目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜   作:妄想零炎

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第121話 Side『ニューヤーク燃ゆ』

 

 大佐に怒られました。

 

「お前はいつも説明が端的過ぎる。誰もがお前のように頭がいいとは限らん」

 

 だと。

 

 でも、泣き止みはしたよ。

 

 無事セイラさんにはお亡くなりになってもらった。

 

 もちろん、本当に死んだわけじゃない。

 

 セイラ・マスという存在だけ消えてもらったわけだ。

 

 ここは戦地だ。M.I.Aや戦傷悪化で死亡なんて腐る程ある状況。

 

 それに正体を公表するわけにはいかない。

 

 そんなことをすれば、過激なダイクン派の連中が勢いづいてしまうかもしれないからだ。

 

 そうでなくても、ダイクンの遺児を手に入れようと影で動き回ることだろう。

 

 彼らはダイクンが統治するジオンが好きなのであって、今が戦時中であるとか内紛している場合じゃないなど、気にしないだろうから。

 

 上記の理由でキシリア少将に報告するのもはばかられる。

 

 あえて放置してたシャアが、ザビ家への反乱を企てていたことで、二の舞いはごめんだと彼女を殺してしまうかもしれない。

 

 大佐はそれをよしとはしなかった。

 

 で、木馬のクルーであるセイラ・マスには、戦傷を理由に死んだことにして、この北米で匿うことにした。

 

 他のクルーの生命の安全を保証するという確約――特に歳幼い子供の引取先を優遇すること――と引き換えに彼女はこちらの提案を呑んだ。

 

 木馬の中で正式な軍籍を持たない未成年者は、本国で建造が進められている新バンチに移送が決定している。

 

 まあ、アムロ君だけは、キシリア少将へのカムフラージュとしてニュータイプとしての素質有りで、フラナガン機関に送られるんだけど。

 

 大佐が復帰したことで、これまで滞っていた業務を急ピッチで処理し、ようやく遅れを取り戻したところで時間ができた。

 

 で、なんとなくラウンジとして使っているバトルシミュレーター区画にやってきたら、そこには先客がいた。

 

「お疲れ様です少佐、いや、大佐でしたか」

 

「ああ中尉、私はまだ中佐だよ。明日には大佐になるが」

 

 ゼクス少佐は、連邦新型MSの捕獲、新型艦拿捕、シャアによるガルマ・ザビ暗殺阻止の功績をもって、ジオン十字勲章が授与されるだけでなく、新設される部隊の指揮官として、大佐に任じられた。

 

 ガルマ大佐は、准将に昇進だ。

 

 二階級特進は、戦死者に与えられることから、縁起が悪いとして、まず中佐に昇進させ、後日大佐へ昇進という回りくどいことをしている。

 

「珍しいですね。中佐がこの場で休息など」

 

「何、私も人の子だよ。君こそ時間が空いたのか」

 

 そう言いながら、中佐は自販機でコーヒーを2つ買った。席に座り、対面にもう片方のカップを置く。

 

 僕に座れ、ということだ。

 

「意外ですね。そういう飲み物は飲まないと思ってましたよ」

 

 ワインとかのが似合うよね。

 

「君は私を誤解しているようだな」

 

「中佐こそ、いい加減僕をMSパイロットとして使うの止めてくれませんかね」

 

 そう言って腰掛けると、中佐は笑う。

 

「そうもいかんな。ガルマ准将のためにこれから身を粉にして働いてもらわねばならん。パイロットだけでなく、メカニックとしてもな」

 

「つまりこれからも僕の境遇は変わらんということですね」

 

 肩をすくめてから、奢りのコーヒーを飲む。

 

 うん。まずい。

 

 妙に苦い割に風味が薄い。合成品だから仕方ないけどね。これなら液糖と合成乳で誤魔化したカフェオレの方がマシだ。

 

「で、どうされました」

 

 おそらく僕が来るのを待っていたんだろうと察して、早々に切り出した。単に世間話をするためだけにここにいたわけではないだろう。

 

「君は今回のガルマの構想、どう思うか」

 

 特別遊撃部隊ですね。

 

「どうもなにも、上がやると決めた以上はやるでしょう。僕としては悪いとは思いませんよ。むしろキシリア少将がよく許可したな、と驚いてます」

 

 少将の手駒を削る行為だからね。

 

 結構な人員を引き抜くことになる。

 

 編成予定の人員リストには、ガンダムオタクなら誰もが知ってる、サイクロプス隊や海兵隊の名もあった。

 

 これは結構な大所帯になる。

 

「果たして、私に務まるか」

 

 本当に珍しいな。弱音を吐くなんて。

 

「そういう話でしたら、ノイン大尉のほうが適任でしょう」

 

「同じ男でなければ話せんこともあるさ」

 

 男女の差、というものは常に存在している。得てして、男のほうがそうした精神的垣根に敏感かもしれない。

 

 同じ男性相手にだからこそ見せれる弱み、というものもあるのだ。

 

