Gate/beyond the moon(旧題:異世界と日本は繋がったようです)   作:五十川タカシ

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毎週続いているFate/GOの新鯖紹介CMを見て、期待を膨らませる今日この頃。
まさかランサー枠であの方が来るとは……


第三十五話「魅惑の妖精亭での暮夜其の三。もしくは予知という名の原作知識?」

 

「――私に何の話があるって云うの、ノリオ?」

 

 アストルフォに連れられた海苔緒は女性陣のテーブルについて早々、ルクシャナに本題を話すよう急かされる。

 ……どう切り出そうか? と悩んでいた所をアストルフォにいきなり背中を押された形だが、こうなったら勢いに任せようと、海苔緒は腹を決め込んだ。

 軽く深呼吸をしてから眼鏡のこめかみ部分に掛かるフレームに指を当てて。

 

「アストルフォ。……すまん、二度手間で悪いが才人を呼んできてくれないか? 後、御門さんと先生も」

 

 こうして才人と加えて、千早とケイローンも交え――海苔緒は女性陣の前で話を切り出した。

 話す内容は海苔緒の覚えている原作知識――『ゼロの使い魔』小説版の終盤にあたる場面。つまりは大隆起が起きた場合のハルケギニアで起きた出来事について。

 

「初めに云っておくが……自分でも信じられねぇような話だから、酒の席の戯言だと思って話半分に聞いてくれると助かる」

「なによ、勿体ぶって。本当に何の話なの?」

 

 ルクシャナは本当に気になってしょうがない様子で、海苔緒を促した。

 対してそんな前置きをつけた海苔緒だが、内心では真剣に聞いてほしいと裏腹な思いを抱えつつ表情を改め、口火を切る。

 

「最近毎晩見る変な夢についての話なんだが……」

 

 適度に嘘を混ぜながら、分岐したハルケギニアで起きたであろう可能性を予知夢という体際をとって、海苔緒は皆に騙り……否、語り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海苔緒の口から紡がれた内容は、聞いている面々にとって――とてもではないが酒の席の戯言と一蹴出来るものではなかった。

 ガリアの狂王ジョセフを打倒した後、ジュリオによって軟禁されたタバサ。そして替え玉として女王に地位についた双子の妹のジョゼット。こちらでは死亡した聖エイジス32世ヴィットーリオ・セレヴァレによる聖地奪還のための策謀。

 灰色卿によって派遣された『虚無の兄弟』による才人暗殺未遂。

 タバサ奪還のために起こったジュリオと才人の激突、そして明かされる大隆起の危機、両者の和解。

 話が進むにつれて、タバサの頬から朱色が抜けて氷の如き表情が表に出た。先刻まではノリノリで馬鹿騒ぎをしていた才人も空気を一転させ、何度も修羅場を潜り抜けた“男の顔”を見せ始めている。

 他の面子も程度に違いはあれ、反応は同じ。

 和気あいあいとした酒の席の雰囲気は霧散し、徐々にピリピリとした雰囲気が代わりに場を支配していく。

 ……そして話は終盤に差し掛かる。

 ルクシャナやアリィー等による才人とティファニアの拉致、エルフの国『ネフテス』への連行。

 脱出からの流れはこちらとは異なり、海苔緒の語る『才人とティファニア』はルクシャナに連れられて聖地の眠る海域――“海母(うみはは)”と名乗る韻竜が治める『竜の巣』へと逃げ込み……。

 度数の強いウィスキーを潤滑剤代わりにして、海苔緒は思えている限りのことを最後まで吐き出した。但し、無論ながら転生云々など肝心な所は話していない。

 それでも海苔緒の話は同席していた皆に充分響いている。少なくともただの夢だと思う者はこの場には居なくなっていた。

 何せ海苔緒が知りえる筈のない人物、場所の情報まで含まれていたのだから。

 例を挙げるなら……ティファニアの母親“シャジャル”の一族の者。裏切りの親族という烙印を押されて苛烈な差別を受けて育ち、鉄血団結党に傾倒したファーティマの存在を海苔緒は指摘したのだ。

