Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか?   作:GT(EW版)

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 オリ主として一番美味しいポジションですね。


原作ライバルの師匠ポジ

「本日付けでエンジュシティから参りました、タカネです。若輩者ですが、誠心誠意ご奉仕させていただきますので、どうかこの聖域に踏み入る無礼をお許しください……」

 

 

 ある日のうずまきじま。

 洞窟の最深部──「海の神」と呼ばれる伝説のポケモンを祀った祭壇の前に、その少女はやってきた。

 穢れなき白銀の聖衣に身を包んだ黒髪の少女は、流れるような長い髪先を土につけることも厭わず、ひざまづいて両手を組んでいた。

 ティアラから伸びる薄らとしたベールの下で、彼女は静かにその双眸を閉じて祈りを捧げる。

 聖女然とした所作や作法は身体全体に染み付いているように堂が入っている。少女自身が持つどこか浮世離れした雰囲気も合わさり、それは誰が見ても目を奪われるほど神秘的な光景だった。

 

 

 それは彼女に奉仕を約束された海の神──ルギアの目からも印象的に映っていた。

 

 

 まどろみの中で、彼は自身が眠る滝の前で久方ぶりに人間の気配を感知した。そこで初めて目にした少女の姿に、彼は思わず意識が覚醒しかけるほどの衝撃をその心に受けた。

 

 自分に対して健気に祈りを捧げている少女の姿は、それほどまでに印象深かったのだ。

 

 

 ──……あの一族の末裔か、と。

 

 

 その瞳、その容姿、その佇まいに、彼は見覚えがあった。

 かつて紅葉の輝くエンジュシティを訪れたルギアは、そこで虹色のポケモンと共に人間たちと絆を結んだ。……今から150年以上前の話である。

 二匹のポケモンは彼らの住む町に多くの恵みをもたらし、人々は平穏な一時代を築いた。

 人々はそんな彼らに対する感謝の気持ちとして、祭事の際には二匹の神に舞いを捧げたのである。

 

 少女からは何か、初めて自分の前で踊った「あの女性」と同じ気配を感じた。

 ベール越しに見えるその顔も、見れば見るほど「彼女」とそっくりである。

 

 あれはまだポケモンの存在が今ほど人々から受け入れられていなかった時代であり、ポケモンもまた人間のことを恐れていた時代。

 ……そんな世界で居場所を見つけることができなかった当時の自分と絆を結んでくれた、一人の舞妓の面影を少女に感じたのである。

 

 故に。

 

 

 ──……いいだろう。何も無い場所だが、好きにするといい。

 

 

 ルギアは少女がこの場に足を踏み入れることを許した。

 

 ……と言うよりも、寧ろ四六時中海に引き篭もっている自分の為に、うら若き少女を何も無い場所に留めておくことを申し訳なく思っていたぐらいである。

 

 ルギアは自らが犯した過去の過ちを思い出す。

 あの時、ルギアは良かれと思って振るった羽ばたき一つで多くの者を傷つけてしまった。そんな自身の存在に嫌気がさし、この戒めの島で眠りについてから数十年が過ぎ去った。

 

 そんな自分を「あの女性」の子孫が今も神と崇めてくれることを少しだけ嬉しく思いながら、ルギアは健気な巫女の来訪を歓迎した。

 

 

 

 ──歓迎したのだが。

 

 

「ぬっ」

「グァッ!?」

「オーダイル!」

「はい、私の勝ち! なんで負けたか、明日まで考えといてください!」

 

 

 ……ちょっとキミ、最初の時と違くない?

 

 

 今も滝の中から少女──タカネの行動を人知れず温かい目で見守っていた海の神は、彼女と初めて会った時に感じた儚き巫女の印象が目の前の少女と一致せず、そのギャップの激しさに少々困惑していた。

 

 それは、彼女がこの島に自分の力を求めてやってきた赤髪の少年を打ちのめしている光景だった。

 勝利の功労者──ハッサムと共に少年のポケモンをスイープしたヌオーとハイタッチを交わした後、彼女は満面の笑みを浮かべて滝の前にVサインを向ける。

 そんな彼女の思考をエスパーの力で読み取ってみると、騒々しいまでの声がルギアの頭脳に流れ込んできた。

 

 ──ルギア! 私たちの活躍、見てくれた!?

