Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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大変、長らくお待たせ致しました。
今回はすごい難産でした。
一度は書き終えたものを全消しして、書き直しました。
正直迷走してました。
しかもエルダント回というより、海苔緒回です。

というか本来の予定では皇帝陛下謁見回だったのですが、政府の対応と海苔緒の処遇に関する
感想が思いのほか多かったので、今回は自然とそれをフォローする回になってしまいました。
申し訳ございません。
次回はすぐに執筆したいと思います。

後、前回一番驚いたのは誰もイトウさんの存在に突っ込まなかったことでしたw


第十二話「おいでませ神聖エルダント帝国。もしくは紫竹海苔緒の偶像」

「ふぅ、やっとエルダントに帰ってこれた……」

 

 加納慎一は、ほっと一息付く。

 視界に映るのは巨大な城。山のような威容を誇るその建築物はそれ自体が風景の一部と化している。実の所、この城は巨大な山脈を直接削って造り出されたのだ。城の上空を飛竜(ワイバーン)に乗った騎士数騎が巡視している光景はまさにファンタジーと云えよう。

神聖エルダント城――エルダント帝国と同じ名を冠する皇帝ペトラルカの御座所である。

目に映る風景は一般的な日本人から見れば非日常的なのだが、既に慎一の中では日常の範疇に収まっている。まるで故郷に戻ってきたような気分にすらなる。

 むしろエルダントに長期滞在している慎一にとっては、日本の都会の風景こそが非日常のものになりかけていたほどだ。

 超空間通路(一種のワームホール)を潜り、エルダントに来たのは慎一を含めミュセル、美埜里さん、海苔緒、アストルフォの計五人。

 海苔緒の護衛(というか監視役)として伊丹が同行する予定もあったのだが、その直前伊丹に特地派遣の命令が下り……準備の為、エルダント同行が白紙となった。

 伊丹はショックでORZとしたとか、しないとか……だが、気持ちの入れ替えの早い伊丹は特地での出会いに期待することにしたらしい。

 ミュセルも慎一と同じくエルダントに戻って来たことで先程までは一安心していたようだが、今ではソワソワし始めている。留守にしていた屋敷のことが気になるのだろう。

 慎一の住む屋敷は中世の貴族が住んでいるような洋館であり、入居者は今の所――慎一、ミュセル、美埜里さんに加えてリザードマンの使用人、ブルーク・ダーウェンとウェアウルフ(半獣人の犬耳っ娘)の少女、エルビア・ハーナイマン、ブルークの妻であり屋敷のメイドのシェリス・ダーウェン(当然ながら種族はリザードマン、しかもガチでメイド服着用)、そして慎一と同じくアミュテックに所属する綾崎光流の計七名。

 ミュセルは賊の襲撃からペトラルカを庇い、負傷により一ヵ月ほど屋敷を留守にしたこともある(原作一巻相当)。

けれど、それを切っ掛けにしてミュセルはペトラルカと親しい仲となったのだが……。 

それはそれとして――前回療養を終えてミュセルが戻って来た時よりも屋敷を空けていた期間は短いものの、屋敷に住む人々の人数は倍増していた。

つまりそれだけ仕事も溜まるという訳だ。

メイドのシェリスも居るのだが、彼女はリザードマンの部族長の娘であり、リザードマンの中ではいいとこのお嬢様の出自で、天然というか……ドジッ()メイド属性持ちのような節(これはミュセルもだが)があり、ミュセルもその辺りが心配のようである。

 

「まぁ、それはそれとして……」

 

 慎一は小さく呟くと、そっと首を回して後ろを横目でチラ見した。

 すると視線の先には巨大な城を見て目を丸くする海苔緒と、その横で忙しなく辺りを見回し興味津々に目を輝かせるアストルフォの姿があった。

 慎一は二人のそんな様子を確認して、本日二度目の安堵の溜息を吐く。

 エルダントに来る前の海苔緒は……ずっと腕を組んで不機嫌そうな顔をしていたのだ。

 それもこれも原因は的場さんのあの発言の所為だろう。

 

 

『選んでくれ、紫竹君。我々日本政府に協力してくれるか否かを――』

 

 しかし、その後的場さんはすぐに表情を緩めて……、

 