 ティファニアはまだ彼女のことを知らなかったらしく、海苔緒から彼女の話を聞かされて酷く青ざめた表情を浮かべていた。母親の一族が母親の行いによって泥を啜るような生き方を強いられていたことと、その一族の一人であり、親戚にあたる筈のファーティマが自分を殺したいほどに憎悪しているという事実がティファニアをよほど(さいな)んだのだろう。

 

 悪いことしちまったなぁ……と、自責の念を覚える海苔緒だったが、ティファニアを介抱している才人の二の腕がティファニアの“ツイン・グレネード”に挟まれている光景を見て、そんな気分はすぐさま立ち消えとなる。

 要らぬ嫉妬心に目覚めかけた海苔緒。けれど神妙な表情を浮かべたルクシャナに声を掛けられて意識を目の前へと戻した。

 

「ほんと笑えない話ね。ファーティマのことは最近になってビダーシャル叔父さまから注意するように色々聞かされてはいたけど……。それとノリオ、貴方の話は怖いくらいに筋が通ってるわ。私がサイトたちを連れて逃亡するなら十中八九『竜の巣』を目指すでしょうね。追っ手をやり過ごすのに最適だし、何よりあそこには海母が居るんだもの」

 

 普段のお気楽な調子とは対照的な、神妙な表情したルクシャナは自らを納得させるかのように、己の言葉に何度も頷いてみせる。

 加えてだが、ルクシャナはこの席に居る誰にも海母についてまだ話していなかった。知っているのはビダーシャルなどの仲の良い親族か、さもなくば向こうの席でギーシュと仲良く酔いつぶれている婚約者のアリィーぐらいのものだろう。

 それ故海母に関する詳細を語った海苔緒の言葉に、ルクシャナは強い信憑性と説得力を感じていた。

 才人やルイズも同様である。

 特に才人は“友人”である海苔緒の言葉を素直に信用した。

 それが海苔緒には……どうしようもなく後ろめたいのだが。

 

「つまり海苔緒が見た夢っつうのは――ジュリオの云っていた“大隆起が迫って聖地奪還に動いたハルケギニア”での出来事ってことでいいんだな?」

「私の“旦那様”とティファニアが海で“ナニ”を致していたのか? ――とか、色々詳しい聞きたいことはたくさんあるけれど。ノリオ、貴方が一番問題視しているのは……夢の中で竜の巣の近くに沈んでいた“原子力潜水艦”がこっちの世界にもあるかもしれないっていう可能性よね?」

 

 ……しかも核弾頭搭載の。

 頭の回転が速いルイズは才人への皮肉を交えつつも、海苔緒の最も云いたかったことを要約してくれ、最後にそう云い足す。

 

「ああ、そうだ。しかしルイズさん、原子力潜水艦が何だか分かるんだな」

 

 純粋に感心した海苔緒だったが、ルイズは小馬鹿にされたように感じたのか、口元をへの字に結んでムスッとした様子で云い返す。

 

「これでも地球や日本のことを色々勉強してるんだから! それに“広島のドーム(・・・・・・)”に行ったわ。それにコルベール先生が凄いショックを受けた様子だったから、余計に印象に残っているし」

「……そうか。行ったんだな、原爆ドームに」

 

 海苔緒にはソレがどこを指しているか即座に理解する。ということは当然資料館にも足を運んだのだろう。

 コルベールの名前を出した辺りからルイズの声の勢いは明らかに衰えていた。

 

 ――一度に何千の、何万の命を奪った英知の業火(ひかり)

 

 地球の科学を信奉しているらしいコルベールにとって、人類の科学技術が生み出した負の産物たる原子力爆弾は相当ショックを受けたであろうことは、海苔緒にも容易に想像できた。

 自慢できる話ではないが、長崎や広島に落ちた爆弾による被害はジョゼフが生み出した虚無の獄炎のソレを容易く凌駕する。

 けれど科学の火に新たな希望を見出し、熱心に研究を重ねるコルベールにとって原爆投下という名の地球史に残る悲劇は、いずれは知る必要があった事実だったのかもしれない。

 ともあれこの場の居る人間の多くが核による脅威を認識してことは、海苔緒にとって有難い。

 

