Q.ルギアにまいこはんは似合わないのか?   作:GT(EW版)

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ぬおっての極意 兆

 シルバーがぬおっとすることを覚える為に、ヌオーの観察を行うようになってから数日が過ぎた。

 

 ……文章に起こしてみるとまるで意味がわからない行動だが、他ならぬ努力家で普段から自分を追い込みがちなシルバーだからこそ、その修行には大きな意味があった。

 タカネとしては深い考えがあったと言うよりも、力に執着し過ぎるあまり視野が狭くなっている彼の心を今一度落ち着ける為にヌオーを引き合いに出したのが始まりだったのだが、実際のバトルで目の当たりにした彼女のヌオーの強さの秘密が「ぬおっとすること」にあると理解したシルバーは絶対にそれを解き明かしてみせると、愚直なまでに観察を続けていた。

 

 その真面目ぶりは前世の知識からある程度彼の人となりを知っていたつもりのタカネをして想像以上のものであり、そこまで深く考えていなかったことを申し訳なく思ったほどだ。

 しかしその時間は決して時間の浪費などではなく、間違いなくシルバーの成長の糧となった。

 ヌオーの生き様は、言わば彼の対極である。

 

 シルバーの狩りはただ強者のみを求めて、闇雲なまでに戦いを挑み続ける。

 ヌオーの狩りは水の中で口を大きく開き、餌が自分から飛び込んでくるまでただひたすらにじっと待ち続ける。

 

 シルバーの眠りは浅い。誰よりも強くなる為には、眠る時間さえ惜しかったからだ。

 ヌオーの眠りは深い。放っておくと昼寝の時間も含めて半日以上軽々と眠ってしまうからだ。

 

 シルバーはせっかちだ。一秒でも早く強くなる為に、ただ前だけを見つめて突き進んでいく。

 ヌオーはのんびり屋だ。道を歩けば目の前をズッズッと横切るクラブに気を取られ、一歩進むまでの間に数分掛けることもザラである。

 

 シルバーは弱いポケモンに興味は無い。アサギシティ灯台のデンリュウが病気で苦しんでいた時も、「弱いポケモンなんて放っておけば良い」と言っていた。

 ヌオーは弱いポケモンにも優しい。洞窟の散歩中、羽を怪我して飛べなくなっていたズバットを見かけた際にも、彼はいつものぬおっとした動きでその子を頭の上に乗せると、治療を施してもらう為にタカネのもとまで全速力(当社比)で届けてくれた。

 

 シルバーは悪の王子だ。

 ヌオーは沼の王だ。

 

 シルバーは……

 ヌオーは……

 

 

 挙げてみればキリが無いほどに、シルバーとヌオーの特徴は何もかもが正反対である。しかし彼にとって何より困ったのが、そんな対極的な存在であるヌオーが一度戦えば歴然とした力の差を思い知るほどに、圧倒的に強かったことだ。

 

 見た目も性格も、タカネのヌオーは戦闘的には思えない。シルバーが理想とする「強いポケモン」と言うのは、それこそバンギラスやハッサムのような誰が見てもその強靭さが伝わるポケモンたちである。現に彼は、実際に戦うまでヌオーが圧倒的な力を持つ強者であることに気づかなかったものだ。

 

 

 ──もしかして、本当に強い奴は無闇に力を振るわないのではないか? 

 

 

 彼の中で一つ、浮かび上がってきた疑問がそれである。

 同じ言葉を負け惜しみとして言われたことなら、過去に数え切れないほどある。しかし思えば彼自身、これまでに戦った「強い奴」の多くはそのタイプに当てはまっていた。

 ワカバタウンで出会った金帽子の少年も、エンジュシティの舞妓さんたちも、そしてタカネも初対面の印象ではふわふわとしていてとても強そうには見えなかった。

 

 見るからに強そうで本当に強かったのは父サカキやドラゴン使いワタルぐらいなものであり、この時シルバーは「一見ではわからない強さ」というものに興味を持ち始めていた。

 この世界には、自分も知らない強さの形があるのだと──数々の負けを通して、彼は少しずつだが視野を広げることができたのだ。

 自らの無知を知ることは、成長の始まりである。故に彼はヌオーの観察を行うと決めた時点で、ポケモントレーナーとして健全に成長していた。

 

