Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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取りあえず、日曜投稿出来なかった分を投稿。


第二十二話「混沌たる交錯者たち。またはそれなりの考察」

 才人とルイズの立会の元……海苔緒&アストルフォ組とティファニア&ケイローン組の会談は始まった。

 部屋に入る直前まで少々の警戒をしていたアストルフォも、ケイローンを直接目の当たりにして腰の剣に回していた手を収めている。敵意の有無は、理性が蒸発しているが故に直感的に判断したらしい。

 海苔緒も事前知識があったため、ケイローンの雰囲気を間近で確かめてからは多少緊張が和らいだ。

 加えてだが、ケイローンと本気で相対することになれば、海苔緒とアストルフォでは敵わないだろう。……海苔緒の目に映るケイローンのステータスは、出鱈目なことにアポクリファ本編とほぼ遜色はないのだ。

 才人のメイドであるシエスタが気を利かせ、途中全員分のお茶を入れてくれた。緊張でカラカラになった喉を潤してから海苔緒はティファニアたちに言葉を投げ掛ける。

 

「つまりサモン・サーヴァントの呪文を唱えたわけではない、と」

 

 サモン・サーヴァントとはハルケギニアに伝わるコモン・マジックで、メイジのパートナーとなる者(大概は動物か幻獣)を召喚する呪文である。

 例えばティファニアがサモン・サーヴァントを唱えたとしたら『我が名は【ティファニア】。五つの力を司るペンタゴン。我の運命(さだめ)に従いし、"使い魔"を召還せよ』という詠唱になる。

 『我が運命』とだけ聞くと何だか某ゲームのような感じもするが……、唱えていないなら今回の件には関係ないのだろう。

 サモン・サーヴァントでの召喚ではないので成功するかは分からないが、コントラクト・サーヴァントも済ませていないそうだ。リーヴスラシルになること自体が危険であるので、現状維持が一番好ましいのだろう。

 海苔緒の言葉にティファニアは頷いて見せた。

 

「はい、急に手の甲が熱くなるのを感じて……気付いたら、目の前にケイローンさんが居たんです」

 

 手に浮かんだ令呪を見せながらティファニアが不安そうに視線を泳がせると、視線の先に居たケイローンが穏やかな笑みを浮かべて応じる。

 

「私からも、よろしいでしょうか」

 

 説明の許可を求めたケイローンに、海苔緒はすぐさま『お、お願いします!』と返答した。

 

「では、私もそこに居るライダー……いえ、彼――アストルフォと同じく、当初は聖杯戦争に応じて召喚されたつもりでした」

 

 ケイローンの言葉に海苔緒は固唾を呑んだ。

 アストルフォは飄々とした様子で『あっ! ボクと同じだ!!』と嬉しそうに声を上げる。

 

「座より切り離され、七騎の英霊(サーヴァント)という枠に当てはめられる段階にて、私たちは召喚される時代や場所に関する知識を聖杯から取得するのですが、入手出来た断片的な情報から察するに、当初の召喚予定地は現代ヨーロッパの……おそらくルーマニアだったと思います。ですが現世への降臨の間際、横から引っ張られるのを感じたかと思うと……気付けばこの世界、ハルケギニア――つまりはティファニアさんの目の前に召喚されていました」

「現代の……ルーマニアですか」

 

 海苔緒は『それってもしかしてトゥリファスですかね?』という言葉が喉から出かかったが、何とか飲み込んだ。

 そして相棒であるアストルフォに『お前も(当初の召喚場所は)そうだったのか?』と尋ねたが、当人のアストルフォは『う~んと、ねぇ…………ごめん! 覚えてないや!』と茶目っ気のある笑みで返された。

 海苔緒も八割方期待していなかったので『そうか』とだけ口に出す。

 しかしながら……、

 

(現代のルーマニア――いや、多分俺たちの住んでる世界のルーマニアじゃねぇな。並行世界って奴か。マジでアポクリファだったら……本来のマスターだったフィオレの召喚はどうなったんだ?)

 

 アポクリファにおいてフィオレは、ヘラクレスがケイローンを射たヒュドラの毒矢を触媒にしていた。ならば呼べる対象はヘラクレスとケイローンに絞られる。ケイローンを召喚出来なかったということは、フィオレは代わりにヘラクレスをアーチャーで召喚したのか?

