目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第110話 Side『ニューヤーク燃ゆ』

 

 惜しいな。

 

 ゼクスは思った。

 

 連邦の開発した試作機。

 

 オーガスタで戦ったものと同型の機体だが、搭乗するパイロットの腕は段違いであった。

 

 どこか怯えを含んだようだギクシャクとした動きを見せながらも、その戦術判断は的確であり、繰り出される反撃は鋭いものがあった。

 

 順応性も高く、こちらがビームライフルを警戒していることを理解し、実際に射撃するのではなく、銃口を向けるだけで機動を牽制するといったベテランじみた技量も見せた。

 

 対峙した際に受ける印象と、その立ち振舞いのちぐはぐさから、ゼクスは相手のパイロットはまだ若いのだろうと推察した。

 

 高い才能を持つが、実戦経験は少ない。それが怯えとなって現れているのだ。

 

 若い兵を散らせることにゼクスは気を憂いたが、手心を加えるわけにはいかなかった。

 

 敵母艦を叩くために出てしまったガルマと合流を急がねばならないし、何より相手はがむしゃらながらも、的確な反撃をこなし、そのたびに動きが良くなっているように感じられた。

 

 同じような戦法は即座に対処されるようになり、気を抜けば一瞬で立場が逆転しただろう。

 

 故に、ゼクスは『惜しい』と感じた。

 

 彼の心に根ざした戦士としての性分が、正面から全力でぶつかり合って、決着をつけたいと欲していた。

 

 だが、このニューヤークのエースである自分は、ここで果てるわけには万が一にもならなかった。まだこの戦争におけるジオンの盤面は盤石ではない。指揮官たるガルマが窮地に落ちているのだとしたら、それを助け支えねばならなかった。

 

 もはや無二の戦友と呼んで差し支えないほどの関係ともなったフィンゴ中尉は、最近のガルマ大佐の勇み足に強い懸念を示していた。

 

 特にそうした大佐の性質を煽るような言動を繰り返すシャア少佐に対しては、当初から警戒をあらわにしていた。

 

 ゼクス自身、士官学校時代からシャアのことは特別注視していた。

 

 彼には何かある。

 

 自身と似た、他者とは相容れない歪んだ願望のようなもの。

 

 暁の蜂起事件――。

 

 当時、ガーディアン・バンチに駐屯していた連邦一個連隊を、士官学校の学生が襲撃し、武装解除させた事件だ。

 

 ズム・シティで行われる、連邦への抗議デモ鎮圧のための治安維持出動を予定していた連邦部隊は、これにより作戦行動の一切を封じられた。

 

 この事件を主導し、実行した指揮官がガルマ・ザビであったが、実際の作戦立案から部隊の運用、駐屯基地の見取り図の手配などを行ったのはシャアであり、ガルマは彼に扇動され、旗頭として祭り上げられたにすぎない。

 

 今回のガルマの出動も、友人として傍らにたつシャアによって煽られた要因が大きい。

 

 ゼクスは以前の事件に関わることはなかったが、当時の部隊運用には疑問を持っていた。

 

 指揮官であるガルマの隊を後方ではなく、囮として前衛に突出させていたからだ。

 

 そして今日。

 

 フィンゴ中尉もゼクス自身も語らなかったが、その脳裏には『暗殺』の二文字が浮かんでいた。

 

 ゼクスはコックピットの中で、倒したMSを見下ろす。

 

 ヒートロッドによる高電圧を流し込んだとき、相手は右腕を爆発四散させた。

 

 故意によるものか、機械的なセーフティによるものなのかはわからないが、それによりパイロットが電撃に曝される時間は一瞬で済んだろう。

 

 無事ではないだろうが、生きている可能性はある。

 

 急ぎガルマのもとに駆けなければならない自分にとって、目の前の敵にただちにとどめを刺すべきなのは理解している。

 

 放っておき、逃げられでもすれば、あの才能だ。より強力な実力を持って自分と友軍に襲いかかるだろう。

 

「惜しいな」

 

 もう一度呟いて、ゼクスはヒートクレイモアを構えた。

 

 この切っ先を胴部に突き刺せばそれて終わる。先に鹵獲した同型機の解析で、コックピットの位置はわかっているからだ。

 

「ゼクス無事ですか!?」

 

 ひと突きにしようとした時、通信が入った。

 

「ノインか。こちらは無事だ」

 

 ノインとキリシマ曹長が合流する。

 

「フィンゴ中尉はどうした?」

 

「先行して木馬を捜索しています」

 

 さらに通信が届く。

 

 数字とアルファベットの羅列であるが、これは位置座標だ。

 

 それが何を意味するのかゼクスは一瞬で理解した。

 

 シミュレーター戦で、フィンゴ中尉がよく潜伏する場所として選んだ雨天野球場跡。その座標である。

 

「なるほど、やはり予測していたのだな」

 

 何度も対戦した結果、今では目をつぶっていてもそこに向かうルートを把握している。

 

「ノイン、この機体を鹵獲しておいてくれ。パイロットの生死は不明だ。キリシマ曹長もフォローしてくれ。私はフィンゴ中尉が送ってきた座標に向かう」

 

 そう言ってゼクスは機体を走らせた。

 

 

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