 

 その思考を嬉しく感じてしまう辺り、私もあの頃から何も変わっていないものだと自嘲する。

 

 ……見ているとも。眠ってはいるが、この島にいる間は気にかけている。

 

 長らくの間現在進行形で深い眠りについているルギアだが、それでも外の様子が気になった際には時折、自らの分身を作って海を泳がせることがある。

 稀にこの海域で船乗りや海パン野郎たちから「うずまきじまの周辺で巨大な影を見た!」という証言が挙がるのは、その為だ。

 

 そう……あの日、人間との絆を自らの意志で断ち切ることになった今でもまだ、ルギアは人間のことが好きだった。

 

 そんな己の気持ちを客観視できる程度には、海の神の精神は老成していたのである。

 図らずも御前試合となった少年とのバトルでいいところが見せられたと喜んでいる無邪気な巫女の姿を見て、ルギアは呆れるように嘆息した。

 

 まあ……この子が楽しんでいるのならいいか、と。

 

 あの日以来、彼女のように海に篭もった自分を気にかけてこの場所を訪れる者は過去に何人かいた。

 善意で訪れた者も、悪意を持って訪れた者も……かつてのことを心から詫びて、懺悔する為に訪れた者もいる。

 しかしこの少女は、それらの誰とも根本的に違った思惑で巫女の任に就いたと見受けられる。

 

 それがルギアにとっては、今までに無い不思議な感覚で──興味深く感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 タカネにとってそれは、自分が勝つべくして勝ったバトルであり、順当な結果だった。

 間違っても自分が負けるとは1ミリも考えていないあたり傲慢でもあったが、無情にも現状の力量差に対する的確な評価でもあった。

 

 まず根本的に、彼女とシルバーでは戦闘経験が違いすぎるのだ。

 トレーナーにしても、ポケモンにしても。

 

 セキエイリーグ挑戦以来、本格的なポケモンバトルからは二年ほど遠ざかっているタカネだが、彼女もポケモンたちもその程度のブランクで劣化するほど生半可な鍛え方はしていないし、かつての冒険で積み重ねていた貯金の差は大きかった。

 これが本気になったジムリーダーや四天王のように地力の近い相手だったのならブランクの影響も表れたかもしれないが、生憎にも彼と彼女のポケモンたちのレベル差はそれ以前の土俵に立っていなかったということである。

 例えるなら、リトルリーグで将来を期待されている有望株の選手が、特に大きな怪我もなく円満に引退したばかりのメジャーリーガーを相手に挑むようなものだ。

 

 そう言う意味では寧ろ、シルバーは健闘した方である。

 結果として彼はタカネのポケモンを一匹も倒すことはできなかったが、それでも彼女が彼を完封する為には一匹で全抜きとは行かず、ハッサムとヌオーという二匹のポケモンを使う必要があったのだから。

 

「……やっぱり、このルールだとのろいが怖いなぁ」

 

 バトル開始当初こそタカネは、「今の時点ではまだレベル差があるし、ハッサムにバレパン打たせるだけで終わっちゃうかなー」と気楽に考えていたものだが、実際にはレアコイルの耐性の前に「バレットパンチ」だけでは一撃で削り切れず、「でんじは」で麻痺させられた後、次に繰り出されたゴーストの「のろい」を受けることとなった。

 レベル差を覆す方法として有効なのが、状態異常を駆使した戦法である。タカネ自身も赤帽子のチャンピオンに挑んだ時にはヌオーやポリゴン2で似たような戦法を実践したことがあるが、ゴーストタイプの使う「のろい」ほど厄介な技は少ないと思っていた。

 レベルの差も関係無く自身の体力と引き換えにジワジワと確実に相手の体力を削っていくその技の前に、ユンゲラー、レアコイル、ゴーストを倒した辺りで「とんぼがえり」を余儀なくされ、ハッサムは後続のヌオーと交代する羽目になったわけである。

 

 そんなタカネの後ろでは試合終了後、一旦ボールに戻ることで「のろい」状態を解除したハッサムが、バンギラスとエアームドを相手に元気に喚き合っている姿が見えた。

 彼女がポケモンの言葉を解せたのなら、この時彼らの間で「レベル差が倍近くある相手にバレパン止められてんじゃねぇよ」「あのまま続けていたら貴殿は倒れていた。ヌオー殿に感謝するんだな」「うるさい! お前らだってヌオーさんに勝てねーだろうが!」と煽り合っていることに気づいたかもしれないが、伝統あるまいこはんの血を引く彼女とて、そこまではわからない。

