Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか?   作:GT(EW版)

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チート転生者的スローライフ

 ポケモンの世界と言えど、現実とゲームの世界ではあらゆる勝手が異なるのは至極当然の話である。

 

 ポケモンバトルにおいてもこの世界ではゲームのように交互にターンが回ってくることはないし、公式の試合では交代制限や飛行ポケモンの高度制限等、スポーツと同じく決められたルールの範囲で厳正に行われている。

 交代制限や高度制限に関しては「攻撃を喰らう瞬間だけボールに戻して回避!」「ずっと飛んでいれば攻撃は当たらない!」などと言う戦法を取られたら収拾が付かない為、ゲームよりも圧倒的に自由度が高いからこそ取り決められたルールだった。

 その為、この世界のポケモンバトルではゲームと比べてスペックを発揮しきれず、割を食っているポケモンの数も少なくない。

 特に戦闘中の交代を駆使したサイクル戦は主流ではない為、ゲームで言うところの「役割理論」よりも一匹で幅広い状況に対応できる「汎用理論」の方が評価される傾向にあった。

 有名なトレーナーで言えば、セキエイリーグのチャンピオンであるワタルだろう。

 彼の代表ポケモンである三匹のカイリューは等倍範囲の広いドラゴンタイプの技はもちろん、電気、氷、炎、水とあらゆるタイプの技を使いこなす為、チャレンジャーの対策をことごとく打ち破って現チャンピオンの座に君臨していた。

 

 無論、ポケモンの相性だけが勝敗を分かつ絶対条件ではない。

 

 ゲームよりも自由度が高いが故に厳正なルールで縛られている点は多いが、現実世界のポケモンバトルではトレーナーによる思わぬ発想が勝利をもたらすことがある。

 前世のイメージとしては、やはりこの世界のポケモンバトルはアニメのポケットモンスターや漫画のポケットモンスターSPECIALのそれが近いのかもしれない。もちろん、トレーナーへのダイレクトアタックは禁止されているが。

 しかしポケモン自身の才能や種族、タイプなど基本的な要素はもちろん重要だが、前提として彼らの性能を引き出すにはトレーナーとの絆が必要不可欠である。

 使役するポケモンが感情豊かで頭のいい生き物である以上、トレーナーとの間に自分から思考を預けてくれるだけの信頼関係が無ければ、頂点の座に上り詰めることなどできないのだ。

 各地方のチャンピオンが皆、誰も彼も絵に描いたような人格者であることからも、絆パワー最強説は的を射ていると言えた。

 

 最強のポケモントレーナー、レッドはまさにその究極系だった。

 

 ゲームではひたすらレベルの暴力で蹂躙してきた彼だが、この世界における彼の強さは鍛え上げられたポケモンのレベルだけではない。

 あの時、実際に戦ってみて、タカネには彼の強さの秘密がわかった気がした。

 彼が度を越した無口な人間で常に無言なのは、初代主人公的なメタ要素ではない。彼とポケモンたちの間では、戦闘中の命令すら不要なノイズに過ぎなかったのだ。

 極まったお互いの信頼関係は、声に出さなくてもお互いに何を考えているのか理解し合えていた。……いや、タカネには「私と世間話する時ぐらい何か喋ってよ」という感情もあったが、常に無言でポケモンとの絆に全振りした関係構築もまた、ポケモントレーナーの極地なのだと理解していた。

 

 ──だからこそ、自分はそちら側の人間にはなれそうにないと思ったのだ。

 

 最強のポケモントレーナーと全力で戦ったタカネは、彼の立っている世界に触れて思ったのだ。「あっ、これ私には合わない奴だ……」と。

 絶対に負けない為に極限まで高めて戦う彼のスタイルは一ファンとしてリスペクトしているが、タカネは自分があそこまでトレーナーとしてストイックに在れる自信が無かった。

 あそこから先は前世で言うところの「廃人」の領域だと、そう感じたのである。それはエンジョイ勢の理想とは違っていた。

 

 元々タカネはジムバッジ集めの旅をしていた頃から、特に最強を目指していたわけではない。ただこの素晴らしきポケモンワールドを、全力で楽しみたかっただけだ。

 そしてポケモンバトルの世界を一通り満喫した今の彼女にとって、一番楽しいと思ったのはさらなる強さの探求よりも、前世で感じていたちょっとした引っ掛かりを解消することだった。

 

 

