Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか? 作:GT(EW版)
ポケモン金銀でもクリスタルでもHGSSでも、ライバルがうずまきじまを訪れるイベントは存在しない。
しかし、ここはリアルなポケモンワールド。彼もまたこの世界に生きる一人の人間である以上、どのような行動を取ろうと何らおかしい話ではない。
それに……何と言うか、ゲームでも「実はライバルは主人公の知らないところでうずまきじまを訪れていました!」という設定があっても、全く違和感が無いキャラ付けがされていたことをタカネは思い出した。
ポケモン金銀及びHGSSでは何度も主人公の前に立ち塞がる彼は、ポケモンシリーズ随一のキレたライバルである。
強さに対する執着が誰よりも激しく、その為なら他人のポケモンを奪うことも厭わない。控えめに言って怖い子だった。
そんな彼の性格を鑑みれば、伝説のポケモンを求めてここへ訪れるのは寧ろ解釈一致であり、自然な行動に思えた。
実際、ゲーム中でもエンジュシティでエンテイライコウスイクンの噂を聞いた時には、主人公に先んじて「やけたとう」を訪れていた彼である。ルギアの伝説はホウオウほどメジャーではないが、エンジュシティに行けば知っている者も多い。
町のお祭りでは姉たちが踊り場でかつて「カネのとう」にいた海の神の伝説を語りながら演舞を披露することがある為、シルバーがそう言ったものを通してルギアの存在を知っても不思議ではなかった。
「シルバーくんって言うんだ。うんうん、キミの目的はわかっているよ! このうずまきじまに眠る伝説のポケモンに会いに来たんだよね?」
前世の記憶を通してライバル──シルバーと名乗った赤髪の少年の事情を理解しているタカネは、馴染みの人物と会えた嬉しさのあまり、身内に対する態度と変わらない馴れ馴れしさで応対する。
そんなタカネの態度に怪訝な眼差しを向けながら、シルバーは彼女の言葉を訂正した。
「会いに来たんじゃない。捕まえに来たんだ」
「おー」
なるほどそれは一本取られたねと、タカネはクチバジムリーダーのような豪快なイメージを胸に高らかに笑う。
尤もそれはタカネ個人が抱いたイメージに過ぎず、実際にはシルバーよりも頭一つ低い身長も相まり傍目からは豪快さよりも年相応の爽やかさを感じさせる眩しい笑みに見えていたが……それはさておき。
「自信満々だね。ふふ、優れたる操り人か……」
やはりシルバーは主人公のライバルポジション。
ゲームで見たのと変わらない強気さに安堵したタカネは、その鋭い眼光から彼が抱く力への執着心を感じ取った。
さて、どうするか? タカネはそんな彼の眼差しを上目遣いに見つめ返しながら、うーむと唸りながら長考する。
このひみつきちにはヌオーが案内したとは言え、彼は多くの冒険者たちの行手を阻む激しい渦潮を乗り越えてこの島にやって来たわけだ。
と言うことは、既にチョウジタウンのジムリーダーに認定され、「アイスバッジ」を手に入れているということでもある。
チョウジジムリーダーヤナギと言えば、このジョウト地方でも指折りの実力者である。今でも漫画「ポケットモンスターSPECIAL」での無双っぷりが頭に焼き付いているハイパーおじいちゃんであるが、この世界での彼は原作ゲームに近い穏やかな性格をしており、タカネがジム挑戦をした時には待ち時間の間これでもどうぞと「いかりまんじゅう」をくれた優しいおじいちゃんだったことを思い出す。
お菓子をくれる人に悪い人はいない。それはタカネが至った真理である。
「バッジはいくつ持ってるの?」
「……八つだ。ルギアを捕まえてリーグに行く。誰にも邪魔はさせない」
「お、やるねー! ……そっか、もうそんなに」
ゲームで主人公がチョウジタウンにたどり着きヤナギと戦えたのは、ジョウト地方での冒険が終盤に差し掛かってきた頃のことだったが、彼は既にヤナギどころかその先のフスベジムリーダーイブキも倒しているらしい。
タカネはこの一年間洞窟で暮らしていたから知らなかったが、外の世界ではとっくに原作開始──金銀の時代に追いついていたのである。
これにはタカネも驚くが、そこまで理解して「……あれ?」と大事なことに気づいた。「もしかして私、原作のイベントスルーしちゃった?」と。
元々介入する気があったわけではないが、自分の時間感覚のズレが少し怖くなったので、タカネは恐る恐るシルバーの上着の袖を掴みながら、浮かび上がった疑問について訊ねてみた。
「ねーねー、最近、外の世界で事件とかあった?」
「……なんで俺がそんなことを答えなければいけない。そんなことよりルギアはどこだ? 知っていることを教えろ」
「むー……なんだよー」
