目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
「本当か? あんな動きあたしらにできんの?」
「そうじゃないんだけど。私、大尉に『センスはあるが、それが皆の足を引っ張ってる』って言われて、気になって何が悪かったのかずっと考えてたんだ」
あの凛々しい空気をまとった大尉が、わざわざ貶すためだけにそんなことを言うはずがない。
以前は教導隊にいたというだけあって、動きは堅実であり予測がつくものであったが、それでもこちらの攻撃はすべていなされた。技量とそれに支えられた自信、それがあの人の才覚なのだろう。
そうアルマは考えた。
「私たち、これまでいろんな任務を受けて、それを達成してきた。ミアもヘレナもすごくて、ふたりともぐんぐん成長してて、私も負けないぞ、ってやってきたつもりだったのに」
「何言ってるんですか! ミアたちの方こそ、アルマさんに助けられてばかりです!」
「そうだぜ! だから、少しでもお前の助けになりたいって思って努力してきたんだ」
「みんな、ありがと! 私ね、この北米に来て、必死にみんなと生き残るために戦ってた。でも、それだけじゃだめだったんだって気づいたんだ」
「それだけじゃだめ?」
アルマは、これまでの実戦で戦場に蔓延る『殺意』を感じ取ってきた。例外なく、相手は自分たちに強い憎しみや怒り、恐怖、そうした強い負の感情をぶつけてきていた。
そうした戦場にはびこる生の感情に取り込まれないように、殺されないように、必死になって生き延びるための道筋を探してきた。
「あの人たちは、そうじゃなかった。なんというか……もっと純粋に勝つために戦ってた。死ぬのが怖いとか、相手が憎いとか、そんな感情は見えなかった」
「そりゃそうだろ。シミュレーターなんだから。あたしだって、勝ちたいって戦ってたさ」
「そうなんだけど。まだ上手く言えないんどけど、そうじゃないというか」
アルマ自身、感じ取った感覚を他者に上手く説明するのが難しく、もどかしい。あくまで肌感覚でしかないからだ。
「つまり、パイロットとして完成していたってことかしら?」
エターナの答えに、アルマはうなずいた。
「うん。そんな感じかも。ヘレナは『勝負に勝ちたい』って思ったんだろうけど、あの人たちは『この戦争に勝つ』って覚悟みたいなものをかけてた。私みたいにガムシャラに前で暴れるのとは違くて、その動きひとつひとつが全部、そこに集約されてる気がしたんだ」
ただその時を生き抜くために、ひたすら前に進んだ自分。一方、軍人として戦いを勝利に導くために徹した第1小隊の面々。
彼らは、それが必要だと感じたのなら、自分たちの生命すら投げ出すのかもしれない。
それはアルマとしては決して受け入れられない感情と感覚であったが、不思議と理解できるものであった。
己が持つ、『本物の矜持』のために生命をかける。
殺意を超えた、静かで、それでいてより強い感情にアルマは、はじめて触れたのだった。
個々の技量差だけでなく、そうした気持ちの差が結果に繋がったのだろう。
「私ね、初めてだと思う。負けたくないって思ったの。あの人たちに勝ちたい、認めてもらいたい! って。ううん違うかな? 私、あの人たちみたいになりたいって思ったんだ!」
アルマの目が輝いていた。
わずか10代で戦場に放り込まれた少女。
死にたくないという生存本能と、自身の居場所が欲しいという存在意義を求めた欲求。そのふたつだけで必死に戦ってきた彼女は、初めて憧れる大人を見つけたのだ。
「だからみんな、なんとかなるよ! だって目標は目の前にあるんだもの! 私、これからもっと頑張って、みんなを引っ張っていけるリーダーになる! このノイジー・フェアリーを、あの人たちの部隊にも負けないくらい、最強のチームにする!」
ヘレナとミアは、互いに顔を見合わせた。
アルマは、いつも突拍子もないことを言う。
だが知っている。彼女は努力家で、自身の与えられた職務に対して全力で取り組むことを。
正直、彼女が言っていることはあまりに感覚的、抽象的で理解できる部分が少ない。それでも2人の間に不安も不満も生まれなかった。
信頼、信用、友情、努力。
だから、今回もなんとかなるのだ。
「しょうがねぇな。リーダーがやるってんなら、それについていくだけさ」
「ふふ。ヘレナさんは素直じゃないです。でも、嫌いじゃないですよ。ミアも、あの人たちに勝ちたいって思ってましたから。特に中尉には、私のMSをすごいって思わせたいです!」
「みんな! ありがとう!」
3人は笑う。
いっとき前の暗さはもう影すらない。
太陽の光すら跳ね返すような明るい光が彼女たちを包んでいるのがエターナには見えた。
「アルマちゃんは、本当に素晴らしいお友達と出会えたのね」
「うん! ふたりとも大親友!」
明るく素直なアルマ。
でも、人一倍自身の感情に過敏であり、自分の劣等感を振り切るためにひたすら周囲に明るさを振り撒き、誰よりも物事に全力を投入する少女。
エターナたちがいたフラナガン機関では、実験や試験でかんばしい成績を出せず、他人の期待に応えられない自分に落ち込んでいた。
そんな彼女が、自分の居場所を、自身の力でつかみ取ろうとしている。
その姿がとても眩しく、エターナにとって好ましかった。
「アルマちゃん、よかったらお姉ちゃんにもそのお手伝いさせてくれる?」
「え?」
エターナはアルマの手を取る。
彼女の。彼女たちの背中に見える、妖精のごとき透き通った綺麗な
太陽の光を受けて、虹色に輝くそれを慈しみ、守りたい。
エターナにとってそれは、この砂塵と硝煙に満ちた戦場で初めて見つけた、宝物のようなきらめきであった。
次回、主人公に視点が戻ります。