 そこまで考え――仮令どれだけ考えを重ねようと結局は仮定に過ぎないと気付き、海苔緒は思考を区切った。

 するとアストルフォが『はい、はい、はーい! 質問、質問!』とケイローンに対して元気よく手を挙げた。まるで小学生のような勢い。

 ケイローンは対照的に、教師のように至極落ち着いた仕草で『どうぞ』とアストルフォに発言を促す。

 

「君がケイローンだって云うなら、どうして人間の姿をしているんだい? 伝説の通りなら君はケンタウロスで、その下半身は馬の筈だろ。でも、どうにも今の君は普通の人間の姿に見える」

「その通りです。本来であれば私は人ならざる姿で召喚されていなければならない。しかしあの姿で弓を使うとなれば、我が真名は直ぐに看破されてしまうでしょう。ですから人の姿を借りて現界したのです。……尤も肝心な聖杯戦争はなかった訳ですが」

 

 ケイローンは苦笑めいた表情を浮かべている。どうやら人の姿をしているのは原作同様の理由のようだ。

 海苔緒もアストルフォに続き、ケイローンへと質問をした。

 

「自分からも一ついいですか」

「何でしょう?」

「あの……魔力供給は大丈夫なんですか?」

 

 サーヴァントの現界維持で一番のネックになるのが、サーヴァントへの魔力の供給だ。聖杯の補助がなければ、マスターに掛かる負担は相当である。

 海苔緒は転生特典(チート)という出鱈目でこの問題を解決しているが、ティファニアはそういう訳にはいかない筈。

 しかし返ってきた答えは意外なものだった。

 

「魔力の供給に問題はありません。この世界は私の生きた時代と比べても大気中のマナが驚くほどに濃い。マスターであるティファニアさんは、極めて効率的に大気のマナを収束し、取り込むことが出来るため、私への魔力供給は潤沢です。加えてマスタ―が体内に貯蔵している魔力量も規格外と思えるほどに膨大であるが故、数日であるならば、マスターの保持魔力だけで我が身の現界も可能でしょう」

「そ、そうですか。……ありがとうございます」

 

 海苔緒は絶句しかけた。しかしよくよく考えてみれば、ティファニアは虚無の使い手であり、同時にハーフエルフでもある。

 同時にハルケギニアの大気中のマナ(四元素のこと)は、自然に結晶化して鉱石となるほど豊富である。ハルケギニアのエルフはマナを人為的に収束し、精霊石を製造出来る事を鑑みれば……大気中に無尽蔵に存在する大源(マナ)を取り込み、サーヴァントに供給出来ても不思議ではない。

 態々大枚をはたいて宝石を買い、自分の魔力をコツコツ注入している某赤い悪魔さんが聞いたら色んな意味で激怒不可避間違いなし!!

 それに虚無の担い手であるティファニアはルイズのように強力な虚無魔法を過去に使用していないため、小源(オド)として体に貯蔵されている魔力量も相当な筈だ。

 故にティファニアはケイローンを実体化の状態で維持出来ている――そう考えるのが妥当だろう。

 アポクリファにて正規マスターだったフィオレは、弟のカウレスに石油コンビナートと例えられていたが(ちなみにカウレス自身は自分の魔力保持量を石油のポリタンクに例えて自虐している)、ティファニアはさしずめ原子力発電所といった所か。

 だが同じく大気中のマナが濃いエルダントの世界は問題ないにしても、地球やゲートのある世界は大気中のマナが薄いため、それらの世界にケイローンが長期滞在する際は何か対策が必要と思われる。

 海苔緒はここで再度、ケイローンに意思確認を取った。

 

「現状、アストルフォと敵対するつもりはない――ってことで、いいですよね?」

 

 海苔緒の額を冷や汗が伝った。的場さんから交戦の意思がないことはよく聞かされていたし、ティファニアやケイローン自身の気質から考えても在り得ない。

 しかし何事も例外はある……特に型月世界においては尚の事。

 もしも戦うことになれば、遠距離は弓で封殺され近距離ならば世界最古の総合格闘技【パンクラチオン(全ての力)】で封殺される。

 正直海苔緒には勝つヴィジョンが浮かんでこない。

 けれどはっきり云って、海苔緒の懸念は全く杞憂に過ぎなかった。

 

「はい、それは勿論。聖杯がないのであれば、争う意味はありません。現在日本にて起きている事態についても既に聞き及んでいます。此度(こたび)の不可解な召喚も何か意味があっての事でしょう。どれだけ力になれるかは分かりませんが、我が身を尽くして協力させていただきます」

「ボクの方こそ、よろしくね!」

 