もしかして自分がこのうずまきじまで巫女的な修行をしている間に、ロケット団がラジオとうを占拠する原作の一大事件も発生していたのかと思ったが、不機嫌さを隠さないシルバーはその問いに答えてくれなかった。
「……ふん」
間近に見つめるタカネの視線から目を逸らすように、シルバーがそっぽを向く。そんな彼の反応を見て、タカネは袖から手を離した。
彼からすればヌオーに案内された先で馴れ馴れしい巫女に出会うというイレギュラーな出来事に遭遇したわけだが、話している内に本来の不遜な調子を取り戻した様子である。
それでも普段の彼を知る者が見れば、いつもよりはまだ穏便な対応に感じたかもしれない。
タカネはそんな彼の態度に困り顔を浮かべると、ハッと妙案を思いつき手を叩いた。
「じゃあさ! ルギアのこと教えてあげるから、キミの冒険のこと教えてよ!」
「なに……?」
等価交換である。
ルギアの情報が欲しいシルバーと、外の情報が欲しい私でWIN-WINだと、タカネは自らの提案を自画自賛する。
無人島に拠点を置いた生活でも食糧や日用品の買い出しに出掛けることはあるが、タカネの外出頻度は精々がその程度である為、この一年間で起こったジョウト地方の出来事は全く知らなかったのである。このぎんのほこらには神聖な雰囲気を壊さない為にテレビは無く、ポケギアは持っているが、このところ彼女はラジオも聞いていなかった。
そしてこれは、貴重なライバルの冒険録を拝聴する千載一遇の機会だと思ったのである。
しかし好奇心に突き動かされ、シルバーに対してぐいぐいと迫るタカネを制するように、後ろにいたニンフィアが彼女のスカートを引っ張ってきた。
その行動に、タカネはハッと我に帰る。
「ああ、ゴメンねみんな! もちろん、ご飯を食べてからだよー」
「きゅう!」
夕食の時間を今か今かと待っているポケモンたちの前で、私情を優先させるわけにはいかない。
タカネが初めて出会ったライバルの姿に興奮している間に、気づけばいつの間に入室したのやら、既にテーブルではニンフィアとヌオー以外の手持ちポケモンたちが行儀良く席に着席していた。
それぞれのポケモンに合わせてオーダーメイドされた木製の椅子は、タカネがトレーナー時代に稼いだファイトマネーを使って作らせた特別製の品である。
そんな椅子に座っているポケモンたちの姿をシルバーが一瞥すると、彼は一瞬驚きに目を見開いた後、数拍の沈黙を置いて訊ねた。
「……お前、強いのか?」
「ん?」
その言葉に、タカネは朝の挨拶のように軽々と応じる。
「うん、ジョウトでは一番強いんじゃないかな」
自ら作ったカレーを口にしながらあっけらかんと返すその言葉には、オリ主特有の傲慢さが滲み出ていた。
見た目は儚げな美少女。隣にはヌオー。その組み合わせは外見上こそ非戦闘的で強そうには見えないが、奥で夕食を待っている歴戦の強者面したバンギラスや姿勢良く待機しているハッサム、エアームドの姿を見れば、彼女が並大抵のトレーナーでないことをシルバーは見抜いていた。
ニンフィアとポリゴン2にしても、他では見ない珍しいポケモンである。特にニンフィアに至っては近年カロス地方で発見された「イーブイの新しい進化形態」としてニュースでも取り上げられた有名なポケモンだった。
旅の中でシルバーは、かつてニューラを持っていたポケモンマニアのように珍しいポケモンを持っているだけで大した実力も無いトレーナーとは散々会ってきたものだが……彼女はそんな連中とは違うようだと、数日前に舞妓さんを侮って敗北を喫したことが記憶に新しい今の彼は、そういう方面の嗅覚は上がっていた。
だからこそ、直感的に感じたのである。
──気に入らない。
自分を差し置いて、「ジョウトで一番強い」とほざいたこの女のことが。
本当なら今すぐ力の差をわからせてやりたいところだが、彼にとってはここにいる得体の知れない少女こそがようやく見つけたルギアの手掛かりでもある。
無論、でまかせなら許さないが……彼女が実力のあるトレーナーであることは、然程疑っていなかった。
この場まで案内してくれた(歩くペースが遅すぎてイライラしたが)ヌオーは見た目がぬおっとしている為迸る力を感じなかったが、バンギラスたちからは鍛え上げられた力をわかりやすく感じたからだ。
故に、シルバーは渋々ながらも彼女の申し出に付き合ってやったわけである。
彼女から「たくさん作ったから、キミとキミのポケモンたちも食べてきなよ。お腹空いているでしょ?」と言われ、自らの空腹を自覚したことも理由の一つかもしれないが。
孤高のシルバーは普段なら人から与えられたものなど食べる気にならなかったが、数日間における無人島生活は彼にとって少なくない負担を与えており──つまるところ、持ち込んできた食糧が尽きかけていたのである。そんな折に彼女がポケモンたちの分も含めて夕食を提供してくれたのは、彼にとっても都合が良かった。