 ──そう、彼女にとってルギアの巫女的な存在になることは、生前から大好きだったソウルシルバーを自分の手でさらにいい感じに仕上げることを意味していたのだ。

 例えるなら、「ぼくがかんがえたさいこうのポケモンさいしんさく」を現実の世界で再現するような……誰に見せる気も無い癖に、何ともおこがましい目標だった。

 

 

 だが、自己満足も突き抜ければ多くの者に影響を与えていくものだ。

 今も「ルギアの眠る滝を眺めながら笛を吹いている私、超フルーラしてる……!」などとしょうもないことを考えているタカネは、銀色に輝く美しい巫女装束と彼女自身の整った容貌も相まって、客観的に見れば誰が見ても伝説のポケモンに似合う神秘的な姿をしていた。

 尤も、ギャラリーに人間の姿は無い。

 海の神ルギアに祈りを捧げている姿や、今も吹いているオカリナの演奏や、姉たちから教わった踊りの練習を日々欠かさず行っている彼女の姿を見ている者は、このうずまき島に住む野生ポケモンたちの他には放し飼いにされた彼女の手持ちポケモンぐらいなものだった。

 

「……よし、日課終わり!」

 

 演奏を終えたタカネはそう言って晴れやかな顔で笑うと、オカリナを抱き抱えながらベランダの上からギャラリーたちを見下ろし、深く一礼する。

 聴衆たるパウワウやクラブ、ズバットら野生ポケモンたちが拍手の代わりに鳴き声で歓声を返すと、彼らの反応にアイドル気分で手を振ったタカネが、労うように足元まで駆け寄ってきたニンフィアの首元をわしゃわしゃと撫で回した。

 

 

 ルギアに似合ういい感じの巫女的存在になると決意したタカネが、このうずまきじまで暮らし始めて早くも一年になる。頭の中は変わっていないが、タカネは十三歳に成長していた。

 

 一日の大半を洞窟の奥で過ごす無人島生活は前世の感覚で考えれば過酷に思えるが、今の彼女からすればさほど苦ではなかった。

 無人島生活と言っても、彼女にはニンフィアたち頼もしい仲間がいる。加えてこの世界の人類自体、前世の人類よりも根本的に身体能力が高いのだ。

 古くからポケモンと共存してきた歴史から、この世界の人類は主に、体力や耐久力方面で進化しているのかもしれない。

 筋力に関してもシバやシジマのような鍛え抜かれた格闘家ならば、巨大な岩を砕いたり投げ飛ばしたりすることだってできる。流石にアニメの主人公のようにポケモンの技を喰らっても平然としている人間は稀だが、見た目は深窓の令嬢然としたタカネもソロキャンプ生活に難儀しない程度には体力に溢れていた。

 

 衣食住に関しても問題は無い。

 着る物は家業でも扱っていた自作の衣装を何着か持ち込んでおり、食べ物もきのみなど現地調達で賄えている。どうしても他のものを食べたくなった時にはタンバシティやアサギシティへ買い出しに行ったりと、臨機応変に無人島生活を満喫していた。

 それはまさしくチート転生者の理想的なスローライフだった。

 

 そして住む場所に関しても、彼女は既にポケモンの力で建造済みだった。

 

 簡易テントよりも強度やスペースに安心感のある居住施設として、タカネはこのうずまきじま最深部に「ひみつきち」を作ったのである。

 

 ひみつのちから──ゲームのポケモンシリーズでは第三世代のルビーサファイアエメラルド(通称RSE)で登場した技であり、戦闘を行った地形によっては相手を麻痺させたり眠らせたり、効果が変質する特殊な技だ。

 しかしこの技の真価はバトル中の効果に非ず。岩壁に撃ち込むことで洞窟を掘ったり、木に撃ち込むことで中に人が暮らせるだけの空洞を拡張し、「ひみつきち」を作ることができるのである。

 タカネの原作知識ではひみつのちからを使った「ひみつきち」の作成は「RSE」のみの独自効果であったが──この世界ではジョウト地方でも特に問題無く、同様の効果で使うことができた。

 

 そう言えばあっちの世界ではもう、ルビサファのリメイクは出たのかな?──このうずまきじまの洞窟に「ひみつきち」を作ることに成功したタカネは、ふと前世の世界に思いを馳せたものである。

 

 彼女の享年は二十歳。西暦2014年の春頃に亡くなっている為、ゲームの知識で言えば新タイプである「フェアリー」が追加された「XY」までがギリギリ残っている原作知識であった。

 

