目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第106話 Side『ニューヤーク燃ゆ』

 

 ノインは反射的に自身の機体を左に切っていた。

 

 閃光が右腕を焼き、肘の付け根から吹き飛んでいく。

 

 ――ビームライフル!!

 

 行方をくらませていたもう一体の銃撃だった。

 

 背部にでも隠し持っていたのだろう。

 

 ノインがキリシマの機体を囮に使い、死角から接近したように、相手も味方の背中を隠れ蓑にし、狙撃をしてきた。

 

 ――味方ごと撃つとは!!

 

 右腕は爆発したが、ドムは各部がユニットブロック化されている。敢えて欠損部を投棄することで、メガ粒子の熱による誘爆を防いだ。

 

「ぐっっ! このっ!」

 

 しかし強引な方向転換と、被弾の余波は機体のオートバランサーでは抑えきれず、機体は横滑りしながら転倒。衝撃がノインを襲う。

 

 でたらめな慣性で口の中を切ったのか、血の味が舌の上に広がる。

 

 自らの不甲斐なさを反省する暇はない。2射目が来る前になんとしても体勢を整えねばならなかった。

 

 敵が銃口をこちらに向ける。

 

「させませんわよ!」

 

 キリシマ曹長が投げたヒートホークの刃が、銃身を切り裂いた。彼女のヒートホークは戦場で刃を取り替えることができるようになっている。

 

 副次的に、ロックを外して振るえば刃を投擲することが可能だった。

 

 ビームライフルを失った敵は、武装を実体弾のマシンガンへと切り替える。

 

 さすがにその頃にはノインも機体を立ち上がらせていた。

 

 とどめを刺そうと撃ち散らされる弾丸を避けながら、素早く計器類に目をやる。

 

 稼働に支障はないことを確認すると、ノインは舌打ちした。

 

 慢心。

 

 自分の方が勝っていると、MSをうまく扱えているという過度な自信が招いた結果だ。

 

 フィンゴ中尉の神がかりな通信と、キリシマ曹長の勧告がなければ今頃自分はメガ粒子とともに蒸発していたことだろう。

 

 キリシマ曹長のドムが、敵に肉薄しようと攻めるが、相手はビルの残骸を盾にするように回り込みながら、マシンガンで応戦する。

 

 曹長は突破力こそあるが、相性が悪い相手には致命的に弱い。

 

 しかもその射撃はドムのモノアイカメラ部や、腕部関節など構造的に耐弾性の低い箇所を狙っている。

 

 直撃こそないが、相手の腕は確かであった。

 

 当初に見せた素人のようなたどたどしさはない。

 

 ――だというのに、味方ごと撃ったのか!

 

 ノインの中で義憤が生まれた。

 

 高速戦闘中に相手の部位を正確に狙える腕があるならば、先程の銃撃は誤射などではない。

 

 この腕前で、味方と連携していたら自分はとてつもない脅威と感じただろう。

 

 ノインは教導隊に居た頃の経験から、相手が戦闘、いや、殺戮そのものを楽しんでいるのだと感じられた。

 

 教練を受けた数多いメンバーたちの中にも、戦術的な勝利よりも、合法的に人を殺せることに快楽と主眼を見出す者は少なからずいた。

 

 中には、格上の敵を殺せるならば味方ごと巻き込んでも構わないという危険な思想を持った者も見てきた。

 

 眼の前の敵は、そんな下衆と唾棄すべき存在と同じであった。

 

「キリシマ曹長こちらは私がやる。お前はフィンゴ中尉の援護に迎え」

 

「あん? そんなナリで何言ってらっしゃいますの」

 

 小破した機体を指摘されるが、破損したのは右腕だけだ。これが宇宙であれば機体バランスを欠いた結果、挙動が大きく狂うことになるだろうが、ここは地上。そこまで問題とはならない。

 

「フィンゴ中尉が相手にしている敵は得体が知れない。フォローしろ」

 

「わかりましたわ」

 

 曹長は踵を返し去っていく。

 

 敵は追う素振りも見せなかった。こちらを標的として据えたのだろう。単純に追撃のために背中を見せることを避けたのかもしれない。

 

 ――いいだろう。MS戦というもの教えてやる!

 

 右腕を失ったため、武装はヒートサーベル一本のみだ。だがノインにとってはそれで十分だった。

 

「私とて、伊達に教導隊にいたわけじゃない」

 

 撃ち込まれる弾丸を障害物を利用しながらすべて避ける。常に一定の距離を保ち、相手が下がればこちらは前へ、相手が詰めてくれば後方へ。

 

 ドムの装甲は厚く、本体も重量がある。弾が当たったとしても容易に動きは崩れない。そしてホバーであるこちらのほうが単純な機動力は上だ。

 

 相手は弾切れとなったマシンガンを投げ捨て、ビームサーベルを抜き放つ。

 

 安易に切り結びはしない。

 

 ビームサーベルは、ヒートサーベルよりも出力が高い。2、3回でも打ち合えば、簡単に使い物にならなくなる。

 

 相手の周囲を煽るように周回する。

 

 敵がこちらの意図しているような人格の持ち主だったら、そろそろ焦れてくるはずだ。

 

 先に鹵獲した連邦機の解析により、ビームサーベルの稼働時間は長くても3分程度と判明している。そうした制約から、パイロットの意識は短期決戦に傾く。

 

 ここまで実力差を見せつければ、相手はそのプライドから怒ることだろう。

 

 戦いにおいて快楽を求めるタイプの人間は、軒並み自尊心だけは高かった。

 

 やはり焦りを持ったのか、敵は強引な突進を行ってきた。

 

 スラスター出力が高いのか、瞬発力は高い。旧型のドムでは対応できなかったことだろう。

 

 繰り出された斬撃を一瞬横にスラスターを吹かし、瞬間的に機体を滑らせることでかわす。

 

 突き出された腕をヒートサーベルで斬り落とし、脇腹に蹴りをくれてやる。

 

 バランスを崩して倒れた敵にトドメを刺すべく近寄る。

 

「待ってくれ! 投降する!」

 

 拡声機から嘆願の声が響いた。男の声だ。

 

 命乞いをしているというのに、その声はどこか相手を見下したような不快さを滲ませたものだった。

 

「……機体を停止し、コックピットハッチを開け。それ以外の行動を取った場合は即座に攻撃する」

 

「女? あ、ああわかった。いま開ける。待ってくれ」

 

 胴部中央のハッチが開く。

 

 と同時に、敵が左腕をつきだす。左腕に取り付けられていた武装から、光条が伸びた。

 

 放たれたビームガンの一撃を、ノインはあっさりと躱す。

 

 何かをしてくるだろうと予測していた。

 

 この手の人間は容易に他者との契約を反故にする。どんな手を使っても相手を殺しさえすれば自身の勝利であると思っているからだ。

 

 戦争と殺戮の違いを理解しない愚者ども。

 

「馬鹿め」

 

 冷めた蔑みをこめて呟き、ドムの左腕に装備したヒートロッドを敵の首に巻き付けた。

 

「アギャァギギギゴギョアゴォォアエアアアア!!」

 

 致命的と言えるほどの高圧電流が機体を襲い、不規則に全身を跳ねさせながら各所から炎を上げる。

 

 オンになったままの拡声機からは、パイロットの断末魔が響き続け、やがてそれも止む。

 

 燃え崩れる機体を確認し、ノインは味方を援護するためにその場を去った。

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