Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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 しばらくはこちらの二次創作を優先して執筆したいと思っていますので、オリジナルの作品はまだお待ちください。


第十六話「エルダント御屋敷物語。またはそれなりのキャラ被り」

 風雲エルダント城……もとい、神聖エルダント城よりの帰路の最中、海苔緒は羽車の中ですっかり疲弊していた。

 離宮での激写により、海苔緒の心内(こころうち)にあった男としての自負がゴリゴリと削られてしまった結果である。

もはや海苔緒はアへ堕ちダブルピース寸前……だったかどうかは定かではないが、ともかくとして美埜里さんがペトラルカ皇帝を説得したおかげで撮影会は終了したのだ。

 まぁ正直、説得というよりペトラルカ皇帝が主役(魔法少女役)のエルダント自主製作映画の話(第四巻参照)を例え話に出して、ペトラルカ皇帝の黒歴史を刺激し、撮影を中断させたと述べた方が正確だろう。

 何故その映画が黒歴史かと云えば、参加した人間が皆素人だったため……映画の役者が皆大根役者であったからだ。

 主役のペトラルカ皇帝も、学芸会で劇を披露する小学生が如き演技力で、撮影時はテンションの高さなどから上手い下手などよく分からなかったのだが、完成して試写会を開いた時の冷静な状態で見てみると自主製作映画はずばり『痛タタタァッ!!』な出来であった訳である。

 自分の黒歴史を直視するのは人間耐えがたいもので、他人に見られるなどは尚の事嫌であろう。

 ペトラルカ皇帝も類に漏れず、試写会で死ぬほど恥ずかしくなって映画を中止にしようとしたほどだ。

 しかしながら自主製作映画は城下でも複数の場所で流され、映画や劇などに一切触れたことのないエルダントの庶民にとっては、上手い下手などあまり関係はなく、概ね大好評であり、主演のペトラルカ皇帝の人気は神聖エルダント帝国内でさらに高まり、続編を望む声を多々寄せられた。

 但しペトラルカ皇帝は(くだん)の自主制作映画を黒歴史認定し、フィルムを厳重封印してしまったそうだ。

 海苔緒が魔法少女姿を撮影されるのは、それ位恥ずかしいことだと美埜里さんはペトラルカ皇帝に教えたのは正解だろう。

 神聖エルダント帝国にはデジタルカメラのような安価に写真を撮ることの出来る器具が存在せず、それに付随するマナーも確立されていない。

 アミュテックが運営する学校でも、ゲーム機に付いたカメラでやたらと写真を撮っている生徒もおり、分別がついていない節がある。

 美埜里さんは今回の一件で、写真撮影のマナーをアミュテックの学校のカリキュラムとして教える必要があると、感じ始めていた。

 ――話題が大分それたが、話を戻そう。

 写真撮影終了後、海苔緒は離宮の芝生の上にてORZの姿勢で項垂れしばらく動かなかった。十中八九ジェンダーアイデンティティに深刻な問題が発生したためである。

 アストルフォに抱えられ、お姫様抱っこされかけた所で再起動した海苔緒は……満身創痍の状態で何とか自らの足で羽車に乗り、現在に至っている。

 そうして海苔緒は羽車に揺られている間に持ち直し、慎一の屋敷に辿り着いたのだが……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……その二人が紫竹海苔緒さんとアストルフォさんですか」

 

 屋敷の前に待機していたのはゴシックドレスの少女?だった。

長い睫に縁取られた愛くるしい大きな瞳。さらりとした質感の長い黒髪は麗しく、前髪の隙間からは形の良い眉をのぞかせている。顔の中心に位置する鼻筋や唇の造形にも一部の隙がない。

 ――どこからどう見ても、見た目は完璧な美少女である。

 彼女?は、海苔緒とアストルフォが羽車から降りるなりそう云って二人に歩み寄ると端正な顔立ちを少しだけ歪め、値踏みするように海苔緒とアストルフォを見つめた。

 対して海苔緒は『なんだ! なんだ?』と怪訝な視線を向け、アストルフォの方は目を丸くして興味深そうに相手を見つめ返す。

 海苔緒のこの時点で相手が誰なのか、ある程度予想は付いた。

 数秒ほど沈黙が続いただろうか、大体それぐらいの間を置いて慎一が三人の間に分け入った。

 

「何してるんです、光流さん!?」

 