『――とは云ったものの、強制的に君たちを協力させようという気は今の政府にはないんだ。ぶっちゃけると協力してくれなくとも、君たちへの便宜は日本政府が最大限に取り持つことになるだろうし』

 

 何故なら日本政府にとっての最大の損失は、紫竹海苔緒が協力してくれないことではなく――紫竹海苔緒が国外の勢力の手に落ちることなのだから。

 続けて的場さんは微苦笑を浮かべながら肩を竦めた。

 

『でも少し窮屈な思いはさせると思うよ。まぁ、これは協力してもしなくとそうなってしまうだろうね。君たちだけじゃなくて平賀君もヴァリエール君も何だが、各国に大人気でね。表も裏も大忙しだよ』

 

 脅すような口調ではなく、本当に辟易した調子の台詞。的場さんが視線を投げると、イトウさんも釣られるようにして嘆息する。

 特にルイズと海苔緒が各国の諜報機関の注目に的だった。理由は【世界扉(ワールド・ドア)】だ。

幸いにして世界扉発動の前後は認識阻害が働くようで肉眼だけではなく、銀座の映像においても才人とルイズが突然消えたように映っていた。

 そして銀座事件より以前に極東文化交流推進局というキナ臭い機関の存在に気付き、エルダントの末端を嗅ぎつけていた他国の諜報機関にとって、銀座事件は欠けた最期のピースを補うに足り得るものだった。

 そう、『異世界』である。加えて少しばかり(さか)しらな連中は、そのルイズと才人が突然消えたように映る映像を見え、海苔緒かルイズかのどちらかが――超能力的な何かを使ってどこか『別の場所』に転移したように考えていた。

 さらにさらに、多少の想像力を働かせれば転移したその『別の場所』というのが異世界だったという可能性に気付く訳で……、

 おそらく表でも裏でも露骨な動きを見せているのは、一昔前まで人民服(マオ・スーツ)で有名だった大陸の某国であろう。

 某国共●党幹部たちはお(かんむり)の、激おこカムチャッカファイヤー寸前だった。

 何せ日本国内のチャイナスクール外交官も、ハニトラや賄賂などで抱き込んだ政治家も大して役に立たず、親中というか媚中であった筈の前民●党政権は、異世界にある神聖エルダント帝国のことを見事に隠し通していた。

 つまる所……前政権もパンダの国から既に見切り付けていた訳である。

 故に前々から痺れを切らして工作員を派遣し、エルダントから帰郷していた加納慎一を拉致しようとしたが、これも失敗している(加えて露●とお米の国も同様に拉致工作を慎一たちに仕掛けてきた。原作九巻、十巻)。

 それが銀座事件勃発により、ようやくパンダの国のお偉いさん方も日本が何を隠していたのか悟ったのだ。

 それはもう大激怒である。()の国は日本以上に面子を大事にしている。

 自分達に密かに顔に泥を塗っていた訳だから……彼等は非常に冷静さを欠いていた。

 裏では大量というか明らかに必要以上の工作員を日本へ送り出し、枕営業要員のアジアンアイドル(未成年)を日本の某TV局社長等を籠絡の為に既に投入していた。

 表では傀儡の国連某世界大領を通じて、日本の映像に映っていた人物の情報を公開するように執拗な圧力を何度も掛けている。

 今の所日本は『政府は事態を把握するため尽力している。正確な情報を纏め次第、情報は公開するから内政干渉はやめろ!』と要求を突っぱねていた。

 パンダの国を筆頭にした工作員たちは現在、海苔緒とルイズの情報を血眼になって収集していた……が、ルイズはハルケギニア出身であり、海苔緒を少女と勘違いして情報を集めている各国諜報員は目ぼしい成果を得てはいない。

 ここまで説明すれば分かると思うが、既に海苔緒がただの民間人に戻ることは絶望的だった。一昔前のアイドルの如く『私、普通の人に戻ります!』と宣言しようとも、日本どころか各国が許してくれないのだ。

 

 的場さんは最後に海苔緒にこう告げた。

 

『返事はエルダントへ行って戻ってからで構わない。ゆっくり結論を考えるといい』

 

