Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか? 作:GT(EW版)
赤髪のポケモントレーナー、シルバーは弱い者が嫌いだった。
力こそが正義だと信じており、気に入らない者を全て捩じ伏せる為に、彼は世界で最強のポケモントレーナーになることを決意した。
彼がそのような極端な性格に育ったのは主に
故に……彼は自分が強くなる為ならば、手段さえ選ばなかった。
ワカバタウンのウツギポケモン研究所では「ワニノコ」を奪取し、タンバシティでもポケモンマニアから「ニューラ」を強引に奪い取っている。
生温い感情は何の意味も無い。何者にも脅かされない絶対的な暴力こそが強さなのだと──彼はそう思っていたのだ。
……しかしジムバッジを集め、ポケモンリーグに挑もうとする今になって、その信条が自分の中で揺らぎ始めていることをシルバーは感じていた。
力だけでは強くはなれない。ポケモンへの信頼と愛情こそが人を強くするのだと語るドラゴン使いを前に、彼は手も足も出せず敗北を喫した。全てが狂い始めたのはあれからだ。
そして初めて会った時から気に食わなかった、自分が「弱い奴」だと見下し続けていたワカバタウンの金帽子にも彼は敗北を喫した。
自分の指示は間違っていなかった。スパルタ式で鍛え上げたポケモンたちのレベルも、少なくとも金帽子のトレーナーには劣っていない筈だった。
それでも勝者となったのは彼の方で、負けたのは自分だったのだ。その事実が、彼の心を苛立たせた。
ポケモンへの信頼や、信頼を語る生温い連中に……世界最強になる筈の自分は劣っているのだと。
──そしてつい先日も、彼は無様な敗北を喫したところだ。
それも……エンジュシティの舞妓さんに。
舞妓さんたちが一人一匹ずつポケモンを繰り出してくる変則的なバトルは、五人がかりという意味では確かにシルバー側に不利な条件ではあった。
しかし、だからこそ、シルバーにはエンジュの踊り場で行った彼女らへの敗北が癪に触った。
負けた以上、彼女らの腕前は認めるしかない。戦う前はたかが舞妓さんと侮っていたが、五人の実力は本物だった。
しかし五人という人数が束になって掛かってくるその姿は、思わぬところで彼のコンプレックスを刺激していた。
「一人一人は弱い癖に、集まって偉そうにする。そんな奴らを、俺は許せない」──かつて金帽子のトレーナに言った言葉だ。
五人の舞妓さんとの戦いに敗れたということは、彼が否定した「組織」という集団の強さに屈したという事実でもあり……なおのこと悔しかった。
だが……
「……俺は……負けたんだ……っ」
俺の負けは認める。
否、認めるしかできなかった。こうも立て続けに負けが重なれば、何かの間違いだと目を背けることはできなかった。
それこそ負け犬の遠吠え──弱い奴のすることだと、自分自身に腹が立つ。
エンジュシティの踊り場から脇目も振らず飛び出していった彼は、俺は弱いのかと……これが俺の限界なのかと打ちひしがれた。
──だが、そこで折れなかったのがシルバーという少年の強さだった。本質と言っても良いのかもしれない。
ふざけるな、こんなところで終わってたまるかと。
俺は誰よりも強い、世界最強のトレーナーになるんだ! と。
その感情を昂ぶらせる、反骨の精神だけが彼の心を支えていた。
そんな危うい状態の彼が求めたのは、今の自分を超える為に必要な「より大きな力」だった。
勝利に必要なのは絶対的な力だ。
ポケモンとの友情、信頼、愛情……そんな生温い感情はまだ、今の彼には届かない。
怒りの中で生きてきた彼が常に求め続けていたのは、全てを捩じ伏せる純粋な力だった。
最強のポケモンを捕まえて、あのドラゴン使いにも、金帽子にも、ついでに舞妓さんにも見せてやる……俺だけが手に入れる本物の強さをっ!