 そしてヌオーの観察はタカネの目論見以上に、シルバーに対して様々な相乗効果をもたらした。

 

 

 その一つが「観察力の向上」である。

 

 

 それは、いくら何でも毎日丸一日掛けてヌオーの一挙一動を追いかけ続けるのはせっかちな彼には疲れるだろうと気遣ったタカネが、そろそろ良いかなと気分転換を兼ねて誘った時のことである。

 丁度その時暇そうにしていたバンギラスを伴い、彼のポケモンたちと実戦形式の戦闘訓練を行ってみると──成果は現れた。

 

「つじぎりが来るぞ、ニューラ!」

「にゅっ!?」

「おー、よくわかったね!」

 

 ポケモントレーナーにとって観察力は必須技能だ。敵の動きを正確に読み取ることができれば、攻撃も防御も最適なタイミングで指示を出すことができる。極めれば行動の先読みにもつながるその技能の向上は、ポケモンバトルの大きな助けになった。

 

「ヌオーと比べれば、読みやすいもんだぜ……」

「ぬお?」

 

 彼が観察していたヌオーのぬおっとした生活スタイルは、穏やかだが非常に気まぐれだ。

 おもむろに散歩に出掛けたかと思えば突然歩みを止めたり、一時間以上経っても動かない姿には流石におかしいと思い顔を覗き込んでみれば、立ちながら「ねむる」を発動していたり。

 それから数秒後にはつぶらな目を開いて大きな「あくび」を上げると、今度はそれを見ていたシルバーの方がいつの間にか眠ってしまっていたりだとか。

 

 ゴーストポケモンのように、突然姿が消えたこともあった。

「あなをほる」で地中に潜って遊んでいただけだった。

 

 ……タカネのヌオーはそのように、日常の何気ない動作の中でポケモンの「技」を至って自然体で繰り出していたのである。

 そんな彼の観察は基本的にはこれ以上なく平和で穏やかな時間だったが、注視してみればバトルの参考になる行動が幾つもあった。

 

 それは戦術的な視点で見て、「普段ぬおっとしている奴が不意に動きを変えると対処しにくい」という教訓を彼に与えたのだ。

 

 なるほどコレは、見た目で強い弱いを判断するのは間違いと言うわけである。まずはぬおっとすることを覚えろと語ったタカネの言葉には確かに一理あると、シルバーは予想以上に得るものがあったヌオーの観察に正直、感心していた。

 隙だらけに見えて全く隙が無いヌオーにも。

 それを鍛え上げたタカネにも。

 

 

 ──因みにその件についてタカネに訊ねた際、「えっ……何それ知らない……キミあの観察でそんなこと学んでたの? 怖っ……」と引き攣った顔で返されたのがしばらく後の話である。とても不愉快だった。

 

 ……ただ、彼女の想定していた以上に、迷えるシルバーにとってヌオーの存在がもたらした影響は大きかった。

 或いは彼自身にその自覚は無くとも、悠々自適で悩みなど一切存在しなそうなヌオーの顔を見続けたことで、この島に来た当初よりその心が癒されていたのかもしれない。ヌオーセラピーである。

 彼の場合は強くなったと言うよりも、心に余裕が生まれたことで元々持っていた潜在能力を実力通りに発揮できるようになったと言う方が正しいのだろう。

 それにはタカネの生活スタイルに引っ張られ、彼自身も睡眠や休息をしっかり取るようになったことも大きかった。期間中はこれまで通り野宿を続けるつもりだった彼を見かねた彼女が、強引にでも自身のひみつきちに泊まらせてやったのが功を奏した結果である。

 

 ……そして何より、ヌオーセラピーを通して彼が落ち着きを見せるようになったことで、自身のポケモンたちとの意思疎通がこれまでより円滑になったのも成果の一つだった。

 