 そうして的場さんやイトウさんとは別れ、慎一たちはエルダントに戻ってきた訳だけれど……慎一は海苔緒のことが心配だった。

 海苔緒の時とは状況も大分違うが、慎一も的場さんというか前政権に脅されたことがある。

 だから海苔緒のどんな気持ちなのか多少は察することが出来るのだが、それとは逆に海苔緒の場合……日常に戻ることが難しいことは慎一も気付いていた。

 慎一も銀座の映像を見ているし、某型月のゲームもとっくの昔にプレイ済みだ。

 インタビューで原作者である某氏がこう云っていたのも知っている。

 

『平均的なサーヴァントはだいたい戦闘機一機分の攻撃能力を有する』

 

 

 サーヴァント、アストルフォ……クラス・ライダー。どう見ても美少女にしか見えないのだが、その正体は男(♂)である。

 加えてアストルフォ自身、鎧を纏った格好も女性的であるし、日常の服も女性ものを好んで着用している。

 慎一が海苔緒を通じて理由を尋ねた所、海苔緒曰く『アストルフォは発狂したオルランドを慰めるために女装を始め、それがいつの間にか常態化したらしい』とのこと。

 それを聞いた慎一は思わず『オルランド爆発しろ!』という言葉が条件反射的に頭の中に浮かんできた。

 まぁ、それはおいておくとして……。

 海苔緒はアストルフォをサーヴァントとしてではなく友人と思って付き合っている。まして兵器だとは露ほど思っていない。

 けれど日本政府が安全保障の側面からアストルフォを見れば、危険な存在だ。何せ戦闘力だけ見れば野放しになった戦闘機も同然だから。そして海苔緒自身も限定的ながらサーヴァントと同等の能力を発揮出来る。

 例えるならば――海苔緒とアストルフォは政府の管理下に置かれていない二機の戦闘爆撃機だ。控えめに見積もっても到底民間人には区分出来ない。

 勿論、海苔緒もアストルフォも一般人に理由もなく暴力を振るうような性格はしていないが、それだけの危険な力を持った者たちを『はい、そうですか』と無視することは政府には不可能である。

 さらに海外の勢力だって海苔緒を放っては置かない。

 慎一は外国の工作員とか要人の拉致とか、そういったスパイ工作のことを漫画やアニメ、映画の中の話だと思っていた。

 けれどそんな慎一も日本のエルダントでの活動の末端を嗅ぎつけた海外工作員によって拉致されかけた。

 だからこそ海苔緒が海外工作員の拉致の対象にされているだろうことは容易に想像が付く。

 もはや海苔緒はただ一民間人などではなく特別な存在なのだ。

 けれど慎一は知っている。同じ場所に軟禁され、数え切れないかもしれない程に言葉を交わしたから理解出来るのだ。

 ……紫竹海苔緒という人間はどこにでもいる極々普通のオタクであると。

 矛盾すると云われると思うので、云い直そう。

 つまり、紫竹海苔緒は特別な人間である以前に普通のオタクなのだ。

 漫画やライトノベルが好きで、アニメを毎週チェックし、人並みにゲームを嗜み……それ等の関連商品にも手を出す――そんなどこにでもいる消費者型のオタク。

 それが紫竹海苔緒である。

 だが、そんな側面は無視され……海苔緒はこれから大勢の人間に『特別な人物』や『危険な人間』として扱われるだろう。

 それは慎一の嫌悪するレッテル貼りの行為だ。

 

『オタクだから気持ち悪い』『オタクだから犯罪者予備軍』『オタクだから引き篭る』

 

 慎一そんなレッテル貼りされた経験があるから、よく分かる。

 人の持つ側面の一部を(あげつら)って、悪いと勝手に判断して迫害の対象とするのは最低最悪行為と慎一は断言出来る。

 海苔緒の人格を一切無視して、『危険な存在だ』『特別な存在だ』と決めつける行為はそれ等と一体何が違うというのだろう。

 慎一はもう一度海苔緒の方を見た。

 神聖エルダント城の威容に驚き、目を丸くする海苔緒の姿はどこにでも居る一般人そのもので……慎一にはとりたてて特別な存在に見えない。

 

(紫竹さんたちのこと、何とかしてあげたいんだけど……)

 