「けど、そんな危ない兵器がこっちの世界に来てるってことは、つまり向こうの世界(ちきゅう)から消えてるってことよね。なら、向こうの世界でも相当騒ぎになったんじゃない?」

「いや、それがそうでもねぇんだ。転移してきたのがソ連の原潜ともなると納得出来るというか……」

「ソ連? 確か今は解体されてロシアって名前の国になっている所だったかしら?」

 

 ルクシャナの問い掛けにかぶりを振った海苔緒は、そのまま視線を“外交官”である千早へと向けた。

 何が云いたのか、一瞬で理解した千早は一際渋い苦笑いをつくり、海苔緒の説明を補足する。

 

「ソ連という国は、旧式となった原子力潜水艦を何隻も海に投棄したんです。放射能汚染防止のための解体処置も何もせずに」

「「はぁ?」」

 

 ハルケギニア出身の面々は信じられないといった表情を一斉に浮かべた。

 千早の発言は事実である。ソ連は資金と技術不足を理由に旧式化した艦艇を数えきれないほど海に投棄しており、その中にも原子力機関を積んでいたフネも多数含まれていた。

 日本海にも多数の投棄が確認されており、日本はソ連に対して『艦艇の海洋投棄を止める』ことを条件に莫大な資金と技術をソ連に貸与しており、専用の解体施設もソ連の土地に建設したのである。

 それ等の海中投棄された原潜が地球から消えたとしても、汚染された海域に近づく者など滅多に居ない為、気づく可能性は非常に低いだろう。

 千早から一通りの説明を受けた後、ルイズたちの顔は驚きから呆れに移り変わっていた。

 

「とんでもない国ね。そのソ連っていうのは」

「まぁその……末期のソ連は色々と杜撰でしたから。あまり考えたくはありませんが……旧式化した核弾頭と原子力潜水艦を、積載状態のまま投棄していてもおかしくはありませんし」

 

 そしてその内の一隻がハルケギニアに流れ着いた可能性も十分にあり得る訳で……。

 飽くまで現時点では海苔緒の夢の話に基づく仮定であるが、それでも今の内から日本政府には報告しておくべきだろう、と千早は頭を痛めつつ説明を終えた。

 

「とにかく調査が必要ね。頭の痛い話だわ。ネフテスの水軍は強硬派の鉄血団結党に掌握されているも同然で頼れない所か、邪魔される可能性もあるし! しかも彼等、間の悪いことに地球製の兵器の研究を始めてるのよ」

「は、何だそりゃ!? 悪魔の創り出した野蛮な武器とか云って、毛嫌いしてるんじゃなかったのか?」

 

 原作では有り得なかった鉄血団結党の動きに、海苔緒は頭を槌で叩かれたかのような衝撃を受ける。

 

「叔父様がネフテスの議会で地球の科学技術等の情報を公開して、『不毛な戦いはせずに和平を結ぶべきだ』と訴えているだけれど。そしたら鉄血団結党の連中、『ならば悪魔の兵器には悪魔の兵器で対抗すればいい』って主張を展開し始めたの!! ネフテスにはシャイターンの門由来の品物を集めて封印している蔵があるのだけれど、あいつ等、そこから固定化の掛かった武器を片っ端から引き出してるみたい」

「……最悪だ」

 

 絶句した海苔緒は、それ以上二の句を継げなかった。

 融和派筆頭のビダーシャルは地球について研究した内容を議会にて発表し、敵対することの不毛さを訴えているようだが、『人間=蛮族=格下』の意識に凝り固まった鉄血団結党は飽くまで徹底抗戦を貫く腹積もりなのだろう。

 いくら優秀なエルフとはいえ、高度な工業技術の産物である銃砲火器類などを短期で複製することなどは不可能であり、戦闘機や戦車に至っては操作法を解明することすら至難の技の筈である。

 だが、もしも収集した銃火器類で武装させた部隊を編成し、こちらを襲撃してくるならば……。

 要人の襲撃やド・オルニエールにあるゲートの破壊を、鉄血団結党が目的とするなら、才人たちを攫った時のような少数精鋭でのゲリラめいた奇襲を仕掛けてくることは想定すべき事態だ。

