目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

128 / 260

 体調不良でした。


第120話 Side『ニューヤーク燃ゆ』

 

 ここまで話しておいてなんだけど、どう説明しようか迷うな。

 

『ラプラスの箱』について説明することはできる。でもそうすれば、『なぜそんなことを知っているんだ?』と聞かれることだろう。

 

 前世の知識で知ってた。

 

 なんて説明にもならない。

 

「中尉。語れるところまでで構わん。私は君を信じよう」

 

 む。

 

 信じるときたか。

 

 この人の「信じる」って言葉はけっこうな殺し文句なんだよな。甘くはあるが、真っ直ぐな性格だから、彼がそう言ったのなら、全面の信頼をこちらに寄せているとわかるからだ。

 

 そうなると、こちらもそう安く裏切るわけにはいかない。

 

「説明の前に、お二人はこの話をこれまでに誰かに話ましたか?」

 

「いや、君に聞くまで忘れていた」

 

「私もそうね」

 

「『箱』または『ラプラスの箱』は、それが開かれれば、連邦政府は崩壊すると言われている都市伝説の代物です」

 

「都市伝説? 初めて聞くが、そんな眉唾なものが一連の事件に関わっているというのか」

 

「ええ。都市伝説ではありますが、『ラプラスの箱』は実在しています。そしてそれが開かれると、連邦の屋台骨が揺るぎかねないのも事実なんですよ」

 

「ラプラス……まて、『ラプラス』はあの『ラプラス事変』か?」

 

 なんだかんだでガルマ大佐ってしっかりとした教育受けてて、それが実になってるよな。

 

「そうです。UC001年、軌道上に建設された連邦首相官邸ラプラスが、分離主義者たちのテロによって爆破された事件。そのときに『箱』が生まれ、それがサイアム・ビストの手にわたりました」

 

「サイアムに?」

 

「ええ。ラプラス爆破事件の実行者の一人だったんですよ、彼は」

 

「なんと」

 

「口封じからも逃れて一度死んだ(・・・・・)彼は、名を変え、偶然手に入れた『箱』の存在を盾に連邦高官たちと癒着し力を蓄えた」

 

「いったい、箱とはなんなのだ?」

 

「真の宇宙世紀憲章です。そこに記されていたのは、幻とされた第七章――『将来、宇宙に適応した新人類の発生が認められた場合、その者達を優先的に政治運営に参画させることとする』」

 

 僕の言葉に、二人ははっとする。

 

「ニュータイプ……」

 

 思わず呟いたセイラさんに僕はうなずいてみせた。

 

「そう。後のジオン・ズム・ダイクンが語ったニュータイプ論との一致。当時の連邦初代首相によって記された、未来への条文。それが『箱』の正体です」

 

「待って……そんな、そんな個人の落書きのために、お父様は殺されたというの!?」

 

 そうだね。

 

 条文は曖昧で、新人類の定義も記されていない。

 

 法的根拠もない代物だ。まさに落書き。

 

 でも、特権階級の連中にとっては、自身の既得権益を奪われる可能性のある存在は不都合でしかない。

 

 だからテロを偽装して葬った。

 

『リメンバー・ラプラス』を壮大な題目として唱え、一方的に分離主義者と断定した旧国家群を鎮圧し、新政権の地番を固めることに使われた。

 

 だが、サイアムが事件の真相に繋がる証拠として箱を持ち出してしまった。

 

 それだけなら、まだどうということもなかったんだ。

 

「ジオンが独立を謳わなければ、そのまま闇に消えていく代物だったのでしょうね。でも、連邦という軛から逃れようとする者にとって『箱』を開くことができれば、世論を大きく揺さぶることができる」

 

 地球の参政権を持つ(・・・・・・)人口よりも、全コロニー民の数の方が多い。

 

 連邦が最初からコロニー民を裏切っていたのだと知れば、世論は沸騰する。

 

「では、ダイクンは連邦に殺されたのか」

 

「いえ、おそらくはビスト財団……アナハイムの差金だと僕は推測しています」

 

 サイアムは『箱』を未来に託したがっていた。託すに足る人物が現れる時期をずっと読んでいた。

 

 だが、財団としては『箱』は連邦から無尽蔵に便宜を引き出すための財布のようなものだ。失うわけにはいかないだろう。

 

「ピースクラフトがダイクンに『箱』の存在を教えた。そしてダイクンは『箱』を開き、国とコロニー民の覚醒を促そうとした。結果、それをよく思わない財団によって両者とも消された」

 

 僕はそう推測した。

 

「世間で言われているように、デギン公がダイクンを暗殺する意味がないんですよ。政治手段の対立はあれど、目指す場所は一緒。そして、あのタイミングでダイクンを暗殺などすれば、政治不安で連邦からの強硬な介入がなされる」

 

 デギン公は、巷では処刑公などと揶揄されているが、血の粛清を行ったのはダイクンが亡くなってからだ。

 

 そうして強引に国をまとめないと、最悪連邦によって国家体制をバラバラにされることになっただろう。

 

「お父様は、その『箱』を手に入れていたのかしら」

 

「いや、たぶんそれはないでしょう。手にしていたのなら、後継となったデギン公に譲渡されたはず。が、暗殺事件のあとザビ家は『箱』を公表――開けてはいない」

 

 ダイクン暗殺後に『箱』の存在を公表して連邦を非難すれば、容易に他コロニーの味方を作れることもできたのにそれをしていない。

 

 財団は未だに連邦と蜜月を続けているし、おそらくサイアムの手から離れてはいないはずだ。

 

「存在だけを知ったと?」

 

「そう。そしてそれを利用しようとして殺された。連邦との共生関係を続けたいアナハイムと、それを支持する財団、そしてその意向を汲んだ連邦によるもの」

 

 そう考えると辻褄が合う。

 

「そう思わせるように、ザビ家が仕組んだのでしょう」

 

 セイラさんはそう答える。

 

「そうかもしれないな。だが、父の部屋には、未だにダイクンとの写真がある。彼が死んだ日には、今も直接墓地に足を運んでいるんだ」

 

「……ではなぜ私達兄妹は捨てられたのですか!?」

 

 セイラさんの慟哭が響き渡った。

 

 顔を手で覆い、肩を震わせて嗚咽を漏らす。

 

「父が死に、母も死に、兄も失ったと思っていました……でも兄は復讐鬼になっていて、それらすべての出来事がくだらないオカルトのせいだなんて、どう信じろというのです!」

 

 君ら兄妹が背負った不幸は、どちらかというと正妻のローゼルシアの嫉妬心によるものだ。さらに言うなら、妻帯しておきながら一般の女性と子を作ったダイクンに問題があるだろう。

 

 どちらも死んでいて、その行為を糾弾することもできないな。

 

 泣いてしまったセイラさんの姿は、年相応の少女に見える。

 

 原作では、自立心を持つ凛とした女性として描かれていたし、生まれの不幸から苦労したぶん、実年齢より上に見えたものだけど、今はただの弱い子供だ。

 

 ガルマ大佐が困ったように僕の顔を見てくる。

 

 泣き止ませろって?

 

 そんなん大佐のほうが得意でしょう。イセリナ嬢との逢瀬で経験積んでるんじゃないですかね。

 

 まあ、上司に頼まれたならしかたない。

 

「セイラ嬢、君には今日ここで、死んでもらう」

 

 傲然と放った僕の言葉に、室内の時間が凍りついた。

 

 





 後遺症が酷い(´・ω・`)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告