 めんどくさいね。男って。

 

 沈黙が降りる。 

 

 しかしまずいコーヒーだ。

 

「君は、私の正体を知っているのだろう?」

 

「……ええ、まあ」

 

 突然の質問に、一瞬どう答えるか迷ったが、素直にうなずいた。

 

 ゼクスの正体――ミリアルド・ピースクラフト。

 

 ジオン最初期の3大貴族の一家。唯一の生き残り。

 

「君は、私が裏切るとは思わないか」

 

 なんだ、シャアと比べてるのかこの人。

 

 確かに境遇は似たようなものだしな。

 

「貴方はシャアとは違うでしょう。そもそも、貴方の家族を殺めた連中はすでに粛清されてる。軍を裏切る理由もない」

 

「ザビ家が手を下していないという確証もない」

 

「それだけで親友の信頼を裏切ることができるほど、貴方は冷徹にはなれんでしょうに」

 

「『親友』?」

 

「ガルマ大佐。いや、もう准将ですか」 

 

「親友か……わからん。ただ私はシャアの行動を見て、あれは私の影なのだと感じるのだ」

 

 復讐のために生き、その才能をそれだけのために振るおうという男と一緒だ、と彼は言った。

 

「憎しみは憎しみを呼ぶとはよく言ったものだ。すでに私の怨敵はいない。だが、するとこのやり場のない怒りや憎悪はどこにやればいい? ときおりこの世のすべてを破壊し尽くしたくなることがある」

 

 厨二病かよ。

 

 まあこの人も若いからなぁ。

 

 原作では自身を「平和に馴染めん男」と称してるぐらいだしな。

 

「復讐という行為に浸れる彼が羨ましくもある。私は過去の真相を知るために軍に入った。ジオンは軍国家だからな。中枢に触れるにはそこで頭角を現すのが速いと思ったからだ」

 

 しかし思惑は外れ、彼が真相をつかむ前に事件の犯人たちは

捕まり、処断された。

 

「私には大義もない。人生を偽ってまで手にした力も、それを振るう対象すらすでにいないのだ。とんだ道化だ」

 

「人なんてそんなものでしょう。誰も彼もが大層な御託を抱えて生きてるわけじゃありません」

 

「……君は何者だ?」

 

「さあ? 僕がなんなのかなんて哲学的問題は、本国の学者にでも任せますよ」

 

「君にはあるのか、この戦争で戦い抜く理由が」

 

「特にはないですね。ジオンに生まれたから、そこに所属してるから負けるより勝ったほうがよいと思って戦ってますが。まあ、あと連邦に任せてたら、この地球圏は逼塞しそうですしね」

 

 こんな荒れ果てた石ころはさっさと見限って、人類はもっと宇宙の先へすすむべきだ、と思ってる。

 

 その点は、原作逆シャアの思想と同じだ。

 

 ただ、地球をだめにして強制的に人を宇宙に上げるのではなく、人々が自発的に宇宙開拓を望む方が良い。

 

 人が地球にとどまっても、大した未来にならないことは原作で知っている。なら、別の未来に向けて動いてみてもいいじゃないか。

 

 ま、それがより悪い悲劇を生むのかもしれないけど。それは知ったことじゃない。

 

 人類がどこまで行けるのか?

 

 原作が黒歴史に含まれるというのなら、もう一つの未来を見つめてみたいと思う。

 

「人間、というか生き物なんてこの宇宙に漂う塵のひとつでしかないんですよ中佐。地球だってそうです」

 

 誰しも存在意義(レゾンデートル)を求めたがる。でも、そんな人間の感傷を斟酌(しんしゃく)してくれるほど、この宇宙の物理法則は優しくない。

 

「今がすべてじゃないでしょう。この先に何があるか、それを見届けるためだけに命をつなぐのもありだと僕は思ってますよ」

 

 ゼクス中佐は僕の言葉を吟味するように思案する素振りを見せて、言った。

 

「後の兵士のために……ブレないのだな」

 

 すでに人生2週目だからね。自分や他人の生き方にだいぶドライになってる自覚はある。

 

 ガンダムって作品は、幾つも派生作品があるけれど、全てに共通してるのは、世の中の不都合とどのように向き合っていくか。

 

 それを語ったものだと思う。

 

 あるキャラクターは折り合いをつける方法を模索し、あるキャラクターは受け入れられない、と抗う。

 

 結局、人が争うのは、今よりも幸せになりたい、不幸にはなりたくないという想いがそれぞれ違うために起きる衝突でしかないのだ。

 

 あらゆる主義主張は、人の欲望を叶えるために存在する。それが人類の幸福に繋がるかはまた別の話だ。

 

「君は、この戦争に勝てると思うか?」

 

「負ければ僕らは大量虐殺者、勝てばコロニー民の解放者。どちらにせよ歴史に名を残せますね。それで十分でしょう」

 

「君らしい」

 

 ゼクス中佐は静かに笑った。

 

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