 ただ気楽に「おー、みんな仲良しだねー」と自身のポケモンたちの様子に目を細めていたタカネは、倒れ伏すオーダイルの前で膝をついて項垂れているシルバーの様子に気づくと、慌てて彼のもとに駆け寄っていった。

 

 新人潰しは良くない。

 

 今回は相手側から挑まれた勝負であるが、久しぶりにトレーナーと戦って興奮していた彼女は、彼のポケモンを全て打ち破った今になって自らのオーバーキルを自覚したのである。

 あっ、ゴメン……やりすぎた……と。ハッとした彼女は彼女なりに、本気で落ち込んでいるシルバーの姿を見て申し訳なく思ったのだ。そこに他意はなかった。

 

 しかし。

 

「あ、あのね……っ」

「……これが、ジョウト最強の実力かよ……ここまで差があるのか……っ」

「…………」

 

 タカネが言いかけた謝罪の言葉は、絞り出すように吐き出されたシルバーの声に遮られる。

 俺が目指す先はこんなにも遠いのか……と、目標に対してあまりにも大きな壁の高さを思い知り、無力感に苛まれているその姿は──彼女にとっても何か、他人事には思えなかったのだ。

 

 それは……あんまり楽しそうじゃないと思った。

 

 そんなシルバーに対してタカネは一度伸ばしかけた手を引っ込めると、数拍の間を置いて言い放つ。

 彼女なりに気遣った、フォローの言葉だった。

 

「無理も無いよ。私が冒険を始めてチャンピオンに挑戦したのは、もう二年も前だからね。ジムバッジを集めたからって、キミはまだ旅に出て一年も経っていないでしょ? 力の差があるのは当然だよ」

「この俺に……慰めなんかいるか!」

 

 シルバーの反応は案の定と言ったところではあるが、そう突き返されてしまうとタカネもどうしたことかと頭を悩ませる。

 この年頃の男の子が考えていることは、よくわからない。自分だったら同情だったり共感してくれると嬉しいのだが……彼は違うらしい。

 オロオロと視線を彷徨わせるタカネは相棒のニンフィアと目を合わせて助力を願うが、彼女もイーブイ族では珍しい女の子なので同じく困惑した様子であり、助けにはならなかった。

 しかしハッサムら男衆は三匹ともまだ煽り合っており、ポリゴン2はそもそも性別が無い。

 そしてヌオーは自分が倒したオーダイルをぬおっと助け起こしている最中であり、声を掛けるのが憚れた。

 

「むー……」

 

 これがTSオリ主であれば、前世の経験を活かして彼の男の子的なプライドをしっかりと汲み取ってあげた上でパーフェクトコミュニケーションを達成できるのかもしれないが、生憎にも彼女にはそれができるほどの経験を前世で積んだことが無い。もちろん、今世でも。

 彼女自身は周りから男の子っぽい性格をしていると言われたことはよくあるが、本物の男の子のことは全くわからない人間だった。

 

 故に、彼女は経験則ではなく衝動的な感情で動くことにした。

 その為にはまず話を聞いてもらう為に、努めて声を張って彼に呼びかけたのである。

 

 

「慰めではありませんよ。純然たる事実です」

「っ!」

 

 

 露骨に口調を変えて言い放ったその言葉は、彼女が家業である舞妓の稽古で習得した──主に祭事で使用される演劇的な発声法である。

 

 姉たちは大勢の観客たちの前で舞台に立つという職業柄、その声には何か、人々の意識を引き寄せる力があった。

 そんな姉たちから小さな頃から直々に稽古をつけてもらっていたタカネは、彼女らほどではないが「まいこはん秘伝の技術」を身につけていたのである。

 

「あんさんは少し……いえ、集中力に大分不安がありますが、ハマっている時のオーラはピカイチどすなぁ」

 

 ──とは、何かと落ち着きの無い末妹に対して根気強く指導してくれた、タカネに対する姉たちの評価である。

 

 姉たちから技術指導を受けたのは割と昔からのことであり、それなりに熱の入った英才教育でもあった。

 「将来舞妓になるかならないかは好きにすればええどすが、覚えさせておいても損は無いどす」という方針のもと、優しくも厳しく仕込まれたものだ。

 

