目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
ガルマ大佐は長くため息を吐いた。
「まさか、ダイクンの遺児が連邦軍にいるとは……」
思考の整理が追いつかないのか、腕を組み天を仰ぐ大佐。
「私は……」
否定しようとして、思い直したようだ。すでに自分の態度がそれを雄弁に語ってしまったと理解してるんだな。瞬時に怜悧な雰囲気をまとって僕らを睨みつけてくる。
「私がアルテイシア・ソム・ダイクンだとして、この仕打ちはなんであるか!」
喝を飛ばしてくるけど、僕には何も響かないんだ。
「何を勘違いしてるかわからんけど、貴女が捕虜であることはかわらない。そして、いまのジオンの指導者はザビ家であってダイクン家ではないんだよ」
「よせ中尉。我らザビ家はダイクン家には大恩がある」
ガルマ大佐が柔らかな調子で言う。
いいね。こちらの意図を理解してる。
僕がキツく当たり、大佐は理解と寛容を示すことで相手に信用させる。尋問交渉の初歩的手段だ。
「そう仰るなら、せめてこの手錠を外していただけませんこと。貴方がたを待つ間、ずっと拘束されていたのです」
固い調子のセイラさんは、椅子の背もたれ側に腕を回して手錠をかけられている。その姿勢、時間経つとけっこう辛いよね。
「中尉、外してやってくれ」
「よろしいので?」
大佐はうなずく。
先程憲兵から預かっていた鍵で手錠を外す。
腕を前に戻したセイラさんは、小さく息を吐いて自分の肩のつけ根を擦った。緊張していたぶん筋に負荷がかかったのだろう。
「改めて聞こう。君の本当の名は、『アルテイシア・ソム・ダイクン』。ジオン・ズム・ダイクンのご息女だね?」
「レディの名を聞くのなら、先にそちらか名乗るのが筋ではなくて?」
「失礼した。私はガルマ・ザビ大佐。このニューヤーク基地司令であり、北米方面軍の総司令官でもある」
「そう。貴方がザビ家の」
セイラさんは目を伏せる。
家族を引き裂いた、宿敵ともいえる家の人間を目の前にして、複雑な感情でもあるんだろうな。
「君はアルテイシア・ソム・ダイクンで、間違いないのだな?」
「……そうとして、貴方は私に何が聞きたいのですか」
「シャアの――いや、キャスバル・レム・ダイクンについてだ」
「シャア! やはり、シャアは兄さんなのですね?」
セイラさんの反応に、ガルマ大佐は眉をひそめた。
あてが外れたと思ったんだろう。大佐の中では、シャアとセイラさんは内通しており、こちらの事情をシャアづてに聞いて攻めてきたと考えていたからだ。
「君は、シャアがキャスバルだとは知らなかったのか」
「はい。いえ、そうではないかと思っていました。確証がなかっただけで。兄はここには?」
「いない。では、シャアの行方を君は知らないということだな」
「――行方? どういうことかはわかりませんが、兄と別れてからはずっと連絡を取っていません。なぜシャアを名乗り、ジオン軍にいたのか。何もわからないんです」
消沈する彼女の様子からは嘘を感じられない。
本当にシャアの行動を知らないんだろう。
セイラさんは、自分がいかにしてホワイトベースのクルーになったかを半生を交えて語った。
兄と別れ、養父であるテアボロ氏を亡くしてから、医者の道を目指し、連邦医療会の要請で、サイド7のボランティアスタッフとして参加。
そこで戦火に巻き込まれた。
戦場でシャアの姿を目にし、このままクルーとして身を置いていれば、兄に会えるのではないか、と考えたそうだ。そこは原作と同じだ。
「兄が……何を考えているのか私にもわからないんです」
「君の兄は、私を殺そうとしたよ」
「そうですか。ではやはり、兄さんはザビ家への復讐を考えているのね」
「そうなのだろうな。だが、わからないのは、なぜジオン軍に入ったかだ。私を殺したいなら、士官学校の時代にいくらでも手段があった。なぜここに来て――」
「ザビ家を破滅させたいのでしょうな」
僕の言葉に、二人が視線を向けてくる。
ザビ家に近づくために身分を偽り、シャアは軍に入った。
そこでザビ家の末子であるガルマと出会ったのは、彼にとって、天啓を得たようなものであったに違いない。
じっと機を待ち、ガルマを使って、ザビ家の中枢――ギレン、デギン――に接触するつもりだったんだろう。
だがガルマは地球行きを希望し、自身は宇宙軍へと配属された。
そしてガルマ大佐は北米で頭角を現し、本国にて連日戦場のアイドルのように喧伝される。
北米に降り、再び大佐と出会ったことで焦りが出たのだろう。
北米はジオン勢力圏として盤石化しつつあり、その中心にガルマがいるのだから。
そこで大佐を暗殺することで、北米に混乱をもたらし、さらにはザビ家の面々の不協和音を狙った。
ザビ家の良心とも呼ばれる末弟がいなくなれば、リアリストであるギレンは、その死を本国の戦意高揚のために利用するであろう。
そうすればザビ家の中の亀裂を大きくすることができるかもしれない。
推測を伝えると、ガルマ大佐は首を横に振った。