Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

11 / 46
遅くなって申し訳ありません。

平日は仕事が忙しく、土曜は疲れてずっと寝てました。

後、祝Fate/Grand Order!
スマホのゲームだそうですが、楽しみです。
灰課金しそうで怖いですが……(震え声)。


第十一話「新たなる運命。あるいは必然の戸口」

 ……どうやら今日は話の毛色が違うらしい。

 海苔緒は雰囲気から悟った。

 某政府施設内の会議室らしき場所に通されたのは海苔緒、アストルフォ、慎一、ミュセル、美埜里さんの五名。

 待ち受けていたのは、七三分けの髪型が特徴的な中年男性と長い黒髪が特徴的な女性だった。

 

「やぁ、慎一君たち。数日ぶりだね。そして初めまして、紫竹海苔緒君、アストルフォ君。私は的場甚三郎、そして此方が――」

「イトウと申します」

 

 

 的場さんの隣で黒髪の女性――イトウさんが一礼する。

 

「あれ、確か前はコジマじゃなかったかい?」

「いいえ、今はイトウですよ」

「おや、そうなのかい」

 

 とぼけた様な会話をする的場さんとイトウさん。

 一見和やかな会話に見えるが、何だか互いを牽制しやっているようにも感じる。

 的場さんは白髪混じりの髪を綺麗に七三分けにした一見どこにでもいるようなサラリーマン風の中肉中背中年男性であるが、糸目のような細い目付きと顔に張り付いたかのような微笑みが、どこか胡散臭い雰囲気を漂わせている。

 イトウさんはイトウさんで、穏やかなで柔和そうな印象とは裏腹に何か妖しい影を秘めているように思えた。

 どちらも海苔緒の主観且つ直感でしかないが、的場さんに関しては慎一から聞いた限り原作通りの人物なので、あの見た目で実は相当な食わせ者なのだろう。

 慎一曰く『多少は信用出来ても、信頼は出来ない』らしい。

 的場甚三郎……表向き『極東文化交流推進局』局長の肩書を持っているが、実質は異世界に存在する神聖エルダント帝国において外交官のような立場に就いている。

 秋葉原でアミュテックの面接に来た慎一を事後承諾で無理矢理異世界へ引っ張り込んだのも的場さんである。

 加えて理由も酷い。慎一が『引き篭りであり、フラッとこの世から消えても不自然ではなさそう』という理由でアミュテックの代表責任者に据えている。おそらく代表に据えたのも何か問題が発生した場合、責任を全て慎一に押し付けてパージするためだったのだろう(そうなった場合、慎一はエルダントの手で処刑される可能性も少なからずあったと思うが、当時の前政権はそうなったらそうなったで別に困りはしないと、思っていたように思える)。

 まぁ、それもこれも的場さんの意思ではなく、政府の意向を反映した結果であるようだが……。良くも悪くも的場さんは御役所仕事を体現した人物というわけで。

 それに今や、慎一を政府が排除することは不可能である。

 何故ならば、慎一はエルダント皇帝であるペトラルカのお気に入りなのだ。

 ペトラルカ・アン・エルダント三世……神聖エルダント帝国皇帝であり、16歳ながら幼女のような見た目をした少女である(但し本人は容姿にコンプレックスを抱いているので、そこに触れないのが吉。……初対面で『幼女キタァァァァァァ――ッ!』と大声を上げた業の……否、剛の者も居たが)。

 慎一を害するという行為はイコールとしてエルダントに喧嘩を吹っ掛けるようなものなので、今の状況でそんなことすれば、日本政府にはデメリットしかない。

 日本の誘導疑惑があるバハイラム王国の慎一拉致事件(原作五巻)もあったが、そんな真似はペトラルカが二度と許さない筈だ。

 なので、慎一のことはあまり心配しなくとも大丈夫であろう。

 

(それよりも……)

 

 海苔緒は視線を的場さんの隣の女性に向けた。

 イトウさんという女性に関しては海苔緒も完全に初見である。

 見る限り慎一やミュセルも初対面のようだが、美埜里さんだけは警戒したような視線をイトウさんに向けていた。よく分からないが、知り合いなのだろうか?