シルバーは人一倍プライドが高いが、自分が強くなる為に利用できるものは利用する少年だった。
故に、これは施しを受けたのではない。
「ふむふむ、パーティはレアコイルにゴースト、ゴルバット、ニューラ、ユンゲラー……オーダイルかぁ。ちゃんと六匹揃えているんだね、感心感心」
「……ふん」
「なるほど、よく鍛えられている。みんな食べ方が綺麗だし、厳しく育てられているのがわかるよ」
「当たり前だ。俺が育てた奴らなんだからな」
少女の強引さに押し通される形で同席させられたシルバーは、彼女のポケモンを合わせた十二匹と共に食卓を囲みながら、巫女装束の上からエプロンを掛けた彼女の手からテーブルに差し出されたカレーライスを仏頂面のまま口に運んでいく。
カレーライスと言えば旅するポケモントレーナーたちの定番食であるが、彼女が作ったそれは普通に美味しく、癪に触った。
しかもポケモンごとに専用の味付けがされたポケモンフーズをトッピングしている手の込みようであり、彼女のポケモンたちと共に舌鼓を打つシルバーのポケモンたちもその味を気に入ったのか、普段の食事風景よりも上機嫌に見えた。
ポケモンとて、身体が資本である。良い食事が彼らに与える影響は人間と同じく無視できないものである為、美味しい料理を作ってくれたことは至れり尽くせりなのだが……気に入らないものは気に入らないのである。
何かこう、上手く言葉にできないがシルバーは気に入らなかった。
「ぬっ? ぬお……っ」
「こらこらヌオー、口が大きいからって一気に頬張らないの。ニンフィアも、口元にルーがついてる。拭き取るからこっち向いて」
「きゅう!」
「ピキー!」
「ポリ2まで……ふふ、甘えん坊だなー」
それは自分の前でペチャクチャ喋りながらポケモンたちと楽しそうに夕食を摂っている姿もそうだが、時折何気なく掛けてくる言葉が彼にとって、一々無視できない爆弾発言だったりするからだ。
馴れ合いを嫌うシルバーが半ば強引にとは言え同席させられたのも、そんな彼女の油断できない言動にあった。
「あっ、そう言えば知ってる? キミのポケモンの進化方法」
「…………」
また来た。
最初に会った時から自分の名前を何故か知っていたことと言い、あまつさえ「サカキJr.」と口漏らし、まるでこちらの素性を知っているかのような振る舞いと言い。
はじめはいつぞやの国際警察のように、素性を知る者に監視されていたのかと疑ったが……それにしては彼女の言動の節々からはそういう手合いにありがちな胡散臭さを感じない。
こちらの行動に対しては本心から向き合っている様子がどこかアンバランスで、奇妙に感じるのだ。故に、シルバーはその件について問い詰める気にならなかったのである。
……単に彼女の勢いに飲まれたとも言えるが。
そんなシルバーに問い掛けた言葉──シルバーのポケモンの進化方法という件に関しては、彼自身も捜していた興味深い情報だった。
「……ユンゲラーとゴースト、ゴルバットは知っている。レアコイルとニューラはシンオウ地方に何かあるんだろ?」
「おお! 凄いね、独学でそこまで調べたんだ。でもレアコイルとニューラは別に、シンオウじゃなくても進化させられるよ」
「何!?」
ユンゲラーとゴーストはどういう理屈かは知らないが、他のトレーナーと交換することでフーディン、ゲンガーにそれぞれ進化する。ゴルバットは懐き進化──主を自分の主人として完全に認めた時クロバットへと進化し、レアコイルにはジバコイル、ニューラにはマニューラという進化先が近年シンオウ地方で発見されたことまで調べがついていた。
最強のポケモントレーナーを目指すシルバーは言動こそ過激だが、口先だけではない努力家でもあったのだ。
そんな彼の知識量を黒髪の少女は微笑みながら褒め称えると……そう思った次には、彼の知らない知識についてあっけらかんと語り出した。
「ニューラは「するどいツメ」っていう道具を持たせて夜にレベルアップすればマニューラに。レアコイルはキミの言う通り、シンオウ地方の「テンガンざん」ってところでレベルアップすればジバコイルに進化するんだけど……実は「かみなりのいし」でも進化できるんだ! タマムシデパートで売っているピカチュウやイーブイたち向けの石じゃ無理だけど……鉱山で発掘したばかりの新鮮な石なら進化できるんだよねー」
「……それは本当か?」
「? うん、本当だよ。私もビックリした。ポケモンって、思いも寄らない形で進化するから面白いよね。聞いてよ! 実は私のニンフィアもさー」
「おい」
「うん?」
