目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第112話 Side『ニューヤーク燃ゆ』

 

 木馬を沈黙させたものの、ガウは墜落した。

 

 ガルマ大佐は、直前に艦長の独断で艦載していたゾッドによって脱出させられており、無傷。

 

 しかし、ガウ搭乗員には多数の死傷者が出た。

 

 特に艦長以下、指揮司令部に死亡者は多かった。最後まで艦を安定させようとしたのだろう。胴体着陸時の衝撃で爆発しなかったのは、彼らのおかげだ。

 

 無断出撃した僕ら第1機動小隊とゼクス少佐だけど、禁止令を出していたガルマ大佐が今回の騒動後に引き篭ってしまったので、処分保留となっていた。

 

 あれから2日目の今日、ようやく大佐が実務に復帰し、僕とゼクス少佐は執務室に呼ばれた。

 

「すまなかった」

 

 部屋に入るなり、ガルマ大佐は僕らに頭を下げた。

 

 謝罪のときに頭を下げるのは旧世紀の日本の風習だが、ジオンにも同じものがある。

 

 最上級の謝罪を示す行為だが、立場が上の者が下にすることはないものだ。

 

 顔を上げたガルマ大佐の髪は短く切られている。

 

 その顔は少しやつれているようにも見えたが、目の光に強さがあった。

 

 何かしらの決意を固めたのだろうか。

 

「此度の失態は、君たちの進言を聞かなかった私の責任だ。まずそれを許してほしい」

 

「ガルマ。今回の君の出撃で、貴重な人員を多数失っている。私達だけに謝ればすむというものではあるまい」

 

 ゼクス少佐の手厳しい物言いに、ガルマ大佐は目を伏せた。

 

「もちろんだ。全て私のあさはかな行動が招いたものだ。功を焦り、そしてシャアの……いや、あの裏切り者の甘言を信じてしまった」

 

 シャアが裏切ったことは、ガウの管制室にいた者がその通信内容を聞いており、すでに基地内に広まっている。

 

 宇宙軍の出世頭であり、エースパイロットと言えば必ず1番に名の上がる将校が軍を――それどころか、ザビ家そのものに弓を引いた。

 

 その衝撃と動揺がこの僅かな日数で基地内に充満してしまっている。

 

 ゼクス少佐と幕僚で他に口外しないように通達したが、1度口火を切ってしまった噂を止めるのは難しいものだ。

 

 本当はそういった点を大佐にはまっさきに封じてほしかったんどけどね。

 

「話は聞いたが……シャアがなぜ今のタイミングで君を裏切ったのかがわからない」

 

「私もそう思った。だが、彼はあの時私に『君の父君がいけないのだ』と告げたんだ」

 

「意味が通らんな」

 

「キャスバル・レム・ダイクン」

 

 その名をガルマ大佐は口にする。

 

 ゼクス少佐の顔色が変わった。

 

「まさか、彼が?」

 

「死んだと聞かされていたが……生きていたのだな。そう思ってみれば、幼い頃の面影がある気がする。彼と私、子供の頃に面会したことはあるのだよ」

 

 ガルマ大佐は歩いて、来客用のソファに腰を下ろす。目で、ゼクス少佐と僕にも着座を促した。

 

「驚いていないのだな、中尉」

 

 え? 僕?

 

 まあ、前世の記憶で知ってましたから――なんて言えるわけがない。

 

「驚いてはいますよ、ただ、そうだとするなら辻褄の合う話だな、と」

 

「隠さなくていい。君は、姉上から言われていたのだろう、

 私の面倒を見ることをな」

 

 え? なぜそこでキシリア少将が出てくるんだ。 

 

「彼の発言に違和感を持って、姉上に直接尋ねてみたんだ。正体を知っていたのか、とな。案の定だったよ。私たちが士官学校に居た当初から把握していたそうだ」

 

 やっぱりね。

 

 いくら個人のIDをすげ替えたとしても、整形も何もしていないし、ザビ家の御曹司に侍る人間の身辺を調べないはずがないのだ。

 

 では、なぜ正体を知りながら放置していたのか。

 

「地下に潜ったダイクン派の釣り出しに利用するつもりだったようだな」

 

 あー。

 

 シャアに接触してくると踏んでたわけか。

 

「私は釣り餌として有能だったのだろうな」

 

 自嘲気味にガルマ大佐は笑う。

 

「ガルマ、君は――」

 

「勘違いするなゼクス」

 

 顔を上げた大佐の目は死んでいなかった。

 

「私はザビ家の人間としてこれまで重たいプレッシャーを感じていた。ただ甘やかされて育っただけの坊やではないと、偉大な兄姉と並び立つ逸材なのだと証明しようと躍起だった」

 

 ガルマ大佐が僕を見る。

 

 さっきから、なんか勘違いしているような気がするんですけど。

 

「そんな勘違いをした僕を諌め、監視するために君は姉上に送り込まれたのだろう。思えば前回のパーティーのときも、私に甘言を語るシャアを遠ざけようとしていたな」

 

 大佐が笑うけど、本当にそんなんじゃないんですけど!

 

 脇汗止まんねぇぞ。

 

 ただ、前世の知識があるだけなんです!

 

 って叫べたらどんなに良いか。

 

 

 


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