかそういう類のあれか?」

 

 ……と云ったとか、云わないとか。そう云われる程度には海苔緒の身体機能は向上していた。

 けれど、身体機能が健全に向上したのは元々転生特典により肉体が桁外れに頑強であったからで、そうでなければ変異した心臓が原因で本当にDDDの変態したアゴニスト異常症の患者(ユキオとか、ユキオとか)の如くなっていたかもしれない。

 例えるなら、今までの海苔緒はスーパーカーのボディに原動機付き自転車の原動機が乗せられていたが、現在はカリカリまでチューンナップされたエンジンが代わりに搭載された。

 ジークフリートの心臓(エンジン)を搭載することで、やっとボディと釣り合いが取れた訳だ。

 無論、向上したのは身体能力だけではない、魔力の供給能力も向上している。

 アストルフォのステータスもほぼアポクリファと遜色ない状態にはなったのだが、供給量の変化はそれほど劇的という訳でもなく、宝具は一発、二発放てば……一定時間、海苔緒の魔力供給が滞ってしまう。それでも前よりは大分マシな状態だが。

 しかし魔術の技量は上がった訳ではないので、魔術の威力が上がったかと云われれば、これも微妙である。

 

 加えてジークフリート化のデメリットも存在する。当然だろう、奇跡には相応の対価がついて回るのが常である。

 記憶の一部欠落……海苔緒は前世を含め、一部の記憶が欠落していた。

 具体的に云えば、前世において自分の住んでいた家や部屋の内装が思い出せなくなったり、交友関係の人物の顔や声が分からなくなったり、欠落は多岐に渡る。

 幸いにもゲート、ゼロの使い魔、アウトブレイク・カンパニーといった原作知識に相当する部分は無事である……多分(一部抜けがあるかもしれない)。

 今生の記憶に関しても養護施設時代にかなり抜けがあるが、大して愛着があった訳でもないので特に気にはならない。人間今が一番である。

 後は趣味趣向の変化。おそらく心臓がごっそり入れ替わったためだ。

 心臓移植した患者が、移植後に食事の好みや、音楽の趣味が大きく変わったという話は海苔緒もテレビで見たことはある。……多分、そんな感じなのだろうと海苔緒は戸惑いながらも受け入れていた。

 肉体の変化を含め、慣れるまではまだまだ時間が必要である。 

 一部の政府関係者を交えた秘密裏の検証実験に付き合いつつ、海苔緒は現状の己の能力や状態を確かめていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで海苔緒たちの軟禁状態は続く。

 話を聞く限り、政府の公式見解の発表はもう少し先になりそうだ。

 海苔緒は伊丹から取り調べを受けたり、身体検査されたり、取り調べ前の待合室で一緒の慎一や才人と駄弁ったり、そんな毎日を送っていた。

 そして――、 施設の食堂で海苔緒が優雅に味噌汁を啜っている最中、

 

「海苔緒君! アストルフォ君と同衾しているって本当なの?」

 

 古賀沼美埜里による、特に理由(みゃくらく)のない不意打ち(ぼうりょく)が海苔緒を襲った。

 不意打ちとは云っても、言葉による不意打ち。されど海苔緒には腹を打ち据えるボディブローほどの効果があった。

 海苔緒は噴き出すのを何とか堪え、口の中の味噌汁を喉へと押し込む。

 気管に幾らか入って咽る海苔緒は、自分の胸元を叩いた。

 すると手に返ってく感触は鋼が如く、海苔緒の胸部や腹部の前面一部は驚くべきほど固くなっており、鋼鉄の肉体とも呼ぶべき状態になっていた。これもジークフリート化の影響に一つである。

 アストルフォからは『まるでオルランドみたい』と、笑みを浮かべながら何度も胸元に手でノックをされている(冗談かどうかは知らないが、アストルフォ曰く、オルランドはほぼ全身が金剛石(ダイヤモンド)並みの固さで、素手で人間を引き裂くほどの怪力の持ち主だったらしい)。

 海苔緒は何かと咽た状態から復帰した。

 正面の美埜里から視線を外し、海苔緒は真横に視線を送る。

 すると慎一、ミュセル、ティファニア、ルイズの二人ずつ対面になって座り、食事をとっていた。

 ちなみに慎一が海苔緒の隣であり、ティファニアが海苔緒から一番遠い席である。

 才人は政府の人間を伴ってハルケギニアに一時的に戻っている。ゼロ戦や佐々木武雄など、色々と先行して調査することがあるようだ。

 ルイズが残っているのは、云い方を悪くすれば人質といった形だろう。

 まぁ、ルイズはルイズで協力する代わりに自分の姉であるカトレアを一度日本の病院で診察して欲しい等、色々と交渉しているようだが。

 ともかく定刻になれば、ルイズが世界扉を使い才人たちをこちらへ呼び戻す手筈となっている。

 ルイズによれば、『才人のことを想えば、才人の居る場所に世界扉を開ける』とのこと。

 そのことで『ヒュー、ヒュー』といった冷やかしをアストルフォから受けると、ルイズは真っ赤になって必死に否定していた。

 ……これがツンデレか、リア充爆発しろ!!