世間では大々的に公表されていない情報を世間話のような調子で語ってくる彼女の言葉を、シルバーが真顔で遮る。
デタラメなら許さないが、その情報は今までシルバーが耳にしたことのある突拍子もないデマと比べると妙に具体的な話だった。
しかしそれが真実ならば、何とも皮肉な話である。
自分一人で強くなることに誰よりも拘っているシルバーが、最終形態に進化する為には単純なレベルアップだけではなく、特殊な条件が必要なポケモンばかり手持ちにしていたというのは。
……だが、そんな感傷に浸るよりもシルバーは今、彼女に言いたいことがあった。
「俺と勝負しろ」
「……え」
「俺の前でポケモン知識のマウントを取るな!」という感情と「飯を食っている俺に話しかけるな!」という感情、そして「さっきから無駄に聞き流しにくい話をしてくるな!」という感情をコントロールできなかったシルバーが打ち出した、手っ取り早い解決の一手だった。
この女が何者か、どれほどの実力なのか、その知識の信憑性はどんなものなのかも……実際に戦ってみればわかると考えたのである。
そうしてシルバーは一々気に入らない少女──タカネに対して勝負を仕掛けたのである。
それが彼の運命を大きく左右する分岐点となることを、知る由も無く。
マニューラ Lv44。
ジバコイル Lv43。
フーディン Lv42。
ゲンガー Lv44。
クロバット Lv43。
メガニウムorオーダイルorバクフーン Lv46。
それが、ポケモン金銀の再リメイク作「ポケモンRHGDSS」において「特殊なルート」に分岐した際における、チャンピオンロード時点でのライバルの手持ちポケモンである。
いずれも通常ルート及びHGSSの同時点よりもレベルが一回り、数値にして5~8ほど上がっている為、四天王戦前の主人公に立ち塞がる難所と言うところだ。
四天王に匹敵するほど上がったレベルの高さももちろんだが、特筆すべきは「全てのポケモンが最終形態に進化している」点であろう。
過去作のライバルはこの時点ではまだユンゲラーとゴースト、ゴルバットは進化しておらず、ニューラとレアコイルに至っては最後まで進化することがなかった。そんなライバルが四天王に挑む前の時点からこれほどの仕上がりで挑んできたことに、驚かされた過去作のプレイヤーは数多い。
最終形態になった彼の手持ちポケモンは皆優秀なステータスを持つポケモンであり、努力値や性格においても能力に合った最適な調整がされている為、ライト層にとってはかなり手強い相手となっている。
そして「それまではHGSSの頃と比べて大きな変化が無かったライバルが、何故ここに来て急激にパワーアップしたのか?」という疑問については、本作から登場した新キャラクター「ぎんのみこのタカネ」が関わっているのではないかという説が専らの噂である。
──と言うのもライバルは先述した通り、本作ではうずまきじまの奥地で修行している姿が見られるからだ。
そこは彼の修行場所がタカネが日々海の神に対して祈りを捧げている「ぎんのほこら」の近くであり、修行中の姿が確認できるのも、彼がエンジュシティのまいこはんたちに敗走した後のことだった。
それらの情報から、プレイヤーの間では「舞妓さんに負けたライバルはルギアを手に入れる為にうずまきじまへ行き、そこでタカネと出会い、修行に付き合ってもらったのでは?」という考察がされていた。
その際に、ついでにゴーストとユンゲラーも交換してもらっていたのではないかと。
実際、殿堂入り後には主人公の前でライバルと彼女が会話するシーンがあるのだが、その時の彼女は普段の澄ました巫女ムーブではなく、主人公に対する時と同じようなリラックスした素の状態で話しかけている姿を目撃することになる。
そんなイベントシーンを前に、一部のプレイヤーたちからは「素を見せるのは俺の前だけじゃなかったのか……!」と、思わぬ賛否両論が上がったりもしているようだが……彼と彼女の間では、主人公の関与しないところで交流があることが当時から仄めかされていた。
そして後にアップデートにより配信された追加イベントでは、主人公が手に入れた「幻のポケモン」によって遂にその詳細が明らかになるのだが──ここでは割愛する。
ともかく一つ言えるのは、彼とのバトルを心のどこかで侮っていると……或いはそれまでのプレイで役立っていた前作知識こそが災いし、手痛い反撃を浴びるということだ。
タカネ「うん、(セキエイリーグはカントーだし、レッドとグリーンはマサラ人だから……)ジョウトでは一番強いんじゃないかな (`・ω・´)キリッ」
ライジングハートゴールド&ディープソウルシルバーの掲示板回
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