 差し出されたケイローンの手を、アストルフォは握り返す。これにて協力関係は成立した。

 海苔緒も完全に緊張を解いて胸をほっと撫で下した後、アストルフォに続いて、ケイローンと握手する。樫のように固い手であったが、同時に不思議とその手に宿る暖かさは全てを優しく覆う包容力を兼ね備えているように、海苔緒は感じた。

 

「取り敢えずは、情報交換を続けましょう」

「ええ、此方も色々と伺いたいことがいくつかあります」

 

 海苔緒の意見に、勿論ケイローンも賛同した。

 何度目かのお茶のおかわりで喉を潤しつつ、会談は続くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……情報交換が続き、ついに話題は某ゲーム(・・・・)のことに移った。ケイローンも某ゲームに関しては日本政府から資料を貰っていたらしく、既に大方把握している様子である。

 

「あれだけでは正直何とも云えないのですが……けれどおそらく、あの物語(・・・・)に出てくるバーサーカーは私の良く知る彼なのでしょう。そしてキャスターもまた……」

 

 沈痛な面持ちでケイローンは呟いた。某ゲーム――否、あの物語に出てくるバーサーカーとは、ケイローンの弟子であるギリシャの大英雄ヘラクレスのことである。

 加えてあの物語のキャスターの真名はコルキスの王女メディアである。ケイローン自身は彼女と面識がないものの、ケイローンの弟子であるイアソンはアルゴー号の冒険にてメディアを籠絡し、自らの企みに加担させている。

 その後、メディアはイアソンに捨てられ……イアソン自身も放浪の末に悲惨な終わりを迎えたと伝承では語られている。

 ケイローンの誰かを悼むような面持ちは、自らと同じくヒュドラの毒に苦しみ死んだ弟子ヘラクレスに対するものか? それとも同じく自分の弟子であったイアソンの零落の最期を想ってのことか? または巻き込まれたメディアに同情を抱いてのことか? ……あるいはその全てかもしれない。

 けれどその心中を知っているのは、ケイローン自身のみである。少なくとも海苔緒には推測は出来ても、本当は何を思っているのかまでは分からない。

 

 

「……でもそれって、おかしくないかしら?」

 

 立ち合い人として今まで黙っていたルイズが口を挟んだ。

 

「そこのアストルフォもだけど、貴方たちは才人の世界の物語に出てくる登場人物なんでしょ? こっちの基準に例えるなら『イーヴァルディの勇者』が召喚させるようなものだわ」

「イーヴァルディの勇者?」

 

 アストルフォのその言葉に首を傾げた。海苔緒はおぼろげであるがその名に聞き覚えがある。

 

「才人、『イーヴァルディの勇者』ってのは、ハルケギニアの御伽話だよな?」

「ああ、タバサの愛読書だ。歴代のガンダールヴの活躍が元になってるみたいなんだが、色々脚色され過ぎてて……元になった人物が本当に居たかどうかは曖昧らしい」

 

 海苔緒の疑問に才人はすぐさま答えた。

 

 『イーヴァルディの勇者』とは、ハルケギニアに伝わる英雄譚の中で最もポピュラーとされる物語である。

 タバサが幼い頃、母が聞かせてくれた物語の多くが、『イーヴァルディの勇者』の関するもので、この影響でタバサはガンダールヴである才人とイーヴァルディの勇者を重ね、恋心を抱く切っ掛けを作った。

 そしてハルケギニアを救った才人はタバサのみならず、最近ではトリステイン国内でもイーヴァルディの勇者と同一視されることがよくあるらしく、『イーヴァルディの勇者の再来』と呼ばれ、未だ人気は右肩上がりだそうだ。

 ルイズは続けて疑問を投げる。

 

「それに才人の世界には魔法はないし、亜人たちやエルフやドラゴンみたいな動物も居ないんでしょ? でも、アストルフォやケイローンの居た世界にはハルケギニアと同じくそれ等が存在している。同じ地球筈なのに、矛盾しているのは一体どういうことかしら?」

 

 

 ややこしい話だ、と海苔緒は思った。まるで絡まった糸のように情報が錯綜している。メタメタな状況だ。

 簡潔に整理するならば――、

 アストルフォやケイローンの元々居た世界は、某ゲームの舞台となっている架空の筈の世界であり、加えてアストルフォやケイローンは、その架空の世界においても人の信仰が生み出した非実在の英霊の可能性がある(しかしどちらも召喚の触媒は本人に直接所縁がある品なので、一概にそうとは云いきれない)。

 そして現在、三つの異世界と繋がった地球も……海苔緒の主観から見れば、ゲート、エルダント、ハルケギニアを筆頭として、架空であった筈のモノで溢れている。

 真偽を完全に確かめる術は、神ならぬ身の海苔緒は当然持ち合わせていない。

 

