目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
「悪くないのではないか?」
ニューヤークの作戦会議室。
ガルマとキリー・ギャレット少佐によって先に行われた新型機評価試験の検証が行われていた。
大きなテーブルの上に広げられたARディオラマによる戦術マップと、手元の端末に映し出された戦闘動画を見比べて、ガルマ准将はそう呟いた。
「装甲が薄いのは気になるが、機動性はかなり高いだろう。機動狙撃に徹すれば問題あるまい」
「そう簡単なことではありませんよ准将。今回の戦績は、フィンゴ中尉の技量によるものが大きいと思いますわ」
「それほどか?」
准将の問いにキリーは苦笑するのを必死に堪えねばならなかった。
ガルマはすまいが、他では上官侮辱罪で懲戒を受ける可能性もある。
シミュレーターで第1機動小隊とばかりMS戦を経験しているガルマは感覚が麻痺しているのだ。
今北米で使われているMSのモーションプログラムは、他では専用機をもらうようなエース仕様として採用されているもので、一般兵は使用禁止とされている。
その理由は、戦闘挙動のほとんどが熟練者であっても容易に再現できない、または制御できないものが含まれ、かつそのデータ容量が重いからだ。
それらの挙動は全て、第1機動小隊とゼクス大佐が行ったものをパターン化したものだ。
今回フィンゴ中尉が見せた、ビルの壁を駆け上り、空中で反転して敵の背後を取るなんて芸当はまず凡庸なパイロットではできない。
キリー自身も元エースパイロットとして名を馳せたが、あのようなアクロバティックな動きを真似したいとは思わなかった。
やったとして、よくて転倒、最悪空中で機体がフレームごと破断するかもしれない。パターン化されているといっても、機体の動作に、パイロットがついていけないのでは意味がない。
「機動力が上がっても、耐G機構は更新されていません。普通ならまともに動けませんよ」
「そうか。私はGのかからないシュミレーターしか経験していないからな。そこが私の欠点だな」
素直に自身の欠落した部分を認めるガルマ。
彼はこの数週間で変わった。
もともと率直な性格をした青年であったが、以前は無理に大成しようという様子が言動の端々に浮いて見えていた。今はそれが消え、自然体であった。
ともすればそれは他者より侮られる要因となるが、彼の場合はそれが良い方へと回っている。
自らの力量が足りなければ素直に助力と教えを請う姿勢が、周りに好感を持たせることに繋がっているのだ。
「キリー少佐は、この新型は生産には値しないと判断したわけだな」
「そうです。第2機動小隊を壊滅させたのは驚きましたが、性能で圧倒したというよりはパイロット自身の策に寄るところが大きいです」
新型と呼んではいるが、実際はドムの改造機だ。資料を見れば新造しているパーツも多く、既存機体との互換性は薄れてしまっている。
「なにより、機動力を確保するために装甲が犠牲になっています。これでは一発被弾しただけで致命傷でしょう」
いくら背面をとられたとはいえAFVの機関銃で撃墜判定を受けるほどだ。制作者である彼自身もそれはわかっているのであろう。最後はわざと負けたフシがある。
「そう言われるとそうだな。ならば予定通り、フィンゴ中尉専用機として運用してもらうか」
「それがよろしいかと思いますわ」
キリーがそう告げると同時に、会議室に、黒髪を短髪にした女性士官が入ってくる。
眼鏡をかけた怜悧な印象を持っているが、よく見れば顔つきはまだ若い。女、というより少女に近いだろうか。化粧を取ればさらに幼く見えるかもしれない。
ミシェ・クローデル少尉。
ガルマが大佐から准将に昇進したことで増やした秘書である。
だが実際は、愛人なのではないかとウワサされていた。
彼女はガルマの側までよると、涼やかな声で言った。
「准将、エッシェンバッハ氏との会談のお時間が迫っております」
「そうか。キリー少佐、悪いが後は頼む。防空案件については内容を書面にして残しておいてくれ。目は通す」
そう言ってガルマは席を立つと、会議室を出ていく。
ミシェ少尉もそれに続く。
すれ違いざま、彼女の顔をキリーはまじまじと眺めた。
――似てるわね。
その横顔が、士官学校で出会った青年……そして今は裏切り者として逃走中の男に近い気がした。
こちらの視線に気づいた少尉が目礼を返してくる。
キリーはそれを、どこか釈然としない感情のまま見送るのだった。
模型用の流し込み接着剤をひっくり返してしまい、かぶったスマホがめちゃくちゃリモネン臭い。
ツラい。