 海苔緒は心の中で深くそう思った。

 ――話を戻そう。

 問題は慎一たちである。慎一とルイズは信じられないような、ドン引きするような視線を海苔緒に向けており、対してミュセルとティファニアは慎一とルイズの反応に首を傾げていた。

 どうやらミュセルたちは『同衾』の意味が分からなかったようである。

 海苔緒は必死な様相で否定した。

 

「馬鹿、違ッ!! 誤解だっての!」

「でも同じベッドで寝てるんでしょ?」

 

 美埜里さんはいい笑顔だった。眼鏡の奥の瞳がキラキラと輝いている。いや、むしろ肉食獣の如くギラついていると表現すべきか。

 

「いや、そ、それは……」

 

 海苔緒は言葉が詰まる。

 何故なら、ベッドで一緒に寝ることがあるのは事実だから。

 でも最初からそうだった訳ではない。アストルフォが現界した当初はソファや敷き布団で寝るときは寝ていたし、直ぐにアストルフォに与えた部屋にシングルサイズのベッドを追加した。

 海苔緒の方は寝室のキングサイズ(シングルサイズの二倍の幅)のベッドで就寝していた。

 何故キングサイズかと云えば、海苔緒の入居している最上階スイートは一室、一室が非常というか無駄に広く、入居する前から寝室のスペースに見合うキングサイズベッドが既に搬入されていたのだ。

 転機が訪れたのはアストルフォが現界して数週間後、すっかり現代の女性ものの服を着こなし、マンションの空き部屋がアストルフォの衝動買いした品物の山で一杯になりそうになった頃。

 その日も海苔緒はアストルフォに手を引かれ、映画館やデパート、その他洋服店などをハシゴしており、『何でこいつ、こんなに元気なんだろう……ああ、サーヴァントだからか』と引き篭もり気味だった海苔緒は現実逃避しかけていた。

 そんな時だった。海苔緒とアストルフォの横を仲睦まじい様子で父、母、子供の家族が横切ったのは。

 

『ねぇ、ノリの家族ってどんな人なんだい?』

 

 不意に思いついたかのようにアストルフォの口から漏れたのは、全く欠片の悪意さえ見当たらない無邪気な質問。それ故、海苔緒はドキリと身を固くした。

 海苔緒自身、特に気にしてはいないつもりなのだが、それでもおいそれと話す内容ではない。

 

『……適当に話せる場所に行くぞ』

 

 首を傾げるアストルフォに、海苔緒はぶっきらぼうに告げた。

 向かった先は寂れたデパートの屋上、年季の入ったプラスチック製の白いテーブルとイスを見つけて二人は腰かける。

 そして今では半ば絶滅危惧種と化したパンダやライオンの乗り物で遊ぶ子供と母の親子を眺めながら、海苔緒は静かに語り出した。

 海苔緒としては出来るだけ重苦しい雰囲気にならないよう努力したつもりだが、コミュ症でアストルフォに対しても口数が少なく、言葉がぎこちなかったその頃の海苔緒が無理して必死に明るく話そうと振る舞う姿は、アストルフォの目にひどく痛々しく映ったらしい。

 その日のアストルフォはしばらく気落ちした様子で、殆ど黙ったまま家路に付いた。

 ……それからだった。海苔緒にとっての悪夢の幕開けは。

 その日の夜、海苔緒はいつもの様に寝室のベッドに寝そべり半ば日課と化していた就寝直前の読書を楽しんでいた。

 光源はベッドの備えられた電気スタンドの灯りのみで、後は窓から入る月明かりがほんのりと寝室全体を淡く照らしている。

 不意にコンコンと聞こえるノックの音。住んでいるのは二人しかいない訳だから必然的にノックの主が誰であるかは明白である。

 しかしながら数週間前に珍妙な奇縁でルームシェアを始めた相方は、扉を開ける前にノックをするような慎ましい性分ではなかった筈だ。

 首を傾げながら海苔緒は扉を開け……、

 

『……はっ?』

 

 全くの奇襲――ある種の夜討ちめいていた。

 そこに居たのは当然ながらアストルフォだが、態度はいつもと全く違っていた。いつものような非常に高いテンションではなく、やけにしおらしい雰囲気。

 お気に入りの寝間着を纏い、枕を抱え、風呂上りのせいかアストルフォの髪はしっとりと濡れ、心なしか頬には幾分か朱が差しているように見える。

 月光に薄く照らされるアストルフォは信じられない程いじらしい上目遣いで……、

 

『ねぇ、ノリ……今日は一緒に寝ようか?』

『――へっ?』

 