(駄目だ……考えれば、考えるほど頭が痛くなってきやがる)

 

 頭も抱える海苔緒だが、才人は特に悩む様子もなく己の認識を語った。

 

「ルイズも、海苔緒も、そう難しく考える必要はないんじゃないか。俺もルイズに召喚される前は魔法とか、エルフとか、亜人とか、全部そういうのは空想の産物だと思ったし。地球とハルケギニアみたいに、実は案外見えない所で色んな世界同士が繋がっているのかもな」

「才人殿の云う通りですね。虚無の使い魔であるガンダールヴ、ヴィンダールヴ、ミョズニトニルン、リーヴスラシルの名は北欧神話の『巫女の予言』にも記されています。私たちの気付かない所で、既に影響を及ぼしあっていたのでしょう」

 

 才人の台詞を、ケイローンが補足した。さすが大賢者だけあって既に現世の知識を収集し、活用しているようだ。

 海苔緒たちが会談している応接間は書斎を兼ねているのだが、ハルケギニアの本だけではなく日本の書籍も大量に並んでいる。

 才人が持ち込んだ本も無論あるのだが、大半はタバサが日本で信じられない量の古本を買いあさり、ガリアに持ち帰れない分をこの屋敷にストックしているらしい。

 大半は地球の歴史に関するものや、様々な専門の知識書が多く、中には娯楽小説なども存在している。

 聞く所によると、才人の恩師であるコルベール先生やビダーシャルの姪であり、学者でもあるルクシャナも、それ等の本をかなりの頻度で借りていくそうだ。

 ケイローンもそこから知識で仕入れているだろうことは、海苔緒にも簡単に想像出来た。

 

「そうね、確かにそうかもしれないわ」

 

 ルイズは才人のケイローンの言葉を聞いて、一応は納得したようだ。

 海苔緒も、『あまり深く考えてもしょうがねぇな』と一度思考をリセットする。

 

「しかし、よくよく考えてみると海苔緒も大概にファンタジーだな。その見た目で二十歳つーのはさ……」

 

 才人の一言で皆の視線が海苔緒に集まる。海苔緒の服装は極めて男性的でラフな格好なのだが、中学生の少女と見紛う麗しい容姿に、ポニーテールで縛られた長い銀髪。伊達眼鏡が辛うじて地味さを演出しているのだが、それでも周りの注目を集めるような見た目である。

 そして初見に人間はおよそ九割が海苔緒の性別を誤解するのはまず間違いない。

 海苔緒は反論出来ず、『――うっ!』と唸った。

 ルイズもぼそりと『なんか女として色々負けている気がするわ』と呟き。

 ケイローンとティファニアの主従は揃って何やら曖昧な笑みを浮かべている。加えてケイローンはその脳裏にて、弟子の一人であったとある少年のことを思い出していたのだが、海苔緒は知る由もない。

 アストルフォに至っては……、

 

「大丈夫、大丈夫! ノリは可愛いんだから、ボクみたいに自分にもっと自信を持てばいいのさッ!!」

 

 そう云って、バンバン! と海苔緒の背中を叩くアストルフォ。全くフォローにはなっていない。

 このまま何も云い返さないのは癪だと思えてきて、海苔緒は才人に一つ云い返すことにした。

 

「それを云ったら才人も大概だろ。異世界に飛ばされ、英雄譚の主人公みたいな活躍をしたかと思ったら。アンリエッタ女王陛下から爵位と領地まで貰って。仕舞いにはこんな美人の嫁さんと結婚までしてやがる。おめぇの方こそファンタジーだろ」

「おっ! 確かに云われてみれば。それでルイズと結婚出来たんだから、ファンタジー万々歳だ!!」

 

 海苔緒の指摘に、才人は開き直った様子で幸せそうな笑みを浮かべる。

 隣の座るルイズが顔を真っ赤にして、『び、美人のお嫁さん。わ、わ、私が!? ……と、当然よ!! 何、あ、あ、当り前のこと云ってるのッ!!』と大声を出した。照れ隠しなのは明白であった。

 こうして適度に話の腰を折りながらも、海苔緒たちは数時間に渡り会談を続けていった。

 




気付けば後一か月で年末、道理で仕事が忙しくなっていく訳だと、今更ながら気づきました。
本当に年を経るごとに月日の感覚が鈍くなっていく……ORZ
ですが本小説の更新は何とかペースを保って続けたいと思います。

では、

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