 そんなかつての練習の成果を、タカネは今ここで発揮する。

 奇しくもそれは……何と言うかこう、巫女的な説法のようだった。

 

「貴方の焦りは貴方のポケモンたちに不安を与え、その不安は本来の力の発現を妨げ、成長の可能性を摘んでしまいます。今、戦ってみてわかりましたが、貴方たちはこれからが一番伸びる時期です。ポケモントレーナーとしては成長期に当たるので、今はまだ焦らなくて大丈夫ですよ」

 

 稽古の日々を思い出しながら、発声法を祭事モードに切り替えたタカネは張りのある凛とした声で告げると、こちらを向いた彼の目を真っ直ぐに見つめる。

 因みに何故発声の仕方だけではなく言葉遣いまで変わっているのかと言うと、稽古の時はずっとこの言葉遣いで練習していたからである。

 姉たちも普段は「どすどす」とエンジュ弁を剥き出しにしているが、舞台に上がった時には標準語の敬語口調で語り出す。

 それと同じように、舞台的な発声練習ではタカネの言葉遣いも矯正されていたのだ。

 

 無論、舞台とは全く関係ない今はわざわざこのような口調に変える必要は無いのだが……タカネは経験豊富なまいこはんたちとは違い、アドリブが苦手だった。

 これも厳しい稽古の賜物か、発声法を変えると自然と口調までそれに合わせてしまうのである。「……まあ、これはこれでええどすな」「普段もこの調子ならこの道で一番になれるのに……」とは姉たちからの評価だった。

 

「貴方だけが急いで強くなっても、戦うのは貴方のポケモンですからね。ポケモンバトルの最高峰であるポケモンリーグに挑むということは、貴方とポケモンが共に強くならなければ意味がありません。それはとても険しい道のりですが……実現できた時その時こそ、結んだ絆は何者にも負けない……海の神さえも認める「最強の力」となります」

「……最強の、力……?」

「あ……はい。私も、今のチャンピオンも……おそらくは貴方のお父さんも、そうして強くなったのですよ」

「…………」

「ここで諦めてしまうのですか? 優れたる操り人よ」

 

 シルバーのモチベーションを上げる為、タカネなりに慎重に言葉を選びながら丁寧にアドバイスをしてあげると、シルバーは彼女としては何気なく言ったつもりの「最強の力」という単語に対して予想以上の食いつきを見せた。

 回りくどい言い方になってしまったが、要するに彼女が言いたかったのは「焦らずじっくり仕上げれば一年後には追いつけるからそう気張んなさんな」という、少々悠長で無責任な意見だったりする。

 

 しかし、シルバーは純粋だった。

 

 発言は常に物騒で捻くれており、力への執着が人一倍強い彼だが──言ってしまえばそれは、彼という少年が元々純粋な人間だったからこそ至った思想でもあった。

 

 

「諦めるわけ……ないだろ!」

 

 

 純粋だから、絶対的な力というものに夢を見ている。

 純粋だから、力があれば思い通りになると思っている。

 純粋だから、誰よりもそれを手に入れたいと考える……と言うように。

 

 その点で言えば特に力への渇望を抱くことがなく、ただ愚直に自分が楽しいと思った行動を続けた結果後から力が付いてきたタカネには共感できない感情であり──故に彼女は、彼の純粋さを見誤っていた。

 

 

「なら、俺にその力を与えろ! 伝説のポケモンを捕まえる為にも、最強のポケモントレーナーになる為にもそれが必要なら、お前が手に入れたその力を、俺に寄越せ!」

「……わぁ……」

 

 

 なんだか大変なことになっちゃったぞ……と、タカネは急に元気になって自身の肩を掴んできた彼の態度に困惑する。

 彼女はアホではあるが頭の回転自体は悪くない。故に、彼の言っている言葉の意味はしっかりと読み取っていた。

 

 ──それはシルバーの、彼流の弟子入り宣言であった。

 

 どうしたものかと悩むタカネの肩を、後ろからポンと誰かが叩く。

 それはスポーツマンシップに則り、自身が打ちのめしたオーダイルに対して爽やかに肩を貸してあげながら主人のことまでぬおっと気遣うヌオーの手だった。

 




 諸事情あって少し萎えてしまったのでしばらく止まるからよ……

ライジングハートゴールド&ディープソウルシルバーの掲示板回

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