 ――ピキッ、と海苔緒の脳内で何かに亀裂が入る音が響く。ひび割れかけたのは常識だろうか? それとも倫理観だろうか? 思考停止しかけた海苔緒には分からない。

 ……あれ、おかしいな? アストルフォが何か云ったはずなのに、何を云ったか全く理解出来ないぞ~。

 と肉体から飛び出し乖離しかけた海苔緒の認識がぼんやりと他人事のようにそう思う。

 今にして思えば――、この時のアストルフォの行動は、両親の居ない海苔緒を気遣っての行為だったかもしれないが、その時の海苔緒にはそれを察する余裕など皆無だった。

 その後の出来事は海苔緒の中でトラウマと化しているのでばっさり割愛させてもらう。

 勘違いしてほしくないが、本当に一緒のベッドで就寝しただけであり、それ以上でもそれ以下でもない。

 誓って何もなかった。……そう何もなかったのだ。……そう、何も。

 ………………、

 …………、

 ……、

 こうして海苔緒とアストルフォは偶に同衾する関係に至ったのである(※一緒のベッドで寝ているだけです、あしからず)。

 

 

 

 

 以上、回想終了。

 

 

 

 

 

 潤滑油の切れた機械のように、一向に滑らない海苔緒の口。

 すると横では、慎一がそ~っと食器の載ったトレイを海苔緒から微妙に遠ざけていた。

 

「おい、そこッ!」

 

 ビシっと海苔緒が指さすと、慎一の体がビクッと震えた。自然と慎一の背筋が伸びる。

 

「は、はい!」

「か、勘違いするな! 断・じ・て・! 俺とアストルフォは美埜里さんが想像しているような関係じゃないからなッ!! そこのルイズさんも! 分かったな!!」

 

 海苔緒に声を掛けられ、ルイズもビクリッと身を震わす。――曰く、ルイズは眼鏡をかけた女性(っぽい)人物にキツイ感じで声を掛けられると、自然と体が震えてしまうそうだ。

 十中八九、某ヴァリエール家長女の影響だろう。

 

「そ、そ、そんなこと分かってる、わ、わよ! 貴方とアストルフォがそ、そんないかがわしい関係だ、だなんて全くこれっぽっちも、お、お思ってないわよッ!! 私は貴方たちの関係を十分に理解し、してるわ! そ、そうよ、十分に!」

 

 口ではそんなことを云っているが、誤解しているのは態度から見ても一目両全である。海苔緒から微妙に目線を逸らしつつ、顔を真っ赤にしていては説得力がまるでないのだ。

 理解するにしてもきっとそれは全く別の方向(ベクトル)の理解だ。

 

 

「大丈夫よ、安心して海苔緒君。私もちゃんと理解してるわ。貴方とアストルフォ君の美しい友情を」

 

 いや、全く理解出来てねぇだろう、と海苔緒が美埜里に突っ込みかけた矢先、

 

「あ、噂をすれば……アストルフォ君じゃない! お~い、こっち、こっち~」

 

 美埜里の外れた視線の先には、少し遅れてやってきたアストルフォの姿があった。

 アストルフォはランチのメニューをトレイに全て載せ終えると、当然のように天真爛漫な笑顔を浮かべ、海苔緒の隣に座った。

 

「それで、(みんな)で何の話をしてたの~~」

「それがね……」

 

 美埜里はこれまでの経緯(いきさつ)を大雑把に説明した。

 

「なんだ、そんなことか……」

 

 慎一やルイズたちの視線が海苔緒とアストルフォに集中する。

 海苔緒は『余計なことは云うなよ』と何度も視線を送るが……、

 

「ボクとノリはマスターとサーヴァント、一心同体に決まってるじゃないか! それに……一緒にお風呂も入ったりするしね」

「えっ! 一緒に……」

「……お風呂?」

 

 横から海苔緒に抱きつくアストルフォ。

 瞬間、場の空気が凍った。

 ……ちょ、おま、それはお前が鍵かけても霊体化して勝手に入ってくるだけだろ!

 海苔緒はそう弁解を口にしようとしたが、時既に遅し――、

 慎一は信じられないといった表情をしながら、海苔緒から一層距離を置き、

 ルイズはさらに顔を赤くする。加えて今度はミュセルとティファニアもルイズと同様の反応をし始めている。

 

「アストルフォ君、その辺り詳しくッ!! もしかして、二人で魔力補給(意味深)とかもしちゃうのッ!?」

 

 ちなみに美埜里は伊丹の勧めを切っ掛けにして、既に某運命を全て攻略し、ファンディスクにも手を出したそうだ。お気に入りは全身青タイツの槍の兄貴とか、何とか。

 

「だ・か・ら……」

 

 海苔緒の弁解が空しく食堂に響く。

 そんな阿鼻叫喚の様相に反して伊丹は大分離れた席で、のほほんとカレーを食していた。海苔緒と同じ時間に食堂を訪れていた伊丹だが、持ち前の危機察知能力(ちょっかんスキル)により、さりげなく離れた席に座っていたのである。

 それからしばらく間、海苔緒の受難(ごかい)は続くのであった。

 




ルイズ「か、勘違いしないでよね! サイトのことなんて、全然好きじゃないんだからッ!!」
ノリオ「か、勘違いしないでよね! アストルフォとは、全然そんな関係じゃないんだからッ!!」

どうしてこんなにも差がついたのか……慢心、環境の違い


そしてDDDの三巻はいつ発売するんだろうか(遥か彼方を見据える遠い目)

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