 慎一が呼んだ名前を聞いて、海苔緒は「やっぱりか……」とぼそりで呟く。

 目の前に居る美少女らしき人物は正確には少女ではなく、少年または青年と呼称すべき存在であった。

 海苔緒は慎一から話を聞いていたし、それ以前に本来知り得る筈のない知識として目の前の人物の名前を知っていた。

 ――綾崎光流(あやさきひかる)。日本から派遣され、アミュテックに勤める民間人第二号であり、彼は慎一の補佐役をしている。

 そう、彼だ。見た目可憐な美少女であり、学校で講師している時も、屋敷であろうとも女性ものの服を纏っているが立派な【♂】なのだ。

 光流は元々慎一がバハイラム王国に誘拐された時、新たなアミュテック支配人に選定されたのだが、しばらくして慎一がバハイラムから戻ったため補佐役に収まった。

 光流の手腕は素晴らしかったが、押し付けがましく商業主義的過ぎたためエルダントから反感を買ってしまう。

 けれど慎一の取り成しにより事態は何とか解決し、今現在は慎一の方針に従って補佐役に徹している(詳しくは原作六巻を参照)。

 そんな光流は海苔緒とアストルフォをじっと観察した後、いきなり一歩後ずさり……、

 

「……クッ! ま、負けました!」

 

 本当に悔しそうな顔をして絞り出すように呟いた。

 アストルフォは『何云ってるんだろ?』と首を傾げ、海苔緒は『何云ってるんだろうなぁーー、この人は?(棒)』と心の中でうそぶく。

 慎一も慎一で何も分からず小首を傾げるミュセルの隣で『あーーああ、うん』と納得したように何度も首を頷かせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーー、紫竹海苔緒だ。この屋敷に少し間厄介になると思うが……どうか、よろしく頼む」

「ボクはアストルフォ。よろしくね!」

 

 当然と云えば当然の流れだが屋敷に入れば……玄関先で慎一たちの帰りを待っていた屋敷の住人たちが待機しており、慎一に促され海苔緒とアストルフォは自己紹介をすることとなった。

 海苔緒が緊張して固くなっているのは、さっきからジッとこちらを見つめている光流の無言の圧力だけが原因ではなく、目の前に全く未知の人種……というか種族の人々が存在するからであろう。

 合計は三人。海苔緒から見て一番右に居るのは肌の露出が多い薄着をした犬耳と犬尻尾が生えたウェアウルフの女性。名前はエルビア・ハーナイマン。

 

「おかえりなさいっす、慎一様ッ!! あれ? その方たちは……」

 

 元々は他国に侵入してはただ命じられた物をスケッチし、本国に報告する使い捨てに等しいバハイラム王国の密偵だったのだが……あまりにスパイに向かぬ気質故、慎一の屋敷の敷地に侵入した際、美埜里さんによってすぐさま捕縛されてしまう。

 本来ならばエルダントの法に則り処刑される筈だったのだが、慎一によりその豊満なオッパイを見いだされ……もとい、類まれなる絵の才能を買われ、アミュテック専属の絵師として慎一雇われ、処分を免れた。

 性格は良くいえば素直、悪くいえば単純である。前述の通りスパイにはあまり向いていない。

 現在ではバハイラム王国の密偵だった過去は既に遠い昔の話で、お抱えの絵師としてだけではなく、以前の役割とは真逆にバハイラムに、現地の言葉に翻訳した日本の漫画や小説などをバハイラムに密輸入する運び屋の仕事もこなしている。

 エルビアは尻尾などがピンと張っているおり、初見の来客である海苔緒やアストルフォを少々警戒しているが、同時に『女性に見えるのに、なんで匂いは男の人なんすかね?』と疑問にも思っていた。

 だが視界に映った綾崎光流という前例を思い出し、エルビアは日本では女性にしか見えないと男性はそう珍しいものでもないのかもしれない……と、大変な誤解を抱いて納得してしまう。

 次に右手から二番目に佇んでいるのは蒼い鱗のような肌の蜥蜴人間(リザードマン)。肌のゴツゴツした質感は蜥蜴というよりワニを思い出させるし、顔もサイズ的にワニに近しく体は筋骨隆々で人間の造りに似ている。

 彼はブルーク・ダーウィン。この屋敷の庭師をしている男性の蜥蜴人間(リザードマン)だ。そして彼、ブルークの隣に控えている三番目の人物は、メイド服に纏った違和感バリバリの女性蜥蜴人間(リザードマン)

 肌というか鱗の色はブルークと違い青白く、体格は普通の人間と比べて大柄ではあるがブルークのように筋骨隆々といった訳でもない。

 蜥蜴人間(リザードマン)の物差しで測るのならば、おそらく線の細い体をしていると表現されるのだろう。

 彼女はブルークの妻で、名前はシェリス・ダーウィンという。

 

