Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか?   作:GT(EW版)

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 新年初投稿です。


銀の巫女と深き魂

 なぞのせいねんのミナキはスイクンハンターである。

 

 生まれはカントー地方のタマムシシティだが、行動範囲は一つの地方に留まらない。

 それは彼の追い求めるオーロラポケモン、「スイクン」が明くる日も世界各地を駆け巡っているからだ。

 

 スイクンは美しくて凛々しい。

 自らが操る北風にたてがみを靡かせて走る姿は神の遣いそのものであり、必要な時にのみ振るわれる圧倒的な力は、まさしく「水の君」の名に相応しいポケモンだった。

 

 あどけない少年の頃、ミナキは旅先で偶然目にしたその華麗な存在に、心を奪われた。

 かの君の姿を初めて見た時、彼の世界は一瞬にして水晶色に染め上げられたのだ。

 あの時浮かび上がった衝動は、大人になった今も変わらずミナキの心に熱く燃え続けている。

 昔から何も変わらない。冷めることの無い初恋にも似たその感情は……まさしく「愛」だった。

 

 そんな彼は今、ジョウト地方の端に広がる大海原の先──常に不安定な海流が旅人たちを寄せ付けまいとする無人島「うずまきじま」にいた。

 理由は当然、スイクンである。

 

 スイクンを追い求めて10年。長らくスイクンファーストの日々を過ごしてきた成果として、ミナキの中では謎多き伝説のポケモンの生態が徐々に見えてきた部分がある。

 未だ捕獲には至っていないものの、元々ミナキはポケモン学者を目指していた人間である。各地を駆け回るスイクンの行動に一定の法則性があることを、彼はある程度把握していた。

 

 ──それは、「スイクンは水辺を中心に行動している」という仮説である。

 

 おそらくそれは、汚れた水を浄化して回るスイクンの習性に起因するものなのだろう。

 ミナキがかの君との対面に成功した時も、その場所は決まって海や川、湖が近くにあったことが記憶に残っている。

 そしてスイクンの故郷であるこのジョウト地方には、その条件に最も合致した地形でありながら目撃例が無く、それ故に彼がまだ本腰を入れて捜索していない場所があった。

 

 それこそが、うずまきじまである。

 

 うずまきじまと言えば海の神ルギアの伝説が有名だが……この島はスイクンとも繋がりがあるのではないかと、ミナキはそう睨んでいた。

 

 

 やけたとうの三聖獣、スイクン、エンテイ、ライコウと言えば、「スズのとう」の虹色のポケモン「ホウオウ」との関係が有名である。

 

 昔、空から落ちた雷が「カネのとう」を撃ち抜いた。

 そこから噴き上がった炎は一日中燃え続け、豪雨が降り注ぐまで消えることはなかったと言う。

 

 その際、塔にいた三匹のポケモンが犠牲となったのだが──空から舞い降りた虹色のポケモンが、聖なる力で三匹を生き返らせたのだ。

 

 塔を貫いた雷の力を宿したライコウ。

 塔を焼いた炎の力を宿したエンテイ。

 そして塔の大火事を鎮めた雨の力を宿したスイクン。

 

 虹色のポケモンと三聖獣の関係性を語る上では外すことができない、エンジュシティで最も有名な伝説だった。

 

 

 ──と、ここまでは調べれば子供でもわかる有名な話である。

 

 しかしミナキはその伝説を踏まえた上で、「カネのとうに住んでいた三匹のポケモンは、今の三聖獣の姿になる前はルギアとの繋がりの方が深かったのではないか?」と考察していた。

 

 今や「やけたとう」として呼称され、文化遺産にも登録されているエンジュシティのカネのとうだが、かつて人々との絆が断ち切られるまではルギアこそが主として舞い降りていた場所である。

 スイクンたちの前身がいつの時代からカネのとうに住んでいたのかはわからないが……仮に昔からいたのだとすれば、後に伝説の三聖獣と呼ばれるほどのポケモンたちがかつての塔の主と全くの無関係とは思えなかった。

 

 故に──

 

 

「要するに……スイクンたちは昔のよしみでルギアに頼んで、この島で休ませてもらっているんじゃないかって思ったんだね?」

「そういうことになるね。いかに伝説のポケモンとは言え、不眠不休で四六時中走り回ることはできないだろう。伝説のポケモンとして名が広まり、私のような俗人に狙われることの多い身ともなれば尚更だ」

「だからどこか落ち着いて、足を休ませている拠点がある筈だと……うん、確かにこの島は休憩所には打ってつけかも。スイクンなら荒れた海だってヘッチャラだろうし」

 

 

 場所は海の神ルギアを祀る、うずまきじまの洞窟奥地にて。

 紫色のタキシードの上に純白のマントを羽織った紳士が、銀色の巫女装束に身を包む可憐な少女と向かい合って談笑していた。

 