 

「それで、今日私たちが呼ばれた理由は……?」

 

 仕事モードの美埜里さんの声だった。公私のケジメはしっかりしているので、この場面において、美埜里さんはとても頼りになる。

 少なくとも、慎一やミュセル、そして海苔緒もそう思っている。

 美埜里さんの言葉に、イトウさんは促すような目線を的場さんに向けた。

 

「ああ、そうだった。慎一君、急ですまないが、君たちにはエルダントに戻ってもらうことになった」

「えっ、……いいんですが?」

 

 驚いたような、戸惑ったような、慎一の声。隣でミュセルも目を丸くしている。

 無理もない。しばらく参考人として拘束され、事情聴取を受けて貰うという説明を受けていたのだ。

 ただ美埜里さんだけは『ああ……』と納得した表情を浮かべた。

 数秒遅れて、慎一も理由を察する。

 

「ペトラルカ……ですか?」

「実はそうなんだ。皇帝陛下が大変ご立腹でね。――『早く慎一たちに会わせろ』だそうだよ。銀座の一件もあって、エルダントと日本は正式な国交を結ぶことになった訳だけれど、肝心のエルダントがヘソを曲げってしまっては政府としても困るわけだ」

 

 的場さんは苦笑しながら、慎一の言葉を肯定する。

 事情を聞いて海苔緒も納得出来た。ペトラルカは日本に拘束されている慎一たちのことが心配なのだ。

 日本の慎一暗殺未遂の一件で、おそらくペトラルカは日本政府のことを完全に信用していないし、多分重臣であるガリウス・エン・コルドバル卿やザハール宰相も意見は同じと思われる。

 銀座の一件でもはや異世界のことを隠し立て出来なくなった日本は、エルダントの存在を公表し、正式に国交を結ぶ方針らしいが……日本には悠長に交渉している時間がない。

 なので、少しでもエルダントの機嫌を損ねる真似はしたくない筈だ。

 故に慎一たちのエルダントへの帰還をエルダントに要求され、日本政府が応じた。おそらくそんな所だろう。

 ……しかし、

 

「一ついいですか」

 

 沈黙を保ち続けた海苔緒が声を上げ、控えめに手を挙げる。

 

「何だい、紫竹君」

 

 的場さんは顔をこちらに向けた。

 

「慎一たちのことは分かりましたが……、何故俺……いえ、自分とアストルフォはこの場に呼ばれたんでしょう?」

「そういえば説明していなかった。紫竹君、それもアストルフォ君も、君たちにも慎一君たちに同行してエルダントに行って貰うことになったんだよ」

「へっ……?」

 

 何を云われたが分からず海苔緒の思考は一瞬停止した。

 

「へー、やったね、ノリ。確かシンイチと話してる時、一度はエルダントに行ってみたいって云ってたよね。それにボクもノリと一緒に行ってみたかったし」

「そうだったのかい。喜んでくれるなら、手配したこちらとしても嬉しい限りだよ」

 

 混乱した海苔緒を余所に、隣のアストルフォはポンポンと海苔緒の肩を叩く。

 停止していた海苔緒の頭脳がゆっくりと機能を回復させていった。

 

「ちょっと待ってください! 理由が分からないんですがッ!! なんで俺とアストルフォがエルダントに行くことになったんですか!?」

 

 突然のことに海苔緒は焦ったような早口で、的場さんに理由を聞いた所……。

 

「それがだね、紫竹君。……実は他ならぬ皇帝陛下自身が君たちに会いたいと直々に指名したんだ」

「はぁっ! なんでそんな……」

 

 そもそも何で俺たちのことを知っている――と口に出し掛けて、海苔緒はある可能性に気付いた。

 

「もしかして銀座の映像を……」

「うん、エルダントにも見てもらったよ。平賀君を通じて『ハルケギニア』の人にもね。何しろ我々も分からないことでも、彼等なら分かるかもしれないから」

 

 当然のように的場さんは銀座の映像、おそらく海苔緒やアストルフォ、才人にルイズが映っているものを含め、エルダントやハルケギニアに人間に見せたことを認めた。

 

「見せた結果としてエルダントもハルケギニアの人々も、てんで心当たりがないそうだ。鎧や武具、旗なんかの現物も見せたんだけどね。けど、紫竹君の報告のおかげで一気に進展したよ」

 

 報告というのは翻訳指輪やリードランゲージのことだろう。

 

「こちらも報告書は上に提出したつもりだったんだが、変な所で書類が滞っていてね。未知の言語を解読出来るリードランゲージはこちらも把握していなかったし。いやぁ、本当にお蔭で助かった」

「それで銀座で事件を起こした連中のことは何か分かったんですか?」

 

 海苔緒と的場さんの会話に慎一が言葉を挟む。

 

「ああ、それは勿論。銀座の襲撃した勢力のことに関してはある程度情報が集まってきてる。情報を検討した結果、エルダントがある世界でも、平賀君が居たハルケギニアと呼ばれる世界でもない、第三の異世界からの流入者である可能性が非常に高いそうだ」

