目が覚めたら宇宙世紀…だよね?〜ジオンが独立に至るまで〜 作:妄想零炎
「大人気ですな、ノイン大尉」
苦笑とともにかたちばかりの敬礼をとりつつディライアは湯に浸かる。
「引率の保母にでもなった気分だ」
本音をこぼす。自分も年齢的にはまだ若いはずなのだが、10代という本来なら学徒と言って差し支えない年齢の子どもたち相手には、気力が続かない。
「ディライア少尉、たしか彼氏いましたよね」
ブリンクマン技術少尉が目を輝かせながら言う。
姦し娘たちの視線がディライアに集中する。
「こっちに来たわね」
嫌そうにディライアは顔を歪めた。
「たしか第1機動小隊の整備士さんでしたよね。馴れ初めって何ですか?」
「別部隊だと、休日合わないですよね? デートってどうしてるんですか?」
矢継ぎ早に投げかけられる質問に、ディライア面倒くさそうに手を横にひらひらと振る。
「付き合ってるって言っても、あのバカとは腐れ縁だよ。士官学校時代からのね」
「じゃあけっこう長く付き合ってるんですね! いいなぁ仲良しなんですね」
「白馬の王子様に憧れてるあんた達にゃ悪いけど、んな甘酸っぱいもんじゃないよ。それに最近あいつ、どこで覚えてきたのか妙な性癖に目覚めやがって」
「せ、せいへき?」
「やれ『もっとキツイ目で見てくれ』だの、『罵ってくれ』だの、しまいには『首を締めてくれ』まで言いやがるようになった。これ以上付き合ってられん」
「それは……はは、はははは」
ディライアのあけすけな話に、娘たちはどっと引く。
「あ、あの! ユウキさんは誰か好きな人いらっしゃるんですか?」
話を切り替えようと、ブリンクマン技術少尉が中立を決めこんでいたユウキ・ナカサトへ水を向ける。
「わ、わたしですか!?」
「付き合ってる人いるんですか?」
「い、いません」
「じゃあ、好みのタイプとかあります?」
シュティルナー少尉も乗っかってくる。
年下だが、階級が上の彼女たちの勢いに、ナカサト伍長は目を泳がせて動揺していた。
「その、年上の落ち着いた人がいいなぁ、と」
「これは具体的ですねぇ。ということは、意中の人がいるということですか」
ブリンクマン技術少尉の眼鏡が照明を反射してギラリと光った気がした。
「違います! 隊長はそんなのじゃ――あっ」
「隊長だぁ!? まさか、うちのバーツじゃないだろうね!?」
ディライアが「アイツは絶対やめとけ!」と大声を上げた。
「違います! 前の隊の……」
そこまで言ってナカサトの言葉は尻すぼみになり、顔を覆って口ごもってしまう。
「前のってことは、外国人部隊だったケン・ビーシュタット少尉か」
ヘーゲル曹長が何気なく口にする。それを聞いたディライアがさらに驚いた表情になった。
「今は第6機動小隊に所属してたな。たしか妻帯してなかったか?」
「な、なんでみんな知ってるんですかぁ!」
ナカサトの目は涙目だ。
「うわー! 略奪愛ですか!?」
「ふ、不倫ってやつです!?」
「ウフフ。ミアちゃん、興奮しすぎよ」
「たしかにちらっと見たけどイケメンだったよなぁ。この基地イケメン多くねぇか」
「やめてください! ただ私が一方的に憧れてるだけなんです! どうこうなりたいとか、そういうのじゃないですから!」
真っ赤になりながら恋愛関係を否定するナカサトを、年下娘たちは楽しそうにからかっていく。彼女たちの階級が上の分、弄りをうまく躱すことができずに、顔を赤らめるしかないようだ。
ノインは湯に浸かっているのに、ひどく疲れている自分に気がついた。
まるで学園の女子寮のノリだ。彼女たちには、戦争をしているという自覚があるのか、とさえ思ってしまう。
むろん、人である以上常に張り詰めているわけにはいかない、それにここはすでに前線というわけでもないから緩むのも仕方ないのだろう。それでも気安すぎないか。
ふとキリシマを見ると、彼女はまだ仁王立ちで、ニムロッドと不毛な舌戦を繰り広げている最中であった。
彼女はこのなかで、もっとも何も考えていないように思える。
「キリシマ、貴様はこの戦争をどう見る?」
好戦的な彼女のことだ。この戦いで暴れられることに喜びを見出しているフシもあった。
「あら、当然勝ちますわよ」
何を埒もない、とばかりの調子でキリシマが返してくる。
「北米は安定しているが、アフリカやオーストラリアはそうでもない。連邦の国力にもまだまだ余裕がある。そう易くはいかないだろう」
「問題ありませんわ」
いつものようにこちらを挑発するように鼻で笑うキリシマ。
「根拠はあるのか」
「当然、最後に勝つのはワタクシですもの!」
「は? いや、戦争の行末を語っているのだが」
個人の感想、意気込みを求めているわけではない。
「もちろん理解してますわよ。でも、ワタクシが勝つということは、この戦争、ジオンが勝つということに決まってましてよ」
話にならなかった。
話題を振った相手が悪かったな、とノインは諦めた。
そんな思考なぞどこ吹く風で、キリシマは続ける。
「これまでの歴史が証明してますわ! 最後に笑うのは女! もちろん、勝つのはこのワタクシでしてよ!」
手の甲を顎にあて、「オーホッホッホッホッ!」と素っ裸のまま高笑いを繰り出す。
――バカか。
「……本当に、相手を間違えたよ」
浴場に反響するキンキンとした声に頭痛を覚えながら、ノインは数秒前の己の判断を呪うのだった。