 その為、ルビーサファイアのリメイク作である「オメガルビー・アルファサファイア」を拝むことはできなかった。それに関しては本当に悲しい、オリ主の悲しい過去だった。

 

 

 閑話休題。

 そんなこんなでうずまきじま奥地にある大広間分の一スペースに聖堂的な「ひみつきち」の作成に成功したタカネは、そこを拠点として拍子抜けするほど快適な洞窟ライフを送っていた。

 余裕の出てきた今では基地の中にルギアをイメージした銅像や祭壇まで配置しており、荘厳とした飾り付けであしらった自らのひみつきちを祠のような造形に改造していた。

 

 名付けて、「ぎんのほこら」。

 

 主人公がルギアのもとへ訪れる際、通過することになる巫女の聖地である──という脳内設定を思い浮かべながら、タカネは完成した自らのひみつきちにウンウンと頷いたものだ。

 そんな彼女のひみつきち、「ぎんのほこら」の裏手には参拝スペースとして用意した展望台兼笛、踊りの練習場があり、700メートルほど先に流れ落ちている滝の姿を眺めることができる。

 滝の手前には正真正銘本物の祭壇が構えられており、「うみなりのスズ」が巻き付けられた岩が設置されているその場所はまさしく「ソウルシルバー」で見たルギア爆誕ポイントそのものだった。

 

 原作でも思い入れ深い聖地を自作のひみつきちから眺めながら、フルーラの笛を吹いては踊ったり巫女っぽく祈りを捧げたり、相棒のニンフィアをモフったりする日常はタカネにとって至福の日々だった。

 

 元々思いつきの自己満足で始めたうずまきじまの生活だが、幸いにして彼女のポケモンたちもこの場所を気に入ってくれていた。

 ニンフィアは天然のマイナスイオンに溢れたこの洞窟の涼しさにいつも気持ち良さそうにしているし、エアームドは地底湖に棲む獲物を狙った日々のハンティングライフを満喫しており、武人的な性格をしているハッサムは滝に打たれたり、一日中感謝のバレットパンチを素振りしていたりと、町中とは違って人目が無いことをいいことに誰にも邪魔されないストイックな修行生活を楽しんでいる。

 バンギラスもここが故郷の「シロガネやま」の洞窟に似た環境だからか、賑やかなエンジュシティの町よりも馴染んでいる様子だった。

 一方で、元々人に造られた電脳ポケモンであるポリゴン2には当初、慣れない環境を強いることをタカネは心配していたが……こちらもトレーナーに似た好奇心旺盛な性格をしている為か、今までに無い新鮮な生活に充実した様子だった。

 

 そして六匹目のポケモン、ヌオーに関しては……おそらく彼女のポケモンの中で、誰よりもこの環境に馴染んでいると言えるだろう。

 

 初めて訪れた頃からまるでこの洞窟が実家であるかのようにリラックスしていた彼は、野生のポケモンたちとすらすぐに打ち解け合い、今ではひみつきちを離れて上の階層へ散歩に出掛けるのが日課になっていた。

 寧ろ、そのままトレーナーの手を離れて野生化してしまうのではないかと思うほどの馴染みぶりであったが、タカネのヌオーは見かけによらず利口である為、ご飯の時間にはいつも何事も無く戻ってくる。

 その際には散歩で見つけた貴重な石や高値で売れる欠片なども持ち帰ってくる為、ともすればトレーナーから一線を退いた今のタカネよりも稼いでいるかもしれない。

 

「ル〜ル〜ル〜ルルルル〜♪ ル〜ル〜ル〜♪」

「きゅうきゅう、きゅきゅきゅー!」

 

 今日もそんなヌオーの帰りを待つタカネは、上機嫌に鼻歌を歌いながらポケモンの座高に合わせた木製のテーブルの上に皿を並べていく。

 先日ヌオーが「きんのたま」よりも高値で取り引きされている「すいせいのかけら」を拾ってきたことから、今晩のディナーは町で買い込んだ豪勢なポケモンフーズを奮発する予定だった。

 自らの指定席に飛び跳ねて待機するニンフィアも、そんなディナータイムを楽しみにしている様子だった。

 

 そんな一人と一匹が和やかに過ごすひみつきち「ぎんのほこら」の中に、ガチャリと戸が開く音が響いた。

 