 ミナキとタカネ。共に無人島の洞窟内を歩き回るにはあまりにも派手な装いをしているが、祭壇の前という厳かな場所だからこそ二人の姿は妙に神秘的に見えた。そんな両者の対面である。

 タカネは二回り以上大きい彼の顔を上目遣いに見上げながら、気安い調子でうんうんと頷きながら言った。

 

「言われてみればこの島は、ポケモンたちが落ち着いて身を隠すには絶好の立地なんだよね。なのにそこまで珍しいポケモンが住んでいるわけじゃないのは、不思議と言えば不思議かも」

「洞窟を進んだ先で君のニンフィアを見かけた時は驚いたがね……噂には聞いていたが、本当に海神の巫女になっていたとは。よく似合っているよ、タカネ」

「えへへ、それっぽい衣装でしょ? ルギアのイメージに合わせたんだー!」

「きゅう!」

 

 ヒラヒラと袖を振り回しながらその場で一回転し、タカネは自身が纏った白銀色の衣装をドヤ顔で見せびらかす。その傍らでは、彼女の相棒であるニンフィアまでも何故か得意げな顔を浮かべていた。

 ニンフィアとしては自らの主人が、今の自分の姿のように華々しい衣装を身につけてくれたのが嬉しいのかもしれない。

 旅のポケモントレーナーとしてこのジョウト地方を回っていた頃の彼女は動きやすさ重視の出で立ちをしていた為、今のように着飾ることは珍しかったのかもしれない。

 そう推察しながら巫女装束姿のタカネを見つめるミナキの目は、どこか親戚の子供の成長を見守るように穏やかな眼差しをしていた。

 

「スイクンを捜すついでに会いに来てみたが……一年も経てば、変わるものだね」

「子供の成長は早いからねー。ミナキさんは大人だからあんまり変わってないけど」

「そうかな? 君に「スイクンハンター」という異名を与えられてから、私も自分の中では心境の変化があったつもりだが……」

「あっ、気に入ってくれてたんだ、そのあだ名!」

「ふっ……肝心のハント実績はゼロだがね」

「大丈夫大丈夫、私も公認じゃないけどルギアの巫女してるから!」

 

 HAHAHA! と冗談を交えながら談笑する二人。

 片や自称スイクンハンター。

 片や自称ルギアの巫女。

 世間一般的には「無職」と呼ばれる道楽者の二人は、意外なほどに仲が良かった。

 ミナキは二十代の中盤で、タカネは十三歳。年齢にして二倍ほど離れている二人だが、長年の友人関係のようにウマが合ったのだ。

 

 この神聖な場所で再会を喜びながら和んでいる二人だが……もちろんこれが初対面ではない。

 タカネが三歳の頃からスイクンを追っていたミナキは、スイクンの生まれ故郷であるエンジュシティにもその頃から頻繁に通い詰めていた。

 

 そしてエンジュシティと言えば二つの塔にまつわる伝説が有名だが、タカネの実家である「エンジュの踊り場」の存在もまた、全国的に名の知れた名物だった。

 

 そこで行われる観光客に向けた演目のテーマには、塔の伝説について吟遊詩人のように語る内容が多く──それに興味を持ったミナキ少年が、学術目的で踊り場を訪れたことは一度や二度ではなかった。

 踊り自体に興味があったわけではないが……由緒正しき舞妓さんたちが語るエンジュの伝説には、一研究者としても新しい知見を得るものがあったのだ。

 ミナキがタカネと出会ったのも、その時だった。

 

 

『あっ、スイクンハンターだ!』

 

 

 見目麗しい舞妓さん目当てに訪れた他の観客たちとは明らかに気色の違う目で舞台を見つめていたミナキの姿は、舞台の側からも目立っていたのだろう。

 演目が終わった後、唐突にそんなことを宣いながら指を差してきたのが、当時八歳のタカネだった。

 

 そしてその瞬間、カネの塔を貫いた雷のような衝撃が、ミナキの脳に奔ったのである。

 

『……今、何と?』

 

 ミナキが聞き返すと、幼い少女は小首を傾げながら復唱した。

 

『? スイクンハンターでしょ? 違うの?』

 

 スイクンハンター。

 

 スイクン、ハンター。

 

 ミナキはその時、思ったのだ。

 それ、いいなと。

 

 

 将来は地元タマムシ大学で学び、オーキド・ユキナリ氏のようなポケモン博士になることを漠然と目指していたミナキ少年にとって……彼女が迷い無く呼んだその造語は、まるで彼が心の底から願っていた「本当の夢」を言い当てていたかのようで──しっくり来たのである。

 

 

 そうとも、ミナキはスイクンハンターである。

 伝説のポケモンスイクンだけを追い求める、スイクンだけを標的とした専門の狩人だ。

 

 

 十年も掛けて未だに狩猟実績の無い実質無職の夢追い人である彼に対して、後ろ指を差してくる者は少なくない。同い年で昔から交流のある親友のマツバなどは、今やジョウトの誇る立派なジムリーダーだ。そんな彼と比較すれば、なるほどミナキはいつまでも子供の頃の夢を忘れられない落伍者であろう。