──そんな彼は、圧倒的な力の象徴として「伝説のポケモン」の力を求めたのは必然だった。
舞妓さんに敗れ、逃げるようにしてエンジュシティから飛び出した彼がたどり着いたのは「うずまきじま」。そこは伝説のポケモン「ルギア」の目撃情報がある縁の地だった。
シルバーの頭の中には、今頃は舞妓さんたちとの戦いを勝ち抜き、虹色のポケモンへと導かれているであろう金帽子の少年の姿が浮かび上がっていた。
非常に気に入らないが……彼の実力は本物である。
ロケット団の再興を阻止した彼は、今の自分よりも強い。そんな彼ならば、舞妓さんに負けることはないだろうと理解していたのだ。
奴ならもしかしたら……そのまま虹色のポケモンを捕まえるかもしれないとも。
仮にそんな時が訪れてしまえば、互いの実力差はさらに広がるばかりである。そんなことは許せなかった。
だからこそ、シルバーの手には虹色のポケモンを超える伝説のポケモンの存在が必要だったのだ。
──虹色のポケモン「ホウオウ」の対となる、銀色のポケモン「ルギア」の存在が。
「そうだ……ルギアはここにいる筈なんだ……!」
エンジュシティやフスベシティ、タンバシティで密かに伝説のポケモンの情報を集めていたシルバーは、この「うずまきじま」にルギアが眠っていると当たりをつけていた。
エンジュシティの坊さんや舞妓さんの話によればルギアは心の清らかなトレーナーの前にしか姿を現さないと言う話だが、そんなものは知ったことではない。
海の神と呼ばれていようと、ポケモンである以上捕獲は可能な筈だ。ならば無理矢理にでも表に引き摺り出すまでだと、シルバーは臆さなかった。
そんな彼は荒波や渦潮を乗り越え、四つあるうずまきじまの洞窟を巡り、しらみ潰しにルギアを探し回る。
しかし、今のところ成果は思わしくない。洞窟の中をどれほど突き進もうとも、姿を現すのはズバットやクラブのような弱いポケモンばかりであった。
「雑魚は引っ込んでろ!」
彼が狙っているのは伝説のポケモンだけだ。今更レベルの低いポケモンは必要無い。
伝説と呼ばれるほどの存在である以上、簡単に見つけられるのなら誰も苦労はしないとわかってはいるが……今の彼は焦りのあまり、心に募った苛立ちをコントロールできていなかった。
当たり散らすような感情でニューラに攻撃を命じると、群れて挑めば勝てるとでも思っていたのであろう、襲い掛かってきたズバットの集団を手当たり次第蹴散らしていった。
そんなことを彼は、洞窟に入ってから何度も、流れ作業のように繰り返している。
レベルが低いとは言え、すばしっこい野生ポケモンたちを何匹か倒していくうちに少しずつニューラの動きが洗練されていくのを感じていたが、それだけではあのドラゴン使いや金帽子の少年との差を縮める訓練にはならなかった。足りないのだ、この程度では。
タンバシティとアサギシティを隔てる海に浮かぶ四つの無人島、「うずまきじま」は元々一つの島だったのだが、かつてこの島を挟んで戦争行為を行っていた人間たちに激怒したルギアが雷を落とし、島を四つに引き裂いたと言う。
そんな当時の力の余波が今も残っている為か、周辺の海域は常に激しい渦潮が発生している。「うずしお」の技を使わなければ島に近づくこともできない不安定な環境だった。
故に、伝説のポケモンの噂がありながらもこの場に足を踏み入れたことのあるトレーナーの数は多くない。
伝説のポケモンの生息地であるという噂は、それだけで数多くのデメリットを補って余りあるロマンがあるが……未だ捕まえた者は存在しないという事実が、捜索の困難さを物語っていた。
シルバーもまた、上陸から数日が経った頃には既に行き詰まり始めていた。
「ちっ、ここもハズレかよ!」
憎々しげに舌を打ちながら、シルバーはポケットに手を入れたまま行き止まりの壁にヤクザキックを叩き付ける。
これで四つの洞窟の内全てを回ったことになるが、彼は未だ、何の成果も得ることができないでいた。
元来気の短い彼がその状況に焦燥感を抱かない筈もなく、朝から夜まで機嫌は最悪だった。
そんな彼の心情を察してか、彼のポケモンたちも自らの能力を駆使して探索に当たっていたが……伝説のポケモンの姿は存在の痕跡さえ見つけることができない。
暗い洞窟の中でも超音波で地形を完璧に把握できるゴルバットや、実体が無いが故に洞窟の壁を自在にすり抜けることゴーストの目でさえも、手掛かりを見つけることができなかったのである。
手分けして捜索していた彼らがシルバーのもとへ合流すると、主人の期待に応えられなかったことを申し訳なさそうに顔を伏せていた。