 ぬおっとしていれば周りがついてくる。タカネが語っていたその言葉には、ヌオーみたいな落ち着いた態度をしていればお互いの心の距離が縮まる──という意味が込められていた……のかもしれない。

 ともかくヌオーの生き様は、シルバーに足りなかったものを余すことなく教えてくれた。

 

 そしてヌオーセラピーを通して、彼の考え方が変わってきたことを感じ取ったタカネが何をしたかと言うと──彼女自身も色々とお節介を焼きたくなったのである。

 

 こちらが思っていた以上にぬおっとすることに対して真剣に考えてくれたのが、ヌオーのトレーナーとして嬉しくもあり……タカネは歳上のお姉さんとして、努力家な彼に何かご褒美を与えたくなったのだ。

 彼女はそれを、物体としてわかりやすい形で手渡すことにした。

 

「はい、するどいツメ!」

「……なんだよ急に」

「この前言ったでしょ? ニューラが進化するのに必要な道具だよ。昔拾ったのを持ってたから、キミにあげよう!」

 

 普通に経験値を積むだけでは、ニューラはマニューラに進化することができない。

 原作知識においてもライバルのニューラは最終時点でも進化していなかったことを思い出したタカネは、彼に必要アイテムである「するどいツメ」を贈呈することにした。

 因みにそれは、彼女が旅をしていた頃に拾った物である。自分のポケモンたちには無用の長物な為、必要とするトレーナーの手に渡るのならばその方が断然良いと思ったが……シルバーは彼女が差し出したそれに対して仏頂面を返すばかりで、受け取ろうとしなかった。

 

「お前の施しなんて要らない」

 

 渡りに船だった筈のプレゼントを、そう言って彼は拒んだのだ。

 他人から施しを受けるなど、弱い奴のすることだと……今まで欲しい物は強引に奪い取ってきた彼だが、その心には相手側から無償で与えられることを良しとしないプライドがあった。

 そんな彼の態度を見て「男の子だね〜……」と少年の意地を察した自称歳上のお姉さんは、したり顔で言った。

 

「そうだね……じゃあこれは、クイズに正解した景品ってことで」

「……クイズ?」

「うん、ポケモンの技当てクイズ! バトル中タイミングを見極めて、さっきみたいに私のポケモンが出す技を当てるの」

 

 観察力を鍛える修行の一環として、相手がどんな技を繰り出してくるのか的中させるミニゲームである。

 それはタカネとしては彼にご褒美を与える為の口実に過ぎなかったが、実際良い修行にもなるし我ながら妙案なのではないかと思った。

 一方的に施しを受けることが屈辱だと言うのなら、形に見える正統な報酬として受け取れば良いのだと……何ならニューラだけではなく他のポケモンたちの進化も手伝ってあげようとタカネは乗り気だった。

 

 何より前世ではポケモン金銀が好きだった彼女は、主人公のライバルであるシルバーがよりライバルらしく強くなるところをその目で見てみたいという下心があったのだ。

 

「正解する度に、キミのポケモンを進化させてあげるよ! どうせユンゲラーとゴーストも、交換する友達いないんでしょ?」

「お前、ムカつくな」

「……ごめん、無神経だった」

「謝るな。もっとムカつく」

「ごめん……」

「ぬーん」

 

 テンションが上がると、笑顔で人の心が無い言動をしてしまうのがタカネの欠点である。これにはヌオーも「今のはご主人が悪い」と言わんばかりにぬおっとした眼差しを彼女に向けており、その足元からはニンフィアがウチの子がすみませんとシルバーに対して申し訳なさそうな顔をしていた。

 

 そんな彼女のポケモンたちに毒気を抜かれたわけではないが、シルバーは「ふん……」と息を吐きながら、彼女に差し出されたするどいツメを受け取るのだった。

 

 しかし誰よりも闇雲に力を追い求めていた彼が、ニューラにレアコイル、ユンゲラー、ゴースト、ゴルバットと、最終進化まで至る為には特別な条件が必要なポケモンばかり手持ちにしているのは何とも皮肉な話だろう。