 

 いつかは捨てなければならない夢なのかもしれないと、そう思っていたこともある。

 しかしミナキには、とうに二十歳を過ぎた今になってもまだ捨て切れてはいなかった。

 寧ろ自分が「スイクンハンター」であるという自覚と誇りが、今の今まで子供のようにスイクンを追い続けている原動力なのかもしれないと──ミナキは自らの存在を定義してくれた小さき盟友に対して、感謝の気持ちを抱いていた。

 尤も当の彼女は、そのような些末事は知る由も無いだろうが。

 

 しかし……と、ミナキはしみじみと呟く。

 

「しかし面白いものだな。私の生きる道を「スイクンハンター」と定義した君が、「ルギアの巫女」などという新たな道を歩んでいたとは」

「そう? そんなに不思議かな。海の神様なんだから、専用の巫女ぐらいいてもいいじゃん。寧ろ今までいなかったのが不思議じゃない?」

「ふふっ……世間は我々のように、伝説に詳しい者たちばかりではないのだよ」

「そうかなぁ……」

 

 「まいこはんちのタカネ」の活躍については、ミナキもある程度は聞き及んでいる。

 タカネが八歳の頃に初めて会って以来、彼女の語る伝説のポケモンに関する見解は非常に興味深いものだった。故にミナキは早々に彼女と意気投合し、ポケモン博士も顔負けな彼女の博識さを高く評価していたのだ。

 

 

『スイクンはああ見えて、素早さはそこまで高くないんだよね。その分、物凄く固いポケモンなんだ! ライコウはイメージ通り速くて強いポケモンで、エンテイは……エンテイは攻撃力が高い』

 

 

 思えばスイクンが水辺を中心に駆け回っていた事実も彼女はその頃から知っていたし、当時は伝説のポケモン故にまともな交戦記録すら出回っていなかったにもかかわらず、彼女は三聖獣に関するそれぞれの能力まで完全に理解していたものである。

 

 

 ──この子は将来、私やマツバとは比べ物にならないトレーナーになるかもしれないな。

 

 

 並外れた知識量を持つ彼女に対して今では歳の近い友人のような感覚で接しているミナキであるが……彼女の才能の片鱗を見てきた者として、彼はタカネという少女が将来どれほどの大物になるのか期待していたものである。

 

 十歳になって旅に出た彼女が僅か一年でジムを制覇し、ポケモンリーグへ挑んだという話を聞いた時も、「まああの子ならそれぐらいやるか」と喜びながらも驚きは無かった。ミナキから見てタカネは、トレーナーとして過去に類を見ない素質に恵まれていたのだ。

 

 リーグ挑戦の結果は、当時のチャンピオンであるレッドに敗れたと聞いたが……

 

 

「ルギアの巫女か……私にとってのスイクンが、君にとってのルギアだったのだな」

「んー……うん。そういう感じなのかな? どうなんだろう……」

「いいさ。その感情は容易く口にできるものではあるまいよ」

 

 

 チャンピオンに敗れた後は実家に帰り、大人しく真面目に舞妓の修行をしていたと言う。

 そんなタカネの様子は以前ミナキが会った頃よりも落ち着いており、ともすればポケモンリーグで現実の壁に当たったから──のようにも思えたが、ミナキは彼女の目に宿る確かな熱を見て、即座にその可能性を頭から外していた。

 

 この子がポケモンバトルをやめて実家に戻ったのは、壁に当たり挫折したからではない。

 もちろんこの島に篭り、ルギアの巫女などという役職を自称し始めたのも現実逃避などではない。

 同類だからこそ、ミナキにはわかるのだ。

 今の彼女を突き動かしているのは、他人の尺度では決して計ることのできない「深き魂」であることが。

 

 

「そうだね……銀の巫女、というのはどうかな?」

「え?」

 

 

 今の彼女の在り方を見て、脳裏に思い浮かんだその呼び名をミナキは提案する。

 かつて彼女は、ミナキの在り方を見てスイクンハンターと呼称した。その意趣返しも含めて、ミナキは今のタカネに対して新たな役職を命名してあげたのだ。

 

 海の神ルギアのもとに仕える為に、誰もいないこの島の洞窟に一人で舞いを捧げている彼女には……その身に纏う衣装の色からして、「銀の巫女」と定義するのが相応しいと思った。

 

 

 ──それが今から数週間前のこと。

 

 シルバーがうずまきじまを訪れる、大体直前ぐらいの出来事であった。




 ミナキさんを真面目に書こうとしてるのにどうしてもハム仮面が頭にチラついてしまう……

 タカネの中でエンテイの評価が微妙に低いのは、前世の彼女はエンテイがせいなるほのおを覚える直前ぐらいの時期にお亡くなりになったからです。オリ主に悲しき過去……
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