 そこに地球産の銃砲火器というファクターが重なれば、最悪の事態が引き起こされる可能性も十分に有り得る。

 全員が頭を悩ませる中、沈黙を貫いていたケイローンが口を開いた。

 

「竜の巣だけではなく、一度ネフテス国の周辺海域を隈なく調査する必要もあるかと。砂漠に囲まれ、畜産の出来ないネフテスでは漁業と海産物の養殖が主流と聞きます。海洋の汚染は、即ちエルフの体を蝕む毒となってしまう」

 

 いくら魔法のお蔭で暮らしやすいとはいえ、畜産を可能とする環境を整備するにはエルフの技術をもってしても、飼料となる穀物の用意を含めてコストが掛かり過ぎる。

 故にエルフたちにとって、周辺で獲れる海の幸こそが貴重なタンパク源なのだ。

 海洋汚染が起きてしまえば、食を通じてエルフたちの生活は根幹から揺らいでしまうであろう。

 半ば憔悴しかけたルクシャナは、酔いつぶれて幸せそうに眠っているアリィーを恨めし気に睨みつける。

 

「あそこで寝てる馬鹿も含めて、ド・オルニエールに居る仲間には私からしっかり話しておくわ! 嗚呼、叔父様に何て報告すればいいのよ、もう!! 仮にノリオの夢の通りにフネが見つかったとして、どう対処すればいいかも分からないし……」

「いや、対処方なら一応考えたんだが」

 

 海苔緒の一言に、皆に視線が集中し注がれる。過度な期待を感じて海苔緒は胃に痛みを感じつつも、自らの考えを口にした。

 

「素人の浅知恵もいいとこなんだが。トリステインの王立アカデミーが開発した“錬金を常時放出する魔法装置”を使って、原潜を海の底のさらに下……地の底に何とか沈められねぇか?」

 

 要は錬金魔法で地面を一時的に液状化させ、自重で放射能の届かない所まで埋めてしまおうという単純な話である。

 

「錬金魔法を常時放出する魔法装置? 何よソレ?」

 

 心当たりのないルイズは小首を傾げた。その反応に海苔緒は意外そうな顔をして驚く。

 

「あれ、知らねぇのか? ルイズさんのお姉さんのエレオノールさんが研究開発した代物の筈なんだが。それに確か“元素の兄弟のダミアン”も開発に協力したって――」

「ボクがどうかしましたか」

 

 ――小耳に挟んだんだが、と海苔緒が口にする前に、いつの間にか当人のダミアンが席の後ろに立っていた。

 思わず海苔緒は席から立ち上がる。

 

「わっ! びっくした……いつから居たんだ?」

「悪いけど気になって途中から聞かせてもらったよ。中々に興味深い話だった。どうせ“酒の席の戯言”なんだし構わないよね?」

 

 戯言云々は海苔緒の前置きの言葉である。つまり途中からと云いつつ、海苔緒の話を悟られることなく殆ど全て聞いていたらしい。

 本当に抜け目のない人物だと警戒しつつも、海苔緒は“錬金を常時放出する魔法装置”の開発協力者であるダミアンに質問をぶつけた。

 

「聞いてたなら話は早ぇ。あんたが開発に協力した“錬金を常時放出する魔法装置”を使って、海の底に沈んでいる原子力潜水艦(とんでもなくでかい鉄の塊)をさらに下の地の底に沈めるのは可能だと思うか?」

 

 ダミアンはしばらく考え込むような仕草を見せた後……。

 

「多分複数の装置を同調して使えば可能だと思うよ。但し、沈める対象に固定して使う必要があるから、地の底に沈めること前提に考えて装置を使い捨てにしなきゃいけない。高価な装置だから、複数台ともなると相当の出費になるだろうね」

 

 高コストになるが実現は可能なようだ。ダミアンの言葉に海苔緒は安堵した。

 願わくば――原潜が原作の通りに沈んでいないことを祈りつつ、海苔緒は臨時の対策協議を結局朝まで続けるのであった。

 




次回はド・オルニエールの温泉にて才人と海苔緒の語り合いの予定

では、

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