この時、「揃いも揃って役立たずが!」──と、少し前までのシルバーならそんな彼らを厳しく叱責していたところだろう。
しかし、この時の彼は苛立ちこそ隠せないものの、彼らに罵声を浴びせることはしなかった。
もういい、戻れ──と、労いの言葉こそ無かったが、一晩中捜索してくれた彼らをボールに戻したのである。
そんな他ならぬ自分自身の僅かな変化に、シルバーは気づかなかった。
それは、今は無駄に声を上げることで余計な体力を消耗したくなかっただけなのか、或いは──
「っ! 誰だ!?」
──見られていると、誰かの視線を感じたのはその時である。
ゴルバットとゴーストを回収したシルバーは、注意深く警戒しながら背後を振り向く。
そんな彼が気づいたのである。
その視線は自分と同じく伝説のポケモンを捜して島を訪れたトレーナーか、それとも野生ポケモンのものか? 少なくとも先ほどまで蹴散らしてきたズバットたちとは違う気配だと直感的に分析しながら、彼は腰元のモンスターボールから「オーダイル」を繰り出し、万端な準備で視線の主を見据えた。
──そこにあったのは、ぬおっとした顔だった。
ぬめっともしているが、それ以上にぬおっとした顔である。
実に抽象的な表現になってしまったが、一文で表現するにはそれ以外の言葉が見つからないほどその顔はぬおっとしていた。
「……なんだ、ヌオーか」
無駄に警戒していたのが馬鹿らしいと、シルバーの中で張り詰めていた緊張感が急速に萎えていく。そんな彼の様子を見て、青いポケモンが不思議そうに首を傾げた。
不躾な視線の主はみずうおポケモン「ヌオー」だった。
壁際に溜まっていた水溜まりから、見るからに何も考えていなさそうな顔を出しながら、そのポケモンは「ぬお」っと鳴きながらシルバーを見つめている。ヒワダタウンのヤドンを彷彿させる能天気な眼差しには、野性的な戦意は感じない。
……いや、ぬおっとしすぎてそもそも何を考えているかわからないと言うべきか。
そんな彼の放つ悠々自適でゆるい雰囲気は両者の間に独特な空気を漂わせ、戦う為に繰り出された筈のオーダイルは「えっ、オレこれと戦うんですか?」とでも言いたげな様子で困惑し、シルバーは思わず溜め息を漏らした。
「お前は……悩みなんて何も無さそうな顔しているな」
「ぬおー」
野生のポケモンに対してそんな声を掛けたことなど、今までなかったなとシルバーは思う。
見どころがありそうなポケモンなら捕まえるし、無ければ無視を決め込むか、経験値として駆逐する。彼にとって野生ポケモンの価値など、強いか弱いかでしか測る必要の無いものだった。
力こそ全てだと……そう思っているから。
だからこそ、この……なんだろうか。強いとか弱いとか、力への渇望などとは全く無縁の世界で生きていそうなぬおっとしたポケモンに対して、シルバーは不思議な感傷を抱いてしまったのである。
ヌオーを相手に「お前その態度はなんだ!」と説教したところで不毛な話だったが。
一向に手掛かりが見つからない伝説のポケモンの捜索に、自分もよほど疲れているのだろう。シルバーはその辺りに転がっていた岩の上に腰を下ろすと、少しの間休憩することに決め、腕を組んで目を瞑った。眠りはしないが、こうして目と頭を休めるだけでも気分転換にはなる。
既にこの辺りの野生のポケモンたちには力を見せつけている。ここで休憩したところで襲い掛かってくるようなポケモンはいないだろうし、仮にいたとしても、いつでも返り討ちにできるようにオーダイルを待機させておいた。
そんな彼の様子に、オーダイルはホッとした様子で、どこか嬉しそうな顔で頷く。
シルバー自身は気づいていなかったが──彼のポケモンたちは気づいていたのだ。彼の僅かな変化に。
休憩中の警護を命じたということは、それだけの「信頼」をオーダイルに寄せているという証であった。
奇妙な形ではあったものの、姿を見せただけで主を休憩する気にさせてくれた野生のヌオーに対して、オーダイルは感謝していた。
しかし、当のヌオーは何を考えているのやら、未だ水溜まりの水面から顔だけを出した姿勢のままこちらの様子をぬおっとした目で見つめている。彼の立っている水溜まりはポケモン二匹分程度の大きさであったが、思ったよりは深いのかもしれない。
そんな水溜まりからじっとこちらを見ているヌオーの姿には依然として敵意は無く、お世辞にも強そうには見えなかったが、場所が場所である為かオーダイルの目には少し不気味な様子に映った。