「第三の……、異世界?」

「そう、彼らの正体は……」

「的場『局長』、それ以上の公言は控えてください。少なくとも政府の公式発表までは……」

 

 的場さんの発言を、イトウさんが差し止める。

 的場さんは少し眉を顰めたが、直ぐに元の微笑みに表情を戻した。

 

「すまないね。私としては君たちに話しても問題ないと思うのだが……各国の表立った情報公開請求が激しくなっていると同時に、裏でも工作員の活動が活発らしくてね。襲撃者たちの正体は公式発表の時に分かると思うよ」

 

 要はどこから情報が漏れるか分からないから、出来るだけ少数のみで情報を共有し、公開まで秘匿しようという話だ。

 

「……分かりました」

 

 

 慎一は不満そうな顔をしたが、それ以上は何も云わず口を閉じた。

 

「それでえっと、皇帝陛下が何故紫竹君たちをエルダントに呼んだ……という話だったね」

 

 的場さんに再び話題を振られ、海苔緒はこくりと頷く。

 

「紫竹君の映る例の映像を見た皇帝陛下が……」

 

『なんと! ニホンには魔法少女が本当におったのだな。(わらわ)も是非一度この者と会ってみたい』

 

 

「――というようなことを仰ってね。おや、大丈夫かい紫竹君」

「わっ! 大丈夫、ノリ」

 

 海苔緒は頭を抱えて机に突っ伏した。

 心配そうに背中をさするアストルフォに『……大丈夫だ』と震え声を返し、

 

「それで先方には云ったんですか……俺が男だって」

「それは勿論。アストルフォ君を含めて君たちのことは伝えてある。そうしたら……」

 

『妾も知っておるぞ。ニホンで云うところの『男の娘』というやつじゃな。ますます興味が湧いたわ。ガリウス、お主もそう思うじゃろう?』

 

「――と仰ったんだ。おや、紫竹君? そんなに慎一君の方を睨んでどうしたんだい」

 

 海苔緒は的場さんの云う通り、涙目になりながら慎一を睨んでいる。その視線を言葉に直すなら『皇帝陛下理解力ありすぎだろ! 元凶はお前か、伝道師(しんいち)ッ!!』と云った所か。

 慎一はブンブン首を横に振っているが、まるで説得力がない。

 

「ともかく、皇帝陛下がそう仰ると……今まで反対に回っていたコルドバル卿も、『そのシタケノリオとアストルフォという者はシンイチやミノリ、ミュセルが飛竜(ワイバーン)の襲撃を受けた際、周囲の人間を含めて助けたと聞く。改めて考えてみると、エルダントとしてはその功績には報いる必要がある』と意見を覆してね……おや、今度は慎一君もかい」

 

 涙目になっていた海苔緒は顔を蒼くしていた。慎一をげんなりとした表情を浮かべている。

 

「なぁ、慎一。そのコルドバル卿って……」

「あ……うん。ガリウスさんは……凄い美形の男性騎士なんだけど……その、……ちょっと女性に興味が無くて」

 

 海苔緒に対して、慎一は躊躇いながらもガリウスについて端的に語った。

 そして海苔緒も既にガリウスのことは慎一や美埜里から聞き及んでいるし、何より原作の知識もある。

 ガリウス・エン・コルドバル卿……一言で申し上げるなら彼はチーガーなモーホーである(業界用語)。

 ザハール宰相が老人であるのに対し、ガリウスは美形の男性騎士。そんな人物が年頃である少女皇帝ペトラルカの側に控えていることは色々とスキャンダラスな香りがするが、むしろ実態はその逆で、女性に全く興味がないガリウスだからこそ、信頼され皇帝陛下の側に控えているのだ。

 美埜里さんとはBL漫画やBL小説などのヤオイ本を借り受ける仲であり、ある意味でガリウスもオタク文化に耽溺している。

 本編にて慎一に『私はノンケでも食っちまう男ではない』という言をガリウスは述べているが、どこまで信用出来るかは不明であり、慎一に好意(意味深)を抱いているのは確かだ。

 そんなガリウスが海苔緒やアストルフォが男だと知って意見を曲げたことは……その、つまり……、

 海苔緒の背筋に冷たいものが奔った。

 

「大丈夫だよ、ノリ。ノリにはボクが居るからね」

 

 ムギュ――ッと震える海苔緒の背中をアストルフォが後ろから抱き留める。

 すると今まで同情するような顔をしていた慎一が数秒、何とも云えない表情を浮かべた後……納得したように一人でにうんうんと頷く。

 

(おい、コラ! そこ! 絶対納得の方向性が違うだろっ!! それに……)