 特にユンゲラーとゴーストに至ってはトレーナー間の交流を前提とした進化条件である。彼女の言う通り、「友達」などという軟弱な関係を持たないシルバーにとってそれは非常に難易度の高いものだった。

 だからこそ、それは彼にとって実に都合の良い話だったのだ。

 

 元来品行方正とは掛け離れているシルバーに対して、彼の反骨心をナチュラル畜生な言動でプラス方向に焚き付けていくという意味では、タカネとの相性は案外悪いものではなかった。

 

 その場その場で適当なことを言っているように見えて……実際テキトーではあるが何も考えていないわけではない彼女の言葉を、シルバーは苛立ちながらも真摯に受け止めていたのだ。

 

 そうして苛立った心をヌオーの観察で癒されるという、両者無自覚の永久機関が形成されていた。

 

 そこに「進化アイテム」という目に見える報酬をチラつかせたことで、シルバーはぬおっとすることの何たるかをより熱心に学ぶようになった。

 

 ヌオー観察、技当てクイズ、報酬ゲット。

 

 ヌオー観察、技当てクイズ、報酬ゲット。

 

 ヌオー、クイズ、報酬。

 

 ヌオー、ヌオー、クイズ、クイズ、ヌオー……

 

 休むべき時に休み、鍛えるべき時に鍛える。健全なる修行の日々をぬおっと過ごしていくことで、二週間が過ぎた頃にはシルバーのポケモンたちは大幅にその姿を変えていた。

 

 ニューラはマニューラに。

 ユンゲラーはフーディンに。

 ゴーストはゲンガーに。

 そして、ゴルバットは──

 

 

「これは……」

「おめでとうございます。今、貴方がたは確かな絆を結び、ゴルバットはクロバットに進化しました」

 

 

 脳内に例のBGMを流しながら、タカネは彼のゴルバットが「なつき進化」を果たしたことを心から祝福する。

 なつき進化とは、トレーナーに対するポケモンからの信頼の証だ。ポケモン側が「この人と一緒に強くなりたい!」と願ったことによって生まれた、言わば絆の奇跡なのである。

 それは紛れもなくシルバーが一人のポケモントレーナーとして成長した瞬間であり、紆余曲折を経てその光景を目の当たりにしたタカネは思わず感極まり、まるで本物の巫女のような顔で祝詞を述べてしまったものだ。

 

 そして。

 

「…………」

 

 なつき進化の何たるかをタカネから熱く語られたシルバーは、何より彼自身がゴルバットの進化に戸惑っている様子だった。

 新生したクロバットの姿をしばらく無言で見つめていた彼は……おそらくは無意識の行動だったのだろう。その右手をそっと頭に置き、撫でたのだ。

 

 よくやったと──労うように。

 

 

「……!」

 

 自分自身の行動に驚き、ハッとした顔で目を見開くシルバー。

 それでもすぐにはその手を引っ込めなかったことを、撫でられたクロバットは嬉しそうに喜んでいた。

 

 タカネはそんな彼らのもとから空気を読んでクールに立ち去っていくと、後方からその様子を見守っていたヌオーたちと目を合わせて微笑んだ。

 クイズとは言ったものの、彼らがやったことは真面目な組み稽古のようなものである。始まりはタカネの思いつきとは言えそれを何度も繰り返している内に、彼らもシルバーとポケモンたちのことを自らの弟子のように気にかけていたようだ。

 ハッサムやバンギラスは後方で腕を組んで師匠面しており、エアームドとニンフィアも満足そうに頷いていた。

 

「ぬおー」

 

 ヌオーもまた、その日の技当てクイズを出題したポリゴン2を甘やかすように頭に乗せながら、少年の成長に対して誰よりも誇らしげな顔を浮かべていた──気がする。

 

 相変わらずぬおっとしているが、それなりに長い付き合いであるタカネには、それが喜びの表情だということがすぐにわかった。

 




 次回はみんな大好きレアコイルジバコイル論争回です

ライジングハートゴールド&ディープソウルシルバーの掲示板回

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