念の為、いつでも追い払えるようにオーダイルは構えていたが……しばしの沈黙の後、その場から急に飛び跳ねるように立ち上がったシルバーの声に、ビクリと肩を震わせる。
「待て……なんでヌオーがここにいる!?」
ほんの少しの間ではあったが、目を閉じて一旦頭の中を整理したシルバーが、一見すると特に不思議ではないこの状況の異常さに気づいたのが、その時である。
そう──ヌオーはうずまきじまに生息していない。進化前の「ウパー」も然り。
見た目的には生息していても違和感の無いポケモンだが、意外にもこの辺りでヌオーが発見された記録は存在しなかったのである。
伝説のポケモンを捜す為に、シルバーは下調べとしてこのうずまきじまに分布するポケモンの情報を一通り頭に入れていた。
それらの情報が間違っていない限り、ヌオーは間違いなくこの地には生息していない筈なのだ。
それはこのヌオーがこの島では目撃例の無いレアポケモンだった──ということになるが、シルバーにとって重要な事実はヌオー自身ではなく、このポケモンの住処にあった。
「おい、お前……どこから来た?」
「ぬ?」
彼の立っている水溜まりに近づき、問い掛ける。
うずまきじまの洞窟に、ヌオーの目撃例は無い。
しかし今、シルバーの前にはヌオーがいる。
それはつまり、この洞窟の中にはヌオーの住処となっている場所がどこかにあるということであり──その事実は、ここにはまだ人々に発見されていないエリアがあるという可能性を示していた。
もしかしたら伝説のポケモン──ルギアはそこにいるかもしれない。
まだ想像の域を出ないが……これまでの探索には無かった、確かな手掛かりだった。
「ポケットモンスター ライジングハートゴールド・ディープソウルシルバー(通称RHGDSS)」では、ファンの間で「鬼畜三銃士」と呼ばれているポケモントレーナーがいる。
それはこのゲームに登場するキャラクターたちの中で、攻略難易度が抜きん出て高いトレーナーたちであった。
一人はレッド。
ポケモン金銀、HGSSでもラスボスを張った言わずと知れた初代主人公は、本作でも圧倒的なレベルの暴力で蹂躙してくる。特定のイベントを進めた場合にはさらに強化された姿で登場し、初代主人公の特権とばかりに「メガシンカ」「Zワザ」「キョダイマックス」「テラスタル」等前作までの特殊要素を巧みに使いこなしてくる。
インフレしていくポケモンシリーズの中でさらに自重を捨てた最強のポケモントレーナーは、原点にして頂点と呼ばれたその立場をより盤石なものとしていた。
二人目は本作の新キャラクター、DSSではルギア爆誕イベントで活躍する「ぎんのみこのタカネ」だ。
作中ではレッドがチャンピオンだった頃のセキエイリーグに挑戦したことがあると語った彼女とは、ジムバッジを16個集めた後でうずまきじま奥地にて挑戦することができる。
手持ちポケモンはバンギラス、ヌオー、エアームド、ポリゴン2、ハッサム、ニンフィアと強力なポケモンを扱い、レッドよりレベルは低く特殊要素こそ使ってこないものの、それぞれ「じゃくてんほけん」や「しんかのきせき」「こだわりハチマキ」等、強力な持ち物を惜しみなく装備させている姿はリアルの対戦勢を彷彿させた。
伝説のポケモンを手にした主人公を初手から600族で苦しめてくる姿は、かつてのゲーチスがより凶悪になったようだと評判である。
そして三人目──「覚醒」ライバルである。
ゲーム中で特殊な条件を満たした時、主人公へのリベンジに燃えるライバルがフスベシティの「りゅうのあな」ではなく、うずまきじまの奥地で修行する姿が見られるようになる。
そしてこちらも16個のジムバッジを集めた後でポケモンリーグに挑むと、原作同様主人公に勝負を仕掛けてくるのだ。
「まてよ……
いまから ポケモン リーグ
ちょうせん か?
それは むり だぜ
そだてに そだてまくった
オレの ポケモンが
おまえを たおすからな
ホウオウ(ルギア)を つかまえたからと
いいきになるな……
○○! けっちゃくを つけてやる!」
──と、少し変化した台詞を吐きながら、チャンピオン戦BGMを彼のテーマ風にアレンジした新曲で挑んでくる。
HGSSでは強化後のワタルに及ばなかった手持ちポケモンのレベルは段違いに上がっており、プレイ内容次第では「あるポケモン」を使ってくることでプレイヤーを驚かせる。
そう……キミ自身のプレイで変化していく赤髪のライバルの成長要素もまた、本作の見どころの一つなのだ。
新作では久しぶりに金銀ライバルぐらい尖ったライバルが出てきたらいいなぁと思っています。ビート君は惜しかった(´・ω・`)pink