「「おかえりなさいやし(ませ)、旦那様」」

 

 とある事があって、ブルークはシェリスの元を去り……一時期二人は絶縁状態にあったのだがエルダントで行われたサッカートーナメント(超次元サッカー、色んな意味で。詳しくは原作三巻を参照のこと)や慎一の働きかけを切っ掛けに復縁を果たした。

 そして今は夫婦揃って慎一の屋敷に住み込み、働いている。

 余談であるが、ブルークはエルダントの兵役の任に就いていた時代、多大な功績を上げ、エルダントにおける蜥蜴人間(リザードマン)の地位向上に貢献したことから蜥蜴人間(リザードマン)の部族の中で英雄ブルークと呼ばれており、部族の中でかなりの影響力を持ち合わせている。

 シェリスは部族長の娘にあたるので、ブルークが次世代の部族長候補であるのは想像するに難くはない。

 そんなリザードマンのおしどり夫婦は、自己紹介をした海苔緒やアストルフォをじっと見つめていた。

 爬虫類特有の有鱗目(ゆうりんもく)(所謂トカゲ目)の瞳は無機質で感情を読むことは難しく、 蛇のような長い舌をチロチロと忙しなく出し入れしながら何を考えているのか海苔緒には全く見当もつかない。

 ただ付き合いの長い慎一には、多少理解出来ているようであった。

 

「どうしたの、シェリス? その包みは」

 

 

 シェリスやブルークが普段よりソワソワしていることに気付いた慎一は、シェリスの持つ風呂敷について指摘する。

 するとシェリスは三秒ほど硬直した後、ブルークに視線を傾ける。ブルークはシェリスに頷き、慎一へと向き直った。

 

「申し訳ありやせん、旦那様。実は……」

 

 ブルークは頭を下げた後、シェリスの持つ風呂敷を玄関先で広げる。

 風呂敷の中身……割れた皿の破片だった。

 シェリスもブルークに続いて「申し訳ございません」と云って何度も頭を下げている。

 パズルピースと化した皿に書かれた絵を見て、慎一は皿の正体に気付く。

 

「あっ、それ、懸賞で当てたレンタル☆まどかのキャラプレート」

 

 慎一が気まぐれで応募し、見事当選して手に入れた懸賞品である。キャラもの皿にしてはしっかりとした造りであり、懸賞限定品であったためコレクションアイテムとして価値も高い。

 しかしながら愛着があったかと云えばそれほどでもなく、何となく屋敷の暖炉の上に飾っておいただけである。

 

「嫁のシェリスが掃除中に割ってしまいやして。嫁の責任はあっしの責任でもありやす。どうしても嫁のことが許せないのでありやしたら、あっしがこの場で腹を切りやしょう」

「いやいやッ! そんなことしなくていいからッ!!」

 

 ブルークの過激な発言に、慎一は慌てて止めに入った。

 

「ブルーク、たかだが皿一枚のためにそんなことする必要ないから」

「ですが……」

「でもシンイチ様。その皿って、とっても貴重な物なんすよね、もう二度と手に入れる機会がないって云ってましたし」

「う、それは……」

 

 ブルークが言葉を濁した所で代わりにエルビアが答える。

 エルビアは別にブルークやシェリスに意地悪がしたくて云った訳ではなく、素直すぎる性分故、思ったことをそのまま口にすることが多々あるのだ。

 慎一もエルビアに指摘され、レンタル☆まどかの限定キャラプレートを入手した時、テンションが上がって屋敷の皆に自慢していたことを思い出す。

 それを聞いたエルダントの住人であるエルビア、ブルーク、シェリス等は旦那様(しんいち)が大切にしている貴重な皿だと認識してしまったようだ。

 どうやって齟齬を埋めようかと思い悩む慎一だが、意外なことに静観していた海苔緒が前に躍り出た。

 

「あ、紫竹さん……」

 

 海苔緒は風呂敷に散らばった破片をしばし眺め、

 

「慎一、こいつを直せばいいのか?」

 

 尋ねられた慎一は一瞬何を云われたか分からずポカンとするが、すぐに持ち直して反応した。

 

「え、紫竹さん直せるんですか? なら、接着剤持ってきましょうか」

「いや、必要ねぇよ。――見ててくれ」 

 