 故に、慎一はエルダントに帰ってきた今も海苔緒を何とかしてやりたいと心を痛め、頭を悩ますのであった。

 

 

 

 慎一に同情且つ心配されている海苔緒だったが、慎一の思うほど自身の身の上に悲観はしていなかった。

 エルダントに到着するまで不機嫌そうにしていたのは、的場さんの高圧的な物云いを思い出して……少々腹を立てていただけに過ぎない。しかし今にして冷静に考えてみれば、的場さんのあの云い方は態とだったように思える。

 あの時、的場さんの隣に居たイトウさんが海苔緒やアストルフォの反応を窺っていた気がするのだ。

 政府の協力者になれば、自制を求められる場面が多々出てくるだろう。もしかしたら反応を通じて、そういった度量をはかりたかったのかもしれない。

 

(やべ、俺……めっちゃ顔を顰めてたよ)

 

 的場さんの言葉に露骨に反応していた自分を思い出し、自身の煽り耐性のなさを海苔緒は痛感するのであった。

 まぁ、それはそれとして……、

 海苔緒は銀座でのことを後悔はしていない。

 もし仮にアストルフォを召喚していなければ、あの日銀座には行っていなかっただろうし……もう万が一にも巻き込まれたとしても誰も助けず一人で逃げただろう。

 でもそうならなくて良かったと海苔緒は思っているのだ。

 何故なら他人を助けなくて後悔するより、他人を助けて後悔するほどが海苔緒はマシだと思っているから。

 そう風に考えられるようになったのは、まず間違いなくアストルフォの影響だろう。

 たった数ヶ月の付き合いだが、海苔緒にとってアストルフォはかけがえのない友人となっている。

 引き篭りであった海苔緒を外に連れ出し、新しい世界を広げてくれた。世の中は幸せや喜びで溢れていると、ずっと海苔緒が忘れていたことを思い出させてくれた。

 そんなアストルフォとの出会いをなかった方がいい……等と、そんなものには絶対にしたくない。

 そう思っている自分を海苔緒は自覚しているからこそ、的場さんへの返答をどうするかは決まっているも同然だ。

 

 

(まぁ、こいつ(アストルフォ)と一緒なら何となるか……)

 

 エルダントの風景に興奮したようにはしゃぐアストルフォを一瞥し、海苔緒は目を瞑って安堵の息を吐いた。目を閉じたまま感じるポカポカとした陽気と体を揺らすエルダントの風が心地いい。

 海苔緒がしばらくそのまま突っ立っていると……、

 

「どうしたの、ノリ?」

 

 耳元の掛かる微かな吐息。

 

「わっ!」

 

 思わず声を上げて、海苔緒は目を見開く。

 するとアストルフォが海苔緒の顔を正面にから覗き込んでいた。

 というか近い、マジで近い。後数センチで顔と顔が接触しかねない距離だ。

 海苔緒はよろけるような動きでやや後方に後ずさった。

 

「ノリ、大丈夫? 顔赤いし、足元もふらついてるけど」

「だ、大丈夫だッ!! ……それより、どうした?」

「うん、城から迎えが来たみたいだから。ほら、アレアレ」

 

 アストルフォの指さした先――そこには舗装された石畳を、馬車が速度徐々に落としつつこちらに向かっていた。

 否、馬車というには語弊がある。人の乗る御車台を引っ張っているのは巨大な二足歩行の鳥なのだから。

 人を軽々と乗せられる威容は地球において絶滅したという巨大な鳥ジャイアント・モアを彷彿と……訂正する。ぶっちゃけると白いチョ●ボ、FFのマスコットキャラクターの色違い的なサムシングである。

 そんな●ョコボみたいな鳥が引いているから、馬車ではなく鳥車とか、羽車と呼称するようだ。

 海苔緒はこれから皇帝であるペトラルカと謁見すること改めて意識し、胃をキリキリと痛める。

 何故ならば、もしかしたら皇帝とその臣下、近衛兵士たちがびっしりと控える謁見の間にて、ペトラルカの要望次第で魔法少女の姿を晒すことになるかもしれないのだ。

 海苔緒はそうならないことを強く祈るしかなかった

 




次回こそ本当にエルダント編!


では、

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