 

 慎一の隣では美埜里さんが目をキラキラされていた。まるでサンタを信じる子供のような目付き――だというのに美埜里さんの周囲は何故かひどく淀んだ空気が漂っているように感じる。

 

(こっちはこっちで腐ってやがる。(この場で聞かせるのは)早すぎたんだ)

 

 的場さんやイトウさんが居なければ、今にも凄い勢いでまくし立てかねない雰囲気だ。例えば『新たな恋のライバル出現だね、慎一君』とか、『慎一君、コルドバル卿、海苔緒君、アストルフォ君の四角関係キタァァァァァァーー』とか、そんな言葉が美埜里さんの口から漏れていただろう。

 

「それで紫竹君、アストルフォ君。君たちには協力してほしい訳だが……」

 

 的場さんの言葉が終わるのを待たず、海苔緒は返答する。

 

「分かりました。俺も慎一たちと同行します。アストルフォもそれでいいな?」

「うん、ノリがいいならボクもバッチOKさ」

 

 海苔緒の問い掛けに、アストルフォはニャハハハといつものようなお気楽な笑みで答える。そして答えを聞いた的場は……、

 

「おお、それは良かった。――それで紫竹君、アストルフォ君。君たちにはこれからも協力を頼みたい」

 

 糸目のような的場の眼が少しだけ見開かれ、鋭い眼光が海苔緒を捉えた。

 古狸……という単語が海苔緒の脳裏をよぎる。

 海苔緒は慎重に口火を切った。

 

「これから……というのはエルダントに行って戻ってきた後のことですよね?」

「そうだよ。――紫竹海苔緒君、君の力を日本政府は必要としている」

 

 的場さんだけではなく、静かに的場さんの横に控えていたイトウさんの視線も海苔緒に集まった。

 

「たった数時間でエルダントやハルケギニアの言葉を把握し、拙いながらも会話を可能とした卓越した言語スキル。そして架空、実在を問わず……目にした魔法という非常識を理解し、模倣する能力。そして君が名づけた炎龍……政府の呼び名は甲種害獣、通称『ドラゴン』を君自身が撃退して見せた。アストルフォ君の存在を含め、日本政府は君の能力……いや、君の偉才異能を非常に高く買っている」

 

 それは紫竹海苔緒に下した日本政府の認識であり、評価であった。

 海苔緒は黙ってそのまま的場さんの話を聞き続ける。

 

「………………」

「炎龍の遺骸を解剖した結果、鱗の強度はモース硬度で表すと『9』。ダイヤモンドには少し劣るが、重量は驚くほど軽量だった。しかも口から高温の炎を吹き出すらしい。まるで『空飛ぶ戦車』だね。アレがもし、避難民の集まっていた皇居に向かっていたら甚大な被害が出ていただろう」

 

 的場さんはこの場で話さなかったが、炎龍の胃から溶け残った人骨が発見されており、銀座で捕縛した捕虜たちの証言により、炎龍が人間を好んで襲い、人の集まっている集落を襲撃する習性があることを政府は確認していた。

 

「エルダントのある世界においても傀儡竜という存在が確認されているし、ハルケギニアでは複数の竜種に加えて、大災厄と呼ばれたエンシェント・ドラゴンというとんでもない化け物が居たらしい」

 

 前者は自衛隊の活躍により一体、バハイラムにおける慎一救出作戦に置いて、美埜里さんがLAM――110ミリ個人携帯対戦車弾で【そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!!】をしてもう一体撃破している。

 後者のエンシェント・ドラゴンはハルケギニア各地から集結した戦力に、蛮族共生派エルフの艦隊の助力、才人が借りパク……拝借(ハイジャック)したF-2戦闘機と虚無の魔法の力により、どうにかこうにか倒すことが出来た。

 ――だからこそ、

 

「銀座の(ゲート)の向こう側――政府が定めた特別地域には自衛隊だけでは太刀打ち出来ない危険が待ち構えているかもしれない。だからこそ、政府は君の助力を願っているんだ。その代わりと云っては何だが、政府は君たちに最大限の便宜を図る用意がある」

 

 的場さんがそう告げると、イトウさんも海苔緒とアストルフォに頷いて見せた。

 便宜と云うのは、これから起こるであろう他国からの介入、脅威に対し、物理的にも、情報面においても海苔緒とアストルフォを保護する、ということであった。

 

「選んでくれ、紫竹君。我々日本政府に協力してくれるか否かを――」

 




という訳で多分、次回からエルダント編です。

やぁ……さすが、オリ主であるノリオ君はモテモテだなぁ(白目)。

では、

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。