 この謙虚な戸の開け方は、ヌオーが帰ってきたのかな?とタカネは判断する。

 力自慢のバンギラスとハッサムが帰ってくる際には戸を壊してしまうほど豪快な開け方をし、ポリゴン2とエアームドはそもそも戸を使わずベランダから入ってくるからだ。

 入室の仕方一つ取っても、ポケモンの間では個性が出るものだとタカネは面白く思っていた。

 

「今日は早かったね、おかえりー!」

 

 ポケギアの時計機能によるところ、現時刻は夕方の五時だ。

 いつも帰ってくる時刻よりも三十分ほど早かったが、たまにはそんな気分の時もあるのだろう。寧ろヌオーというポケモンは見た目的に、時間にルーズな方がイメージに合っているように感じた。

 そんなヌオーの早めの帰還を笑顔で迎えながら、テーブルに皿を並べ終えたタカネが入り口の方へと振り返る。

 

 しかし、そこに立っていたのは予想していたぬおっとした姿ではなく、殺伐とした雰囲気を纏う目つきの悪い少年の姿だった。

 

「ひっ!? えっ、お、お客さん……?」

 

 予期せぬお客さんの入場である。

 タカネは予想外な状況に驚きの声を浮かべると、思わずニンフィアの陰に隠れようとしたが、醜態を晒すギリギリのところで踏み留まり、その顔に平静を取り繕った。

 

「ん……コホン」

 

 ここは無人島で滅多に人の来ない洞窟の奥地だが、それでもルギアの眠る場所である以上、訪問者は稀に現れる。

 今のように夕食の準備中に訪れた者は初めてだったが、お風呂中に来るよりはマシだと気を取り直した。

 

 そんな彼女はこんな時の為に訓練した営業スマイルを浮かべながら、来客の少年に応対する。

 

「ようこそ、ぎんのほこらへ。銀の巫女、タカネが歓迎いたします」

「……お前は……」

 

 さも「貴方が訪れることは数日前から知ってましたよ……」とでも言うような、ヤマブキシティのジムリーダーを手本にしたミステリアスで掴みどころの無い淑女の姿をイメージしながら、タカネは頭に被ったティアラから伸びる薄いベールの下から、来訪した少年の姿をまじまじと観察する。

 そんなタカネに対して、黒い服を着た目つきの悪い少年は訝しむような眼差しを送っていた。

 

 そして向き合うこと数秒後、タカネのミステリアスで掴みどころの無い淑女ムーブは、呆気なく崩れ去った。

 

「あー!」

「……!?」

 

 前世の記憶に刻み込まれていた原作知識と目の前の少年の姿を照らし合わせたタカネは、少年に対して指を差しながら驚きの声を上げる。

 知っている! 私この子知ってる! と、彼女は現実の世界で初めて対面した赤髪の少年の姿に感動を抱いたのである。

 そんなタカネは少年の目の前まで勢い良く詰め寄ると、自らの手でベールをめくったその顔をずいっと近づけて彼の顔を間近に確認した。

 困惑する彼の顔を数拍見つめた後、タカネは前世の記憶と寸分も変わらぬ少年の容姿に「やっぱり!」と感激し、思わず両手を握って問い掛けた。

 

 

「キミ、シルバー!? それともブラック!? あっ、もしかしたらサカキJr.とかそういう名前だったり!?」

「な、なんだお前……っ」

「会いたかったよー! そっかそっか! もうそんな時期なんだぁ」

 

 

 赤髪の少年はポケットモンスター金銀クリスタル、及びHGSSに登場する主人公のライバルそのものだったのである。

 デフォルトネームは「シルバー」が一般的だが、媒体によっては様々な名前が設定されていた彼に対して、タカネは興奮のあまり無遠慮に詰め寄る。

 そんな彼女を嗜めるように視界に割り込んできたのは、赤髪の少年の後ろからぬおっとした足取りで入場してきたヌオーの姿だった。

 

「ぬおー」

「おお、キミが連れてきてくれたんだね! ありがとヌオー!」

「ぬーん」

 

 特性は「てんねん」でありジグザグマのような「ものひろい」というわけではないが、彼女のヌオーは彼女が求めるものを拾ってきてくれる優秀なポケモンだった。

 

「……なんなんだコイツは……」

 

 そんなヌオーをでかしたと抱き締めて頬擦りする少女の姿を見て、赤髪の少年は状況を呑み込むことができず、困惑するばかりだった。

 

 

 

 

 




 タカネの巫女装束はフルーラの衣装を今風にした感じです

ライジングハートゴールド&ディープソウルシルバーの掲示板回

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