目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第92話『挿話:ストレイフェアリーズ』

 

 爆煙と崩れた建造物の瓦礫から巻き上がった粉塵で視界が悪い。

 

 警戒した中尉が後退しようとした瞬間、黒煙を割いてワイヤーがスナイパーライフルに巻き付いた。

 

 ドムの電磁鞭(ヒートロッド)である。

 

 外付け式のそれは、一部のパイロットが好んで使用しているもので、アンカーを撃ち込んだ対象に強力な電撃を浴びせ、パイロットや内部機器にダメージを与えることを目的とした武装だ。

 

 爆発の瞬間、誘爆の危険を犯してまでゼクス少佐はブースターを点火させ、機体を大きく跳躍させたのだ。その結果、ほぼ無傷であった。

 

 ワイヤーに絡め取られたザクのスナイパーライフルは、送り込まれた電熱によって弾倉の砲弾が誘爆して爆ぜた。

 

 衝撃で姿勢を崩したザクに、ドムが飛び込む。

 

 中尉のザクは片膝をついた姿勢で、ヒートホークを引き抜いた。

 

 少佐の繰り出した突きがザクの右胸に刺さる。

 

 中尉の斬撃は、ドムの腰部表面で止まっていた。

 

 ザクのパイロット死亡判定により、勝敗が決する。

 

 MS戦の決着は、これまでの攻防が嘘のように一瞬だ。

 

「すごい。これがトップエース同士の戦いなんだ」

 

 アルマが感嘆の声を発する。

 

「これ、シミュレーターじゃなかったら相打ちだよな。システムが勝敗を決めてストップかけなければドムは胴体を斬られてた」

 

「どうでしょうか。ザクは動力停止の表示も出てましたから、結果は変わらなかったかもしれません」

 

 三人があれこれと考察するのを、エターナは笑みを浮かべて聞いていた。

 

「どう? この戦い方、真似できるかしら」

 

「え?」

 

「それは……ちょっと」

 

「無理、だな。悔しいけど」

 

 三人はこの対戦を観て、自分たちの技量では模倣できないと結論づけた。

 

 なにより戦術判断が先鋭化しすぎて、実戦では何一つ参考にできない。

 

「あの、少尉。この動画を私達に見せたのって、どういう意図があるのでしょうか?」

 

 自分たちを鼓舞するためだったとしたら、それは逆効果だ。より一層、自信が失われてしまった気がする。ミアはそう考えており、無意識に口調に糾弾するような色が含まれていた。

 

「『できないことを知る』、だよね?」

 

「え? どういうことですかアルマさん」

 

「昔お姉ちゃんに言われたんだ。『自分ができないことを知れば、逆にできることが視えてくる』って」

 

「そうよ。第1機動小隊のメンバーは全員エース。あなた達は彼らと違うのだから、同じようにできなくていい」

 

「それは、アタシたちじゃエースになれない、諦めろってことですか!?」

 

 ヘレナが反発する。彼女の性格として、負けたままなのはプライドが許せなかった。

 

「それも違う。もちろん、自分には無理だからって諦めて、そこそこで物事をこなすのも立派なことだと思うわ。でも、貴女達はそれが、嫌なんでしょう?」

 

 だから落ち込んだ。だから悩んだのだ、とエターナは諭す。

 

「貴女たちは、貴女たちだけの、エースになればいいの。この動画は、そうやって訓練し、一つの形を成した実例として見せたのよ」

 

「でもミアたちは、考えて今の形になったんです。それなのに負けて、否定されたんですけど」

 

「無視すればいいじゃない。あの人たちは、一種の化け物なんだから」

 

「え?」

 

 にこやかに告げるエターナに、ミアとヘレナは硬直した。

 

「あの人たちは、あの人たちの経験で今の形を成した。シュミレーターの搭乗時間だけでもログを見たら驚いちゃうわよ。あの人たち、本当にいつ休んでるのかしら、って心配しちゃうぐらい」

 

 第1機動小隊は、この北米のバトルシュミレーターランキングで、小隊ごとの対戦成績で常に1位を取っている。だが、それだけでなく、搭乗時間すらこの基地内ではトップを走っていた。

 

「貴女たちは貴女たちの好きなようにやっていけばいいわ。これまでの戦術をつき詰めるのもいいし、そうではなくて、もっと新しいことに挑戦してみてもいいと思う。これからもMSに乗るんでしょう? なら、成長する機会はたくさんあるわ。生きてさえいればね」

 

 ミアもヘレナも、納得したような、騙されたような、煮えきらない気持ちになった。

 

「なんとかなるよ、みんな」

 

 アルマが明るく言った。

 

「またお前の『なんとかなる』が出たか」

 

「アルマさんらしいですね」

 

 不思議なもので、彼女がそう言葉にするだけで、本当にこれまでの問題がどうにでもできてしまいそうな、明るい気持ちになる。

 

「あらあら。私のおせっかいは要らなかったかしら」

 

 エターナも笑った。

 

 自分の妹分は、ずっと前からそうやって場の空気を明るく朗らかなものに変えてきた。フラナガン機関では認められなかったが、きっとこれこそが、彼女の持つ才能なのだとエターナは思っている。

 

「そんなことないよ! 大尉や中尉に言われたこと、ずっと考えてたんだけどさ。なんかもやもやと霧の中にあるみたいではっきりしなかったんだけど、見せてもらった動画で、答えが少しだけど見えてきた気がする!」

 

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