 そう告げると海苔緒は己の親指を噛んで肌を軽く裂き、指から滴る血を割れた皿に数滴垂らしながら何やらブツブツと呪文を唱えた。

 すると――数滴に血は霧散するように周辺の大気に溶け込み、割れた皿の破片たちが淡い光を放つ。そして――、

 

「「え!?」」

 

 感嘆の声は海苔緒とアストルフォを除くその場に居た全ての人物から漏れていた。

 ――何故なら割れた皿の破片がひとりでに集結し、破損する前の形に復元したからだ。

 海苔緒は修復された皿を手に取ると、トントンと指で表面を叩いた。

 

「うし、成功した。ほら慎一、直ったぞ」

 

 手渡された皿を慎一が見てみると、接着された部分の継ぎ目などは全くなく新品同様の状態にあることが確認出来た。

 慎一は目を好奇心に目を輝かせながら海苔緒に尋ねる。

 

「凄いです、紫竹さん! 今のって魔法ですか?」

「ああ……、魔法……というか魔術だな」

 

 詳しく解説するならFateにて遠坂凛が衛宮士郎の家のガラスを修繕した魔術のちょっとした応用技である。かなり難易度の低い魔術であるため、海苔緒もお手軽に行使出来るのだ。

 エルダントとおいても魔法は存在するのだが、瞬く間に皿を修繕するような魔法は見たことがなかったのか、エルダントの人々を驚きの余り硬直している。

 だが一番リアクションが大きかったのは以外にも美少女にしか見えない男性――光流であった。

 目を見開き、心底信じられないといった表情をしている。まるでモーゼが海を割った奇跡でも間近で見たかのようだ。

 

「魔術……本当に政府が云っていた話は本当だったんですね。ということは――」

 

 驚きに体を震わせたまま、光流はビシッ! と海苔緒を指さし、

 

「問おう、貴方がサーヴァントのマスターですか?」

 

(うお! その台詞……どこのセイバーだよ)

 

 某アルトリアさんのもろパクリである。というか声が上擦っており、どうやら光流はテンションが若干上がって興奮しているようだ。

 表情こそ冷静に見えるが、頬がほんのり赤くなっており可愛らしい。海苔緒も云えば義理ではないが、その顔はどう見ても男には見えない。

 興奮気味のテンションにどう応じたものか……と海苔緒が思案していると横に居たアストルフォが先に口を開く。

 

「そうだよ! ボクがサーヴァントで……」

 

 言葉を区切るとアストルフォはクルリと体を回す――刹那、アストルフォは霊体化し、全員の視界から消失した。

 一秒と経たず再び実体化すると服装は白銀の鎧を脱いだ軽装状態へと変化を遂げている。

 サーヴァントについて予備知識のないエルビア、ブルーク、シェリス等は大層驚き、体をビクリと震わせた。

 

「海苔緒がボクのマスターさ!」

 

 海苔緒の真後ろに実体したアストルフォは、海苔緒に体を絡みつかせたまま海苔緒の片手を掴んで手の甲に刻まれた令呪を光流に見せつける。

 

「ちょ、アストルフォ! ふざけてないで離せってッ!!」

「いいじゃん、ちょっとぐらい。ほらほら二人羽織、二人羽織ッ!!」

「こらッ! ヒトの体を好き放題弄ぶんじゃねぇ!!」

 

 海苔緒も抵抗するがサーヴァントに腕力で敵う筈もなく、赤子のように好き放題にされたままだ。

 しかし光流にはそんなことが関係なく、拘束されたままの海苔緒に詰め寄って手に刻まれた令呪をすりすりと触りながら観察した。

 

「この色合いに肌の感触……刺青でもタトゥーシールでもない、やっぱり本物……」

「ちょっと! 綾崎さんまでッ!!」

 

 海苔緒は光流にも離れるよう促すが、海苔緒の声は本物の令呪を見て興奮している光流の耳には届いていないらしい。

 こうして海苔緒は美少女(にしか見えない♂)に前後を挟まれた形となる。

 そんな光景を目の当たりにして美埜里さんは眼鏡を光らせていた。

 

「アストルフォ君&光流君×海苔緒君……うん、イケるわッ!!」

「イケるわ……じゃなくて! 助けてくださいよ、美埜里さんッ!! 慎一もッ! 苦笑いしてないで、この馬鹿を引き剥がすのを手伝ってくれっての!!」

 

 

 こうして、海苔緒たちと慎一の屋敷に住む人々とのファースト・コンタクトはつつがなく終えたのであった。

 




後一話か二話、屋敷での話が続きます。

では、

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